第952堀:伝説?と出会う
伝説?と出会う
Side:ユキ
俺たちは思わぬ人を紹介され、仰天していた。
それも当然、その名も……
「「「太公望!?」」」
そう、太公望。
地球においては歴史上最高の軍事の知恵者といわれる。
西洋のハンニバル、東洋の太公望。
何れも包囲戦を成功させた伝説の人物だ。
特に太公望が残したとされる六韜三略は現代でも通じる書である。
さらに、軍事を知らない人にも太公望の名前は広く知られている。
釣り師の代名詞といえば思い当たる人もいるのではないだろうか?
伝説の軍師、それが太公望。
その由来は、大公に望まれし者ということで太公望。
その太公望の名を、なぜこの異世界で聞くことになるのか。
嫁さん、特に軍事を勉強している、セラリア、デリーユ、ルルア、シェーラに至っては、顔が引きつっている。
あ、もちろん、一緒に来ているタイキ君やメノウ外交官も同様だ。
唖然としていると言っていいだろう。
そして、俺も周りから見ればやはり同じように驚いているに違いない。
いや、確かにタイゾウさんや、上泉信綱の例もあるし、そういった可能性もあるのか?
そんな感じで頭をフル回転させつつも話は進んでいく。
「うむ? まあ、そのとおり。大皇望である」
その名を聞いて、俺たちが揃いも揃って驚いてることを非常に不思議に思っているらしいユーピア皇帝。
まあ、遥か彼方の地から来た筈の俺たちに、太公望の名が知られてるっていうのが理解できないんだろう。
とはいえ、そこを詳らかにしようとはせずに話を進めてくれるユーピア皇帝。
「で、その者が今回、オーレリア港の統治の補佐に当たることとなった。かの地はウィードに譲るとはいったが、一朝一夕に人材は揃うまいと思っての事じゃ」
なるほど。やはりそう考えて、人を寄こしてくれるってわけだ。
ま、こちらとすれば、なんとか人員を捻り出して派遣できないわけではないが、実際きつかったからな。
なので人員をズラブル大帝国から借りようと話していたところだ。
つまり俺たちにとってはありがたいことだ。
「まあ、監視という意味もあるが、受け入れてくれるか?」
申し訳なさそうにいう、ユーピア皇帝。
普通ならそんなことは隠すが、まあ、当たり前の話だしな。
どうせわかると考え、隠さず素直に言うことにしたか。
だが、俺たちとしても拒絶する理由などないので……。
「ええ。助かります。正直こちらも人員不足で、誰をオーレリア港に派遣しようかと悩んでいたところです。こちらの習慣も知りませんし。ですので、そういう人が来てくれるのは正直ありがたいことです」
「おお。そう言ってもらえて何よりじゃ。では、紹介するとしよう。ショーウ、入ってこい」
「はっ。失礼いたします」
ん?
ドアの向こうから聞こえてきた応えは、女性の声だ。
ああ、護衛の人が返事をしたのか。
そう思ったら、ドアが開き入ってきたのは、なんと銀髪の綺麗な女性だった。
「ご紹介に預かりました。恐れ多いことに、ズラブル大帝国がユーピア皇帝が望む者という称号をいただいております、大皇望ショーウ・ローリズムと申します」
女性はそう名乗り、スッと綺麗な礼を取る。
ああ、太公望じゃなくて、大皇望ね。
同音異義語ってやつか?
