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第1016堀:知らないことは考えに入りにくい

知らないことは考えに入りにくい



Side:ユーピア



「うまっ! うまっ!」


今日も今日とて、フィーリアたちと共に美味い昼食を食しておる。

情報管理局の立ち上げもひと段落、やっと落ち着いてきたゆえ、フィーリアたちはワシのそばにおってウィードのとのやり取りの手助けをメインに、チョコチョコと情報管理局の指導をしてくれておる。

遥か離れた異国の地で斯様な八面六臂の大活躍をしておっても、ゲートですぐに家に帰れるからけして無理はしておらぬという素晴らしさ!

そして何より……。


「うむ! 焼肉はいいのう! 牛がここまで美味くなるとは! ドラゴンの肉なぞそもそも食べられるとは思わなんだ! そして自分で好みに焼く! なんと素晴らしきかな!」


ジュー……。


ワシの目の前にはえも言えぬ香りを漂わせながら焼き上がりを待つ肉がずらり。

この全てをワシが丹精を込めて育てておる。

ベストなタイミングで救い出され、ワシの口へと運ばれる時を待っておる。


「うまー! 白飯もうまー! おかわり!」


焼肉のたれと白飯が組み合わさってまさに最強!

カレーもいいが、こっちも捨てがたい!


「……陛下。フィーリア殿たちと共に出勤前などという時間にわざわざ焼肉店舗に寄るということだったので何をしてるかと思ったのですが、なんで……焼肉を食べるためなんかに」


そのワシが幸せの絶頂につまらぬ小言で水を差してくるショーウ。


「ふんっ。まったく。自らも斯様に焼肉を食べておってなにを偉そうにいうか。フィーリアに頼んだら、じゃ全部用意してみんなでたべよーって言ってくれたからこうして食べておるのじゃ。何も負担になっとらん。のう、フィーリア、アスリン」

「大丈夫なのです。このお肉を焼く網はフィーリアの手作りなのです」

「お店にもちゃんとお金を払ってるから大丈夫だよー」


そう笑顔で答えてくれるワシの友人たち。

それに比べて……。


「ワシらの食事に乱入してきおった挙句小言とはいい身分じゃな。食わせんぞ?」

「ぬぐっ。場をわきまえず誠に申し訳ございません。それだけは平にご容赦を。だからお肉ください」


まったく情けないことじゃ、ちと肉を取り上げたがだけで大皇望たる者が白旗とはな。


「もう少し、自慢の知恵を使おうとは思わんのか。焼肉に完全降伏とか、正直どうなんじゃ?」


あまりの即答にそう苦言を呈すると……。


「わが身に何の不利益も無く、このほうが早く食べられますからね。そして陛下がおっしゃったように、場を弁えない発言と反省を致しました。なにしろ、アスリン殿たちが頑張って持ってきてくださったものです。私もひねくれていました」

「……後半上手くまとめはしたが…、所詮ただ焼肉を食いたいがためか」

「もちろんそうですとも。陛下は知らないのです。アスリン殿たちがお肉を仕入れてきたお店はウィードで話題沸騰の超人気店なんですよ? ねえ、ラビリス殿?」

「ええ、人気なのよねーあのお店って。お肉の種類が独特だからかしら。うん。美味しい」

「ですねー。ラッツさんが出資していたおかげでスムーズにお肉売ってくれましたし。よかったです」


ほほう。超人気店の肉とな。

なるほど、絶品なわけじゃ。メイドの皆も護衛の連中もそれは美味そうに食うておる。

いやはや、ただ肉を焼いただけに過ぎぬものがこれほどまでになるとはな。


「ショーウ。この肉を調達する算段をつけよ。けして焼肉屋に迷惑にならぬようにな。何れほかの臣下にも食わせてやりたい」

「はっ。と、これもらいます」

「ふざけるな! それはワシが丹精込めて育てている肉じゃぞ!」


なんたる謀反!


