第929堀:事情聴取
事情聴取
Side:ユキ
さてさて、随分厄介なことになってきた。
いや、前からわかっていたのだがというべきか……。
俺はどうあがいても、この世界の神とか名乗る生物どもから迷惑をかけられる宿命のようだ。
今回の原因の神というのは……。
「さあ、さっさと吐きなさい」
「そうよ! アクエノス……じゃなかったキ!」
「まて、最初の名前であっているぞ! アクエノス! アクエノスだ!」
そう、目の前で尋問を受けているアクエノキ。
ハイレ教の教徒を洗脳し、マジック・ギアを製造させた、神を名乗るこの生物だ。
その前には、ハイレンたちと激闘を繰り広げたりして、俺の中での迷惑度ランクではあのルナにも匹敵するといっても過言ではない。
とはいえ……。
「アクエノキ。お前ってマジック・ギアを作るように指示しただけで、結局どれだけ生産したかまでは知らないんだよな?」
「ん? ああ、私がハイレにいたころは、魔物を作り出すためではなく、コアを作り出してダンジョンの権能を持とうとしていただけだからな。アレはあくまでその過程で出来た副産物だ。そんな失敗品のその後のことなど知らん」
そうはっきり答えるアクエノキ。
ここまでバッサリと答えているやつが嘘を付いているとは思えない。
つまり、アクエノキをどれだけ問い詰めても、シーサイフォから輸送された数なんかわかってないってことで、結局ズラブル大帝国がどれだけマジック・ギアを保有しているかも不明というわけだ。
だが、その言葉を素直に信じられない者も当然いて……。
「あんなもん作っておいて、知らないじゃないのよ。マジック・ギアのお陰で私たちがどれだけ迷惑被っていると思っているのよ!」
「そうよ! 結婚したばかりなんだから、空気読んで思い出しなさい!」
「そうだよ! ミコスちゃんたちの恨みを思い知れ!」
「まて、小娘ども! そんなに揺さ振る……」
「お黙りなさい。振れば少しは思い出すかもしれませんからね」
「ちょっ!? まっ!!」
ガクガクとカグラたち新大陸ご一行に拷問?を受けるはめに陥ってしまっている。
ま、それも当然だな。
ズラブル大帝国がマジック・ギアを使って躍進したことがばれれば、各国から大ブーイングの嵐だ。
大陸間交流が始まったばかりで、こんな失態は何としても隠し通したいだろう。
まあ、バレたところで別に新大陸組に責任があるわけじゃないから、追及など来ないだろうが、それでも居心地は悪いだろう。
俺らとしても、新しい大地の同盟者として各国に受け入れを要請した手前、こういうのは気まずい。
「で、どうするのよ。アクエノキは何もしらないみたいよ? まさか、このことを素直にグスド王国に話すわけにもいかないし」
セラリアも珍しく困った顔になっている。
それもそのはず、単にグスド王国とズラブル大帝国の戦争に巻き込まれたと思っていたのだが、ふたを開けてみれば、ズラブル大帝国が力を得て攻め込んできた原因がマジック・ギアにあるものかもしれないと分かったんだからな。
「そりゃ、マジック・ギアのことを隠し通すなら、相談するわけにもいかないだろう。幸いズラブルの指揮官たちはとらえているんだし、詳しい情報を聞き出している最中だ」
「聞き出している、ね。もう捕まえて2日も経っているんだから少しは情報がないのかしら?」
「ま、相手は歴とした軍人さんだ。口は堅いようだ」
「それはそうね」
「しかし、命令書は確保している。その内容は、グスド王国のオーレリア港を確保して、マジック・ギアの輸入を最優先で確保しろだってさ」
今回の、ズラブル大帝国の目的ははっきりとした。
グスド王国残党の討伐ではなく、マジック・ギアの確保が大事だったわけだ。
「向こうはやっぱりマジック・ギアの有用性を理解して輸入していたわけね。まあ、当然ね。あれだけワイバーンを使役していたんだから。……なんとなく、状況が読めてきたわね。ズラブル大帝国にとってグスド王国からもたらされるマジック・ギアの価値は計り知れない。しかし、そのグスド王国の友好国と戦争になり、グスド王国がその国の支援にまわった。その際に……」
