第933堀:パーティー編成
パーティー編成
Side:ミリー
「ううう……」
「むむむ……」
「……すごくうれしいはずなのに、ちょっと微妙」
「……そうですわね」
基本的には嬉しそうではあるものの、思わぬタイミングで告げられたその事実にチョット悩まし気な色を含んでたり、微妙に難しそうな顔をしたりしているリーア、ジェシカ、クリーナ、サマンサの護衛メンバー。
なぜそんなことになっているのかというと……。
「我慢なさい。お腹に子供がいるんだから。迂闊だったわ、戦闘の前に検査しておくべきだったわね」
「ええ。先の戦闘訓練、旦那様があっという間に制圧してくださったおかげで、激しい運動にならずに済んだのが幸いでした」
そう、この4人、なんと妊娠が発覚したの。
見つかったのは、ユキさんにいつものように軽くあしらわれた後、誰がユキさんについていくかという議論になったんだけど、まずは健康診断ということでリリーシュ様に診てもらった結果、
『あらー。おめでとう。赤ちゃんよー』
と、妊娠を告げられたわけ。
もう全員びっくり。
そして、この4人は当然、ズラブル大帝国への調査行には不参加ということになった。
しかし、このタイミングで護衛メンバーが揃って妊娠してしまうとか、順番から言えばまぁ当然なんだけど、なかなか困ったことになったわ。
近接戦闘と魔術による遠距離戦闘のそれぞれのエキスパートがいるバランスのいい護衛チームなんだけど。そのメンバーが全員使えない。
私たちの中から補うことになるんだけど……。
「こうなると誰が行くか難しいですねぇ……。本音を言えば是非私がと言いたいんですけど、どうしても仕事がですねぇ……」
「私も出来ることなら仕事を放り出してでもついていきたいんですけど……」
「あなたたち2人が抜けたらウィードの行政が止まりかねないから駄目よ」
セラリアの言う通り、エリスとラッツが抜けるというのはウィードの心臓部が機能停止することを意味する。
いや、実際に止まったりはしないだろうけど、どうしても不安がぬぐえないのよね。
「でもさ、ラッツもエリスも今や副代表でしょ? 別に大丈夫だと思うけどなー。ほら、トーリだってポーニに任せてるじゃん」
「あのね。リエル。この2人は、私よりもずっと大事な立場なんだよ。セラリアが言うように、抜けるのは……」
「でもさ、そんなんだといつまでたっても、テファもノンも独り立ちできないよ? というか、あの二人を信頼してないの?」
「「「……」」」
グサッとくるリエルの一言。
確かに、過保護すぎるといわれればそうだ。
私たちは既に代表の座からおりているんだし……。
「確かに、当初の予定じゃと妾たち、ユキの妻メンバーはもう副代表の任期もそろそろ終わるころじゃしな。リエルの言うように、良い機会かもしれんのう。セラリアはどう思う?」
「むう。確かにリエルの言うことはもっともね。これを機に、完全に各部署を任せてみるっていうのもいいかもしれないわね」
「そうですね。病院の方も急患の対応までちゃんとできる医者もそろってきましたし、私は賛成です」
デリーユの意見にセラリアとルルアも賛成のようだ。
でも、それってすごい問題があるわ。
「まって、私のところは後任がいないんだけど」
そう。みんなのところは後任や副代表たちがいるんだけど、私が担当している冒険者区には副代表すらいなくて、私がずっと代表を務めている。
つまり、このままだと私だけついていけないってことになる。
みんな行くのに、私だけ置き去りに…
「私だってついていきたいわ! 私の立場が特殊だからって、置いてけぼりは嫌よ!」
このままじゃ私だけ置いてけぼりにされると思ったら、ついつい声が大きくなっていたようで。
「おちついてくださいな。ミリー。あなたを独りぼっちにするなどとは言っていませんよ」
「ええ。だから、大丈夫。いい加減ミリーの所も後継者問題の解決策を探さないといけないし、いい機会よ」
「ラッツ、エリス!」
私はひしと2人を抱きしめる。