いや、それはいい。つまりは、あの伝説の太公望ではないということだろう。
「「「ほっ」」」
こちら側のメンバーは、俺と同様皆安心したのか、揃ってほっと息をつく。
「何を安心しているのでしょうか?」
「ああ、失礼いたしました。私たちの歴史にも太公望という人物がいまして。いわれまで同じでしたので驚いていたのですよ」
「ほう。いわれまで同じとはな。で、その太公望というのはそれほどの知恵者だったのか?」
「はい。歴史に燦然たる名を残しており。今に至るまで並ぶものなしといわれているほどですね」
「ほほう。そこまでの名か。ショーウはそれだけ大層な名前を背負ってるわけじゃな」
「私はただ己の責務を果たすまでです。しかしながら、いただいた名に恥じぬ働きはするつもりです」
大皇望ショーウはきっぱりとそう言い切る。
いや、すごいわ。
ここまで言われたのに、特に気負うようなことはない。
この人はこの人で大皇望の名を背負うだけの実力があるということなのだろう。
ま、伊達や酔狂でそんな大層な称号を贈るわけもないか。
「では、さっそくオーレリア港に向かい仕事を。と、言いたいところですが、私はつい先日戻ってきたばかりで、ウィード、シーサイフォの皆様の事をよく知りません。まずはいろいろ、そちらの国のお話をお聞きできればと思います」
ショーウの言うことは、至極当然の話だ。
何も知らない相手と今後上手く共同歩調をとるのは困難だ。
まあ、書類から知っていることもあるだろうが、まずはこうやって相互理解を含めるのが大事で、それを気負うことなく行えるというのは素晴らしいことだ。
下手をすれば、この期に及んでこちらのことを何も知らないのかなどと怒る人もいるからな。
とはいえ、担当が新たになるのだから、ちゃんと顔を合わせてお互いの相互理解を深めないと思わぬところで齟齬が出て問題となる。
そんな風に大皇望ショーウの評価を上げていた俺に、なぜかユーピア皇帝がこっちこいと手招きしている。
「ユキ殿、折り入って内密の話がある」
「陛下。そのようなふるまいは……」
「やかましい。お前の頑固に付き合ってもらうんじゃ。きちんと詫びをいれるのが筋という物じゃ」
「むう」
なんだか色々問題があるのか?
しかしながら、ショーウの頑固に付き合うとはどういうことだ?
「はぁ。これではこっそり話す意味はないか。まあよい。ウィード、そしてシーサイフォの方々。お主たちの実力、いまや帝都におる貴族たちはしかと認めておる。じゃが、その情報だけしか聞いておらぬ者たちはそうもいかぬ」
ああ、なるほど。
俺たちの技術力が情報としては伝わっても、実際には理解も実感もできないということか。
つまり、己が目で見ない限りは信用しないと。
「つまり、大皇望殿にも見せてほしいということですか?」
「うむ。そうなる。もう既にワシを含め帝都議会、貴族たちが揃って認めておるのに、まったく頑固なことよ」
「頑固で構いません。それだけ報告されている内容が信じがたい事だったということです」
軍どころか国の頭脳といわれる人物が確認したがるのは当然の話だろう。
むしろ、そんな人物を抜きに今まで話が進められていたことに驚きだ。
「話は分かりました。こちらとしても、ちゃんと把握しておいて頂いた方がいいことだと思うので、実演をする事には問題ありませんが、その演習はどこを使いますか?」
「そこが問題じゃな。分かりやすい森はのぅ……これ以上消し飛ばされてはこちらが困る。かといって案山子を建てるのものう……」
森を砲撃すれば貴重な木材という資源が無くなるからな。
かといって、案山子を建てるにも資源がいるし、時間もかかる。
しかも吹き飛ばす為だけに。
そんな無駄なことは誰もしたくないだろう。
「ならば、私が魔術で作りましょう。前に案山子を作って軍勢に見立てたことはありますので、それほど時間はかからないかと。人的費用に関しても、私が確認したいだけのわがままですので私自身が負担いたしましょう。まあ、あの話が本当であればですが」
そう言って、こちらに鋭い視線を送るショーウ。
やれるものならやってみろということだな。
「私としてはショーウ殿の提案が一番いいかと思うんですが、ユーピア皇帝はどうですか?」
「……確かに、作る時間と費用は随分省けるのは認める。じゃが、あれはその後の吹き飛んだ場所の整地も面倒なんじゃよな」
確かに。普通なら砲撃で吹き飛んだ地面を元に戻すのは意外と大変な作業だったりする。
「それも遺漏なく私が行いますのでご心配なく。魔術を使えば、すぐです」
しかし、ショーウはその程度は自らの魔術で元に戻すとあっさり返事をする。
そこまでの実力者なのか?
