第949堀:問題を片づけたらまた問題が出てくる
問題を片づけたらまた問題が出てくる
Side:ユキ
あまりに意外なことで思わず再確認してしまったのだが、ハイレ教のマジック・ギア輸出承諾に関しては、なんとあのハイレンが成し遂げて見せたらしい。
あのお花畑、信者の前では女神っぽい行動ができるようだ。
「旦那様ごめんなさい。話の流れを切るわけにもいかず……」
「エノル大司教様がズラブル大帝国に行くことになっちゃったわ」
「いや、ほんとにすまん。わしもまさかこの様なことになるとは思ってなかった」
「ですね。私も頼まれたのにこんなことになってしまって申し訳ない」
そういって、俺に向かって揃って深々と頭を下げている、ルルア、エノラ、エノルさん、ソウタさん。
ホント、この4人がいたところで、ハイレンはともかくリリーシュまで一緒なので、きっと大混乱で話なんかまとまる筈がないと思っていたので、謝ってもらう必要なんかまったくない。
正直、あいつらがいる中で、よく話をまとめて見せてくれたので、素晴らしい!と称賛を送りたいぐらいだ。
とはいえ、あまり露骨に褒めると、それはハイレンのことをバカにしているという意味になるので……。
「いや。ここまで話をまとめてくれて助かった。もっと揉めると思ってたからな」
……主にハイレンのおバカで。
などとはいえず、言葉を濁しながらルルアたちを褒める。
「エノル大司教がついてくることになったのは驚いたが、マジック・ギアの使用目的について釘をさすには、これ以上のことはないだろう」
経験者が語った方が良いに決まっている。
あのユーピア皇帝がこういう話を聞いて、無視することはないだろう。
悲劇と美談を合わせて、士気向上に使うはずだ。
「でも、ユキ。どうやってエノル大司教を連れて行くわけ? どこまでズラブル大帝国との話を進めるつもりなの? まさかこのまま、大陸間交流同盟に参加させる気?」
エノラが心配そうに聞いてくる。
「まあ、最終的には大陸間交流同盟に参加してもらうように話は進めたいが、今はまだ早いな。あの地域の状況については分かっていないことが多すぎる。まずは旧皇帝派の情報を集める必要があるだろう」
「旦那様。情報を集めるのには賛成ですが、その場合、ズラブル大帝国から監視が付くはずですよ? 下手をすれば、敵と認定されるかと」
ルルアの言う通り、ユーピア皇帝には旧皇帝派に付くなら戦うことになるといわれた。
まぁ、そうなりゃ実際戦うことになるだろうな。
あの皇帝は自分の国を守るために死力を尽くす。
不安要素は放置しておかない。
「そこは心配するな。ちゃんと別動隊を作って調べさせる。いずれにしろ、ズラブル大帝国のことはゆっくり進めることになるしな」
「どういうこと?」
「俺たちの今回の目的はシーサイフォの使者を助けることだ。ズラブル大帝国との和解が一応できた今、まずするべきことはシーサイフォへの連絡だな」
「ああ、そういえばそうだったわね」
予想外の展開に、思わず忘れてしまいそうになるが、今回ズラブル大帝国に行ったのは、あくまでこれ以上かの地で戦火に巻き込まれないための交渉だ。
それが無事に終わったのだから、一旦戻って報告するのが当然だ。
「メノウ外交官と、レイク将軍はもう本国に戻られていますよね?」
「ああ、あっちの報告をまってだな。で、その後は、助けたパルフィルお姫さんの対処だな。これが一番めんどくさい。あと、オーレリア港の統括を誰がするか」
「「「……」」」
俺の言葉に固まるメンバー。
すっかり忘れていたようだな。
ズラブル大帝国とその敵となってる旧皇帝派の方についつい意識が行きがちだが、俺たちにとって目前にせまった大問題がある。
それが、オーレリア港の復興及び統治作業である。
正式にズラブル大帝国から領有を認められたということは、俺たちが統治をしないといけないということだ。
このままパルフィル王女を慰める為に、そのまま統治をまかせるということは出来ない。
それはズラブル大帝国に対する条約違反だからな。
それに、パルフィル王女にオーレリアを任せたりすれば、後ろからズラブル大帝国を襲いかねない。
「よし、思い出してくれて何よりだ。で、相談だが、オーレリア港は誰に任せたらいいと思う?」