「オーレリア港からのマジック・ギアの供給が止まった。まあ、グスド王国としてはただの敵対国に対する物資止めの一つだったんだろうが……」
「マジック・ギアで魔物を使役して国を拡大しているズラブル大帝国にとっては、死活問題になったのね。だから、一気に攻め落とした。万が一にも、マジック・ギアの真価をグスド王国には知られたくないから」
「ま、妄想の域ではあるけど、間違ってもいないだろう。その価値が分からないものっていうのは多いしな。グスド王国も結局マジック・ギアを使って抵抗するということはなかったから、最後まで何も知らなかったんだろうな」
Side:セラリア
夫の言う事はよくわかる。
夫と出会ってから、随分色々といままで必要ないといわれていたものの有用性を知って、どれだけ自分たちが無知だったのかを知った。
石油とか鉱物とか特にね。
「こうなると、グスド王国の滅亡は必然だったとみるべきかしら? ズラブル大帝国にしてみれば、マジック・ギアの確保のために輸入できる港を手に入れるっていうのは絶対に必要なことだもの」
「まあな。でも、相手を無用に刺激することにもなるから、取り込むって方法でも良かったはずだ。そこをあえて強行手段ともいえる戦争に踏み切ったのは不思議だな。実際、マジック・ギアの輸入元であるシーサイフォの使節団までまとめて始末する可能性もあったわけだ」
確かに、そう言われるとそうね。
グスド王国はシーサイフォを拘束して、逃亡に協力しろと迫っていた。
「まあ、そういうのは戦争にするかしないかの判断に比べれば軽いから、不問、問わないっていう結論の可能性もあるけどな」
「そうね。グスド王国が拘束していたために起こった使節団の全滅の責任を問うよりも、輸出先として交易したほうが被害は少ないものね。となると、やっぱり単にグスド王国からオーレリア港を奪うために攻めてきたってことかしら?」
「憶測でしかないけどな。だが、やることははっきりとした。カグラ、ミコス、エノラ、スタシア。それを問い詰めるのはもういい。話がある」
「「「はい」」」
「ぐへっ!?」
夫がそう言うと、がくがくと揺さぶっていたアクエノキを即座に放り出してこちらにやってくるカグラたち。
「とりあえず、それは指示を出しただけで把握してないってことで間違いないか?」
「ええ。でも揺さぶったおかげか、コアもどきをどれだけ出したかは思い出したみたい」
「まじか」
私もびっくりよ。
まあ、どこまで信頼できるかは、伸びているアクエノキを見る限り悩ましいけど、カグラたちが聞き出したということが驚きね。
「で、何個なんだ? 確実性は?」
「とりあえず、何個コアをだしたのかって聞きましたよ」
「失敗作もあったでしょうけど、総数としては覚えていたみたいね。そこはくさっても神様なのよね」
「はい。その数234だそうです」
「234って、やたら具体的だな」
「そうね。なんで234なわけ?」
私も気になってその情報を聞き出した経緯を聞くと。
「あー、ミコスちゃんがどれだけ失敗したかすらも覚えてないの? このへなちょこ自称神が! 頭もボケてるんだね! って言ったら」
「ミコスの挑発に乗ったアクエノキが失敗した数ぐらい覚えていると言って……」
「なるほど、それが234だったわけか。というか、魔物の召喚に転用したのは偶然か? おい、アクエノキ、起きろ」
ユキはそう優しくアクエノキに声をかける。
「……最初から起きている。お前の女どもはなぜこうも乱暴なのだ」
「いや、お前に言われたくないと思うぞ」
ユキの言葉にカグラたちが一斉に頷く。
「話は聞いていたな。俺の嫁さんたちが超かわいくて美人なのは仕方がないとして、234個のダンジョンコアを最初から魔物の召喚装置としてつかうつもりではなかったんだな?」
「いや、一言もお前の女たちがかわいいとか美人とかいって……」
