第1021堀:ダンジョン調査 易
ダンジョン調査 易
Side:スティーブ
『こちら作戦指令室。S隊聞こえますか?』
「聞こえるっすよ。感度良好」
『こちらも感度良好です。魔力通信に異常は見られません』
「ありがたいことっすね」
おいらはそんなやりとりをしながら、一小隊を率いてとあるダンジョンを目指しているっす。
『部隊の状態はどうですか?』
「小隊全員問題なしっす。体力的にも精神的にも負荷はないっす」
『了解。目標地点まであと500メートルです。注意を怠らず進んでください。すでにダンジョンの支配下です。何が起こってもおかしくありません』
「了解っすよ。みんなも警戒を怠るな」
「「「了解」」」
中隊全員おいらの言葉にうなずいて武器を構えなおしたっす。
あ、今回はガチなんで、端から全員小銃装備で近接はナイフという装備になっているっす。
偵察ではあれど、最悪はダンジョンアタック、そのまま占領する予定っすから、剣と盾なんていう古臭い装備は無しっす。
というか、アイテムボックスにはRPGとかプラスチック爆弾とかも準備してるんで、どれだけ今回の作戦がマジなのかわかると思うっす。
だけど道中はホント穏やかで、魔物っていってもウルフとかの低レベルのやつらと散発的に遭遇をしたぐらいで、戦闘らしい戦闘はなかったっす。
まあ、目撃者、いや目撃魔物は全部きちんと刈り取っているっすけどね。
状況をみると、今向かっているダンジョンにマスターがいる可能性は低そうっす。
こちらの実力を見てるにしてもあまりにお粗末っす。
たまたまおいらたちがほかのまともな偵察に出会ってないとか気付いてないって可能性もあるっすけど、それにしてもあまりに反応が鈍いっす。
このまま楽な仕事ならいいっすね。
とそんな儚い希望を考えながら目的地へ迫っていくにつれ、草木が鬱蒼と生い茂っていて獣道すらなく、ここには本当に人どころか獣すら近寄っていないということがわかって来たっす。
なんで、ひたすら鉈を振るって道を切り開いて……。
「……こちらS隊。目的地に到着」
『了解。まずは周辺の調査をお願いします』
「了解。とはいえ目視できる範囲は、事前にドローン、使い魔で調べたようにダンジョン自体稼働しているか心配な状態っすね」
おいらたちの目の前にあるのは、倒壊し、朽ちかけた巨大な樹木がゴロゴロ転がっていて、すっかり入り口が封鎖されているダンジョンの姿っす。
「よくこんなダンジョンを見つけたっすね」
『霧華様たち諜報班が偶然見つけたものです。たとえ未稼働であっても中はちゃんとダンジョンの作りなので、中に入って調査する意味はあると、司令部の方では判断しています』
「大丈夫っす。調査の意味はちゃんと分かっているっすよ。たとえ放棄されたものであっても、どんな構造か、どんな目的で作られたのかを把握すれば相手のことがわかるかもしれないからっすね」
『その通りです。では、隊長よろしくお願いします。くれぐれも警戒してください』
そう言って無線を終了したので、おいらは周辺警戒している部下たちにハンドサインを送る。
即座にその命令を理解した部下が展開して周囲の安全を確保する。
「クリア」
「クリア」
「クリア」
「オールクリア」
「電子、魔力観測は?」
「いずれもレーダーに感なし。隠ぺいの可能性は完全否定はできませんが、現状臭気も異常なしなので可能性はかなり低いかと」
……ホントはうれしいのはず報告なんっすけど、ここまでないない尽くしだとかえって警戒してしまうっすね。
いや、正直絶対はずれだとは思うっす。
しかし、仕事は仕事。
おいらは部下に指示を出して洞窟を塞いでいる樹木の撤去を命じるっす。