「「「……」」」
素直に質問してみたら、やはり全員だんまり。
まあ、そうだよな。
ウィードの人材はカツカツだ。
これ以上他の土地の支配は無理だということで、戦争にも難色を示していたんだ。
でも、今回のズラブル大帝国との交渉で旧グスド王国の人材は使えなくなってしまった。
いっそ戦争になっていれば、そのまま旧グスド王国の人材に任せられたんだがな……。
「仕方がない。みんなで集まって相談だな。まずはそこからだ」
俺がそういうと、全員頷く。
ということで、俺は全員を集めて今回の課題について話をすることになったのだが……。
「まずいわね。いえ、マジック・ギアのことはよかったわ。エノル大司教自ら話に行くとなればそれだけ、あのユーピア皇帝も意識せざるを得ないでしょう。まずいのは、オーレリア港の統治に関してね」
「ですね。……ズラブル大帝国との約束で、元グスド王国の人たちに任せるわけにもいきませんし……」
セラリア、ルルア共に、難しい顔をしている。
二人は現女王に、元聖女様で、どちらとも統治者としての経験がある。
それにも関わらずこの表情だから、今の状況がどれだけまずいのかはわかるだろう。
「そうじゃな。というか、ここら辺まで考慮済みで、オーレリア港のことを妾たちに任せたのかもしれんのう」
デリーユの言うことは一理あるな。
その程度のことが分からないような皇帝じゃなかった。
「十分ありそうですね。というか、そもそもユキさんが王配とはいえ、単なる使者に対し皇帝自ら同盟の話し合いの席に着くでしょうか? 普通は担当の者が交渉するはずです」
「確かに、シェーラの言う通りだね。というか、あの状況自体がすごく不自然だったんだよね。まあ、ユキたちはいつも大元に乗り込んで話をしていたから違和感なかったんだろうけど」
確かに、シェーラとエージルの言う通り、大帝国程の国主がわざわざ、どこの国のとも分からない使者を相手に、自ら対応するのはおかしい。
まあ、一応それなりの理由はあるんだが……。
「……別に不思議じゃないと思う。ユキたち、私たちウィードの力を脅威に思ったからこそ、皇帝自ら出てきた。今までの王たちもそう」
「クリーナさんの言う通りですわね。我が祖国ブレード陛下もそうでしたし、カグラさんたちの祖国の王も同じはずです。まあ、シェーラ様の言う通り、大帝国ほどまで規模が大きくなるとちょっと疑問ではありますが」
クリーナは、ユーピア皇帝が対応しても不思議じゃないと。
そして、サマンサはクリーナの意見を持ち上げつつ、多少疑問を持っている感じか。
「ま、皇帝がどういう思惑をもって話し合いに応じたかは、後で考えよう。今の問題は、オーレリア港に誰を配置するかってことだ。今は、俺たちウィード・シーサイフォメンバーはズラブル大帝国へ交渉に行っているから、オーレリア港の統治はまだそのままでいいだろうが……」
「統治者の変更はしないと、ズラブル大帝国への不信に繋がるわね。そこはわかるのよ。だけど、私たちには配置する人材がいない。今までの現地の人たちをそのまま採用して、継続していたって方法が取れないのが痛すぎるわ」
セラリアの言う通り、今まで通りの手法が使えないのだ。
自分たちの手札からひねり出さないといけないんだが……。
「統治に明るく、しかも他国の人たちとも普通に話せる人となると……」
「無茶苦茶じゃな。そんな優れた人物がいれば、疾うの昔にどこかで統治しているじゃろう」
うんうんと、デリーユの言葉にうなずくみんな。
確かに、そんな有能な奴がいれば、どこの国も放っておかないだろう。
「まあ、最悪ズラブル大帝国から人材を借りればいいんだが……」
「それだと、オーレリア港は実質ズラブル領ってことになるわよ? まったく、そういうことまで考えているわね。あの皇帝」
「伊達に大帝国を率いてはいないということですね」
はい。やはりズラブル大帝国から人材を借りるのはなし。
俺としては任せていいんだが、嫁さんたちとしては駄目なんだろうな。
ズラブル大帝国の監視としてどんな人物が来るか楽しみだったんだけどな。
いや、頑張って説得するか? いやー、こっちで人材が出せるならそれはそれでいいか?
