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第1015堀:さてどこから手を付けよう

さてどこから手を付けよう



Side:ユキ



「……なぜ今まで呼び出せるはずの魔物を戦力として投入してこなかったかを」


とりあえず、俺はそう問いかけてみた。

なにせ、この状態は本当によくわからんからな。

霧華やスティーブたちにダンジョンアタックさせるのは最終手段だ。

まずは、予測できる事柄はすべて出し切る。

それもしないうちに、敵地へ忍び込めば手痛い竹箆返しを喰らうことになるだろう。

で、俺の問いかけにダンジョンマスターたちは……。


「えーと、義兄さん。考える前提としてルナ様から何か情報をもらっていないのですか?」

「ああ。そうだ。ルナ様なら存命しているダンジョンマスターの情報を持っているはずだが? そこはどうなんだい?」


おお、意外と、いや当然か。

情報が少なすぎるのに無理やり回答を決めるのは馬鹿だ。

多少なりとも集められそうな情報を求めるのは当然。

ライエ君もサクリさんも、そこはちゃんと押さえているな。

今までダンジョンマスターとしてやってきただけはある。


「残念ながら、全員連絡がつかないそうだ。ま、一応名簿だけはもらったが。マジで名前だけだ。どこの生まれとか立場とかは一切なし。情報っていうにもあまりにお粗末だな」


しかも今現在の話ならともかく、昔のことだからな。

……名前だけで過去の人物を調べようとなるともう、それだけで大変だ。

それも歴史に名が残っているかすら不明ときたもんだ。


「……それは、難しいな」

「だねー。その情報から調べ上げるのはほぼ不可能に近いね。だけど、一応名簿の人物について当たってはみるんだろう?」

「まあな。可能性がゼロじゃないというレベルで調べてみる価値はある。まぁ、そのために割く人は最小限だ」


アーウィン、コメットも俺からもたらされたその情報に苦虫を嚙み潰したような表情をする。

人材も時間も資金も無限にあるわけじゃない。

だからどうしても手の回らないところが出てくる。


「当然だな。重要度が高くもないところに人は配置できない。だが、ユキ君。今回の件、情報が足りなさすぎる。確かに、ハイーン皇国は今まで負けてきたが、これからも負け続けるとは限らない。さらにダンジョンがある区画に踏み込む。下手をすれば大損害では済まないな」


アーウィンのいう通りこれからダンジョンが配備されている国に侵入するわけだ。

俺がダンジョンマスターなら一気に食らいつくす。


「ですが、この情報を見ると、今までハイーン皇国側はなぜか大規模な魔物の投入をしてこなかった。精々、普通の傭兵団で使うような捨て駒ゴブリン程度です」

「……全く意味が分かりませんね。これまで状況を考えるに、このダンジョンマスターは国土の半分を奪われるまで唯々傍観していたことになります」


で、サクリやライエの言う通り、ズラブル大帝国をつぶせるだけの戦力を保持しているなら、そもそもこんな状況になっていないはずだ。


「そう。俺たちもそこで行き詰っている。だからこそこうして、みんなに来てもらったわけだ。この状況を見てハイーンにいるダンジョンマスターはどうなっているか想像できるか?」


俺がこのメンバーを集めたのは、ダンジョンマスターとしてハイーン皇国側にダンジョンを作った場合、どうしたらこんな状況になるのか? っていうのを聞きたかったわけだ。


「……うーん。こんな状況になっても動いてないのであれば、そもそもダンジョンマスターは今回の戦争に関わっていないのでは? つまり、ハイーン皇国とダンジョンマスターは関係はないと僕は思います」


真っ先に俺の質問に答えてくれたのはライエ君だ。

確かにな。関わってるにしてはあまりに動いてなさすぎるんだよな。


「ライエ君の意見も可能性の一つとして理解できますが、西側はDPの問題もありましたし、それが解除されたのはつい最近。つまり、相手は西側での活動は不利と考え、DPの消耗を警戒して動いていなかったという可能性もありますね」


