第934堀:過不足なくって難しい
過不足なくって難しい
Side:ユキ
はぁ……。
俺の気持ちはすごく重かった。
なぜかというと、それは部隊編成の出来事で起こった。
『ミノちゃんのお陰で、ズラブル大帝国へは一応他国からの使節として行くことになった。しかし、少数で行ってしまえば、この実力主義の国々には舐められる。残念ながら、平和主義はこの大地では単なる弱者の遠吠えと思われてしまう』
俺がそう言うと、スティーブたちは皆納得して頷く。
手と手を取り合う。それは素晴らしいことだが、この地で実際にそれを行うには、あくまでお互いの力などを対等だと認めなくてはならない。それができて初めて現実となる行為だ。
平和と平等、所詮それはお互いに武器を突きつけ合った結末として成り立つものだ。
悲しいね。
『ということで、ズラブル大帝国へ向かうに当たっては、協力関係を結んだズラブル大帝国の要人たちを守る意味でも、ウィードの力を見せる意味でも、それなりの人数と兵力の誇示が必要だ』
そして、それをズラブル大帝国の皇帝に見せつける。
それをしてやっと、対等に話が出来ればよし。
それでもなお出来なければ……、その時はその時で考えよう。
『ま、そうっすね。ズラブル大帝国になめられない程度には戦力を持っていく必要はあるっすね。で、その必要数ってのが問題っすね』
『多くても管理が面倒なうえに、オーレリア港の防備が落ちる。まあ、オーレリアの守備には空母があるから陸戦兵器はそれなりにもっていっていいとは思うけどな』
『とはいえ、動かせる陸戦兵器を全部ってわけにはいかないだろう。そもそも維持するだけでもかなりの物資が必要なんだからな。まぁ、アイテムボックスで持ち運ぶことで経費の軽減はできるが……』
『それはダメだべ。アイテムボックスが使えなくなったら、兵器がただのお荷物になるべよ。まあ、アイテムボックスを使うにしても半々にして、補給部隊を随伴させて運用する必要があるべ』
と、俺がこの世界の現実の厳しさに思いを馳せている間に、我が魔物軍四天王たちが必要な話を進めてくれている。
いやぁ、何度も会議に参加しているが、こいつらがいれば俺は本当に何もしなくても勝手に考えてくれるから楽だわ。
しかも、今回は魔物軍四天王全員参加だからな。
安全確保のためだし、当たり前なんだが、この四人が勢ぞろいってだけでも、如何にズラブル大帝国が危険だと判断してるかって証拠だろう。
無論、オーレリア港の防衛もちゃんとするけどな。
そんなことを考えていたら、突然会議室の扉が開き……。
『あ~、いたいた。私たちの編成も決まったから、そこのところよろしくね』
セラリアがそう言いながら、紙を差し出してくる。
そこに書かれた編成を見たら……。
『おぃ、ほぼ全員参加の予定じゃないか。しかも人の部隊として連れて行くのがよりによってクアルたち近衛って……』
何とも大袈裟かつ大規模な編成だった。
横からそれを覗き込んだスティーブたちは……。
『えーと、ズラブル大帝国は跡形なく抹殺するってことで決まったんすかね?』
『そうだろう。この編制はもう、完全に倒すってことだろう?』
『あんちゃん。セラリア姐さん。気持ちはわかるけどもな。支配者がいなくなった国はもっと荒れるべよ?』
『だな。そこらへんもよくよく考えた方がいいぞ』
と、あまりの陣容に最後にはミノちゃんとスラきちさんまでが真面目にセラリアを説得しだしたわけだ。
さすがに俺も、一体どういうつもりなんだと聞けば……。
『別にそんなつもりじゃないわよ。単にみんなで付いていこう。ってことにしただけよ。味方は多い方がいいし、同時にウィードのみんなが私たちが空けてもちゃんと運営できるかってのを見る為でもあるわ』
なんとも、屁理屈っぽい理由で皆が付いてくることにしたらしい。
まあ、一応筋が通っているので、俺としても、スティーブたちとしてもダメとは言えなかった。
ウィードがいつまでも俺たちに頼り切りで、まだまだ独り立ちできていないっていうのは確かに問題だし、間違いじゃないからな。
だからといって、ウィードに何があってもほったらかしにするのではなく、いつでも戻れる体制も整っているからそういった意味でも問題はなしと。
「だからって、女王自ら付いてくるか?」
