第1000堀:あれからのウィード
あれからのウィード
Side:ユキ
「霧華」
「はっ。フィーリア姉様たちは無事にズラブル大帝国への説明を終え、同意が得られたため情報管理室の設営に取り掛かっています」
「そうか」
「予定通りね」
「ああ。よかった」
「あなたも心配しすぎなのよ」
そう言って苦笑いしているのはセラリアだ。
「そうですよー。お兄さん。フィーリアたちだって私たちと同じようにいろんな国を旅していろいろ経験してきたんですから、どうにでもなりますよー」
いつものようにノホホンとセラリアの意見に同意するラッツ。
そりゃその通りなんだが……。
「とはいえ、心配なものは心配なんだよ。これまでフィーリアは外交の代表の経験はなかったからな」
「まあ、その気持ちはよくわかりますわ」
「ん。サマンサも同意したように外交は面倒。とはいえ、私たちの中であの手の技術を得意とするのはフィーリアしかいない」
「だからといって、技術はわかるとはいえ面識の薄い僕がいくのもねー。ほかの仕事もあるし」
「ですね。エージルを出すのは、必要な研究に遅れがでるので絶対無理です」
そうなんだよ。
結局、ユーピア皇帝との関係というだけでなく、消去法でもフィーリアが行くのが一番俺たちの負担が少ない方法だったんだ。
メンバーの中で技術力があって手が空いているのがフィーリアだけだったんだよなー。
「大丈夫ですよ。フィーリアちゃんは鍛冶区のお仕事なんかでちゃんと交渉もやっていますから」
「ナールジアさんのいうとおりよ。そうは見えないかもしれないけど、フィーリアってしっかりしてるんだから」
「そうですよユキ先生。エノラと私の防具作ってって言ったら、どんなのを作ってほしいのか質問攻めにされたし」
「当然よ。要望を聞くのなんて基本じゃない。でもそれだけじゃない。私もミコスたちと同意見。ユキが育ててきたフィーリアは信頼できる。というか信頼している」
むう……。そこまでみんなに言われるとなんか俺だけがフィーリアのことを信頼していないって感じになっちまうよな。
はぁ、仕方ない。
「わかった。フィーリアたちにはデリーユ、ラビリス、シェーラもついている。だから任せて、俺たちは何かあればすぐに助けに行くようにすればいいか」
「そうよ。私たちは私たちでやることがたくさんあるしね。ようやく私もたまりにたまっていた書類が片付いたところだし。いい加減ウィードと、それに大陸間交流同盟の状況の方を再確認しましょうか」
「そうだな。概況の報告は受けていたとはいえ、俺たちがシーサイフォ王国、ズラブル大帝国に行っていた間のウィードの状況や各国の動向は気になっていたからな。というか、そもそもそのための会議だしな」
そう、今日俺たちウィードのメンバーが集まったのはこれまでの状況確認のためだ。
で、その一番最初にフィーリアたちの状況報告してもらったというだけ。
「では、まずウィードの状況からですね。セラリア、どうですか?」
エリスが仕切って会議を始める。
まあ、どう考えてもまずはウィードの状況だな。
「私のところに来ている書類を見る限り問題はないわね。ちゃんとウィードの運営はできていると判断しているわ。ま、気になるところをあえて挙げると居住区の拡張かしら?」
「居住区の拡張?」
「ええ。移住者がどんどん増えてきて、元々用意してあった居住区がそろそろいっぱいになりそうだから、拡張したいってことで報告書が来ているわ。予算の関係もあるからエリスの方にも行っているんじゃない?」
「はい。ティファニー代表から話は聞いています。ちなみに庁舎の方の住民登録がすでに10万人に届いています」
……意外と多いな。
ちょっと前まで5万人って所だったのに。
「そういえば今更だが、ウィードの住民登録というか、国籍の取得はどういう基準なんだ?」
「あれ? お兄さんは知りませんでしたっけ?」
「ラッツ、ユキさんは知らなくても仕方ないわよ。ユキさんが住人の移住に直接かかわったのって、ウィードが出来たホントに初期のころまでだけだし」
「あー、そういえばそうでしたね」
「そうそう。あの時俺はとにかく住人を集めてウィードの基盤を作ることに手を尽くしていたからな。奴隷とかで来てもらったらそのまま住民登録と国籍取得だったしな」
そうしないといつまでも独立国家としては認められなかったもんな。
とはいえ、大陸間交流が始まった今、無造作に国民を増やす、移住者を増やすわけにもいかない。
今言ったように容量には限界があるからだ。
まあ、国として落ち着いたあとは取りしきっているセラリアたちに任せていたんだが……。
「えーと……クアル、条件ってなんだっけ?」
「……陛下。はぁ、全くこれでウィードのトップなのですから……。いいでしょう。改めて説明いたします。ユキ様も知らないではすみませんので、これを機会に覚えておいてください」
「ああ、頼む。クアル」
「はい。といっても難しい話ではありません。住民登録及び国籍の取得は税金を納めるか否かです」
「ま、そりゃそうだな」
タダで国籍と住民登録をさせるわけにはいかない。
「幸い我が国はダンジョン国家です。人の出入りは地表に出ている町以外はゲート経由ですので完全に管理できております。もちろん、地表の町の方もダンジョンの管理下であり、出入口で確認をしていますので未確認の人はいないんですが」
そういえばそんなのあったな。
ウィードはダンジョンの中に国があるが、一応地表の方にも町が存在している。
ゲートを使えない近隣の町や村からの旅行客のためだな。
あとは、その町や村への行商のためだ。
「さて。とはいえ、国籍を得るための税金については最近は高めにしております。また、試験期間も長めにしております」
「試験期間?」
