第944堀:悩み多きトップ
悩み多きトップ
Side:ユーピア・ズラブル
晩餐会はトラブルも無く終わり、既に外は夜の帳がおり、深い闇に包まれておる。
「どうじゃ、参加者達の様子は?」
外の闇を見つめつつ、ワシは後ろに控えている者共の報告を聞く。
「はっ。皆戸惑いつつも、皇帝陛下のご判断については表立って猜疑心を示すような者は見受けられませんでした」
「そうか。かの焼け野原になった森を事前に見せた甲斐はあったか」
いきなりの晩餐会。
そして、無理矢理なウィードとシーサイフォの使者の紹介。
どの程度納得するか心配ではあったが、表立った反発はないか。
「はい。しかし、アレがなければ、ウィード、シーサイフォの方々の紹介は上手くいかなかったものと思われます」
「ユキ殿にはそう言う意図もあったのじゃろうな。さもなくば、ワシらを説得は出来ても、周囲の者共が納得せぬとわかっておった様子じゃ」
「そこまでですかな。あの若者は」
そういう意図がなければ、わざわざ斯様に隔絶した力を誇示する模擬戦闘なぞワシらに見せるモノか。
いくら強いと言っても、戦い方を事前に知っておれば対策が打てる。
こちらと戦うつもりがないという意志表示も含めてじゃ。
そして、そうして見せたものを利用して、周りを何とかしてくれという意味でもあろう。
まったく、本当に喰えん男じゃ。
「うむ。こちらの意図は凡そ全て理解しておった。ジャムやチョコに関しても、待機している部隊にモノの備蓄があるようで、そちらを回してもらうことになった」
「それはありがたい限りですな。しかし、意外でしたぞ、アスリンでしたかな? あの無礼な子供にあんな優しい対応するとは」
「ああ、あれか。お前は気付いておらんかったのじゃな。あの、アスリン。アレは見た目通りの子供ではないぞ」
「ほう? 陛下のような御年と?」
「さあな。じゃが、あの周りを和ませる才能は稀有じゃ。それを活用せんとユキ殿はワシとの会話を許したのじゃろうな。アスリンや子供たちが入ることによってすっかり毒気が抜かれてしまったわ。アレで怒ってしまっては、かえってワシの器が問われる」
それをも想定して動いておったなら、あのアスリンはとんでもない子じゃな。
いや、逆にそんなことは考えずにただ行動できるというのであれば、それもかなりの脅威といえるじゃろう。
どのみち、あのアスリンも含め、あの子供たちも決して侮ることはできぬということじゃ。
あどけない幼女に見えて、足取りはかなりしっかりしておったし、戦い慣れている感じもしおる。
……まったく空恐ろしいことじゃ。
そして、あの子たちをも見事に統制しておるユキ殿はさらにじゃ……。
「なるほど。しかし、彼女たちがもたらしてくれたあの物資があれば、多くの者は納得してくれるでしょう」
「……」
そのように言われ、あの一幕が含むとあることにやっと気付いた。
あれはわざと誘導されたか?
ジャムやチョコを献上品として公式な場で提供されても、こちらは訝しむだけじゃろう。
アスリンたちを交えることで、そのハードルを下げたのか?
