第1011堀:改めてダンジョンとは何か?
改めてダンジョンとは何か?
Side:ユキ
「あれ? なんかここって会議室みたいじゃない?」
「おう。会議室であってるぞ」
「あれれ? 私、ここに来ればデザートが食べられるって聞いてたんだけど?」
「で、晩飯は食べたのか?」
「ええ、もちろんよ。ソウタとエノルが作ってくれたわ。美味しかったわよ、グラタン!」
そうか、グラタンか。さぞかし美味しかったんだろうな。
ソウタさんはゾンビ系ではあるが味覚とかちゃんと生きているし、元は日本人。
ゾンビになって復活して、食欲も戻ってきたんで存分に地球の食事を楽しんでいる。
奥さんのエノルさんも同じ。そして自分で普段から料理を作っているので腕も悪くない。
なにせこの2人、ハイデンの食文化を押し上げた第一人者だからな。
と、そんなことはいいとして。
「そうか。ちゃんとデザートは出すが、とりあえず今は腹ごなしをしようか」
「腹ごなし? 別に時間をおかなくても私食べられるわよ?」
「俺たちも一緒に食べるからな。そこはちょっとだけ我慢してくれ」
「あー、そっか。うん、それならいいわよ」
最近ようやくハイレンの使い方ってのがわかってきた。
こいつは、全く無意識で厄介ごととその解決の両方をもたらすタイプだ。
だからどんなにトラブルを起こしたことを怒ったところで、本人にとっては全く意味不明のただの言いがかりでしかなく、かえってこっちに非協力的になってしまうだけ。
それを何とかしようとして、リリーシュやルルア、カグラの手を借りてってやってるうちに疲れ果て、時間がかかってしまう。
だから、何があったのか知りたければ、単にお話として聞き出してそのまま放り出す。という方法が一番いいだろというのが、ソウタさんとエノルさんと協議の果てに辿り着いた結論だ。
「で、皆でデザートを食べる前に軽い雑談なんだが。ほら、ハイレンが展開した魔物を根絶する結界があるだろう?」
「あ、うん。それがどうしたの?」
「いやな。俺たちが大山脈の向こうのズラブル大帝国に行っているのはしっているだろう?」
「それは知ってるけど? 実際、ユーピア皇帝ちゃんにもあったし。で。結界ってそんな遠くまで展開されてたの? 私的には大山脈からこっちってイメージだったんだけど?」
あぁ、やっぱり本人には自覚などは無い様だな。
しかしまあ、ものすごい範囲の大結界だ。
まぁ、地図も知識もまともにない状態でただダンジョンコアを介した結界の展開をしたわけだから、きちんとした範囲の指定などできるわけないか。
「いやな。いま、霧華からダンジョン発見の報告があってな」
「ダンジョン? ズラブル大帝国で? それならあって当然でしょう。そもそもあっちって結界がないんだし」
「違うんだよ。ズラブル大帝国がある大山脈近くでは一切ダンジョンが発見されなかったんだが、さらにその東側、つまりハイーン皇国の勢力圏でやっとダンジョンが発見されたんだ」
「はぁ? どういうこと?」
うん。やっぱりハイレンにはピンとこないようだ。
まあ、ハイレンはダンジョンコアを使って結界を作りはしたが、そもそもダンジョンマスターではなかったからな。そこら辺のことはわからんか。
「その報告を聞いた俺たちは、おそらくズラブル大帝国は結界外ではあるが、DPの消費率が高かったんじゃないかと思っている」
「DPの消費率? ああ、そういえば私が作った結界の中じゃそのDPっていうのがものすごく高かったんだっけ?」
「ああ、当初は5千倍。その上魔物の出現を阻害するために魔力の収束凝固ができないようになっている。もっとも今じゃ、ルナがジャミングを回避したついでにDP消費倍率だけは2倍程度に戻してもらったけどな」
「ふーん、そうなんだ。で、それってダンジョンがないのとなんか関係しているわけ?」
「家賃がすごく高くなったなら、安いところに引っ越すのは当然だろう?」
「あー、そういうことね。で、つまりは私の結界のせいでズラブル大帝国側だとダンジョンが維持できなくなったっていうこと? でも、遺跡とかはありそうなんだけど? それもなかったの?」
「あー、ダンジョンが遺跡として残るには条件が色々とあるんだ」