「いいのよ。この機会にいい加減新婚旅行を楽しみましょう。基本、私はこれまでウィードに居残りだったんだし。これぐらいいいでしょう。ねえ、クアル?」
「はっ。ユキ様には大変ご迷惑をおかけしますが、セラリア陛下も日々寂しいと言っておられます。ウィードの国主となってからは、随分自重されて政務にもしっかり励んでおられます。ここはご褒美という意味でも連れて行って頂けないでしょうか」
「なぁっ!? 私はわがままな子供じゃないわよ!」
流石、クアル。長年部下を続けているだけあって、女王相手であろうと容赦はない。
とはいえ、確かに今までセラリアはずっとウィードに残って面倒を見てくれていたんだ。
それを考えると……。
「いや、まて。そういえば、イフ大陸でも、新大陸でもいつの間にかセラリアって来てなかったか?」
「ちょっとよ、ちょっと! というか、ちゃんと私のフォローをしなさいよ! ちゃんとやってるって、クアルに!」
「いやぁ、クアルはちゃんと褒めてなかったか?」
まぁ、言い方はあれだったが。
「はい。私はセラリア様のことをキチンと褒めておりましたよ。日頃ちゃんといい子で留守番を頑張っていらっしゃるので、たまには連れて行ってあげて下さいと」
「あんたたちねー!?」
「はいはい。落ち着け。なんか出会った頃に戻ってるぞ。まあ、それも可愛いからいいが」
「はい。懐かしい限りです。昔はそのように、気持ちの赴くまま暴れまわっていて、私だけでなくユキ様までもがそのフォローでどれだけ大変だったか」
「あーもう、褒めるか貶すかはっきりしなさいよ……」
俺がよしよしとしていると徐々に抵抗が小さくなっていくから、満更でもないんだろう。
「あー、フィーリアちゃん。セラリアお姉ちゃんがお兄ちゃんと仲良しだよ」
「おー、仲良しなのです。フィーリアたちも加わるのです!」
そんな声が聞こえたと思ったら、アスリンとフィーリアが飛びついてきた。
「おっと。危ないぞ」
「そうね。じゃぁ、私がアスリンを預かりましょう」
そう言って、飛びついてきたアスリンをセラリアが、フィーリアと俺が手をつなぐことになる。
「なんだか、セラリアお姉ちゃんも一緒って久しぶりだねー」
「一緒に冒険するのです」
「ええ。わくわくしてるわ」
……微笑ましいシーンのはずなのに、なぜか物騒な話をしているような気がしてならない。
そんな思いを抱いていたらさらに、アスリンたちを追いかけてきたのであろう、ラビリス、シェーラ、ヴィリア、ヒイロ、ドレッサがやってくる。
「みんなで出発だものね。まあ、子供たちの面倒をみるメンバーは残るけど」
「はい。ほぼみんな揃って旅とか、すごく楽しみですね。ねえ、ヴィリア」
「はい。楽しみです! でも、お仕事もちゃんと忘れません!」
「うん。お兄は守る!」
「ええ。覇道だっけ? そんなのを目指すやつがいるなんてね。そんなのとユキや私たちが分かりあえるなんて思えないもの。きっと戦いがあるわ」
ラビリスは何やらただのお出かけモードなのだが、ヴィリアやヒイロ、ドレッサは戦う気満々という感じで、やはり不安はぬぐえない。
「というか、お前ら空母の管理はどうするんだよ。司令官がいなくてどう運用するんだ?」
そう、ドレッサ、ヴィリア、ヒイロには空母の運営を任せているのだが、ここに全員揃っているのなら、誰が空母の管理をしているのかという問題がある。
「それなら大丈夫よ。ちゃんとローテーションを組むから。私だけが司令官を出来ても意味がないでしょう? ヴィリアやヒイロにもちゃんと経験を積ませないといけないし」
「はい! お兄様のために頑張ります!」
「お船の指示は難しそう。だけど、ヒイロ頑張る」
「……そうですか」
こっちも同じような体制で現場を離れるのか。
「ま、大将。それを言ったら、おいらたちも今の現場は部下に引き継ぐっすから。仕方ないっすよ」
「……そうだな。俺が今までいかに無茶を言っていたのかを身に染みて理解できた」
「そりゃ何よりだ」
「あんちゃんも覚悟を決めるべよ」
「だな。皆でフォローはするから心配するな。姐さんたちはみなそこらの有象無象なんか相手にならないほど強いし、そこをちゃんと信じてやれ。ウィードの連中のこともな」
そうスティーブたちに諭される。