……むう、考え出せばきりがないな。
「陛下?」
「いや、なんでもない。しかし、多くか。やはり、あ奴は無理か」
相手の策の深さに思いを馳せてもと、考えを切り替えようと思ったが、こっちはこっちで厄介なことがあるのを思い出した。
「無理ですな。大皇望殿はご自身が見てもいないことに納得するわけがございません」
我がズラブル大帝国きっての天才参謀。
ヴォルが軍事の要ならば、大皇望は政治、内政の要じゃ。
あやつの説得もせねばならぬか。
「むう。あいつは忠臣ではあるが、それだけに諫言がきついからのう……」
「あのお方はそういう役を買って出ているのですよ。とはいえ、見てもいない物をあの方は信じませぬ。おそらく、ヴォル将軍の責任を問うてくるでしょうな」
「はぁ、まあよい。大皇望が来るまでまだ時間はある。それまでにユキ殿たちと話を詰める」
この件は一端置いておくしかなかろう。
そう、それよりまず、ユキ殿たちと話を詰めねばならぬ。
我が国の状況、ウィード、シーサイフォの状況、そしてグスド王国の忘れ形見の処理じゃ。
「陛下。グスド王国、パルフィル姫のこと、なかなか悩ましくなってしまいましたな」
「うむ。まさか、あの様な力を持った者共が現れ保護するなぞ、夢にも思わなんだわ。上手くやらねば、あのウィードが敵となる」
「それだけは絶対に避けてほしいものですな。森への攻撃でウィードの展開していた部隊はせいぜい200。それで、あの攻撃力です。まともにぶつかれば我々は何もできずに終わるでしょう。まあ、対策として分散して進めば……」
「その程度では何ともならぬよ。そんなこと相手は百も承知じゃろうて。あれをわざわざ見せておいて、その程度の事に何の対策を打たぬような間抜けに見えたか?」
「いいえ」
「それにここにおる護衛の強さも深刻な問題じゃ。ドータンがいともあっさり負けおった。これではユキ殿たちを人質にしてというのも不可能じゃな」
全く、グスド王国のオーレリア略奪を指示したことがここまで大きな問題になってくるとは……ん?
「ちょっとまて。グスド王国、オーレリア港の略奪を献策したのは……」
「おお。大皇望殿でしたな。それを突いて彼女は黙らせることは可能かもしれません」
「よし。あ奴を抑える方法はそれでいこう。あとは、ウィードにあの略奪をどう説明するかじゃが……」
「どう説明をしても、無辜の民を襲ったことに違いはありません。本来の予定では生存する敵対者はいないはずでした」
「……」
副官の言う通り、オーレリア港での虐殺、略奪は計画されていたものじゃ。
大皇望の献策とはいえ、それに最終的に許可を出したのはワシじゃ。
理由は明白。
魔物の召喚、使役を可能とする宝玉を敵に渡すわけにはいかなかった。
その宝玉を他の者どもに渡すことはできぬと判断したワシたちは、オーレリア港の強制制圧を試みた。敵対する者には容赦せぬと示すためにも。
悪評は今更じゃし、我が国が生き残るためには絶対に必要じゃったこと。
無論、無為に血を求めてなぞおらぬ。
事前に通告はした。
敵対すれば容赦はせぬ。じゃから、下れと。
そう通告したが、グスド王国は徹底抗戦の意を示した。
まあ、旧皇帝派を支援する国じゃ。
素直に下るはずもなく、敵対してきおったので、先ずは王都を占領し、しかる後にオーレリア港に攻め込んだのじゃが、その戦いにウィードとシーサイフォが巻き込まれ、逆に第二方面軍を撃破しおった。
「タイミングが悪かった。……では話にもならんじゃろうな」
普段はそんなことをせぬと口でいうのは簡単じゃが、ウィードとシーサイフォの使者たちとてオーレリア港で我が国の情報ぐらい集めておるじゃろう。
それを踏まえるとなんとものう。
自分たちも彼の者たちを信用できぬといって、証拠を用意させた。
ワシらも信頼を得るための証拠があれば良いのじゃが……。
「いえ、待って下さい。数カ月前にグスド王国に通告しております。下るのであれば自国民として扱う。下らぬ場合は、我が国を脅かすものとして、老若男女区別なく打ち果たすと。その正式な文章が残っているのでは?」
「それは、こちら側だけにじゃ。グスド王国には何も残ってはおらぬ。そもそも、グスドの王都は既に我が領土じゃ」
「確かに……」