「まずは目の前にいる忠実な臣下に出来立ての焼肉をくださいな」

「ああいえばこういうやつめ!! やらんぞ! これ以上一欠けらとてワシの可愛い肉はやらん!」


そういいながら、ワシは慌てて育ててきた肉を網の上から救い出し、自分のキープ皿へと移す。

この皿は本来、食べきれずそのままだと焦げてしまう肉を逃がすための物じゃが、今はなによりこの逆臣ショーウから守るためじゃ。


「ああ……。なんて心の狭い。しくしく……」


なーにわざとらしい泣きまねをと思っておったら、スーッとアスリンが


「じゃ、ショーウお姉ちゃん。私の分けてあげるね」

「フィーリアもなのです」

「おお! ありがとうございます。この御恩は一生忘れませぬ。いざという時は私が力になりましょう」

「くぉら! アスリンたちから肉をもらうとはなんと情けない!」

「はいはい。ユーピア皇帝ちゃん落ち着いて。私のお肉を上げるわ」

「では、私も」

「うむ! ラビリスにシェーラ、感謝するぞ。何かあればワシを頼るとよかろう!」

「そっちも同じじゃないですか」

「うっさい!」



とまあ、にぎやかにお昼の時間は過ぎていき。

気が付けば結構沢山用意されていたはずの焼肉は全て食べきっておった。


「うーぬ。まだ食い足らんのう」

「お昼から食べ過ぎになってどうするんですか。執務に支障が出るのでそれだけはやめてください」

「ま、確かにその通りか。今日の晩御飯を楽しみに午後の仕事を頑張るとしよう」


うむ。最近は目の前にわかりやすい目標があるので頗る仕事がはかどる。

と、そういえばその仕事に関する話があったことを思い出した。


「そういえば、アスリン、フィーリア、何か聞きたいことがあるといってなかったか?」

「ん、聞きたいことですか?」

「うむ。焼肉を食べたあとに聞きたいことがあるといぅておったのじゃ。約束は守らねばならぬ。王として、人として、友として」

「何を大袈裟な。しかし、改まって何を聞きたいのですか?」


そう2人で視線をむけると……。


「えーと……なんだっけ?」

「うーん。思い出せないのです」


何聞くんだっけー?と、コクンとかわいらしく小首をかしげた2人がいた。

すかさずカメラを取り出してパシャっと撮っておく。

うむ。可愛い。

ワシは小型のカメラを譲ってもらったのじゃ!

もっぱら、アスリンたちと一緒に撮っておるがな!


「はいはい。アスリンもフィーリアも忘れないの。ダンジョンのことでしょう?」

「そうですよ。忘れちゃだめですよ」

「あ、そうだ! ダンジョン!」

「そうなのです。ダンジョンのことを聞きに来たのです!」


と、すぐに姉のラビリスとシェーラがフォローで聞く内容を思い出したようじゃな。

しかし……。


「ダンジョンか?」

「ダンジョンですか?」


なんでわざわざそんなもののことを聞いてくるのかがさっぱり分からぬ。

ともあれ、アスリンたちが聞きたいといぅておるのじゃ。

答えぬ道理などありはせぬ。

まぁ、別段機密事項でもないしのう。


「ハイーン皇国の勢力範囲にある、魔物が住む洞窟のことじゃな」

「ああ、そういうことですか」


なぜかワシの言葉に、聞いた本人たちではなくショーウが勝手に納得をする。


「何故おまえが納得しておる?」

「いえ。アスリン殿たちの質問の意図が分かったからです。ちょっとの間ですが、私がウィードでいろいろな場所を訪問しているのはお伝えしているとおりです」

「そうじゃな。毎日美味い飯と風呂に入ってなによりじゃ」

「ぐっ。そっちの話ではなく、一応報告したはずですよ? ダンジョンと冒険者を使った興行があると」

「ん? おお! そうかダンジョンとは資産、宝の山といぅておったな」


うぬ、そんな報告書を確か見た気がする。


「はい。しかしながら、それは諸刃剣です。ウィードのように完全制御しているのであればともかく、さもなければ魔物があふれ出す可能性があります。まあ、そうならないために間引きもかねて興行するのですが」

「……なるほどのう。って、ちょっとまてい。今更じゃが、東側の冒険者ギルド連中がこちらになびかなかったのは」

「はい。ダンジョンという貴重な資産を取り上げられる心配と、魔物の間引きができなくなることによる混乱と被害を避けていたのではないでしょうか?」

「うぬ、そうじゃろうな。しかし、その程度のこと、あのギルド長が考慮に入れずにワシたちと話し合うか?」


ワシらはあくまでハイーン皇国を打ち倒すことに腐心しておったが、ギルド長がダンジョンに関するこの事情を知らぬはずがない。

冒険者ギルドとて統一を目指しておるのじゃからな。


「確かに話にすら出なかったのは不思議ですが、逆に当たり前といえば当たり前すぎる情報でもあります。ギルド長はすでに我々が考慮しているものと思っていたのでは?」

「……うむ。十分あり得るな。ともかく、ダンジョンがある地に対してはそこらへんも考えなくてはなるまい。と、すまぬな。アスリンたち、聞きたかったのはこういうことで良いのかのう?」