とはいえ、鑑定ではレベル180とそれなりに高くはあるが、砲撃で耕した地面をどうにかできるほどの魔力を持っているようにはとても見えない。
まあ、大方こちらが嘘をついていて大したことは起きないと思っているのだろうが、別の方法で元に戻せる可能性も捨てきれない。
ならば、その隠された才能があるのかを確認するためにも、とにかくやってみるのが良いだろう。
「元に戻す作業をそちらでしていただけるなら、私たちも全力を出せますが。いかがいたしますか?」
「はぁ~。まあよい。こやつにガツンと世界が広いと見せつけてやってくれ」
「陛下はどちらの味方でしょうか?」
「今回に限っては、ユキ殿たちの味方じゃ。あとでその頭を抱えるがよい。あ、場所は荒野の方で頼むぞ」
「それは理解しております。私が頂いている地で行います故、ご心配なく。そして、けして頭を抱えたりは致しませんから」
なぜか腹心の部下とにらみ合うユーピア皇帝。
とはいっても険悪な雰囲気は微塵もなく、なにやら慣れた感じがするので、こういったやり取りは日常茶飯事なのだろう。
とまあ、話はまとまったので、もう一度ウィード技術力体験ツアーを開催することになり。
モノのついでということで、ショーウの提案で、あの後帝都に戻ってきて、ウィードの話を信じられない連中にも集まってもらって、砲撃の雨を見せてやることとなった。
その結果……。
「「「……」」」
全員口あんぐり。
ショーウも美人台無しの表情で愕然としている。
で、その様子はLIVE中継でユーピア皇帝に見せていたので、無線に連絡が入り……。
『ぬははははっ!! よい! よいぞ! このもにたーとかいうやつはな! 大皇望のあの唖然とした表情を見れるとは。全く傑作じゃ!』
あの冷静沈着、覇気をまとった皇帝が思い切り爆笑していた。
『よし、ついでにユキ殿が持っている無線機をショーウに渡してくれ。これでおとなしくなるじゃろう』
そう言われて、俺は素直にショーウのところに無線機を持っていき……。
『いつまで面白顔をしておるか。ほれ、何か言うことがあるじゃろう。ショーウ』
「え? 今、この小さな箱から陛下の声が?」
『うむ。この箱は無線機といってな。遠方のモノと即座に会話ができるものじゃ』
「な、なんという物があるのですか!? 遠方と即時連絡が取れる魔道具をこんな小型化することに成功していると!」
ショーウは、俺が差し出した無線機をつかみ取って驚いていた。
この道具の凄さを理解しているようだ。
まあ、その程度でないと大皇望などとは呼ばれないだろう。
『その通りじゃ。で、改めて問うが、ワシに何かいうことはないかのう?』
「……大変失礼を致しました、陛下。陛下と議会の判断に間違いなどございませんでした」
と、即座に過ちを認めて謝るショーウ。
というか、すぐに無線機を信じるっていうのも物凄いな。
『うむ。では、失礼のないようにウィード、シーサイフォの方々のサポートをせよ』
「はっ。承りました」
『あ、それと、その耕された土地、元に戻せそうかのぅ?』
「大言を吐き申し訳ありません。私には無理です。ここまでになるとは思っていませんでした」
『それはそうじゃろうな。ま、これも追加じゃな。ユキ殿頼めるか?』
「了解です」
「一体何の話を?」
ショーウが首をかしげている僅かな間に、俺は依頼通り穴ぼこだらけになった土地を魔術を使って綺麗に均した。
「「「……」」」
再び絶句するショーウたち。
『ぬはは!! よい! よいぞ!』
とりあえず、とても楽しそうなユーピア皇帝であった。
ま、こっちとしても今後やりやすくなるからいいんだけど。
実は「たいこうぼうと」読み方は同じ。
そして、転生者でも元をたどっているわけでもない。
ただ、偶然そういう名前で呼ばれただけの人物です。
さて、彼女の実際の能力は以下ほどのものか。
発揮できる時は来るのか!