いつまでも、単なる懸念をウジウジと考えても仕方がないのは事実だしな。
よし、ここは気持ちを切り替えていこう。
「で、セラリア。まず確認だが、セラリアたちが現場を離れてもウィードの運営には問題ないな?」
「それはもちろん。さっき渡した書類の内容通り、非常時のため待機するメンバーもいるから、たとえ何か問題が起きても即時対応は可能よ。でも、さっきも言ったようにウィードの国民の自立を促す意味もあるから。よほどの問題が無ければ私たちがウィードの運営に戻ることもないわ」
「そうか。ちゃんと準備しているなら俺から言うことは何もない。もともと、ウィードの運営はセラリアたちに任せていたんだしな」
そう、元々ウィードという場所は最終的には自立してもらって、俺の手を煩わせることなく、DPを供給してくれる場所になってもらうつもりだったし。
いよいよそのステージに歩みを進めることになるというだけだ。
「で、問題はズラブル大帝国の王都に向かう、その編成だな。セラリアたちと近衛が参加するなら考え直さないといけない」
「それは当然ね。で、そっちの編成はどうなっているの?」
「スティーブ」
「ういっす」
俺がそう言うと、スティーブはすぐに編成予定表をセラリアに回す。
「ふうん。陸戦兵器がメインね。当然といえば当然の編成ね」
「ま、その量の調整で悩んでいるところだな。近衛の方はどうなんだ? 陸戦兵器を運用させるか?」
クアルたちもちゃんと訓練をしているので、現代兵器を扱うことが可能だ。
せっかくその近衛が参加するなら、運用できる現代兵器も増えるだろう。
だが……。
「いえ。クアルたちには基本的には兵器の運用はさせずに、騎兵及び歩兵にしましょう。まあ、武器として小銃は持たせるけど、メインは剣と槍ね」
「なんでまたそんな古典的な」
「ズラブル大帝国の装備はしょせん基本的に剣と槍の可愛いものよ。その中に、地球の兵器だけを持って行っても戦力差を理解されないわ。まあ、上は警戒するでしょうけど、下はそうならないわ。ねぇ、エージル、スタシア?」
そうセラリアが2人に聞くと……。
「ま、セラリアの言う通りだと思うよ。下っ端とかはそもそも我々が持っている物が武器とすら気が付かないんじゃないかな? だから、セラリアは近衛に剣と槍をって言ってるんだろうね」
「ええ。それだけ剣と槍から根本的に武器が変化していますからね。単に戦力だけ考えれば現代兵器を装備させた方が良いですが、今回は我々の力を見せることを含め、相手と交渉するのがそもそもの目的でありますから、相手が理解できる武器を持っていくのも必要かと思います」
「なるほどな」
エージルとスタシアの追加説明で納得した。
確かに、銃なんかが武器と認識されるかは微妙だ。
だからわかりやすい剣とか槍を持っていこうってことか。
「じゃ、あとは向こうに渡す交易品とかだが……」
「それならお兄さん、こういうのがいいんじゃないですかねー」
「あと、金貨なら、交渉で使えますし、用意はできますよ」
こうして俺たちは順調に準備を整え、いよいよズラブル大帝国へと訪問に向かうことになる。
さて、面倒ごとがないといいが、それは無理なんだよな。
なにせ……。
「私もぜひ一緒に行かせてください」
そう言って、グスド王国のお姫様パルフィルもついてきたからだ。
火種にしかならん気がするが、別の意味で使い道もあるだろうということで連れて行くことになった。
まぁ、放っておいても勝手についてきそうだし、それを束縛して留めるのも、グスド王国を助けたという建前上できないからな。
あと、マジック・ギアの事での負い目もあるからな。
いや、それは俺の責任じゃないじゃん。
あとでアクエノキに謝らせよう。
外交って難しいよね。
砲戦外交って言われる時期もあれば、今はそんな武力を見せつけるのはだめだといわれる。
とはいえ、立場を使っての外圧での外交は当たり前。
いや、一般的な交渉でも同じだね。
時代と共に交渉の方法も移り変わっていくけど、砲戦外交、戦力を見せつけるってのは適切な数を出すのは難しい限りです。
人、物資、予算は全て有限。
これをこなさないといけないんだから、本当に国と国のお付き合いは大変ですわ。
まあ、嫁さん投入した時点で、過剰戦力だとは思いますが。




