第930堀:口を開かない理由
口を開かない理由
Side:ミノちゃん
「ということで、ミノちゃん頼むっす」
「なんでおらが尋問なんだべ? スラきちさんや、ジョン、というかゴブリンのスティーブ、お前の方がそういうのは上手な気がするんだべが?」
おらはそうスティーブから告げられた、捕縛したズラブル大帝国の指揮官たちへの尋問命令に首をかしげていた。
「いや、おいらも散々尋問したんすけどね。ゴブリンごときに話すことなどないって言うっすよ。こっちじゃ、ゴブリンとかの魔物は普通にいるみたいで、おいらの脅しじゃ全然効かないっすね」
「というかお前、雑魚がわざわざやって来たって、最初襲い掛かられてたもんな。ぶはっ!?」
スラきちさんがあの時のことを思い出して笑いだす。
「でも、結局はスティーブに取り押さえられたんだべ。それでも喋らないだべか?」
「暴力、拷問は禁止っすからね。今後交渉する可能性がある相手だから、捕虜は丁重に扱えって言われてるっす。そのおかげであの時取り押さえたのも何かの偶然って思われているっすよ。何度もやって分からせてもいいっすけど……。」
「そんな手間を掛ける位なら、おいらが出た方が早いってわけかー」
「そういうこった。ミノちゃんの姿を見れば、流石に敵さんも素直に口を開くだろうさ。で、逆にそれでも口を割らないようなら、他のやつを調べるか、泳がせる方がいいだろうって話さ」
「なるほどだべな」
おいらは最後の尋問官ってところだべな。
そして、成功しようが失敗しようが追跡をさせると。
「で、任務は理解しただべが、なんでジョンはいないべ?」
「あー、あいつは、研究所と財務会計に呼び出し食らってるからな」
「どういうことだべ?」
「研究所は、乗った戦闘機に関する報告、財務会計の方は、この前の戦闘で消費した弾薬に関してエリス姐さんに説明っすよ」
「あー……。そりゃ、大変だべな」
研究所じゃ、ナールジアさんやコメットに兵器の使用感を根掘り葉掘り。
財務会計じゃ、エリス姐さんから使った物資とその金額で色々言われるんだべな。
……ジョン、骨は拾ってやるべさ。
「じゃ、おいらは仕事に行ってくるべよ」
「おう」
「終わったら飯でも行くっすよ」
ということで、おいらはスティーブたちと別れ、尋問室へ行き、早速ズラブル大帝国の指揮官たちと話すことになっただ。
「どうも、お邪魔します」
ガタガタッ!?
俺が尋問室に入ると、先に中にいたズラブル大帝国の皆さんが驚いたように席を立って身構える。
そこには3人いて、1人は若い男性、もう一人は女性で、最後の一人は渋みの効いた中年の男性。
「ああ、そのまま座ってくれて構わないべ……ですよ」
いかんいかん。つい地元の言葉がでたべ。
方言は癖だべな。
「ミ、ミノタウロス!?」
「ち、違うわ。あのけ、毛色だとブラッドミノタウロス」
「お、お姉さん当たりです。よくご存知でしたね。私は、ゴブリンのスティーブに替わって皆さんのお話を聞くことになったミノちゃんです。よろしく頼みます」
「ミノ? 何て単純な。いや、名前のことはどうでもいい。なぜ、あのゴブリンといい、魔物が人の言葉をしゃべっている!?」
「そんなに不思議だべか? そっちだって、魔物を使役しているだべ。マジック・ギアを使って」
「なぜ、マジック・ギアのことを知っているの!?」
ふむふむ。やっぱりあんちゃんの言う通り、というか資料の通りズラブル大帝国はマジック・ギアを運用していたってことだべな。
と、その前に。
「答えてもいいですが、まず名前を教えてくれないですか? ズラブル大帝国の皆さん」
「「「……」」」
あらら、スティーブの言ったように口は堅いだべな。
「まあ、黙っているのならそれもいいです。後は解放するから好きにするといいでしょう。ただし、そちらは現在私たちの認識上、大規模な盗賊団という扱いなので、そちらから回収した物資はお返しできませんので、そこはご了承ください」
「何を勝手な! そちらこそ何者だ! こちらをズラブル大帝国と知ってのことか!」
「いや、こちらはグスド王国の要請で暴れていた盗賊団の討伐をしただけですからね。こちらのことは何も話すことはございません」
わざわざ情報を与える理由なんかないってことだべなんだが、相手の目的が多少分かっている今、必要に応じてシーサイフォとウィードの名前を出していいと許可はおりているが、こんな状況でこっちからわざわざ話すこともないべ。
「盗賊だと! 我々を!」
「いや、だって名前も所属も名乗ってくれないので、こっちとしては、単なる盗賊団として処理するしかないんですよ。今のところ、あなた方はズラブル大帝国を詐称している盗賊団という認識でしかないんです」
「「「……」」」
ま、本当にズラブル大帝国関係者なのは鑑定で判明してるんだべが、ここは本人たちから名乗ってもらわないと、こちらとしては対応できないべ。
さて、この人たちはいったいどんな選択肢を採るんだべかな?
