落とし穴番外:ウィード情報誌
ウィード情報誌
Side:ミコス
「さぁ、今日から頑張るぞー!」
私ことミコスちゃんはそう気合を入れる。
何せ今日この時から念願の私の部署が動きだすからだ。
「はい。では頑張っていきましょう。ミコス様」
「ええ。がんばっていきましょー」
「よろしくお願いします。キルエさん。サーサリさん」
そう、この部署にはキルエさん、サーサリさんという心強いメンバーもいる。
って、パッと見メイドさんの部署ぽいけど、実は違うんだな。
そう、この部署の名前は……。
「さぁ、ウィード情報誌、月刊ウォークを頑張って作りましょう!」
つまり、ここは編集部。
本を作るところ。
しかも一般大衆が広く読んでくれる雑誌を発行する。
ユキ先生としてはホントは新聞を作りたかったみたいだけど、今の人数じゃとてもとても毎日新聞を作るなんて不可能だから、月刊でウィードの情報誌を作ることになったわけ。
そして、今日は記念すべき第一日目。
「さて、ミコス編集長。私たちは主様よりミコス様のお手伝いをするようにと仰せつかっておりますが、いかがいたしましょうか?」
「はいー。私たちは雑誌を読むほうだけで、作るほうになったことはないですからー」
と、指示を仰いでくる2人。
いやぁ、本来私のような木っ端男爵令嬢なんかにわざわざメイドが二人もつくなんてありえない。
しかもどちらも、メイドとしては最上級。
しかもキルエさんは、実はシェーラの腹違いのお姉さんで、王位継承権と貴族としての階級がないってだけなんだし、お姫様の側仕えメイドが辺境の男爵の娘なんかと同等なわけがない。
そして、いつもにっこりサーサリさんも、サマンサのメイドをしてるけど元は騎士隊に所属していたってことで、これまた私より立派な経歴の持ち主。
いやぁ~、どっからどう見ても、私が部下の立場なんですけど。
「ミコス様?」
「どうかしましたか?」
「あっ、ごめんなさい。ミコスちゃん的にお2人を部下扱いなのってちょっとあれでして……」
正直にミコスちゃんの心の葛藤を明かす。
私に戻ったらもうダメ。ミコスちゃんモードじゃないととても話だってできないレベルの人たちです。
でも、そこは流石長年ユキ先生の側にいるメイドさんたちでして。
「そのようなことはお気になさらず。出自がどうしてもというのであればそうですね、私たちは同じ旦那様を夫とする友なのです。対等ということで何も問題はありません。あっ、ですので、このサーサリは僕でいいでしょう」
「扱いが雑ですよね!? キルエ先輩!」
「あら、あなたは旦那様の妻ではありませんよね? 間違いなくただのメイドです。ですので当然、旦那様の妻であらせられるミコス様より立場が下です」
「ひどいですよー!? こんな扱い旦那様も認めませんよ!」
「別に鞭を振るったわけでもありません。忘れているようなので、ただあなたの立場というものを改めて教えてさしあげただけですよ?」
「ぬぐっ!」
そんなメイド漫才を続けられれば、さすがにこっちに気を遣ってくれてるのがわかる。
だから私は……。
「はいはい、ってことで、2人ともこれからよろしくね」
「はい。お任せください」
「ですよー。私だって旦那様のもとにいるんだからみんな友達ですよ」
ということで、私ことミコスちゃんはすっごく頼りになるこの仲間とともに……。
「では、第一回ウォークの内容を決めたいと思います」
そう、まずは発行する情報誌の内容を決めなければ記事の作りようもない。
「まずは、ユキ先生から頼まれている内容だけど……」
ということで、ホワイトボードに頼まれている記事のリストを書きだす。
〇ウィード行政からの優先伝達事項と広報
〇月のウィードのニュース。(ラジオと内容がかぶっても構わない。)
主な内容
・事件、事故 注意喚起のため
・注目情報 イベントなど人が集まるようなこと
〇応募コラム 一般の人が雑誌に関われるようにするため、手紙などで応募する枠をつくる
・時期ネタがいいが、細かい判断は任せる
〇有名店の取材 食事、服飾、武器屋問わず。
〇有名人の取材 雑誌の売りになる これも人気投票でもすれば取材する相手を外すこともないだろう。
とまあ、さっすがユキ先生、事細かに説明してくれてミコスちゃん大助かり。
「なるほど。これを全部クリアしていけば雑誌の内容はまとまりますね」
「あれ? でも表紙とかはどうするんですか? 旦那様からその手の雑誌はいろいろ見せてもらいましたけど、どれもこれもかなり凝ってましたよ? そういうデザイン?でしたっけ、それは誰が?」
「んー、そこはまずはミコスちゃんが頑張ってみるよ。で、だめだったらユキ先生に相談かな? ん、それともサーサリがやってみる?」
「あはは、絵心などはないので遠慮します」
「なるほどなるほど。まずは試してみろと旦那様は仰っているのですね」
「うん、そうみたい。まあミコスちゃんたちが自分らで作る雑誌だし、あまり口出し手出しはしないって言ってた」
うんうん。ミコスちゃんたちの気持ちを汲んでくれる最高の旦那さんだね。
「では、これらの必要なところを踏まえつつ作ればいいわけですね」
「見本の雑誌はありますし、簡単そうですねー」
「うん。ミコスちゃんも学校じゃぁ読み切り記事は作ってたし、多少だけど経験はあるからやれると思う。というかウィードだと記事は手書きじゃなくていいし、むしろ楽!」
そう、昔みたいにミスが許されない清書なんて苦行はもうしなくていい。
何度でも書き換えが可能で、コピーも一瞬でできる!
