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落とし穴番外:女神が新たる道へと踏み出す

女神が新たなる道へと踏み出す



Side:コメット



ワァァァァァ……。


そんな大歓声が、スタジアムに轟きわたる。

そんな中、私の心の表層は水鏡の如くとても穏やかだ。


いや、違う。


私の心の奥深くには今にも燃え上がりそうな魂がある。

その魂と連動するように、心臓がバクバク バクバクとその熱き魂の雄叫びを訴えかけているような錯覚に陥る。

今すぐにでもこの感情を爆発させたい。

でも、私は抑えている。

そう、必死に抑えようとして、そして、周りの歓声に驚いて、全てが対消滅してプラスマイナスゼロって感じで心が落ち着いているんだと思う。


いや違う、これは私の、私の心の許容値を軽く超えてしまったからオーバーフローして何も感じなくなっているのかもしれない。

そんな風に自分の分析をしていると……。


「チャレンジャーコメット。どうぞスタジアムの中央へ」


と係員に呼ばれ、


「チャンピオンが待っています」


というその一言にやっと私が今なぜここにいるかを思い出した。


「わかったよ。今行く」


私はそう返事をし、堂々と一歩踏み出す。


ワァァァァ……!!


今までですら割れんばかりだった大歓声がさらに大きくなる。

それも当然。

なにせ今から始まるのは……。


『トーナメントを勝ち抜き、そして数多のトラブルを見事解決して見せたこの人の戦いを全世界が今や遅しと待ち望んでいた! さぁ、チャレンジャーコメットの入場だ!』


ワァァァァァ……!!


大歓声が私の体をビリビリと打ちつけてくる。

だが、その感覚に私はさらに興奮を覚えている。

なぜなら……。


私はたった今チャンピオンに挑むためにここにいるから。

腰につけている相棒たちにスッと視線を向ける。

外からは見えていないけれど、それでもわかる。


『僕たちは戦えるよ。共にチャンピオンを目指そう』


と、その意思がはっきり伝わってくる。

ここまで一緒に冒険してきた相棒たち。

私はその相棒たちと一緒にチャンピオンになるんだ。

決意を新たにして決戦の舞台へと足を踏み出す。


周りでは嵐のような歓声があがり、それが聞こえるはずなのになぜかものすごく遠くに感じる。

それを目の前のチャンピオンに全神経が集中しているだからだと思うけど、こんな感覚を客観的に見れるなんて不思議だ。


『さあチャレンジャーを迎え撃つのは、無敵のチャンピオンダン……』



バキッ!!



「あいたー!?」



いきなり頭を叩かれた。いや、殴られた!


「ちょ、今いいところなのに!!」


と文句を言いながら振り返ったそこには、エプロン姿のヒフィーが仁王立ちしていた。

いつものエロい神聖女の服ではなく、いかにもどこにでもいる一般家庭の主婦らしいエプロン姿だ。

けっ、新婚さんがそんなに偉いか!


「声に出てるわよ」

「ふん。幸せ者なんかにはこの私の気持ちはわからないね。というか、今いいところなんだよ。邪魔しないでよね」


そう、私は今、長い長い旅路の果てにいにしえからの友たち(前作品から引っ張ってきたエターナルフレンド)と一緒にこのガラ○地方のチャンピオンに挑むのだ!

どう考えても完封間違いなしだけどね!

ということで、気を取り直してさっそく続きをプレイしようと手を伸ばすと……。


「だから、今から晩御飯です! ゲームはやめなさい!」


そういってヒフィーが私のスオッチにその魔の手を伸ばす。


「うわぁー、お前は触るな―! この機械音痴が! データが消えっちまうだろう!」


もうホント、完全にマジ切れしてそう叫ぶ。

このヒフィー、神とか名乗ってるくせに、機械文明には全く適応できないただの原始人なのだ。

いきなりゲームの電源を落とすなんて日常茶飯事。挙句の果てにポツポツデータロストまでしやがる。

まあ、今朝のデータロストの時は実験を兼ねていただけなので被害は……その時の相棒たちの消滅だけで済んだ。

この鬼畜神によってもたらされた一番の悲劇は、長き旅路の果てやっと私の目の前に現れてくれた色違いを、喜びもつかの間、一瞬にしてそのまま消すという鬼の所業をやってのけたのだ。

だからこそ私は真剣に叫ぶ。

今お前が手に取っているのは私とともに長い長い旅をしてきた相棒たちが入っている本体だ。

万が一にも消されるなんてことがあった場合、たとえ友であろうとこの手にかけることも辞さない。

たかがゲーム、データだなどと言い放ちやがったら絶対許せる気がしない。


「そ、そんなに言わなくてもいいじゃない」


私のあまりの剣幕、そして何度も繰り返している自分の所業のむごさは自覚しているのか、多少はたじろぐヒフィー。

その瞬間、見事に手からゲームを取り落としやがった。


「どっせい!!」


裂帛の気合とともに、とっさに私は空中へと飛び出しなんとかキャッチに成功する。

私がキャッチに成功していなければ、下にあるのは水がたっぷり入ったコップ、間違いなくホールインワンしてぶっ壊れるか、コップを倒して水浸しになって壊れるか、慌てたヒフィーにより踏み割られるか、いずれにしろ我が相棒たちは一瞬にして消え去ったであろう。

