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第1033堀:大山脈の冒険

大山脈の冒険



Side:アスリン



「イグちゃん、フェーちゃん、よろしくねー」

『『はっ。お任せあれ』』


恭しく返事をして、サッと宙に舞ったかと思ったら、あっという間に小さくなってゆく2人。

これで上空警戒よしだね。

って思ってたら、後ろから虚ろな笑い声がしてきたんだ。


「あ、あははは……。えーと、アスリン殿。あの、今飛んで行った超大型の魔物は?」


振り返ってみたら、なんでかショーウお姉ちゃんがスッゴク驚いたって顔をしてた。


「イグちゃんに、フェーちゃんのこと?」

「はい。確かそう呼ばれていました」

「うん、お友達だよ」


そう、私のお友達。

空を飛べるから上空偵察、援護にもってこいなんだよね。

ドローンだと偵察だけになっちゃうけど、この2人なら何でもできる。


「あー、友達ですか。えーと……」


でも私の答えじゃショーウお姉ちゃんは何か納得できてないような感じで、言葉に詰まっているんだ。


「アスリン。ショーウは魔物の種族とか強さとかを聞きたいのよ。単独で行かせていいのかってね」

「あー」


うん、ラビリスちゃんの言う通りだ。

確かにどのくらいの強さが分からないと心配になるよね。

ショーウお姉ちゃんは優しいから。


「えっと、強さは……あれっ、どのぐらいなんだろう? スティーブたちよりは弱いよね」

「です。えーと、中隊長ぐらいなのです」

「申し訳ない。私にはそもそもあのスティーブ殿の実力も計り知れませんので…、そうですね……我が軍のワイバーンと勝負した場合はどうなるでしょうか?」

「えと、確かズラブルのワイバーンさんってレベル70ぐらいだよね?」

「はい、その前後ですね」

「それぐらいなら、イグちゃんとフェーちゃんはレベル500超えているから、多分ステータス的には負けないと思うよ」

「ごひゃく? ゴヒャク、500!?」


あれ? なんかすごく驚いているよ?

別に珍しいレベルじゃないと思うんだけど。

何事もやり方次第っていつもお兄ちゃんが言ってるし、ちゃんと実践してるもんね。

レベルなんてただの飾りなんだよ。


「ショーウ。言わなくてもわかると思うけど、アスリンの直属の魔物たちのことは秘密よ?」

「は、はい! それはもう!」


そんなビックリすることかなーって思ってたら、ミリーお姉ちゃんがショーウお姉ちゃんに内緒にしてねって言ってくれた。

そうだった。この子たちが普段から周りにいることは秘密だった。

みんな驚いちゃうから。


「しかし、アスリン殿が優秀な魔物使いとは存じていましたが、あそこまで強力な魔物をどちらで……」

「育てたのです。フィーリアも協力したのですよ」

「育てた? そんな……あのようなとんでもない魔物が育てられたなどと」

「ええ。嘘に思えるでしょうけど。でも、よくよく考えてごらんなさい。力がすべての魔物がただの女の子の言うことを素直に聞くと思うかしら?」

「つまりそれは、アスリン殿はあの魔物たちよりさらに強いと……」

「ま、そう言われてもにわかには信じられないだろうけど事実だよ。と、アスリンの部下も空に上がったことだし、そろそろ行こうか。ここでじっとしてても始まらないしね」

「……そうですね。ここでじっとしていても始まらない」

「じゃ、行きましょう」

「うん。しゅっぱーつ!」

「しゅっぱつなのです!」


何かショーウお姉ちゃんはあいかわらず困ってるみたいだけど、ここでぼーっとしてても意味がないから、私たちも出発する。

ただ森の中をサクサクと歩いていくってだけの道のり。

でも、人が随分入っていないだろうなっていうのはわかる。

いちおう道はあるんだけど、草がぼうぼう。


「本当にギルド長の言っていたように随分長い間誰も入っていないようですね」

「まあ、ちょっと入るだけで魔物の群れが町に押し寄せるみたいだしね。下手なことはしないでしょう」

「こういう大きな山と森は魔物だけじゃなくて、獣の被害も大きいもんさ。イフ大陸の中央に位置するランサー魔術学府に行くときに脅威になるのは野盗よりもむしろ獣なくらいだからね」