「条件?」
「ああ。まずダンジョンっていうのは、ダンジョンコアによって生成、維持されているのは知っているな?」
「えー、そうなの。全然知らないわ!」
……よーし落ち着け。
こいつは単に胸張って知らないといっているだけだ。
ごまかしたりせず、分からないことを分からないとはっきり言うのはいいことのはずだ。
「そうか、ハイレンは感覚で結界を張っていただけだし、別にダンジョンを運営していたわけじゃないもんな」
「うん、そう。私ってすごいから、アクエノキが持ってたコアを使って結界張っただけだし」
そうだったな。こいつは直感だけでダンジョンコアの制御を行って、しかもそのコアをぶっ壊してまで、大山脈が囲むカグラたちの住む大地を大結界で覆ったわけだ。
そこである問題をついでに思い出したが、今言うことでもないし、まずはダンジョンの説明だ。
「じゃ、ハイレンに説明するのと同時に、俺たちも復習だ。と、ハイレン、パフェができたみたいだ。食べながらでいいから聞いてくれ。お前さんの結界に関してついでに聞きたいことがあるからな」
「ええ。いいわよ。おいしいデザートを食べさせてもらうんだし、それぐらい協力するわ。ってイチゴパフェだー! わぁー、ありがとう霧華」
「いえ。ハイレン様にはわざわざ関係のない席にまで来ていただいているのです。おかわりもありますから、遠慮なくおっしゃってください」
「うん。うれしいわ! じゃ、頂きます!」
そういってハイレンは遠慮なくパフェにスプーンを突っ込んで食べ始める。
で、ハイレンだけ食べるのはあれなので、俺たちもお茶受けの代わりに、小さいお皿にのったアイスが用意されているのでそれを食べる。
うん。冷たくて甘くておいしい。あー、心が落ち着く。
「あれ? ユキたちはパフェ食べないの?」
「俺はさすがにそこまでは食べられないからな。この程度でいいさ」
「おいらも同じっす。でも会議中にアイスっていうのもなかなかいいっすね」
「ああ、意外性があっていい」
「あれだな。アイスって溶けてしまうから強制的に休まざるを得ないよな」
「だべな。休憩なしで頑張る部下もいるから、こういう食べ物で強制休みっていうのはいいかもしれないだべな」
おぉ、意外とスティーブたちにも人気のようだ。
まあ、話を聞けばなるほどって感じだよな。
時間がたてばダメになるものだとその場で食べないとって思うよな。
逆に今食べなくてもいいものだと、仕事を優先してしまって結局休むことなく続けてしてしまいがちだ。
問題点としては、仕入れの費用が上がるのと、アイスなどは溶けてしまうから、休み時間を統一しないといけないことだ。
いやーそうか、冷蔵庫に入れておけば保管は可能だから、そこらへんは考慮しなくていいか?
「で、食べながらでいいから続きだ。ダンジョンの運営条件な」
「あー、そういえば遺跡すらなかったって話よね? 痕跡すらないのっておかしくない?」
ハイレンはやっと思い出したようで、パフェからスプーンを取り出してくるくる回す。
「それが別におかしい話じゃないんだよ。まずダンジョンには家賃があるってのはさっき言ったな?」
「あ、うん。DPを使って維持しているのよね?」
「そうだ。DPつまりダンジョンポイントを使ってダンジョンを維持し運営していくわけだが、そのDPが払えなくなった場合どうなると思う?」
「え? どうなるって……う~ん、どうなるの?」
「ま、知らないよな。DPが支払えなくなった場合、ダンジョン攻略上絶対に必要な空間を除いて、物品などを含めてDPが支払える範囲になるまで勝手に財務整理、空間整理をされて、小さくなってゆくんだ」
「はー。なんでまたそんなことを?」
「ルナ曰く、ダンジョンマスターになっても引きこもって全く働かない奴がいたんで、そいつらに発破をかけるためにこういう経費制度を取り入れたんだってさ」
「あー、なるほど。ってあれ? その話が本当ならダンジョンの遺跡ってそもそも残らないんじゃないの?」
そのハイレンの指摘はまったくもって正しい疑問だ。
DPが払えないなら勝手に回収されてダンジョンが消滅する。
なら、なぜ遺跡としてダンジョンが残るのか?