そんなことを考えていると、スタシアが皆の考え違いを指摘してくる。
「セラリア様やシェーラ様の言うことは尤もだと思うのですが、そもそも基本的なことを忘れているかと」
「基本的なこと?」
「ええ。私たちは即座に人材や物資を送り込む術を知っているので色々考えていますが、ズラブル大帝国側はそもそもそんなことが出来ることを知らないでしょう」
「「「あ」」」
スタシアの言う通りだな。
俺たちはゲートという手段が当たり前で、遠方であっても拠点間の移動にかかる時間を考えていない。
だが、普通なら本国から遠く離れた港を領土としてもらっても、維持するだけで大変なのは目に見えている。
本来移動に時間がかかるこの世界では、飛び地の維持というのはそれだけ大変なんだ。
だから今回の話は、もともとオーレリア港の統治にはズラブル大帝国が手を貸すよといっているも同然なんだ。
「なるほど。ユーピア皇帝は、オーレリア港は実質的にはズラブルの領土だと考えてるということね。それと、併せてこちらに恩を売りたいということかしら?」
「そうですね。監視を置きたいといっているのでしょう。確かにスタシアの言うように、普通なら飛び地を維持するのは国にとって簡単なことではありませんから」
「しかし、それではオーレリア港をウィードに渡すという約束と違ってきませんか。ってああ、そういうことですか。ズラブル大帝国が直接治めるには難があるといっていましたね」
「うむ。シェーラに言われて思い出したわ。直接ズラブル大帝国が統治することで、旧グスド王国に心を寄せるオーレリア港の人々の敵愾心を煽りたくないということか。とはいえ、ウィードやシーサイフォに占領されても不満が出ると思うが」
「もともと俺たちにそこの部分を処理してくれって話だからな。とりあえず、明日、また話を聞いてみよう。詳しく同盟の話を詰めることだしな。どれだけオーレリア港を譲るためとして条件を入れてくるか」
ユーピア皇帝の腕の見せ所というか、今頃向こうも会議でどう話をまとめるか考えているようだが。
既に、ズラブル大帝国の帝都はダンジョン化しているから、行動は全て筒抜けなんだよな。
ま、細かい内容は監視している霧華に後で聞くとして……。
「とりあえずは、今すぐズラブル大帝国にゲートの話をするつもりはない。だから、一時的にズラブル大帝国の支援を受けてオーレリア港を維持する方向で行こうと思うけどいいか?」
「それしかないわね。……それでどんな人物が来て、オーレリア港をどう統治していくのかを確認するわけね?」
「そうだ。その間に他の情報を集める。ついでに、ウィードか同盟国でオーレリア港を任せられそうな人材が出てくれば嬉しい」
「情報より、人材の方がよほど難しそうなのが面倒じゃのう」
本当にな。
人材ねー。まあ、心当たりがないわけでもないが、そっちはそっちで説得に時間がかかりそうだからな。
「さて、オーレリア港の統治の件はいいとして、後はパルフィル王女の説得だな。どこに亡命させるかを決めよう」
「「「……」」」
俺がそう宣言すると、また全員が難しい顔をする。
はぁ、問題って次から次へと出てくるよなー。
オーレリア港の統治も、パルフィル王女の説得をしないとできないことだからな。
あー、頭が痛い。
この人材不足の中、オーレリア港の統治はどうするのか?
まあ、ズラブルから補佐要員は来るだろうが、それでも大変。
そして、パルフィル王女の運命は。
彼女は一体これからどうするのか。
問題は山積みです。