「ま、こればかりはどうしようもあるまい。まずは事の流れを丁寧に説明して、同情を引く。グスド王国の対応はこちらにとってありがたいほど、愚かであったからのう。まさか、友好関係にあった使者と船を拘束するとはな」
「普通は戦争になってもおかしくない事柄ですからね」
「うむ。対してワシらは一度は交戦したが、そのあとの和解は済ませておる。状況的に見れば、ワシらの方が好感度は高かろう。幸いというべきか、ウィードの者たちに死傷者は一切出ておらぬ。そこもうまく使って説得するしかなかろう」
「確かに、そういう方法で行くしかないと思います。しかし、パルフィル王女のことはいかがされますか?」
そこじゃ、確かに我がズラブル大帝国が暴虐非道であるとのウィードの誤解は解けるやもしれんが、それでも問題になるのがグスド王国の忘れ形見じゃな。
ウィード、シーサイフォとしては、保護しておる手前、見捨てるという選択は無いじゃろう。
かといって、ワシらとしては捨ておくことは出来ぬ。
グスド王国の生き残りを、我がズラブル大帝国に歯向かったものを、そのまま生かしておいては後に禍根となる。
「……ワシらだけでは答えは出せぬな。ある程度、落としどころは予測はできるが。まずはウィード、シーサイフォがパルフィル王女を今後どうするつもりなのかを聞いてからじゃな。じゃが、準備として……」
ワシはそうして、ユキ殿たちと話し合いの準備を進め……。
「ようこそ、ユキ殿。待たせたのう」
「いえ。昨日の今日ですぐにお話が出来るとは思っていませんでした」
ユキ殿はそう言って、会議室へ入ってくる。
流石にその背後にアスリンたちの姿はない。
いるのは、昨日ドータンを下した猛者近衛隊長のクアルと、その部下であろうものたちだけ。
ふむ。本題に入る前にちょっと雑談でもしてみるか。
「子供たちも連れてきている以上、あまり長引かせても退屈するじゃろうとおもってな」
「ご配慮に感謝いたします。そして昨日はアスリンたちが大変失礼をいたしました。寛大なご対応に感謝しております」
「かまわぬよ。あの時もゆぅたが、ワシも返事を返した。それはワシと話してよいということじゃ。その前にお主も伺いを立てておるし、手順としては問題なかろう。まあ、護衛や随伴としてなら失格ではあるがの……あの子らは違うのじゃろう?」
「ご明察です。一応護衛という名目で付いていますけどね」
やはりか。
子供たちというのは敏感じゃ。
人となりを見る為にこれ以上の者はあるまい。
「で、ワシの評価はどうじゃったか?」
「極めて好評でしたよ。人の気持ちが分かる良い皇帝ちゃんだったと」
「ふっ。良い皇帝ちゃんとな。うむ。他の者が言うのであれば侮蔑も交じっておろうが、アスリンたちにそう呼ばれると嬉しいのう。じゃが、そのアスリンたちの評価を裏切ることになるのは極めて残念じゃ」
ワシはそう言って、笑顔から真剣な表情に切り替える。
「来てもらったのは、分かっておると思うが、今後のための話じゃ。それ次第では、ワシは国のためウィード、シーサイフォと戦うこととなろう。これでは良い皇帝ちゃんとはいえぬ」
「国のためですからね。お互い損な役回りです」
ワシの状況次第では戦いも辞さないとの言葉に、ユキ殿は苦笑いしながら肩をすくめる。
「ふふっ、損な役回りか。同じ立場に立つものとして分かるか」
「楽な仕事ではないですからね。国のトップというのも」
「うむ。そんなことも知らずにトップの座を狙うやつは多い。しかも、そんな奴に限って、民のことなどお構いなしじゃ」
「ええ、そうなんですよね。そんなのに国は任せられません。ですが正直、条件を満たしてくれるなら、喜んで譲ってあげたいですね」
「うむうむ。そのような者がいればワシも喜んで譲るのう」
お互いにうんうんと頷いていると、互いの後ろに控えておる者たちが……。
「「ゴホン」」
そう、わざとらしい咳ばらいをしたので、さらに苦笑いをすることとなった。
「では、そろそろ仕事の話をしますか」
「致し方あるまい」
こうして、お互いの苦労が共有できたところで、本格的な話し合いへと移ることとなる。
さて、このまま意気投合して問題なく話ができればのうと思うのじゃがな……。
偉い人は色々考えることも多い。
そして、気になる名前がいましたが、あの伝説の軍師にあらず。誤字にあらず。




