第1014堀:集う迷宮の主たち
集う迷宮の主たち
Side:ミリー
「……とんでもない爆弾が出てきたものね。まぁ、予測していたことではあるけど」
「「「……」」」
セラリアの言葉にも、皆黙ったまま。
だって私たちも同じ思いだから。
それに今回は……。
「ダンジョンマスターがいる可能性ありか。ま、当然ではあるな。だからこそ、わざわざサクリも共に呼んだのか」
「ノーブルも心配性だな。僕は義手義足ではあるけど、傷は御神酒のおかげですっかり治ったんだよ」
「ふん。意地を張って義手義足のままで回復をと願った者が心配するなとは片腹痛い」
そういって苦笑いしているのは、エクス王国の国王ノーブルとそのダンジョンマスターであるサクリさん。
「心配なのはわかります。サクリさん、本当に大丈夫ですか?」
「ええ。最近、すこぶる調子はいいですよ。ライエ君」
そして、デリーユの弟であるライエ君。
モーブさんとパーティー組んでいる槍のライヤさんとちょっと名前が似ているのよねー。
ま、容姿はただのショタだけど。
と、見た目は別として、彼もまたダンジョンマスターで、ガルツにあるダンジョンの一つを統治している。
とはいえ、ルナが解決してほしかった魔力枯渇問題にはほぼ貢献できてなかったから評価は低いのよね。
などと思っていると、ドタバタと遅れて会議室に入ってきた人がいる。
「ごめんごめん。ブルーホールの情報処理に時間を取られててさー」
そんな言い訳をしながら入ってきたのがコメット。
彼女は最近ではウィードの魔力研究の第一人者みたいな立場になっているけれど、イフ大陸のもう一人の元ダンジョンマスターだ。
そんな人なので、この場に呼ばれても何も不思議じゃないわね。
というか、技術要員として私たちの会議にはだいたいいつも参加しているから、出張っているのは当然で、むしろ最初からいるダンジョンマスターたちがここにいるのが珍しいのよね。
「おー、なんかめったに見ない顔が並んでいるね。ライエにサクリ、すげー、アーウィンもいるじゃん。おひさー」
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶり。コメット」
「ご無沙汰しています」
そういって、最後に丁寧に頭を下げてあいさつしたのが、コメットが驚いていたアーウィンさん。
ランクスでのトラブルの時に、私たちとは全く違う目的で動いていたダンジョンマスター。
でも、剣、いや刀の腕の方がすごいのよね。
「あら? コメットは久々なわけ?」
「そりゃー、アーウィンってロガリ大陸って言っても、ユキが管理している以外のダンジョン担当だろう? こっちに顔を出すのはひさびさなんじゃん」
「あー……そういうことね」
「なんだいその反応? なんだ、セラリアは結構会ってるのかい?」
そう不思議そうに首をかしげていると、ユキさんが苦笑いしながら種を明かす。
「コメット。アーウィンの武器はなんだ?」
「ぶき? ブキ? 武器! ああ! 刀か!」
そのヒントでスッと出てこないのかなーと半ばあきれつつ、私たちもセラリアに苦笑いをしながら視線を向け……。
「よく訓練しているものねー」
「次こそ絶対剣技で勝つわ!」
私は練習としか言わなかったのに、眦を決してセラリアは目標を言う。
とはいえ……。
「レベルで押し切るならともかく。技量は無理じゃろう。セラリアの実力はまだ、3位のタイキとタイじゃろうに」
「あうっ!」
珍しいことに、セラリアが胸を押さえている。
しかもデリーユの言葉によって。
ま、事実だものね。
「あははー。いやぁ、剣術勝負ではセラリアが負けていましたか。タイキ君はお強いんですねー」
「これでも一応勇者ですからね。レベルとかを含めると負けますけど、純粋な剣術だけならまだまだ負けませんよ。これでも10年以上やってきたんですから」
ラッツのいう通り、勇者タイキ君は実際強い。
私たちには到底勝てないとか口では言っているけど、それはあくまで色々含めた一対一のレベルによるごり押しの時。