ズン、ズズン。
部下たちがステータスにものを言わせてこともなげに倒れた木々をどかすと、そこには……。
「間違いなくダンジョンっすね。警戒を継続。撮影班」
「はっ。撮影は作戦開始より途切れておりません。定位置のカメラもセッティングしました」
「よし。では予定通り1300まで周辺警戒をしつつ休息をとるっす」
「「「了解」」」
とりあえず、掌握準備は整ったので一旦休憩をする。
そう、敵陣のど真ん中で。
「大将。ここまでする必要ってあるっすかね? 万一相手がいたらそれこそ顔真っ赤じゃないっすか?」
『逆だ。ここまでしても出てこないなら、こっちのダンジョンは手付かずってことで安心して掌握できるだろう』
「ま、そりゃそうっすけど。いやぁ、熊の巣穴の前で堂々と飯を食えとか、ある意味自殺行為なんすけどね」
そう、この休憩は予定されたものっす。
ダンジョンの入り口の目の前でのんびり休憩して飯食ってるやつがいれば、さすがに何かしら動きがあるんじゃないかって。
『なら、相手が手薬煉ひいて待ち構えるかもしれないダンジョンに休憩なしに踏み込むか?』
「……それを考えるとやっぱりダンジョンの前で飯を食って休憩するほうがいいっすね」
『だろ?』
とまあ、ちょっと常識的なツッコミをいれると間髪入れずに戦略的なツッコミがくるっす。
いや、おいらもその意見はわかるっすけど、そりゃわかるっすけど…、それを実際実演するっていうのはすごく神経使うっすよ。
一応、中隊の半分がしっかり警戒に当たっているっすけど、おいらたちだっていつでも動けるように備えながらっすから、ほんとに休憩なのかといわれると疑問っすね。
とはいえ、戦場のど真ん中って考えると飯をこうしてきちんと時間を取って食べれるのはありがたいっすよね。
大将との演習だと、今みたいに火を起こして飯なんか食べてたら、バンバン砲弾が飛んでくるっすからね。
だから、コソコソと冷たい飯をかきこむように食べることになるっす。
……あれ? 訓練の方がおいらたち扱い酷くね?
『で、そこまで自分の足でやってきてどうだ? 何か感じることはあるか?』
と、今は大将との情報共有が優先っすね。
「いや、全然っすね」
おいらはそういいながら、一緒に暖かい飯を食べて休憩している部下に視線を向けるっすけど……。
ぶんぶん。
と、全員が何も感じなかったという身振りをする。
「部下たちも全然っすね」
『そうか。辺鄙なところ過ぎたか? とはいえ魔物は出たんだろう?』
「一応出ることは出ましたっすね。ウルフが数匹とスライム数匹」
『冒険者初心者向けの区域だな。ま、霧華の集めてくれた情報と違いがなくてよかったな』
「そうっすね。どっかの漫画やラノベみたいに新人の区画なのになぜかいきなり上位ランクの魔物が登場とかやめてほしいっすよ。ま、作戦の推移は極めて良好ってことで」
『ダンジョン入った瞬間交信途絶ってのはなしでな。捜索隊を出すのが大変だ』
「こっちもそう願うっすよ。っと、休憩交代」
「「「はっ」」」
部下たちは皆、飯を食べ終えたようなので、即時に切り替える。
休憩とは言っても先にまず全員飯を食う、そして時間が余れば交互に休む。
そうしないと、襲撃があった際隊の半分が飯を食えなかったなんてことになるっす。
休憩は無くても人は生きていけるっすけど、食事はしないと生きていけないっすからね。
……ん? 魔物は人なのか? いや、ゴブリンは亜人ってことで。
それに大将はなんだかんだ言ってずっと休みなしで働かせるような鬼畜じゃないし。
ん? あれっ? ……おいらの休みっていつとったっけ?