その答えは……。
「一つ。まず、そもそも遺跡ではない。まだダンジョンとして実は稼働している。イフ大陸のやつはほとんどはこの状態だ」
「なるほど。コメットは生きてたし?ベツ剣のみんなが代わりに運営してたみたいだしね。で、一つってことはほかにも遺跡として残る理由があるわけ?」
「ある。というかダンジョンが遺跡として残っている理由はこれが一番かもしれない。簡単にいうとダンジョンが攻略されて、維持運営するコアが奪われること。そうなればそもそもDPの回収もしようもない。だからダンジョンがそのまま残るわけだ」
「なるほど。そういうことね。って、うわぁっ、パフェが溶けてる!?」
話に気を取られて匙が止まっていたが、ふとパフェの惨状に気付き、ハイレンは慌てて食べ始める。
ま、のんびりとあれだけ話してたらそりゃ溶け始めるだろうな。
「話はわかったっすけど。で、西側、ズラブル大帝国側にダンジョンの痕跡がないってのは、結局家賃の安い東側のハイーン皇国へと移っていったからってことっすか?」
「多分な。それにダンジョンをそのまま破棄するより、契約を解除すれば完全ではないがその分DPも戻ってくるからな。霧華もそう言いたかったんだろう?」
「はい。その通りです。ハイレン様が大結界を展開してからの年数を考えると、ダンジョンの話が西側に全く残っていないのも納得です。不必要な資料をそのまま残しておくというのは、いろいろな意味で余裕がある人のみができることですから。まあ、さすがに冒険者ギルドまで全く資料が残っていなかったのかは疑問ですが、私たちはズラブル大帝国側の冒険者ギルドへ魔物の資料ということで要求したので、既に消滅してしまったダンジョンの情報までは提出されなかったとみるべきでしょう。その証拠に、ズラブル大帝国の者でも東側へと出入りしている冒険者はダンジョンの存在を知っていました」
「となると、今後冒険者ギルドで調べ物をする時はダンジョンに出てくる魔物も一緒に調べたいってことで言えば、自然にダンジョンの情報が集まるかもしれないか」
「はい。そのように進めていただければありがたいです」
「わかった。冒険者ギルドの調べ物は今後そうしよう」
ということで冒険者ギルドでの調べもの方針が決まったのはいいが……。
「で、霧華の話から察するに、ハイーン皇国がある東側には……」
「当然、ダンジョンマスターがいるってことになるよな」
「「「……」」」
スラきちさんとジョンの指摘で全員が沈黙してしまうが、その間にハイレンはパフェを食べ終わったみたいで。
「ぷはー。いやぁ、美味しかったー。って、みんななんで沈黙しちゃってるの? ダンジョンマスターがいるって話なら、別に倒せばいいだけじゃない」
さも簡単で当たり前って感じのハイレンのその言葉に、全員がおぃっ、そんな簡単に倒せるかよって感じの顔になる。
「なによー。ユキが負けるわけないじゃない。カグラたちの自慢の旦那よ? ソウタの再来よ? 悪辣で神様だろうがただのキノコ扱いなんだから」
「評価してもらってうれしいが、アクエノキの時は敵がダンジョンを展開する前というか、ダンジョン機能を十全に使えなかったから簡単にやれたんだ。だが今回はすでに相手はダンジョンを展開。DPも今までの戦乱で散々集めて……」
「あー、そっかー。そうなると敵がわんさか出てきて大変か」
ハイレンがのんきに納得するその姿とは裏腹に、俺はものすごい違和感に思わず口ごもる。
それは霧華も同じだったようで……。
「主様。違和感がありましたので発言よろしいでしょうか?」
「ああ。俺も違和感があった。霧華が感じた違和感を教えてくれ」
こうしてダンジョン発見報告会議は思わぬ方向へと転がり始めるのだった。
ダンジョンの意味を改めて思い出して、今後はダンジョンとハイーン皇国に対して情報を集めていきます。
さてさて、どうなるのでしょうか?