あ、そういう話はミリーお姉ちゃんやトーリお姉ちゃんたちから聞いたことがある。

冒険者さんって魔物退治もするけど、けっこう凶暴な動物さんの退治もするんだって。

特に熊さんは下手な魔物よりも強いから、新人の冒険者さんには結構難しいんだって。


「ええ。そういう獣の被害と魔物の被害の両方があるので、この大山脈の開拓には力を入れることはありませんでした。先ほども言ったようにうかつに魔物や獣のテリトリーを犯すと大挙して町にやってくることがありましたので」

「ま、そんな余裕はズラブル大帝国にも、ここの土地を持つ領主にもなかったでしょうからね」

「はい。最前線としてあの町とギルドを維持するだけで精いっぱいというところです。予算にも人にも限りがありますので」

「だねー。土地の開拓って思った以上に人手と予算がいるものさ」

「あら、その様子だと、エージルもそういう開拓作業をしたことがあるのかしら?」

「まあね。僕も一応将軍だからね。指揮の経験を積む一環として命じられたよ。とはいえ、開拓じゃなくても街道の整備だったけど。それでも新しい街道を作るのは一苦労さ。木を切り倒して、根を掘り返して、これがなかなか終わらないんだよねー」


そんな開拓の話をしながら森の奥へと進んでいくと、いよいよ道の跡もたどりにくくなってきた。

ここからはいよいよ草とか木を切って進まないと足元がおぼつかない。


「うーん、邪魔なのです。アスリン一緒にやるのです」

「うん。ミリーお姉ちゃん、エージルお姉ちゃん、ラビリスちゃんいいかな?」


やってもいいかなってちゃんとみんなに確認を取る。


「ええ。いいわよ。ここで出てくるならそれはそれでいいし」

「そうだね。ひそひそと進むよりそっちの方が私たちにとっては楽だね」

「帰りも楽になるから私もいいと思うわ。町の方にも防衛用に人員はいるし問題ないわね」

「え? ちょっと待ってください、なにを……」


ショーウお姉ちゃんは何をいってるのって感じだけど、こればっかりは見せないとわからないしね。

私たちがこうやって……。


「いっくよー!」

「いくのです!」


手元に刀を取り出して、二人そろって低く納刀したまま腰だめに構えて。


「「横一文字!」」


うん。今回は成功だ。

タイゾウおじちゃんとてるとらさん、アーウィンさんのおかげだね。


「は? え? いつの間に剣を取り出して抜いたのですか?」


そんな、ショーウお姉ちゃんの質問が合図となって。


バサッ。


っとまずは目の前に広がる草が下へと落ちる。


「へえ。腕を上げたじゃない」

「ま、タイゾウさんもテルトラさんも、アーウィンさんも。まさか草刈のために使われるとは思っていなかったでしょうけど」

「まあいいじゃないか。刀の技術が人殺しのためじゃなく、役に立つんだ。ほめられこそすれ悪いことじゃないよ。でも、刀をメインに使うラビリスはちょっと微妙かい?」

「いいえ。ちゃんと褒めたわよ。アスリンとフィーリアの腕が上がってうれしい限りだわ。で、あとは木の方の採点ね」


ラビリスちゃんがそういって、納刀したままの太刀をそのまま無造作にブンッと振るうと、一陣の風が起きて、私たちが切った木々が一斉にずれて倒れる。


ズズズゥゥゥン。


「なぁ!?」

「ねえ。ショーウ、別に貴方でもこのくらいできないことではないでしょう? 何をそんなに驚いているのかしら?」

「いや、ミリー。普通アスリンやフィーリアがこんなことできるなんて思わないって。僕だって最初はそりゃ唖然としたんだから」

「はい。正直ここまでアスリン殿とフィーリア殿ができるとは思いもよりませんでした。というか、私ではここまで静かに伐採はできませんよ。魔術だともっと派手ですし」


うん。そういうのを考えてちゃんと静かにやったんだよ。

それに魔力を下手に拡散しちゃうと魔物の氾濫につながるかもしれないから、範囲は極小でやったもんね。

