第1024堀:第二目標ダンジョン 普
第二目標ダンジョン 普
Side:霧華
『そうか。あとは……どんなになってもかならず帰ってこい。情報をもって帰るという意味でもだが、なによりアスリンたちのためにも』
「はっ。必ずや」
私が応えて通信を終了する。
「相変わらず、主様は大甘なことで」
「何をいっているのですか、いかなることがあろうと情報を持ち帰るのは諜報として当然のこと。そしてアスリン姉様たちのもとに一人も欠けることなく無事帰るのは私たちの義務です」
「はいはい。隊長がそういうのならそうなんですよね」
そんなことを言いながら部下たちは睨みつけた私の下から逃れていく。
まったくこの部下たちは。
あの超優しい主様が私たちを捨て石にするような命令するわけないじゃないですか。
あの言葉はむしろ当然。
非情なようでありながら、常に最善を探すことを忘れない我が主なのです!
と、そこはいいとして……。
「では、就寝時間まではまだありますので、食事をとりながらダンジョンの情報整理を行います」
「了解。向こうに出し抜かれたらいい笑い物ですね」
「圧倒的にこちらのほうが技術、能力が上なのです。そんな無様を晒すわけにはいきません。ですが、それを成し遂げたのであれば相手を褒めましょう。そしてさらに徹底的に調べ上げます。主様はそれを望むでしょう」
「主様らしいですね。と、そんなありえない仮定の話はいいとして、先ずは手に入れたダンジョンの地図について確認ですね」
ということでバサッとテーブルに置かれたのは、明日攻略をする予定のダンジョンの階層地図。
その数15枚。
つまり、ちゃんとした情報が出回っているのは15階層までということです。
「これが一般的に売られているものですね。ほかに裏でダンジョンの地図を高値で販売している商人や冒険者もいることを確認しています」
「そういうところはウィードと一緒ですね。公式に攻略されていない階層の地図は高値で取引されます。情報というものを大事にしている証拠です。とはいえ、今回はその地図の正しさが確認できていないため、そちらは入れていませんが」
15階層以降の地図が正しいとは判断できないのが痛いですね。
それらが正しければさらに攻略速度も上がったでしょう。
「隊長。確かに攻略するうえで、このようなものでも地図があった方が便利だというのはわかりますが、コアを通して敵ダンジョンを掌握すればそもそもこの地図自体が無意味になるのでは?」
「確かに、掌握できればその通りです。ですが、今回は掌握がうまくいかなかったときのことも考えて動かなくてはいけません。ですので攻略情報が不足しているのは痛いことです」
部下もわかっていて質問しています。
確認というやつですね。
最悪を考えて動かなくてはいけません。
より楽な方法で成功するならそれはそれで良いのです。
今知恵を絞っておくべきは、失敗したときの対処。次の手段を考えることです。
都合よく、うまくゆくことだけを考え、一度失敗しただけで全部がダメになるようなことをしてはなりません。
常に次を考えて動くのです。
失敗を失敗とするな。
主様の泥にまみれ血反吐を吐いても前へ進めという、なにより生きる言葉です。
「確実に判明している階層だけで15となると、その倍はあるとみていいでしょうね」
「はい、あくまで噂ですが32階層まで行ったパーティーがいるという話もありました」
「……流石に主様ほどではないにしても、階層は50を超えているとみていいでしょう」
主様のだと100階層を超えていますからね。
しかも、そのダンジョン自体が外れという鬼のような仕様です。
そう、私たちはそのようなこともあるダンジョンに挑んでいます。
「ですが、しょせんその程度です。油断はしてはいけませんが、必要以上に委縮することもありません。私たちはこれまで主様にさんざ鍛えられてきました。通路に罠、部屋が罠、階層自体が罠、階段が罠、そんなありとあらゆる理不尽を切り抜けてきたのです。明らかにただのダンジョンにすぎないものをクリアできないわけがありません」
私がそういうと全員が頷く。
主様はただ甘やかしていたりはしません。
理不尽に理不尽を重ねた鬼の難易度をしっかり攻略してきているからこその自信です。
「隊長の言うように、今回のダンジョンに主様は関与していないですし、いざという時はウェポンズフリーまででますからね」
「その通りです。火器使用も自由といわれています。魔物、トラップ何するものぞというわけです」
火力においても、端からこのダンジョンの町に並ぶものなしなのです。
まあ、さすがにダンジョンそのものが崩壊してしまうような兵装まで使用するつもりはありませんが。
「今回求められているのは速度です。そして相手に情報を与えることをしない。それを目的に動きます」
そう、速度。
私たちがダンジョンに潜った、いえ、この町にやってきた時点で警戒されていると考えるべきなのです。
そして長く留まれば留まるほど、どうしてもこちらの情報が流れていきます。
それを防ぐためにも短い時間でのダンジョン攻略が求められます。
「まずはこの地図を参考に15階層まで駆け抜けます。それ以降はソナーを使って地形の把握を行い下層へと向かいます。魔物は邪魔になるものだけ排除」
こんな感じで私たちは就寝時間直前まで会議を行い、その後は十分に体を休めて翌日を迎えます。
『作戦開始まで5、4、3、2、1……ゼロ』
カウントダウンがゼロになるのに合わせ、私たちは周りの冒険者との雑談を打ち切ってさっそうとダンジョンの中へと入っていきます。
「予定通り、先ずは第一階層の人気のない通路に向かいます」
「「「了解」」」
流石に前後に沢山人がいる状態で全力で駆け出すほど馬鹿ではありません。
ちゃんと探検をするふりをしながら、わざと路地にそれます。
「後ろについてくるものは?」
「いません。引き続き警戒します」
追手は無しと。
わざと間違った通路を進んでいるのですから、わざわざ私たちを追いかけてくるのであれば、一緒に侵入しているズラブルの部隊か、あるいは厄介ごとでしょう。
「では、さっそくコアを使ってダンジョンの掌握に移ります。全周囲警戒」
「「「了解」」」
私はコアを取り出してダンジョンの床へと落とします。
さあ、掌握できるといいのですが……。
そんな不安を抱える私の目の前で、コアはスッとダンジョンの床へ沈み込みます。
トプン……。
さあ、コール画面を開きましょう。
DPは足りているのか?