『どうした? トラブルか?』
「いや何でもないっすよ。この前休みっていつとったかなーってふと思っただけっす」
『休みなー。スティーブの予定表だと、つい2日前が休みじゃなかったか?』
「あれ? そういえばそうでしたっけ?」
『まあ、お前は軍属だから休みって言っても精々ウィード内でのんびりすることしかできないけどな。というか、この前の休みもアルフィンと仲良く出かけたんじゃないかったのか?』
「あー。そういえばそんなこと…あったっすね。美味しいケーキを出すお店ができたって無間地獄を……」
次から次へと持って来られる『砂糖』の山、山、山。
甘い物ってこの世界ではそれは貴重な高級品だったはずなのに…、おいらにとっては地獄の拷問道具の一つとなっているこの不思議。
「そうだ。今度の休みは健康診断に行くつもりだったんすよ」
『……そうか。血糖値が上がってないといいな。ま、糖尿病とかなっててもエクストラヒールとエリクサーでしっかり治してやるから、病気とか心配せずに心置きなくアルフィンに付き合ってやれ』
「なんでっすか!? あれ、拷問! 甘い物は拷問!」
『いや、普通甘い物ってのはご褒美だからな』
「何事にも限度っつー物があるっすよ!」
『それはわかるが、同居しているんだからいい加減お前がちゃんと教え導いてやれよ。あと同僚の聖剣使いたち』
「無理っす。そりゃ無理っすよ。俺たちは何度も何度も止めようとして……止められなかったっす……。涙目になられたらどうしても……」
『いやー。それはお前たちが甘やかしすぎだろう。駄目なものきちんとダメって言えよ』
……そりゃその通りなんすけど。今やそのお菓子でお店まで出しているし、なお一層断りづらくなってしまってるんすよねー。
と、ある意味これに勝る問題なんか他にないって話をしているうちに。
「隊長、休憩時間終わりました」
「お、そうっすか。じゃ早速予定の隊員はダンジョンに侵入し、コアを確保。そしてダンジョン制御を奪う実験を開始」
「「「了解」」」
おいらがそう指示をだしたとたん、きびきび動く隊員たち。
つつがなく準備を終えたダンジョン突入隊員がサッとこちらに敬礼をする。
「諸君らの任務完遂を期待する」
「「「はっ」」」
そしてスケジュール通りにダンジョン内に隊員たちが侵入。
『さーて、どうなるかね?』
「さっきも言いましたけど、何事もなくがいいっすね」
こんなところで命を懸けたドンパチとか勘弁っす。
あとは、何事もなくダンジョン掌握の報告が来るのを待つばかりなんすけど……。
『こちら突入隊、聞こえますか?』
「聞こえてるっすよ。トラブルっすか?」
『いえ。ダンジョンコアを展開。このダンジョンの掌握に成功しました』
「よくやったっす。では予定通り、所有権はそのままに、ダンジョンの階層データと支配下の地形データを回すっす」
『了解』
返事と共にデータがこっちに飛んできたんで目を通す。
……欺瞞情報、つまりダンジョンを掌握できたと勘違いさせるって方法も考えられるっすから、ちゃんと前後の確認をするようにという方針っす。
一度こっちにわざと渡して油断させておいて、さらに奪い返すっていう裏技もあるっすからね。
まあ、かかるDPが多すぎて普通はやらないっすけど、大将みたいな相手だと喜んでやるっすからね。
『どうだ?』
「欺瞞ってわけじゃなさそうっすね。おいらと大将しか知らないはずの霧華配下の諜報員の位置がきちんと映っているっす」
部下たちも霧華の配下の位置までは知らないっすから当てることは不可能っす。
『ということは、無事に掌握できたってことか』
「そうみたいっすね。とはいえ、成功したらしたで……」
『おう、ここからが本番だ。調査部隊を編成してダンジョン内部を調べてくれ』
「了解。第一フェーズ終了。第二フェーズへ移行するっす」
こうして、相手のことを調べるための第一歩を踏み出したわけっす。
ハイーン皇国側に存在するダンジョン。
一体何が出てくるっすかね?
ダンジョン調査始まる。
さてさて、これからどんな情報が出てくるのか?
敵は何をかんがえているのか?
スティーブたちはアルフィンをちゃんと指導できるのか!




