落とし穴番外:自然に立ち向かう
久々に一話完結の小話です。
最近こういうの減ったからね。
自然に立ち向かう
Side:ジョン
「よう。みんな揃ってるな」
俺がそういうと、既に机に座っていた3人がこちらを見る。
「おう。一体なんすか? いきなり集合って」
まずはスティーブ。
一応魔物軍大将ってことになってるが、最近はもっぱら大将の指示で特殊部隊の隊長扱いのスティーブ。
「おいこら。何か言いたいならはっきりいえっす」
さて、社畜ゴブリンはどうでもいいとして、次は……。
「しかも、わざわざ休みの日に」
そんな言葉だけでなく、体までが液状化してベチャーッと広がっていかにもダルそうにしているスラきちさん。
液状化してるのにソファーは一切濡れてないから不思議だよなぁ。
「別にいいでねえか。最近みんな忙しくて、こうしてそろって顔を合わせる機会も少ないんだべだから」
そう、スラきちさんをなだめてくれるのは我が魔物軍の良心であるミノちゃんだ。
「悪い悪い。休みの日じゃないと頼めないことなんだよ。埋め合わせで夜に焼肉おごるからさ。な?」
「む。焼肉っすか。でも程度の低いところは……」
「わかってる。上乗宴だ」
「ほう。最上級できたか。もちろん注文制限はなしだぞ?」
「わかってる。好きなだけ食べてよしだ!」
「おー、太っ腹じゃねぇべか。おらも食べていいべ?」
「もちろんだ。ミノちゃんも腹いっぱい食べてくれ」
「「「おー!!」」」
俺とて魔物軍を率いる将軍、それなりの給与はもらっている。
とは言え、スティーブはともかく、スラきちさんとミノちゃんの胃袋はでかいので、普通の人の数倍は食べる。
ホントのことを言えば、嫁さんに給与を全て渡して、お小遣いをちょっとだけもらっている俺からすればかなり厳しいわけだ。
だが、今は、今だけはどんな犠牲を払ってでも俺はやり通さなければならないんだ。
「で、そこまでしておいらたちに頼みたいことってなんすか?」
「おう。さっさと終わらせて、焼肉食べようぜ」
「んだ。4人でやればなんとかなるべ」
「それは、現地に移動してから説明する」
そういって俺は3人を連れてゲートを抜けた先には立派な畑が広がっている。
「あーなんだ、畑の収穫っすか?」
「いつものか。だったら部下つかえばいいだろうに」
「きっとそういうわけにもいかないだべよ」
などと、各々感想をもらしているが、そうじゃない。
そう、ただの収穫ならオーク部隊を投入している。
俺たちは屯田兵でもあるからな。
だが、わざわざこいつらを呼び寄せた理由は別にあるんだ。
と、俺たちの到着を待ちわびたかのように畑の中を駆け寄ってくる一人の男。
「おー!! 来たな我が友ジョン! おぉ、それにスティーブたちじゃないか!」
そういってこちらにやってきたのは……。
「あ、ファイデ様じゃないっすか」
そう、俺の親友である農耕神ファイデだ。
「で、状況はどうだ?」
「かなり厳しいね。私としたことが、イフ大陸にもこいつらがいることをすっかり忘れてたなんて……」
「仕方がない。なにせ最近はダンジョンでの栽培ばかりだったからな。ああいうことはまず起こりえない」
「……ありがとうジョン。でも、私はちゃんと知っていたのに後手に回ってしまった。それは許されない。だが、だがまだ間に合う。みんな力を貸してくれ」
頭まで下げてスティーブたちに懇願するファイデ。
俺もそれを黙ってみているほど薄情でもない。
「俺からも頼む。助けてくれ。この通りだ」
一緒に並んで頭を下げ、スティーブたちに助けを求める。
「えーと、助けるのはやぶさかじゃないっすけど……まず状況を説明するっす」
「だな。ファイデにジョンがそこまでして助けを求めるレベルってかなりまずいんじゃないか?」
「だべな。あんちゃんに連絡とったほうがいいんじゃ……」
「その暇はない。というか、却下されたんだ!」
「「「却下?」」」
そう、大将は即断で却下したのだ。
俺たちの畑を見捨てた!
「……大将のいうこともわかるが、それでも俺は見捨てられないんだ!」
「ああ、私もだ。だからたとえ少人数でも伝手が欲しかった」
「えーと、まだ内容ははっきりしないっすけど、大将が放棄を命じた場所を維持したいから手を貸せってことっすか?」
「そうだ」
「でも、ジョンたちは死守したいってことか。……あれ? 人命とかがかかわっているならユキの大将が放棄なんて言うはずないよな?」
「だべな。スラきちさんの言う通り、人の命が掛かってたら放棄を命じるとは思えないだ。しかもおらたちになんの通達もなく」
スティーブたちはお互いに顔を見つめて首をかしげている。
あ、そうか、肝心なことを言ってなかったな。
「ああ、すまない。人命の心配は全くない。今危機に瀕しているのは俺たちがイフ大陸の一角に作った畑だ」
「「「畑?」」」
「そうだ。私たちの敵は……蝗だ」
「「「蝗!?」」」
そう、俺たちが今から相対するのは、魔物よりもさらに恐ろしい作物の天敵であるイナゴ!