だから刀に風の魔術を極限まで絞ってのっけて、かまいたち風にしたんだよ。

達人って人だと剣気だけでできるみたいなんだけど、私、剣気っていうのがよくわからないからまだ習得できてないんだ。


「しかし、さすがに木が倒れた時はそれなりに大きな音が立ちましたが、それでも不思議と静かなものですね。アスリン殿、上空を警戒している者、イグちゃんとフェーちゃんでしたか。彼らから報告は?」

「えーとね。特にないみたい。魔物さんたちの群れも近くにはいないって」

「なるほど。近くに群れがいないのであれば反応しないのも当然ですね。ミリー殿、貴方の冒険者としての見立てはどうですか?」

「そうねぇ。私も近くに魔物の団体様はいないと思うわ。私たち人って結構独特の香りがあるのよ。で、魔物ってその香りを感じ取って、結構遠くからやってくるのよ。音にももちろん敏感。この二つがそろってる上に、ここまでのんびり話しているのに襲ってこないってことは、近くにはいないってこと」

「じゃ、進もうか。魔物がやってこないのは残念だけど、今日中には麓の森は抜けて中腹ぐらいにはたどりつきたいしね」


エージルお姉ちゃんの言う通り、魔物を調べるのはついでだから、今は先へ進むのが大事だよね。

お兄ちゃんからは、大山脈付近に敵のダンジョンがない限りは後方安全のためにダンジョン化してもいいって言われてるし、そこまで詳しく調べる必要もないって。

まずは、情報にあるヒュドラちゃんの確認が必要。

あと、ゲーエンって人の足跡が見つかればいい。


「でも、不思議よね。道はもうボロボロでほとんど原型を留めてないけど、道が敷かれていたってことは昔この奥に何かがあったってことよね? ショーウ、そこは何か聞いていないのかしら?」


ラビリスちゃんの言う通り、道があるってことは先に何かがあるってこと。

ショーウお姉ちゃんは知っているのかな?


「ええ。昔開拓をするためにこの先に村を切り開いたとギルド長から報告を受けています。で、そこを起点に奥の探索をして……」

「魔物の群れが出てきたってことね」

「はい。ですから、ある意味、この道がある間はまだ本番ではないということでもあります。まずは、その村を見つけましょう。エージル殿の言うように中腹まで行ければいいですが、村で情報をある程度回収出来ればと思っています」

「じゃ、この道を行けばその村が見えてくるわけね。とはいっても随分前の話だし、廃墟になっているでしょうね」

「はい。それは確実かと」

「それでもいいさ。痕跡を見ればどんな魔物がやったとかわかるかもしれないしね」


へぇ、村があるんだ。

私がそう思っていると、フィーリアちゃんやラビリスちゃんと目が合う。


「楽しみなのです」

「そうね。こういったホントに冒険らしいことってある意味今回が初めてだし、多少は楽しんでいっても大丈夫でしょう」

「そっか、これって冒険なんだー」

「冒険なのです!」

「そうねー。ユキさんがいるとどうしても過保護極まりないから、これまでって冒険って感じじゃなかったもんね」

「あー、そうだね。少人数での探索。間違いなく冒険だね」

「あはは、まあ、そういう側面もありますね。では、頑張って冒険いたしましょう」

「「「おー!」」」


こうして私たちの大山脈への冒険が始まるのでした。



パーティーを組んでの初めての冒険。

アスリンたちはどんな経験をしてくるのか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イグちゃん、フェーちゃんの『中身』 既出でしたらすみません。
[一言] まぁなんだ。 ド田舎の小学生の腕白坊主が、下校途中で田圃の畦道を冒険しているようなものだ。 お玉杓子だの蛙だのメダカにザリガニと言った、現地のマ物達にとっては、ダウンバーストとかスーパーセル…
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