で、サクリは西側の特殊な状態があったために、自らの勢力圏内に踏み込んでくるのを待っているという可能性を提示してきた。

これも俺たちが会議で検討したな。


「どちらの話も納得できる理由とはなる。だが、いずれも確定ではない。あくまで私たちの憶測だ。ユキ君、この場合どちらだろうかと予測を絞るより、かの地のダンジョンマスターが実際何を狙っているかを調べるために行動を起こすべきだと私は思う」

「私もアーウィンと同じだね。ここでいくらあーだこーだといってもそもそも決定打となる情報が無いんだから結論は出ない。何事も現場だよ現場。だから……あーなるほど、ユキはこの判断を一緒にしたかったってことか」


アーウィンが俺たちが考えたと同じ結論にたどり着き、そこからコメットがなぜ俺がここにみんなを呼んだのか、その本当の意図に気が付いた。


「あぁ、そうだ。まあ、嫁さんたちにも検討はしてもらうがな。ダンジョンマスターのみんな、みんななら、どこから調べる?」

「なるほど。今までのことを踏まえて、この点在しているダンジョンのどれから調べるかという事ですね」

「そういうことか。うーん、確かにこれはユキ君の周りの意見は当然として、やっぱり僕たちの意見も必要だろうね」

「……全部を悠々と調べるだけの猶予もないだろう」

「ま、当然だね。相手がなにも準備していないことを前提に動くなんてただの馬鹿がやることだよ」


と、コメットがそういうと、嫁さんたちも含め会議に参加している全員がうなずく。


「アーウィンさんやコメットの言うように、この点在するダンジョンを全部調べてみる時間もないし、相手がこちらの動きを察知する可能性も十分にある。なにより、近々にズラブル大帝国が進軍する可能性もあるわけだ。それらを踏まえると、一つか二つ、どんなに多くても五つってところだろうな」


俺は数に条件を付けくわえる。

存在を確認しているダンジョンは大小含めて約60。

ってことは、まだ確認していないものも含めるともっとあるという事だ。


「……本当に厄介ね。この60以上の中から当たりに目星をつけて、情報を集めないといけないわけね」


セラリアもあまりの難題に苦虫でも噛み潰したかのような顔をしている。

まぁ、それだけ判断能力が上がっているということだが、自分のできる限界を知っているということでもある。

できないことってのを知っての歯痒い思いというもあるだろう。

と、そんなセラリアの成長に思いを馳せていると、タイゾウさんがおもむろに。


「となれば、まず一つ目がハイーン皇国内のダンジョン。そして、二つ目はズラブル大帝国が進軍するルート。あとは、あてずっぽうかあえて遠方のダンジョンを調べて、本命との違いを比べる。というのを提案しよう」


なるほど。

流石はタイゾウさん。

俺はタイゾウさんの意図を理解したつもりだが、万一にも勘違いがあってはいけないので詳細を聞いておこう。


「タイゾウさん、理由を教えていただけますか?」

「ああ。かまわない」


そういって立ち上がったタイゾウさんは、分かりやすくホワイトボードに書きながら説明をしてくれる。


調査対象ダンジョン

・ハイーン皇国内ダンジョン

・ズラブル大帝国が進軍するルートのダンジョン

・地方のダンジョン


「まず、最初に言ったハイーン皇国内のダンジョンを調査する理由だが、ダンジョンマスターが積極的に動いていないとはいえハイーン皇国の勢力範囲に本拠となるダンジョンを置いている可能性は非常に高い。なぜならハイーン皇国が盟主であり、地理的にどこの国とも容易に連携がとれるからだ。ここを調べないという選択肢はないだろう。ハイーン皇国内部のどのダンジョンを調べるかはまた別で話し合う必要があると思う」