このまま物資をこちらに奪われたままで戻れば、軍が四散したことと併せて、間違いなく首が飛ぶだろうし。
それともそろそろ口を開くか。
いずれにせよ国には戻すから、おいらたちとしてはどのみち情報収集できるからいいだべだが。
そんなことを考えていると、今まで頑として口を開かなかった渋い顔の中年の男性が口を開く。
「グスド王国の要請……。つまり、君はどこかの国の所属ということかね?」
「そうですよ」
「どこの国だ! ズラブル大帝国にたてついて無事ですむと思っているのか!」
「そう凄まれても、先ほど申しましたように、あなた方はご自身ではっきりとした身分を名乗られないので、私たちとしてはただズラブル大帝国を詐称している盗賊団としか処理できないのが現状です。なぜ、こうして捕まったのに、まだ身分を隠すのですか? それとも本当はズラブル大帝国とは関係ない方々なのでしょうか。もし本当にズラブル大帝国の方なら、そういっていただければそれ相応の対応ができますが? それとも、私たちがズラブル大帝国に問い合わせるのが問題なのでしょうか?」
「「……」」
おらがそう聞くと、二人は完全に黙ってしまうが、一番偉そうな渋い……あーもうおっちゃんにするべ。
で、おっちゃんが口を開く。
「それは、君たちならわかっていると思うが。このままおめおめと帰っても全員斬られる」
「まあ、そうでしょうね。兵士が1万人もいない港を8万で攻めたのに、失敗。しかもワイバーン部隊は全滅、魔術師部隊も相当の被害、歩兵は四散、物資は失う。普通はあり得ない負け方であり、損害ですからね。だからだんまりを続けると?」
「そうだ。それが唯一私たちに残された命を長らえる方法と考えている。例えこのまま解放されたとしても、国に戻ることは当然できないというわけだ。なので、そのまま本当に盗賊として動くしかなくなるだろう」
「お考えは分かりますけど、この前の戦闘で兵は四散しています。魔術師も何人かは撤退していますから、何れにしろこの大敗をズラブル大帝国本国に知られないというのはあり得ないと思いますが?」
「……」
おらの返しにおっちゃんも言葉を失う。
結局、この3人にはまともな未来はないと思っていいべ。
……ここいらで、あんちゃんの作戦を始めるとするべ。
「さて、ではここで提案です。あなた方が協力してくれるのであれば、身の安全を保障しましょう。どうせ、このままでは死ぬのです。私の前に担当していたゴブリンにすら勝てなかったのですから、私を倒してというのも現実的ではない。どうでしょうか?」
そう、あんちゃんから伝授されてた懐柔策だべ。
相手から直接、今のままでは死ぬしかないという発言が取れたべ。
つまり、軍人の矜持に従って覚悟を決めているだけで、助かる道があるとなれば……。
「……私は我が誇りに掛けて国に身を捧げたのだ。そのような申し出は受けられない」
「なら、なぜ素直に名前や所属を明らかにしないのですか? それこそ、国の意思に反しているでしょう。軍が全滅した事実は早急に伝えなければ、国の危機ですよ?」
「……」
「その沈黙は肯定と受け取りますよ。まあ、この近所で盗賊に身をやつすなら、今度こそ命を取らせてもらいますが」
おらがそう言うと、おっちゃんではなく、兄ちゃんが思わず立ち上がって……。
「司令、なりません! この誘いに乗ることは国に背くことです!」
いやー、今の時点で既に国に背いているんだけどなー。
