第959堀:女大皇望と皇帝
女大皇望と皇帝
Side:ショーウ・ローリズム
「まったく、なんてこと……」
見て廻れば廻るほど感じられるウィードの異常さに思わず私はそう呟きながら、部屋のソファーに腰をおろして、オーレリア港に来てからのことを思い返します。
常識外れの復興速度、そして何よりあの超大型船。
そのすべて鉄でできているという、あり得ない異常性。
オーレリア港に行けば、ウィードの狙いがわかると期待していましたが、かえってわからなくなりました。
あんな超大型船を作ることができる技術力。
そして、無線機や車といった連絡能力と陸でのあり得ない移動能力。
「彼らは飛び地を維持できない、だから我々の協力が必要なはず。という前提が脆くも崩れ去ってしまっている。あれだけの輸送能力を持つ船があるのだから、一度に数千人は容易く運べるはず」
……ではなぜ戦う道を選ばなかったのか?
いえ、もともと、ウィードの方々は戦うことは避けたかったのか。
これは間違いない。ウィードがこの地に来た原因はどう考えてもグスド王国がシーサイフォの使者と船を拿捕したことです。
いかに戦う力はあるといっても無暗に敵を増やしては息切れを起こしてしまいます。
そう、今のズラブル大帝国のように。
それを、ウィードは最初から理解している。
……つまり戦争思想ですら我々の先を行っていることになります。
「まったく、嫌な予想ばかりが頭をよぎりますね。とはいえ、幸いなことに敵同士ではないのです。表向きだけかもしれませんが、とりあえず頼もしい仲間がいることを喜びましょう。あとはあの、無線機と車が手に入ればいいのですが……」
それは即座には叶いそうにはないですね。
まぁ、当然といえば当然なのですが、どこの国でも戦略物資の輸出には王の裁可が必要です。
それを何とかするのが私の仕事です。
ですがひとまず、陛下に本日の報告をするべきですね。
無線機を与えられている私は、毎日夜には陛下への報告を義務とされているのです。
「陛下。聞こえますでしょうか?」
『うむ。聞こえておる。今日も早速、愉快な報告を聞こうではないか』
無線機から聞こえてくる陛下の声はとても楽しげだ。
どうやら、毎日私から突拍子もない報告を聞くのが楽しくてたまらないらしい。
『して、今日は何があった? 夜でも昼のように明るいランプ、音が記録できる魔道具、鉄の船、さてその次は。全く想像ができんな』
「残念ながら、今日は特に目新しいものはございませんでした」
『なんじゃつまらんのう』
「つまらなくて結構。では報告させていただきます。まず、本日をもってオーレリア港の被害状況を完全に把握いたしました。書類にまとめて、すでに送っていますので、到着次第ご確認ください」
『うむ』
仕事の話になったとたん、先ほどのふざけた感じの声から、凛々しい声に切り替わる。
いつもこの調子であれば心配はないのですが…。いえ、私を頼りにしてるからこその御戯れと思っておきましょう。
「併せて必要物資の一覧を送っておりますので、輸送の手配をお願いいたします」
『わかった。書類に目を通して問題がなければ直ちに送る。でだ。ショーウの目から見て、オーレリア港の被害状況はどれほどのものであったか?』
「総合的に考えると、比較的、いえ、極めて良好です。特に手当てをしなくても、そのまま港町として存続が可能と判断します」
『ほう。オーレリア港はそれなりに自力で立ち上がる力があったということか』
「はい。というのはちょっと違いますね。もともと、オーレリア港には私たちは侵攻出来ておりません。その手前の街道沿いで撃退されたので、港町には直接被害がございませんでした。我々の侵攻に対し戦う準備をしていたということで、即席の木の盾や防壁を作るため、一部の家屋、或いは家具等が損壊している程度です。ああ、街道沿いの方も基本的に殆どの家屋はそのまま使える状態で残っております。ただし、その住人は計画通り綺麗さっぱり排除しております」
私がその事実を告げると、ユーピア陛下は途端に気難しい声に替わる。
今の話の意味が判ったのだろう。
『……やはりそうか、わかってはおったが、ワシらの、ヴォルが率いた第二方面軍はウィードにとって本当に敵にすらなりえていなかったという事じゃな』
「はい。状況から見てもそのように察せられます。ウィード、シーサイフォは、オーレリアの人々と協力して、奇策を弄して、我らの軍団を瓦解させたのではありません」
私はそうはっきりそう言い切る。
『なぜそう言い切れる?』
「簡単です。オーレリア港の町の人々は基本的に一切被害を受けていないためと思われますが、ズラブル大帝国の私たちを敵視するようすがありませんでした。まぁ、不安ではあったようですが」
そう、ユキ様は私の身を案じてくれていたが、それは杞憂だったのだ。
もちろん街道沿いの方では生き残りの人たちから随分と憎悪の視線を向けられた。
だが、それは少数だ。
オーレリア港の住人たちは、特に被害も受けず、戦いが回避されて和解が成立していることを知っているので、特に敵意を持つネタがないのだ。
『民はわかりやすいのう』
「そういうものです。私たちが民と国土を必死に守るのと同じように、彼らだって自らの家庭を守るモノです。たとえわが身に替えても」
『……ワシらもそうじゃった』
「ええ。そうでした」
『国と家族の違いは大きいか小さいかだけか。全く大きいものを背負ったもんじゃな』
「はい。ですが、その国を背負われた陛下を私は尊敬しております。そして。必ずや、ズラブルが多くの家族を守る盾となることを」
『うむ。と、話がずれたな。で、やはりウィードはズラブル帝都で見せた兵器だけを使っていたのではないと分かったな』