恐らく実戦となれば、正直負けると思う。
私たちも地球の戦いかたとかは学んでるけど、それはタイキ君だって同じだし、ユキさんにもよく教えてもらっている。
それに、何と言っても元々一人だった時から勇者として頑張ってきているから、底力が違う。
その証拠が、未だにセラリアがタイキ君に勝てないってこと。
タイキ君はさっき経験の差があるって言ったけど、それだったらセラリアだって、今までこの世界で戦乙女と称される程の戦士でそれなりに修羅場だって経験している。
それでも剣術って限定した時まだまだ追い抜けないというのは、根本的なところでそれだけ差があるということ。
……日本の剣術にはそれだけ長い積み重ねの歴史があるという意味だ。
「あはは。剣の話はそれはそれで面白いからいいんですが。で、ユキ殿、今日は剣術談義のために集まったでよかったのかい?」
「あ、いえ。うちの嫁さんが迷惑かけております。ということで、コメットはまず書類に目を通してくれ。その間に話を進める」
「りょうかーい」
っと、そうだった。
これだけのメンバーで私たちが今日集まったのは、なんて言ってもこの書類の内容のためだ。
決して剣術の話のために集まったわけじゃないわ。
「さて、コメット以外のみんなには既に書類に目を通してもらったと思うが、内容はいたって簡単だ。ズラブル大帝国と戦争を繰り広げているハイーン皇国の版図に稼働中のダンジョンの存在が確認された。その事実を元に、ハイーン皇国を今後攻めることになるズラブル大帝国への支援なども含めてどうするかの意見が欲しい。今日、こうしてダンジョンマスターのメンバーにもわざわざ集まってもらったのは、特にダンジョンマスターとしての意見が欲しいからというわけだ」
「趣旨はわかったけど。ユキさん、今までの君なら僕たちなんか呼ばずに対処してたことがらじゃないかい?」
「ですね。新大陸の時も、イフ大陸の時も、ロガリ大陸の……時は全く戦力不足でしたけど、イフ大陸の時以降は少なくとも僕だって手伝えたはずです。違いますか兄さん?」
そう指摘するのは、アーウィンさんとライエ君。
どちらともロガリ大陸のダンジョンマスターだ。
「そうですね。通常であれば、と注釈が付きます。またライエの言う通り、イフ大陸の時は単なる未知の新天地ということで、ロガリ大陸の方を待機の嫁さんとライエに任せていた。俺たちが新大陸に専念ってことでな。カグラの時も同じだな。何と言っても5千倍のDP消費量のところにその原因も不明なままアーウィンたちを送り込むわけにもいかなかった。というか、あの時は丁度大陸間交流が動き始めたから、各大陸のダンジョンマスターたちにはその監視と運営を任せていたからな」
「あー、確かにそうだね。今も忙しい」
「だねー。ま、私はもっぱら研究なんだけどねー。で、改めて私たちダンジョンマスターを集めたって理由を聞こうじゃないか。資料も読み終わったところだし」
サクリさんの応えに合わせるようにコメットは資料を読み終えたようで、話を進めろと促してくる。
流石こういう時天才は話が早いわね。
「わかった。今回わざわざダンジョンマスターのみんなに集まってもらった理由は、ハイーン皇国側でダンジョンを展開しているダンジョンマスターの意図を推測したいんだ。既に、調査および接触の試みとして霧華たちが動いているが、事前にある程度考えておきたいからな。下手をすると、ダンジョンを使った大規模戦争にもなりかねない。それは何としても避けたい」
「そうだね。小競り合い程度ならいざ知らず、大戦争なんてバカをやっている暇はない。仕事が増えるだけだ」
「だねー。私にもあの土地で大規模戦争で何が起こるか想像もつかないからね。不確定要素はなるべく潰すに限るよ」
そうね。戦争になんかになれば仕事が大幅に増えるのは目に見えているし、大陸間交流同盟に入ってくれたズラブル大帝国がダメージを受けるのはこちらとしては痛手だし、私情だけどやっぱりショーウたちに傷ついてほしくない。