というツッコミなどせずに、単に若いなーと思っていると。
さすがに姉ちゃんが……。
「黙りなさい。それは司令が決めることですわ。既に、私たちは単なる敗残の兵で、立場なんかないも同然。正直下手に国に戻るより、ここで全滅したとしたほうが、家族親類に対する風当たりもまだ弱いはずですわ」
「しかし!」
「なら、ここで単に解放されてどうするというのです! このまま戻ることもできない、ミノの言う通り、盗賊にでもなるつもりですか!」
「そんなことは……、ですが!」
なんか二人で言い合いをはじめたべ。
まあ、死ぬか生きるか、国か自分の命かってところだべだしな……。
じゃ、ここでさらにもう一発だべな。
「そうですね。悩んでいるようなので、もう一つ。ズラブル大帝国の将兵として話をしていただけるのであれば、私たちはあなたたちの身柄をグスド王国に渡すことはしないと誓いましょう。そうなれば、敵討ちなどで襲われることもないでしょう」
「……それは、グスド王国をないがしろにすることになるが、良いのか?」
「今回、私たちが戦いに参加したのは不可抗力なんですよ。つまり、元々は私たちはズラブル大帝国のみなさんと戦うつもりはなかったのです」
まあ、一応の事実とはいえ、セラリア姐さんとかは略奪をしていたズラブル大帝国にはたいそうご立腹だけどなー。
だけど、戦力の総数が絶対的に違いすぎるから、こうして話し合いをして事情を聴いて、マジック・ギアの存在もしっかり把握しないと、状況が泥沼化する可能性があるから、こうした作戦をとっているべ。
さすがは、タイゾウさんだべ。
もちろんあんちゃんや、タイキも考えてくれたんだべだが。
で、おっちゃんの応えはというと……。
「つまり、君たちと私たちは偶然不幸なぶつかり合いをしてしまったが、物資は預かってくれているだけ。ということでいいのかな?」
「ああ、そうですね。食中毒、あるいは疫病が発生して、軍が極度に疲弊していた上に、責任者は既に死亡。そこに、オーレリアにいたグスド王国のものと思しき軍と出合い、止むを得ず交戦となったが、捕縛された。ってことでどうです?」
「なるほど。といいたいが、そんなことがまかり通ると思うのかね? 君たちは自分自身で言った様に、もう逃げだした者たちがいると」
「物資をある程度持って帰れば事実と認識されるでしょう。しかもオーレリアにいて戦闘を行った相手はグスド王国じゃなかった。我々だった。あなた方は所属も国も分からない相手であろうが独断で戦争を仕掛けていいとまで、政治的判断を任されているんですか?」
「そういうことか。確かに、我々が受けた命令は、あくまでグスド王国残党の始末だ。知らない国の勢力があり、関与してきたとあっては、まずは上の指示を仰ぐのは当然ということか」
よしよし、うまくいったべ。
「じゃ、改めてお聞きしますが、あなた方は何者でしょうか?」
「失礼をした。私はズラブル大帝国軍、第2方面軍所属、司令官のヴォル・ウィーラーという。以後、お見知りおきを。で、ミノ殿の所属を聞いてもよろしいか?」
「はい。私は……」
こうして、ようやくズラブル大帝国との話し合いが始まったんだべ。
こうして、ユキの汚い、いや正攻法な交渉の末、ズラブル大帝国の偉い人との交渉ができるようになりました。
さてさて、冒険がいよいよ始まるよ!
今度こそ本格的な冒険になるといいね!