そんな未来は絶対認められない。

だから私が身を挺して相棒たちを守る。


「まったくー。何がそんなに言わなくてもだい。そんなこと言いながら、早速落としているじゃないか」

「う……。で、でもぉ、ご飯ができたのにちっともこちらに来ないコメットが悪いんですよ!」

「わかったわかった。……だから、それ以上近寄るんじゃない」

「むむむ……」


これ以上抵抗をしようものなら僕は相棒たちの命を失うことになる。

そんなことになったら発狂する自信があるね。

だからしょうがない。おとなしくヒフィーの言うことに従うことにする。

というひと悶着があり、晩御飯の席に着いた時には、すでにタイゾウさんは静かに座っていて、こちらをまっていたようだ。


「いや、ごめんね。恥ずかしいものを見せたよ」

「気にしなくていいですよ。しかし、2人はいつ見ても仲がいいですな」

「タイゾウさん。先ほどのはどう見てもコメットが悪いと思いますが……」

「ははは。ヒフィーさんには難しいかもしれませんが、ゲームをしている者の気持ち、私はわかるのですよ。どうしても手を放したくない、集中していたいというその気持ちはよくわかります」


うんうん。

タイゾウさんはホントによくできた人だ。

ヒフィーにはもったいないねー。

ゲームもできて科学、魔術にも知識が深い。


「むうー」


で、その当人は旦那であるタイゾウさんの賛同を得られなかったのが悔しかったのか、むーと頬を膨らませている。


「はいはい。ヒフィー。そんなにむくれても仕方ないだろう。さ、ご飯食べようご飯。いただきまーす」

「そうですね。いただきます」


私とタイゾウさんはそう言って晩御飯を食べ始める。

今日は、野菜炒めに味噌汁、ごはん。

ん。安定しているねー。

技術であれば何でもこなす私だが、料理だけはどうしても苦手なんだよねー。


「あら? コメットどうかしましたか? 口に合いませんでしたか?」

「いや、ただ単にヒフィーは良く、いつもいつもこうして丁寧に料理ができるもんだなーと感心しただけだよ。私にはどうしてもすぐに食べてなくなってしまうものに、力を入れるのがねー」


そう、せっかく作ったものがなくなってしまうのがとても惜しい。

丹精込めて丁寧に作ったのだから少しでも長くって思うのは、物を作る私ならではなんだろうね。

そんな自分の欲求に思いを馳せていると、ヒフィーが私の問に答えてくれる。


「いつもの答えで申し訳ないですけど。私はおいしそうに食べてくれる人がいるから頑張れるのですよ。その中にもちろんタイゾウさん。そしてコメット、貴方だってふくまれていますよ」

「うん。ありがとう。あぁそうだったな。ベツ剣のみんなにもいつも料理作ってくれてたよねー」


素直な感謝の気持ちと共に、昔を懐かしく思い出す。

このヒフィーの返答は昔から変わらない。

誰かが笑顔になってくれるから料理を作る。

私にはまぶしい、純粋すぎる答えだ。

そしてそれは、私には果てしなく遠い道だ。


「しかし、コメット殿も料理ができないわけではないのだろう? 私も少しはできるしな」

「あー、それはまぁ。できないわけじゃないけどねー」


そうでなければ私はベツ剣のみんなに切り殺される前に野垂れ死んでいた。

さすがにヒフィーだって常時私の世話を焼いてくれたわけじゃないからね。

必要最低限、生きていけるだけのごはんなら作れる。ただそれだけだ。

栄養補給に必要なだけであって、料理そのものを楽しむっていうのはなかった。


「ま、私はどうあがいてもヒフィーみたいになれないってことだねー。当然だけど」

「料理のことだけで大げさな」

「ちっとも大げさじゃないよ。ほら、ヒフィーがゲームをミラクルでぶっ壊すのと一緒さ。人には向き不向きがあるのさ」

「はぁ。そんなことを言って。そんなんじゃ好きな人ができた時に手料理を食べさせることができませんよ?」

「私が好きな男に料理……ねー。あー……」


う~ダメだ。全然想像できない。

なぜかそういわれて浮かんできたのは、かいがいしくユキが私に料理をふるまってくれている光景だ。

まぁ、実際ヒフィーがいないときはたいてい晩御飯は向こうでお世話になるし。

リアルでの話だ。


「本当にだめねぇ」

「死体にいまさら彼氏とかいわれてもねー。ユキしか思いつかないや」

「はは。確かにユキ君ならコメット君でもサラッと受け入れそうだな」

「流石にコメットはいらないでしょう。技術はともかく料理の一つすらできないんだから」

「む~。なんか腹立ってきた。よし、そこまで言うなら料理の一つでも覚えてやろうじゃないか」

「へぇ。コメットが料理ね」


レシピ通りに作るなんて字が読めて理解ができれば誰だってできる。

料理というのは、科学や魔術と同じだ。

それが私にできないわけがない。


「あ、お湯を注いで3分で完成とか。そんなの料理として認めないわよ?」

「そんなことするかい。ただし、私もヒフィーに条件がある」

「え? なにを?」

「私に料理一つもできないってその料理をさせるんだから、ヒフィーも苦手なゲームを克服するべきじゃないかな?」

「……無理」

「無理じゃない! やれよ! 期間は一週間! ちゃんとクリアして公式バトルするからな!」

「えー!?」

「ははは。いいではないですか、これを機にゲームも覚えてみましょう、手伝いますよ。それに、コメット殿とももっと分かり合えるかもしれませんよ」

「えええー!?」


よし、タイゾウさんも味方につけた。

サポートは勝手にやってくれるだろう。

うん、当日に備えて私は主力を鍛え上げる!

ヒフィーをボコにしてやるんだからな!



ヒフィーもついにゲーム地獄の道へ。

なにより! ポケモンは追加ステージが17日からだ!

楽しみでしかたねーぜ!

コメットも大興奮!

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― 新着の感想 ―
[一言] チュートリアルが終わるまでに何回セーブデータが飛ぶんだろう。
[一言] 私もポケモンの新しい追加ステージが楽しみです!コメットをユキと結婚させて欲しいかも!
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