「はい。砲撃と、彼らは言っていましたが、あれは敵の位置が正確に観測出来て初めて成り立つものです。ところがウィードは、昼間ならともかく、夜間に遠距離の敵を正確に、しかもその中でもどこがヴォル殿の本陣かをわかって狙い撃った。人にはそのようなことは不可能です。ですが、ウィードには……」
その不可能を可能にする方法があります。
しかも、数の力に頼ることなく、自らの手持ちだけでそれが可能だったと考えられます。
『……可能か。そういえばヴォルの報告では、いきなりワイバーン隊が落とされたのが攻撃の始まりじゃったな』
「はい。報告書にはそのように書かれています。おそらくその攻撃が何らか関連しているとは思われます」
『そうじゃろうな。しかし、それを可能とするような魔道具は見つかったか?』
「いいえ。残念ながら。クウボと呼ばれるあの超巨大鋼鉄船にも、そのようなものは見受けられませんでした」
『クウボか。ウィードとシーサイフォがのってきた船。それが真のユキ殿たちの拠点であったな。それで、そこでは何も見つけられなかったと?』
「何もというと流石に語弊があります。ウィードの技術力の高さを実感できるものは沢山ありましたが、軍事に関することは隠ぺいしているものと」
『当然じゃな。ワシとて、暗闇でも敵を簡単に偵察でき、急所を発見できる道具なぞあれば、絶対人に見せたりはせぬ。徹底的に隠すじゃろう。馬鹿どもであればそれを誇示してくるからありがたいのじゃが……』
軍事は国の最大の機密。
それを簡単に公開することなどありえません。
まあ、しばしば精強な部隊がいると喧伝することはありますが。
名が売れている軍人はそれだけ相手の士気をくじきますからね。
「今後とも、そのような道具がないかを探っていくつもりです」
『うむ。頼む。少しでもウィードの秘めし力を暴くのじゃ。そして、なんとしてもウィード、シーサイフォを完全な味方へと引き込め。そうなれば最悪の場合でも友好国であるウィードが手助けをしてくれよう』
「はい。万が一のことなど考えたくもありませんが。ウィード、シーサイフォを敵に回すのは愚の骨頂です。味方にできればとても心強いことでしょう」
陛下の言う通り、ウィード、シーサイフォを味方につけられれば、万が一の時にも安心です。
というか、完全な味方に引き込めたのならば、その時点でもう負けはなくなると私は思っていますが。
まだ不確定なもの、うかつに口に出すわけにはいきません。
『して、確認じゃが、今オーレリア港の統治に当たっている者、カースであったか? その者についてはどう判断しておる?』
「カース殿に関しては、見事な手際でよくオーレリア港を統治しているといっていいでしょう。まあ、わずか数週間のものですし、復興作業がメインですから、通常の統治の力量まではわかりませんが」
『わかっておろうが、有事の際に目立つミスもなく淡々とこなしているだけで稀有な才能じゃよ。平時の統治は誰がやってもさほど変わらん。大事なのは有事の際の対応じゃ。ウィードはそういう人材も十分に抱えておるようじゃな』
「はい。そのようです。ウィードの抱える問題は単に、輸送に時間がかかるというところでしょうか」
『……つまり、現状は人手不足で、人員を送り込むに期間を要するのみと思っていいか』
「はい、通常の船しかなければかなりの時間が稼げたでしょうが、あのクウボは無理をすれば一度に5千人は連れてこられるでしょうね」
『ご、5千!? 一体どれだけ大きい船なのだ!』
「言葉で言い表せないほど巨大です」
『まったく、本当に冗談ではないな』
「はい。冗談ではすみません。ですので全力で今後とも対応をしていきたいと思います。先ほども言いましたがくれぐれも支援物資の方よろしくお願いいたします」
『そこは任せておけ』
そこまで話し終えて、ふとろうそくに目をやるとかなり溶けていることに気が付く。
「すみません。随分長い時間報告していたようです」
『構わぬ。オーレリア港のことは最優先事項じゃからな。じゃからこそショーウ、お前もすぐ寝ろ。お前が寝ぼけていては話が進まんからな』
「はっ」
そう言って、無線機からの連絡が途切れる。
「……おそらく、いえ、確実にユキ様はこうして本国と連絡を取っているのでしょう」
そして、最速で必要な物資と人員が送られてくる。
やはり、無線機が我が軍、いやズラブル帝国で使われるようになれば、もっと我が国は前へと行ける。
「しかし、こんな貴重な道具を輸出してくれるでしょうか?」
私は手に持った無線機を見つめながらそう自問する。
私ならばそんなことは決してしない。
先ほど陛下が言った意見と同じだ。
これは安易に他国に渡してよいものではない。
「……確かユキ様は陛下と話してみるといってましたね」
つまり、その女王を説得できれば、輸出してもらえる可能性が高いとみるべきですね。
直接話す機会があればいいのですが……。
それに、日中の会話ではいいところまで押せた気がします。
ユキ様はポーカーフェイスでしたが、付き従ってる女性たちは戦争が短くなる、苦しむ民が少なるという言葉には随分反応していましたから。
そこから突き崩すチャンスを得られれば……。
いえ、急ぎすぎでしょうか?
まずは、陛下のご友人となったアスリン殿たちとの友好を深めるべきでしょうか?
「と、いけませんね。もう寝ないと」
とりあえず、今は寝て明日からの状況をみて臨機応変にやっていきましょう。
一つの方法に縛られるのは危険です。
予想はしていたけど、予想外のことばかりでやっぱりわかりません。
っていう話の内容。
とはいえ、わからないけど、わからないなりに淡々と手を打っていくのは流石というべきでしょう。
これから、ショーウはどうウィードを攻略していくのか。
ウィードの謎は解けるのか。