「それでだ。皆の知恵を貸してほしいところだが、資料に書いてあるこのMAPはわかるな」
ユキさんがそういうと、霧華がスッとプロジェクターを起動してズラブル大帝国とハイーン皇国の写真を使った地図が映し出される。
「おー。って、たった今気が付いたけど、なんでこんな詳細地図があるわけ?」
「ああ、ズラブル大帝国では空母を運用したからな。高高度偵察機も投入したわけだ。一度領空侵犯したからな。その結果空の勢力が動き出す可能性もあったから、定期的にこの土地とカグラたちの方の土地の偵察はやっている。その時の産物だな」
……なるほど。ユキさんが空母から航空機を出したんだから、ジャーナ男爵領の空港施設も使ってみないとっていっていたのはこれだったわけね。
高高度偵察機って空母で運用は難しいって言ってたから、まず間違いないでしょう。
「ふーん。なるほどねー」
「えーと、飛行機に関しては私はさっぱりですが……。こういう詳細な地図があるのはありがたいですね」
「はい。で、こちらの地図を見てなにを?」
「あー。コメットとの話で脱線したな。資料に書いてあったように、西側のズラブル、東側のハイーンという感じで、今現在戦いを繰り広げている」
ユキさんはそう言いながらパソコンに触ると、勢力圏を表すために地図が青色と赤色で分けられる。
これが今現在の勢力図。
「さらに、霧華が発見、または情報収集によってわかったダンジョンの位置がこれだ」
地図にはさらにダンジョンを表す黄色の円が映し出されたんだけど、ホントに東側のみに点在している。
へぇー、これがハイレンが張った大結界の影響ね。
「まあ、この資料を読めば当然ですね」
「はい。実際に5千倍だったかはわかりませんが、よほどのことが無い限りわざわざ短期間で維持できなくなるような場所にダンジョンを展開する理由はありませんからね」
「で、これからが問題というわけだな。ズラブル大帝国はこれから未知のダンジョン支配下のエリアに踏み込んで戦うことになると」
「だねー。ただダンジョンがあるだけならまぁ問題ないんだけど、戦争の道具としてダンジョンを利用されれば、ズラブル大帝国はひとたまりもなくひどい損害を受けるだろうねー」
ダンジョンマスターたちが口々にいう言葉は、ユキさんが聞かせてくれた話と一緒だ。
いやぁ、私たちだって家賃が5千倍なんてなったら移動するし。
なにより、これからズラブル大帝国がハイーン皇国に踏み込んだ時、その地のダンジョンマスターが敵として立ちはだかるなら、ひどい損害を受けるというのはこの場にいる全員がしっかりわかっている。
それだけ、ダンジョンはものすごいものなのだ。
……でも大半のダンジョンマスターって、単に魔物を生み出すだけなのよね。
まあ、それだけでも強力な兵隊をDPの限り即時生み出せるから……あれ?
私はそこまで考えてやっと、ある不思議なことに気が付いた。
「ねえ、ラッツ」
「なんですか?」
「ダンジョンマスターって魔物を戦力に使うことが多いわよね?」
「そうですね。お兄さんしかり、ここにいるダンジョンマスターさんたちは皆、魔物を主戦力として使っていますね。人はどうしても育てるのにも補給にも時間が……ああ!」
ラッツも私の言いたいことに気が付いたようだ。
そして、それはダンジョンマスターのみんなも。
「それで確認ですが、これまでの戦いに魔物は投入されていたのですか?」
「いや、それがなぜか全く。だからこそ、わざわざ俺が知りうる限りのダンジョンマスターのみんなに忙しい中集まってもらったんだ。このよくわからん状況をどう説明する? ここまで勢力圏を奪われて、その敵は実際に魔物を軍として使用しているのまで見て、それでもなぜ今まで呼び出せるはずの魔物を戦力として投入してこなかったかを?」
そうか、ユキさんはこれこそが聞きたかったんだ。
ハイーン皇国の不可解なダンジョンの状態を調べるために、今までのダンジョンマスターたちを集めた会議が始まる。
そこで見えてくる答えとは?