それを撃滅することだ。
「ちょーと、まつっす。蝗っていうと、作物を食い荒らす蝗害の事っすか?」
「100匹とかちょっと湧いてて、それを駆除って話か?」
「前者だ」
俺がそうきっぱり言うと、すかさずミノちゃんが口を開く。
「いや、前者って蝗害だべか!? そ、そりゃむちゃだべ。相手が虫じゃあ交渉も脅しも何も通用しないべ!」
「だから助けてくれ」
「……えーと、大将に頼んで畑をダンジョンスキルで隠してもらえればいいんじゃないっすか?」
「それは提案し、お願いもしたけど、その場合蝗の進行ルートが他の国に流れかねないから、俺たちの畑を囮にして焼きはらうって言われてな」
「合理的だな。蝗が来るところが分かっているならそこで包囲殲滅してしまえばいいだけだしな」
「だべな。で、ジョンたちはこうして何とかしようとしているだべか」
「そうだ。大将の意見はよくわかる。わかるから、逆らわないし、無茶も言っていない。だけど、だけど……」
「何もしないで手をこまねいて自分たちが丹精込めて育ててきた畑がただ無残に食い荒らされ、ましてやそれを焼き払うなんて暴挙をただ見ているなんてわけにはいかないんだ……」
俺とファイデは自分の気持ちを素直にいう。
「「だから頼む、助けてくれ」」
「「「……」」」
「無茶を言っているのは重々承知だ。だけど、俺にはこれしか思いつかなかった。兵士の動員は禁止。ダンジョンスキルによる対策もできないとなると、俺自身が個人的に動くしかないんだ」
「君たちにとっては価値のない物だというのは重々理解している。だが……」
俺とファイデはなんとか説得しなくてはと、神にもすがる思いで頼んでいたら。
「しゃーないっすねー。焼肉も食べたいっすから頑張るとしましょうか」
「依頼は受けた。任務を放棄するのは軍人のやることじゃないな」
「だべな。それに友達を助けるのに理由はいらねえべ。ま、助けられるかは疑問だべが」
「お前ら……」
「スティーブ君たち……」
「はいはい。感動する前に敵の情報と状況ちゃんと教えてくれっす」
「ああ。情報がないと動きようがないからな」
「今回はジョンとファイデさんが指揮官だべな。存分に使ってくれだよ」
ああ、俺はホントにいい友達に恵まれた。
「よし! わかった早速作戦を説明する!」
その友が共にいるんだ。
俺は絶対に蝗なんかに負けない!
「今回の防衛対象はこの地図のここからここまで、約4ヘクタール。そこを……」
「「「無理だから」」」
あれ? なぜかいきなり否定の言葉聞こえたぞ?
「まあ、人数が十分でないのはわかるけど、スティーブ君たちは凄腕だろう? 広域攻撃する方法があるはずだから、それを軸に作戦を立てていきたいと思う」
「凄腕っていわれてもなー。一方400メートルの畑を5人でどうするんだべか?」
「広域っていってるから、到達する前に何とかやればいいのか?」
「あー、なるほどっすねー。ということでいいっすか? ジョン」
「おう。それが現実的だしな。俺としては広域で燃やせばいいと思う。幸い周りには家屋もないしな」
そう、俺が考えた完璧な作戦、それはウィードが誇る魔物軍大将4名の総力による広域火炎放射で蝗を殲滅排除する!
俺たちが燃えることはないし、これ蝗どもは完全に燃やし尽くせる!
じゅー、じゅー……。
肉を焼くいい匂いが俺の鼻にも届いている。
しかし、真っ白に燃え尽きた俺の体はピクとも動いてくれない。
「で、炎の弾丸となった蝗たちがそのまま畑を襲い、食べ燃やし尽くしたと?」
「そうっすよー。いやー、恐ろしいっすね」
「燃えたままでなお進むんだな。まあ、すぐに燃え尽きるわけないしな」
「一瞬で燃やし尽くすレベルの火力ができないわけじゃないだべが、そこまでするとほかに燃え移ることを考えないといけないだべだからなー」
「そういうのもあるから俺は無理だって言ったんだけどな。まあ、蝗がジョンとファイデの畑でかなり減ったのはよかったか。しかし、億に届くかどうかの蝗の群れをよくもまあそこまでやったな。」
そう、結局俺たちは畑を、あの畑を守れなかった。
というか、俺は真に理解してなかったのだ。
蝗たちの数はものすごかった。
にわかに空が暗くなり、暴風雨のように無数に飛んできた。
あれを全部燃やすとか無理。
「ま、ジョン、ファイデ。元気出せ。ここの焼き肉は俺が出すから」
「大将……」
「ユキ殿……」
こうして俺とファイデの蝗との戦いは無残な敗北に終わったのだった。
いかがでしたでしょうか?
いかに精強なウィードのメンツとはいえ自然には勝てない。
そういう話です。
群生相が出てきたら蝗って注意な!