いかんいかん。

ついつい、質問をしてきた本人たちを無視して話し合いをしてしもぅた。

しかし、さすがは我が友たち。嫌な顔ひとつせずに笑顔で答えてくれる。


「うん。ダンジョンってとっても危険だから、ハイーン皇国を攻めるときってどうするのーって思ってたんだ」

「そうなのです。今までの話し合いでダンジョンの攻略云々って聞いたことがなかったので、ちょっと心配していたのです」

「なるほどのう。うむ。確かにスッポリ抜け落ちとったな」

「はい。ズラブルではそもそもダンジョンに出会ったことがありませんので、そのようなものをどうするかなどこれまで一度も検討したこともございませんでした」


当たり前の様に話しておるが、この件、冗談抜きでこの戦いを左右するものじゃ。

このまま何も知らずに踏み込んどったら、ダンジョンの利害関係やその強大な戦力に手痛い被害を受けておったじゃろう。

そしてワシらの回答を聞いたラビリスとシェーラはさも意外と言わんばかりに


「あら、ユーピア皇帝ちゃんだけでなく大皇望ショーウまでもが気が付いてなかったなんて不思議ね」

「まあ、自分の土地にない物を把握し対処を考えるっていうのは大変ですからね」

「シェーラのフォローはありがたいが、ラビリスの言う通り今まで気付かなんだったとは確かに不覚じゃな」

「そうですね。まあ、これまでずっとハイーン皇国側への侵攻に成功してきましたし、ダンジョンに出会わないことを不思議と思う理由もありませんでしたので、そこらへんで油断が出たのかと。ともあれ、今後侵攻してゆけばハイーン皇国はダンジョンから魔物を引っ張り出してきて、戦力に加える可能性があるということですね。」


なるほど。今までうまく行き過ぎた弊害というやつか。

ま、ウィードと知りおぅたは僥倖じゃったし、その危険に今気が付いたのじゃからよしとしよう。

作戦部の連中には少し気を引き締めるように言ぅておかねばな。


「……ふむ。そうか、この先下手をすればワイバーン隊が敵にも存在する可能性があるという事になるな。と、まて。そういえば、ダンジョンは間引きをしなければ魔物が溢れ出てくるといぅておったな?」

「はい。言いましたが? あ、そういう事ですか。これはユキ様から説明した魔物の大氾濫なのではないかと?」

「うむ。そうじゃ。しかし、そのような話は聞かんぞ? いっかな東側のこととはいえ、さすがに魔物が大量に現れて国に害をなしたともならばこちら側にも伝わってきそうじゃが?」

「……私もその手の話は聞いたことがありませんね。ラビリス殿。ダンジョンが起点の大氾濫というのは起こりえるのでしょうか?」


ワシとショーウの質問に、ラビリスはちょっとだけ悩むような顔をして……。


「……ええ。ありえるわ。というより、ダンジョン起点の大氾濫の方が自然発生の物より多いわね。何せダンジョンマスターという存在が人為的に起こせるものだから」


その答えは何ともそら恐ろしい未来を突き付けるものじゃった。


「……ラビリス。大至急ユキ殿と面会はできぬか? 今後のハイーン皇国侵攻について急ぎ相談がしたい」

「ええ。わかったわ。でも、誤解しないでほしいのだけれど、この話、故意に黙っていたわけではないわ」

「それはよぅわかっておる。こちらの無知故に生じる敵対を避けたかったのであろう? じゃが、今となってはそれは絶対ありえん。そして、是非とも力を貸してほしい」


ワシは我が存在の全てをかけて断言する。

ここからの戦い。

一歩、いや、半歩間違えばとんでもないことになる。



知ってはいたけど考えには入れてなかったってことは実は多い。

問題だと思っていないことが実は問題だったというやつね。

自分の知識にないものだから、無視してしまいがち。

それは誰でもある。

今回はそんなお話です。

そしてそれを踏まえて、どんな作戦になるのか!


あ、あと地図みないとわかんない!ってもっともな意見がありますが……。

雪だるまがその地図を暗記してしっかり作戦が立てられる自信がないので、文面で地図を想像してください!

ごめんね!

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