やっぱり持つべきものは親友よね。
ということで、改めてユキさんについていくメンバーの選定と、仕事を抜ける際の調整をどうするのかについて話し合うことになった。
「さて、まず、全員の希望を確認しておくけど。当然全員ついていきたいのよね?」
セラリアがそう聞くと、私を含めてメンバー全員は皆揃って頷く。
私たちはユキさんの行くところならどこへだってついていく。
それが、私たちの生きる道だもの。
妻は愛する旦那様の横に常にいるのが当然のことだから。この気持ちも当然なの。
「ま、聞くまでもなかったわね。私だってできればついていきたいもの。でも、現実的に解決しないといけない問題があるわ。皆、今の仕事をどうするのか。私でいえば女王の仕事ね。流石にこれを完全放棄してユキと一緒に冒険っていうわけにはいかないわ。それともう一つ大事なのが、子供たちのお世話。これは当然私たちが解決するべき問題ね」
セラリアはそう言って、ホワイトボードに重要課題が二つと書いて、下に仕事、子供を書き丸で囲む。
「逆に言えばこの二つの問題を解決できれば、私たちは夫について行っても大丈夫ということになるわ」
そうね。仕事と子供たちのお世話。
これさえクリアできれば、私たちはユキさんと一緒にズラブル大帝国へと旅立てる。
さて、どうしたら良いのかしら、と思い悩んでいると、おもむろにエージルが口を開く。
「そこまで難しく考える必要は無いと思うよ? なにせ、当初予定していたこっそり情報収集は、ズラブル大帝国の要人がこちらに来てくれて、正式な訪問ってことに変更になったんだからね。ダンジョンで拠点を作りながら移動しては戻ってを繰り返せばいいだけだから。それに合わせて仕事の方も一定期間空けては戻るって方法をすれば、それほど問題にならないと思うよ。子供たちのお世話についても同じだね」
「そっか、これまでとは違うのね」
私はエージルの言葉に納得していた。
なにせ、今回はウィードという存在を隠すのではなく、その存在を知らしめながらいかなければいけないわけだし、しかも国の要人が赴く正式な訪問ってことになっているから、こそこそなんかしなくていいわけだ。
でも、それだけでみんながみんな納得したわけではなく……。
「しかし、ダンジョン化をして出入りするということは、他国の領土に手を出しているのと同じことです。そこはどう思いますか?」
「シェーラの言う通りです。勝手にダンジョンを展開するというのは、侵略行為とみなされかねない。ユキ様が我がフィンダールにゲートを設置した際には、まず条約を結び、正式に文章とした上でようやくです。まだ国交すら開いていない国にいきなりダンジョンの設置などすれば……」
むう。2人の言う通り、それはあきらかな侵略行為で、ズラブル大帝国との戦いになるわね。
どうしたものかと考えていると……。
「別にさ、馬鹿正直にダンジョンを設置しましたーっていわなきゃいいんじゃない? 当然、別途情報収集もするだろうし、そういった意味でも拠点は必要だし」
「そうだね。今回は正式な訪問になるんだから、そもそもそれなりの陣容でいかないと逆に問題だろうし、その数がいる中で私たちがチョコチョコ出入りしていたって分からないよね」
「……ん。その通り。セラリアはどう思う?」
カヤの言葉で視線はセラリアに戻る。
「確かにそのとおりね。要人を伴っての訪問なのだから、ウィードとしてはそれ相応の人数の護衛を送らないと舐められるわね。で、それだけの人数がいれば多少の人の入れ替わりも大して気にならないか……。ダンジョンの設置に関しては、リエルの言う通り情報収集にも使うから、設置は必須ね。シェーラとスタシアの意見は分かるけど、ここは安全のためにもダンジョンの設置はするわ。わかって頂戴」
セラリアがそうシェーラとスタシアにいうと、2人は素直に頷く。
「はい。そのような配慮の下で行うなら大丈夫かと」
「問題なのは堂々と設置することですからね。で、あとはメインの課題であるお仕事と子供たちの世話をどうするかですが……」