私は冷や汗をかきながら画面を開くと……。
『ダンジョンの奪取が可能です。どういたしますか?』
という成功の画面が出てきます。
喜ぶ前に即座にYESを押して、ダンジョンの掌握を開始すると同時に報告のために口を開く。
「主様へ報告いたします。目標、掌握可能。ただいま掌握処理中」
『よし! そのまま掌握作業を継続。データを取ってしばらくは放置だ。周辺の警戒怠るなよ?』
「はい。隊員全員配置についています」
さあ、掌握完了するまでに邪魔が入る可能性もゼロではありません。
まあ、幻惑魔術を使ってこの通路自体に気が付かないようにしておりますが。でも、それを抜けてくるとしたら……敵ですね。
そんなことを考えている間にも、掌握パーセンテージが上がってゆきます。
【現在掌握度31%】
私が見た瞬間に1%だけ増える数字……ダンジョンの掌握速度というのはそのダンジョンの規模によって異なります。
以前主様がウィードの掌握実験を行った際は1%数値が動くのに10時間程かかり、さすがにバグではないかといったぐらいです。
色々調べた結果、初心者ダンジョンならほぼ一瞬、20階層を超えると大体数分~数時間と時間がかかるようになることがわかりました。
先の実験結果から言うと、ウィードを全部を掌握しようとなるとそれだけで1000時間かかることになります。
しかも、掌握中は相手のダンジョンマスターにこちらの位置が筒抜けになってしまいます。
敵に掌握された区画は相手の物になるので、所有者側から制御ができなくなるのです。
その履歴を見ればどこに敵がいるのかわかってしまいます。
今私たちは敵側ですので、ここのダンジョンマスターには私たちのことが分かっているはずです。
なので、襲撃がいつあってもおかしくないのですが……。
【現在掌握度53%】
すでに全体の半分も掌握されているのに全く動きがみられません。
第一階層で私たちが事を起こしたからでしょうか?
第一階層というのはそもそも人の出入りが激しいところで、そのレベルも様々です。
それを踏まえると、迂闊に私たちをとらえるために強力な魔物は召喚できませんし、下手にダンジョンの改造自体をするとそれこそ、新規参入者が減るでしょう。
なるほど、主様が第一階層で掌握作業しろと指示したのは、こういう意図があったのですね。
何かあっても出口は近く逃げやすく、相手も強力な魔物を呼び出すのはためわれる場所でもある。
それは私たちの生存確率を高めることになる。
本当にお優しい方です。
『霧華。30分経った掌握の進捗はどれぐらいだ?』
「はい。現在60%を超えた所です」
『このままだと50分程度で掌握完了か。となると総階層60階層ぐらいか?』
「大雑把ですが、今までの数値から考えるとそうですね」
一階層約一分。
まあこれも四方1kmのダンジョンに限定されている場合ですが。
おそらく、このダンジョンはそういうタイプだったのでしょう。
『今のところ何から相手の動きは?』
「そういうのは私たちの方からは感じられません。そとで待機しているドローンには何か映っていますか? こちらは無線封鎖をしているので」
『いや、外も特に異常は認められないな。掌握開始前後で何も変わりなく』
「となると、相手はこの状況をただ傍観しているということになりますね」
『ま、最後の最後まで何があるかわからない。一度掌握完了した後から相手が掌握し返すというのもあり得るからな』
「はい。最後まで油断をせずに成し遂げます」
『頼んだ。終わるころにまた連絡する』
「はっ」
そして私は掌握度のモニターに目をやる。
「状況報告」
「こちら問題ありません」
「冒険者が近寄ることもありません」
どうやら主様と話す前と特に変化はないようですね。
……本当に不思議ですね。
スティーブたちが攻略したダンジョンは当初から放棄されたものだったからと思っていたのですが、なぜか明らかに実稼働中なのに反応なし。
そう、今の今まで何のアクションもありません。
ホント、何が狙いかわからないですね。
ここを確保することで何かしら敵の動きがわかればいいのですが。
などと最大限の警戒を行っていたのですが、結局のところ特に何もなく……。
【ダンジョン掌握度100%】
と、このダンジョンの掌握に無事成功してしまいました。
「主様。ダンジョンの掌握、制圧に成功。今よりダンジョンの情報解析に移ります」
『うまくいったか。とはいえ油断は禁物だ。まだ、これから敵が乗り込んでくる可能性もある』
「はい。十分に警戒しつつ、任務を継続します」
そんな話をしつつ、私はこのダンジョンの情報を引き出し……。
「……せめてデータを送り届けるまでは持ってほしいですね」
そう願いつつ、私は引き続き任務にあたるのでした。
第二目標ダンジョンもひとまず制圧完了。
そのダンジョンに何かヒントはあるのか?
敵の狙いはなんなのか?
みんなはこのダンジョンマスターは何者だと思いますか?