「「「さっさと答えなさい。アクエノキ」」」
「もともと、ダンジョンコアを使って私の体を再生するのが目的だったのだ。だがなかなかうまくゆかず、ついでにダンジョンコアの魔物召喚を使えばたとえ体が無くても勢力拡大ができるのではと思って転用を始めた」
「「……」」
あまりに素直に喋るので、なんとなく悲しくなってきたわね。
多少は敵として矜持をもっていたと思ったんだけど……。
「……嘘とは思っていないが、本当か? それと、その素直さ。悲しくならないか? あれだけその体を得たときにはふんぞり返っていたのに」
「うるさい。私とて、戦力差は理解している。そして、私は無為に民を傷つける気はないからな。あの道具のことで民が迷惑を被っているようなら話してもいいと思っただけだ」
なるほど、そういう線引きね。
私はそう納得したのだけれど……。
「はぁ? ふざけるんじゃないわよ! あんたのおかげでハイレ教の信徒や一般の人がどれだけ犠牲になったと思っているのよ! 私だって……! 今更いい人面しないでよね!」
アクエノキの今更お前何を言っているんだよというセリフを聞いて、文字通り当事者だったエノラが激怒して怒鳴る。
当然よね。エノラは捕まって拷問をされていたんだから、その過程で多くの仲間の死も見届けてきたのだから、怒らないわけがない。
「いい人のつもりなぞない。私はただ、私の信ずる神のために戦っただけだ。そして、あれは敵対者の始末をしていたにすぎない」
「このっ! 都合のいいことを!」
アクエノキにとっては当然のことなのでしょうが、エノラにとっては怒りを爆発させるのには十分だわ。
だが、問題点が一つある。
今のエノラはウィード式のレベルアップ祭りをしていて、ただの人に戻ったアクエノキとは、実力において隔絶した違いがある。
まあ、もちろんアクエノキだって人っであった時にそれなりに敵対者を倒し人々をまとめ上げて国王になったのだから、死なない可能性はあるかもしれないけど。
怒りで我を忘れているエノラの一撃を無防備に受けると、さすがに首から上が消し飛びかねないわ。
「エノラ!」
それをカグラも分かったのかとっさに止めに入るが、いきなりすぎて間に合わず、凶器の拳が……。
ぽむっ。むにぃ、むにぃ。
「はいはい。エノラ、落ち着け」
「ひにゃ!?」
スッーっとユキが頭に手を置いて、そのままケモミミを触ったことでエノラの拳が止まる。
「にゃ、にゃにするのよ!」
「いや、撲殺されても困るからな。アクエノキはまた解放して、中級神派の連中を集めてもらわないといけないからな」
「むぅぅ……」
ユキが相変わらず冷静に淡々と答えるので、エノラは振り上げたこぶしを下におろす。
「……お前は今までの話を聞いて、何も思わんのか?」
「何も思わないというのは間違いというか、最初からその程度想定していたって感じだな。別にお前にはお前のルールがあった。それだけだ。そしてそれで優劣が付いた。それだけのことだ」
「それでも、お前の女は不満そうだが?」
「今、お前を殺しても何の得もないからな。俺は最後まで利用するのが好きなんだ」
「くそっ、俺は絶対に連絡など取らんぞ」
「おう。今の一言で連絡ができる相手がいるってことが分かったからありがたい」
「なっ!? そういう意味で言ったのではない!」
あーあ、相変わらず手玉にとられているわね。
まあ、アクエノキへの尋問はいいとして。
「さて、あとは捕虜にした敵への尋問だな。マジック・ギアを餌にして話してみるように、スティーブたちに言ってみるか」
「そうね。これでズラブル大帝国と多少話し合いが出来ればいいのだけれど」
なぜ、マジック・ギアをもって覇道を目指したのか。
願い事を叶える何とかボール。とはいかなかったけど、まあある意味願いをかなえるための道具に使われているマジック・ギア。
その総数は234。
まあ、全部が全部ってわけじゃないだろうが、これは更なる面倒な予感。