「はい。国籍と住民登録を希望している人たちには試験期間といって、税金をちゃんと払えるか、トラブルを起こさずウィードで生活できているかを確認しています。とはいえ、試験期間でも医療サービスの割引は使えますし、その他行政サービスも受けられますので、国籍取得者となんら変わりはありません。この試験期間を設けたのは、税金だけだと、単にお金を持っているだけのアホな連中がウィードが何たるかの常識も何もなく来るということがたびたびありましたので」
「ああ、そうだな。あるよな」
「はい。その試験をするところが職業訓練所ですね」
おお、なんか懐かしい施設の名前が出たな。
当初は来たばっかりの人たちをそこに住まわせて、環境に慣れさせてたよな。
「まあ、個人的な伝手がある方はそのままお店などにとなるわけですが、今は一般的な話としてですから。で、そこでやっていけると判定を受けた方はそのままウィードの国籍を得られるという仕組みなわけです。ユキ様の身近な方というならばクロッシュ君でしょうか」
「ああ。そっか、クロッシュ君は村から出てきたんだったな。そういえば、今何しているんだろうな?」
「今は普通に冒険者ギルドに出入りして仕事してもらっているわね」
「ですねー。クロッシュ君はまじめですから、今営業しているお店の監査とか、出入りしている業者のチェックとかもしていますよー」
「え? なんかすごい役職じゃね?」
「はい。立場的には私たち諜報部の下部組織ですね。まあ危険なことはさせていませんよ。かつてドレッサたちが情報を集めるためにやっていたゴミ集めのような部署です」
「ああ、そういう部署もあったな。そういえばその部署って……」
「それならポーニが引き継いで、子供たちの清掃班っていうのを作ってやってるよ」
「流石にドレッサたちがあったような事件に巻き込まれるようなことがあってはだめなので、危ないところは大人の清掃班がでていますけど」
ほほう。
そっちもそっちでいろいろ変わってるんだな。
「と、話がそれましたが、このようにして移住者を受け入れております。もちろん国籍を取得すれば家族を連れてくる人も結構いるので、さらに増加傾向ですね。そして、職業訓練所も当初作ったものだけでは足りず、増設となっております」
「まあ、人が増えればそれだけ人手がいりますからねー。スーパーラッツも居住区にまた支店を増やそうって話になってます。これは儲けというよりもウィードの住人のためですね」
「で、住民だけでなく、大陸間交流同盟もあって観光客も大幅に増えています。ということで、それだけ人が増えているってことですから、商業区の拡張も検討されていますね。私としてはウルトラスーパー銭湯の建設とアイス専門店を作るべきかと思います」
「えーと、ナールジアさんの意見もわかりますけど、それについては今ここでは決められないので、あとで申請してみてください」
「ええ。わかっていますとも! 今度こそアイスの天国を作ります!」
ナールジアさんの言う通り、それだけ人が増えているんだから、移住者だけでなく観光客も増えていて当然だろう。
……あ、ナールジアさんの野望については、管轄外だから許可が下りるかどうか俺はノーコメント。
「で、ポーニの話が出たけど、警察の方はどうだ? 観光客、移住者ともに増加しているんだろう? 犯罪とか治安の関係はどうだ?」
「そこは大変ですけど何とかなってます。だけど、さすがに先日あったズラブル大帝国の緊急訪問では人手が足らなかったですけど」
「そうだよー。要人護衛は新人でもなんでもとりあえず人を雇ってでいいってわけじゃないからねー。ポーニに散々怒られたよ」
「……それは仕方がない」
「あー、そうか。それは悪いことをしたな」
警察の方も通常業務の方は何とかなっても、要人護衛の方の手が足りないか。
まあ、そうだよな。
ここ一年で正式に大陸間交流同盟が始まって外交官の護衛はまだしも、同盟国の国主がふらっと普通のことのように来やがるからな。
その警護ができるレベルの職員の育成が追い付いていないか。
頭の痛いことだな。
「まあ、その時は近衛から人を出すしかないでしょうね」
「こちらも人手が足りているというわけではないのですが。ですが、要人の警護に慣れ、対応ができるとなると近衛の部隊になりますね。そういえば我が隊の増員の話はどうなっていますか?」
「私は許可をだしたわよ? クアルの方まであがってこないなら、審査に通ってないのでしょう?」
「……なるほど。そっちの問題ですか。まあ、簡単に近衛になれるわけもないんですが。うーん、ここまで人が足りないと審査要求内容を引き下げる必要がありそうですね」
近衛の方も急激な増員はできないと。
「魔物軍の方もさすがに無理だぞ。スティーブたちのレベルにはなかなかできるもんじゃないしな。というか、そもそも魔物軍の方は増員自体してないからな」
「下手に増やすと各国が警戒したり、魔物部隊派遣しろってうるさいものね」
セラリアの言う通り、うっかり魔物軍を増やしたりすると各国の動きが面倒なんだよな。
スティーブとかあちこちから引き抜き交渉されているって本人から聞くしな。
まあ、魔物を軍として運用できる利点を考えると当然の行動なんだが。
そこは何とかやっていくしかないだろう。
「で、あなた。こんな感じで問題は色々ありつつも、ウィードは致命的なミスもなく運営できているわ」
「みたいだな。後継者たちも育っているし、今後はもっと任せてみるとして……」
俺はそう言いつつ、今度はサマンサたちへ視線を向ける。
「さて、次は外交面だな」
大陸間交流同盟が始まって各国はどう動いているのか確認しないとな。
シーサイフォのトラブルからのウィードの経過報告。
みんな何とかやっているようです。
まあ、できるように準備はしていましたからね。
で、あとは外交、交易ですが……。
どうなっているのでしょうか?