素晴らしきウィードの、いや地球の編集技術に印刷技術!
パソコンは無敵の機械である!
いゃーホント、偉大なるその存在を知ったときは欣喜雀躍したもんね。
スマホとかコールの空中投影とかって私のためにあるようなものじゃんと!
ということで、環境は抜群。
「じゃ、さっそく記事を作るために動きだすわけだけど。二人はどの取材に行く? 得意不得意はまだ分からないけど、とにかくやってみたい記事があるならそれからやってみたほうがいいし」
今回は取材と今後の付き合いも含めたいろんな挨拶もある。
どれが得意でどれは不得意かってのを見極めるにはちょうどいい。
どうせ初めてだし、最初は失敗してもいい。
「そうですね。私はお店のリサーチからでしょうか。奥様の井戸端会議でもよく耳にしますし」
「じゃ、私は有名人の取材にしましょー。こっちも奥様たちの井戸端会議でけっこう話が出る人の心当たりもいますから」
「じゃ、ミコスちゃんは事件事故に関してを調べるよ。警察署とか総合庁舎かな」
「はい。ミコス様はこの部署の顔である編集長なのですから、そちらの方面への挨拶は大事かと」
「ですねー。といってもポーニ所長とか、テファさんとか、もう顔見知りですけど」
「ま、気は楽だね。とはいえ、キルエさんの言う通り挨拶って大事だし、いってくるよ。二人も何かあったらミコスちゃんが責任者だからっていうように」
「かしこまりました」
「はい。その時は頼らせてもらいますね」
ということで、ミコスちゃんはさっそく総合庁舎の方に足を向ける。
今日は女王陛下もこっちにいるもんね。
「あら、ミコスがここで面会なんて珍しいわね」
「どうもセラリア様。今日は新設された部署の代表としてあいさつに来ました」
「ん? あー、なんか夫が言ってたわね。雑誌をつくるんだっけ?」
「はい。部署も整えて本日からその雑誌の制作に取り掛かかります」
「そう。我が国初の純正雑誌ね。いいじゃない。何かあったら私を頼りなさい。大概の許可は出してあげられるから」
「その時はお願いします。では、ミコスちゃんはこれから取材に行ってきます」
「ええ。気を付けてね」
セラリア様の許可を取り付けたミコスちゃんはそのまま会計の方へと顔を出す。
「やっほーテファ」
「ミコス? どうしたの?」
「いやほらこれ」
私はそう言って身分証を見せる。
「ウィード編集部? ああ、雑誌を作るかもって話、動き出したの?」
「そう! ということでこれからよろしくね。それと、何か情報誌を通じて世間に伝えたい事ってある?」
「おめでとう。これでウィードに新しい娯楽ができるので。で、伝えたい情報かー。エリスさん、何か情報誌を通じて世間に伝えたいことってありますか?」
そう言ってテファは奥のデスクで仕事をしているエリスさんに声をかける。
「そうねー。あ、その前に編集長就任おめでとうミコス」
「どうもー。これから頑張っていきます。で、何か伝えたい情報ってありますか?」
「ああ、それねー。……ちょっと周りの許可がいりそうだけど、今年の税収とか各部署の予算を掲載したいですね」
「「……」」
エリスさんの言葉に思わず絶句する私とテファ。
「2人の驚きを見てもやっぱり普通じゃないわよね」
「そ、それはそうですよ。だって、国民に知らせる必要がないですし」
「ですね。国民は知る必要はないですし、分配の偏りに対して各関係が文句を言ってくるのが目に見えています。そして予算を獲得できなかったトップは立場がまずいことになるのでは?」
「うん。テファの言う通り、必要だからその分配になったのに、その理由は一般の人にはわからないんですよね?」
「まあね。とはいえ、各関係は理解しているはずよ。それを押さえるのもトップの役目だと思うの」
むう。確かに、予算の獲得報告は今でもしているだろうし、それを公表されたからってぐらいで足元が揺らぐようなトップはいらないですよねー。
「話はわかりました。確かにその予算の情報を提供するのは会計部署しかできないでしょう。しかし、これはほかの各所の許可もいるでしょう」
「当然ね。ついでに目的をはっきり言わないとだめでしょうね。目的は予算の透明化ね。誰かが無駄に使っているとは思いたくはないけど……わかるわよね?」
「あー、なるほど。確かに、公表した方がいいでしょう」
「どこにでもいるんですねー。予算をちょろまかす奴が。ともあれ話はわかりました。そして私が各所を回る際に聞いてくれってことですね」
「ええ。私の方からも話は通すけど、ミコスの方からもお願い」
「わかりました」
ということで、なんかしょっぱなから大仕事を任せれた気がするけど、これも雑誌を出すため。
頑張るぞー!
ついに情報誌作成されます。
これで、落とし穴のネタを幅が広がります。
ネタ集めでどこにでも行けますからね!
発展させたかったネタも作れます。