あ、そうだ。
まだお仕事と子供たちの事があったんだった。
「まあ、ここは素直にローテーションね。とはいえ、リエルが言ったように、後任たちに自信を持って実績を作ってもらうためにわざと私たちが不在の期間を増やすわ。私も含めてね。私という女王がいつでもいるというのは、安心感はあるでしょうけど、それに国民は頼ってしまうでしょう」
その言葉に全員が頷く。
そう、もうウィードのみんなも独り立ちできるころだと思うわ。
「さて、それを踏まえて、ウィードに残る側と、ユキについていくメンバーを振り分けるとなると、子供と妊娠組の面倒を見るメンバーが残ればいいということになるわ。ま、あと仕事の方を統括で報告を受けとるメンバーが少しいるわね」
そういうことで人数配分が決められた。
仕事の方はまとめて報告を受けるということで2人。
子育てメンバーとしては5、6人ということで話は決まった。
因みに子育てメンバーのローテーションは一日毎になっている。
だって、子供と過ごす時間が減るのは避けたいからね。
「それで残りはユキと一緒にズラブル大帝国への訪問よ。まあ、現地では車で移動することになるから、あまり問題もないでしょう。だけど、決して油断だけはしないように。ここで万一にも私たちが怪我をするようなことになれば、二度と夫は同行を認めてくれなくなるわ。夫は私たちに過保護だから」
うんうん。ユキさんはホント私たちを大事にしすぎるのよね。
そこは嬉しくもあり、もどかしくもある。
「よし。これでいいわね。まずは、初日の編成だけど……」
こうして私たちはこれからのローテーションを決めて、ズラブル大帝国へ向かうための準備を始めたの。で、その過程で……。
「ということで、ロックさん、キナ、後はよろしくね」
冒険者ギルドに顔を出して、私がしばらく休む旨を伝えたんだけど……。
「ちょっとまて!? 新築する地域の会議とかどうするんだ!?」
「そうだよ! ミリーの代わりって誰よ! 他の部署と違って代わりなんかいないんだよ!?」
私がしばらく休むと聞いた途端、ロックさんと、キナが叫び声をあげる。
「そこは大丈夫ちゃんと代役立てたから」
そう、私に代わりがいないことはずっと問題だった。
だから、ちゃんとそこはみんなと話し合って、ちゃんと代役を用意したわけ。
「え? 代役って誰だ? そんな奴いたか? キナ心当たりは?」
「そんなのないですよ。そもそも、ミリーと同じような立場の人って冒険者ギルドにはいないですし。いったい誰よ?」
「それはね。じゃーん!」
私がそう言いながらサッと手を向けると、それに合わせてスタっと私の前に飛び込んでくる人がいる。
「ぶい」
「「グランドマスター!?」」
そう、そこでピースしているのは、このロガリ大陸にある全ての冒険者ギルドを総括するグランドマスター。
私の代わりを務めるのはこの人。
「どうよ。これで文句はないでしょう? ほら、あるなら言ってみて?」
「お、お、おまっ!?」
「い、言えるわけないじゃん!?」
「ふぉふぉふぉ。ま、わしはのんびり遊ばせてもらうがの。スーパー銭湯の無料券もらったし」
「「遊ぶ気満々だ!?」」
「なに。本当に、わしやミリーの判断が必要な時は呼べばいい。そんな程度の事が出来ないほど子供でもなかろう。2人とも」
「「ぐっ!?」」
私がどうしようかと悩んでいたら、グランドマスターが偶然、執務室に来て快くその案件を引き受けてくれたの。
「ま、今までミリーにさんざん負担をかけていたことを実感して、そろそろいい加減に、後任を作ることじゃな。わしもミリーも永遠になぞおらんぞ」
「「……はい」」
私が戻ってくる頃には、後任候補もちゃんとできているといいんだけどね。
と、私はさっそく旅の準備の続きをしないとね!
何がいるかしら?
……まずは、ユキさんの身を守るためにも重火器とか戦略魔道具よね。
結論、みんなでついていく。
分かりやすい、フルメンバー体制。
ここまですれば、ズラブル大帝国でも平気だよね!