ま、当然だな。

他のみんなもここまでの説明は皆当然とばかりにタイゾウさんの説明に頷いている。


「次にズラブル大帝国が進軍するルートのダンジョンだが、こちらは敵の情報を得るという意味よりも、ズラブル大帝国軍を守るという意味合いが強い。彼らが大損害を受けた場合、ハイーン皇国が反抗に転じるだろう。そうなれば秘密裏とはいえ同盟を結ぶことを検討中のその大国を見捨てるわけにもいかない。つまりウィードの参戦が予想される。そういう二次、三次被害を減らすためにも進軍ルートのダンジョンは攻略して掌握しておく必要がある。ついでに情報も手に入ればありがたい話だが」


これも納得の説明だ。

俺たちが調べている間にズラブル大帝国が敗北とか本末転倒だ。

守るべきはズラブル大帝国の国体維持。

瓦解してもらっては困る。

と、思っているとタイキ君が手を挙げる。


「タイゾウさん。質問いいですか?」

「なんだい。言ってみるといい」

「はい。ありがとうございます。では、まずズラブル大帝国が進軍ルートを教えてくれるかは、まあ教えてもらえると思います。ですが、進軍ルートにいくつもダンジョンがある場合、またはダンジョンがない場合はどうするんですか? ダンジョンっていうのは資料によれば冒険者が通うところです。東西の冒険者ギルド争いもありますし、そのトラブルを避けるためにもよけて進軍する可能性。または逆にダンジョンがある土地を目指して進軍する可能性もあるのでは?」

「「「むむむ……」」」


おぉ、タイキ君の質問は鋭いな。

ほとんどのメンバーが考え込んでしまった。

確かに、わざとダンジョンを避ける可能性もあれば突っ込む可能性もある。

どっちがズラブル大帝国にとって利があるかってことだな。


「そこは状況によりけりだな。最悪の想定としてズラブル大帝国があえてダンジョンの多いところに侵攻した場合。全滅を避けるにはすべてのダンジョンを先んじて制圧する必要があるだろう。それか早期にわざとズラブル大帝国を敗走させて、ダンジョンの脅威を身をもって知ってもらうかだ」

「どちらとも負担が大きいわね。敵の戦力が把握できてないのにダンジョンアタックも、撤退支援もしたくないわ」


セラリアの言う通りだな。

どっちの選択肢も採りたくない。

そんなことでこちらの損耗率が高いなんて勘弁願いたい。


「そこはこれからの頑張り次第になるな。この第二の案はズラブル大帝国が進軍した場合の話だ。それまでに敵の急所、あるいはダンジョンマスターを押さえればいいだけの話だ。まあ、言うのは簡単だがやるのは難しいだろう。だからこそ、進軍先のダンジョンに攻略部隊を置いておかなければいざという時に身動きが取れなくなる」

「さっすがタイゾウさん。動かせる戦力を残しておくって話か」

「そうだ。ダンジョンの調査はするが、別にそういう押さえが必要と言う提案だ」


これもまた理路整然とした文句のつけどころのない提案だ。

いざという時の攻略部隊だから主力をそろえて一気に行きたいな……。

おっと、まだ全部の説明が終わったわけじゃないな。


「そして、最後の地方のダンジョンだが。こちらは本命と決めたハイーン皇国内のダンジョンとの違いを見極めるものだ。同様のつくり、魔物の強さ、物資の質なら、潤沢にDPがあると判断できるだろう。更に道中の情報収集も兼ねることで、本命の位置が分かるかもしれない」


と説明を終え、タイゾウさんはこちらに振り返り。


「以上が私の提案です。皆様も意見がありましたらどんどんお願いいたします」


よし、タイゾウさんのおかげで大まかな方針は決まったな。

誰からも否定的な意見は出てこない。

あとは調整しつつ、どこに目標を定めるかだ。



やるべきことは沢山。

みんなならどこから片付けていきますか?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 実際にはユキたちは地図とダンジョンの場所を見ながら話してる。 でも読者には具体的なスタートもゴールも支配域もダンジョンそれぞれの場所もわからないのにどーしろと、って感じです。 [一言]…
[一言] こっそりやるならそうだが、 強襲するならダンジョン化で相手の支配地域を探った方が効率が良い様な。
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