第928堀:戦力の正体
戦力の正体
Side:セラリア
「……正直思ってたよりも遥かに状況は深刻ね」
「そうだな」
思わず呟いた私の言葉に相槌を返す、夫のユキ。
私たちは今、グスド王国のメンバーとの会議を終え、今後の方針について話し合っているのだけれど……。
「改めて本人たちから話を聞いたけど、結局ほぼ情報なしだからな」
「まぁ、そもそももう終わっているも同然の国でしたからね」
「それだけ、ズラブル大帝国に力があったということだ。だが、私たちにとってはただ単に迷惑な話でしかない」
タイゾウはそう言いながら、ホワイトボードに今後の方針と対策と書いて、こちらに振り返る。
「さて、ウィードの方針を確認していきたいと思います。セラリア女王。先ほどのグスド王国とのお話しでも宣言したように、撤退するという選択肢はないのですね?」
「ないわね。ここは新たなる大地への橋頭保。そこを失うわけにはいかないわ。それに、ズラブル大帝国が海を越えて攻めてこないとも限らない。それを含めて考えると、このオーレリア港は防衛線として有効に使えるわ」
「ふむ。となると、このオーレリア港の防衛は絶対ということですな」
キュキュっと、ペンを走らせて、オーレリア絶対死守と書き込まれる。
当然ね。この港を失えば、私たちはこの大陸での足場を失うことになるもの。
というか……。
「あのお姫様たちが全く戦力にならなかったのは残念だけど、おかげで私たちが口をはさむというか、主導権を握れるようになったのが、唯一の利点よ」
まぁ、本当にそれだけが唯一つの利点なのよね。
他は全てマイナスでしかなかった。
「確かに。今回の話し合いでグスド王国の残党にはほぼ戦力が無いことが確認でき、今後は私たちウィードが主体で作戦行動をできるようになったのは幸いです。中途半端にグスド王国からの要請として無茶なことを言われるようなことはありませんからな。とは言え、グスド王国を抱き込んでこの大陸に進出したのですから、それ相応の配慮はいるでしょう」
「まあ、それもやがて考えなければいけないことでしょうけど、今すぐというわけではないわ。逆にグスド王国と国交を持てたことを喜びましょう。ゼロから繋がりを模索するよりは遥かにましよ。というか、そうとでも考えないとやってられないわ」
「確かに。では、前向きに考えまして、私から提案できるものは……」
タイゾウは再びホワイトボードに向かい、いくつかの項目を箇条書きで書き込んでいき、それが終わると振り返り。
「これまでの想定と内容はさほど変わりがありませんが、基本的には少数精鋭での情報収集。そして、ズラブル大帝国上層部と何らかの接点を持ち一度話し合う必要がありますな。このまま戦うにしても、相手にはきちんとウィードと大陸間交流同盟が対峙しているという認識をもたせるのが大事でしょう。上手くいけば……」
「そのまま停戦って可能性があるわけですね。でも、タイゾウさん。大陸間交流同盟って持ち出していいんですかね?」
「そこは、セラリア女王やユキ君の判断だが、元々はシーサイフォの要請としてこちらに来ているので、同盟加盟国への協力要請として、各国から兵を借りることもできるでしょう。まぁ、新大陸の方は疲弊していますが、最近のロガリ、イフ大陸の国々は戦争がほぼ無くなってきているので、軍隊の存在価値を問われることも多い。そこを利用すれば……」
「兵士も数を揃えられるというわけね。とはいえ……」
私もホワイトボードに近寄ってズラブル大帝国の戦力内容と書く。
「問題は、敵が本物の航空戦力を持っていることよ。昔ながらの隊伍を組んだ軍だけでは、たとえ大陸間交流同盟でも厳しいものがあるでしょう。かといって、ウィードの方で対空兵器を全軍に配備するだけの余裕はない」
「そこが問題ですな。しかも、ほとんどの兵士が銃火器については無知。そこの認識を改めるだけでもひと苦労です。さらに銃器の訓練までを考えると……」
「とても現実的じゃないわね。しかも、その武器の供給もウィードが主体にならざるをえないし、こちらも回らないわ」
ついでに、同盟国にそんな強力な武器をむやみに貸し与えたりすると、そっちはそっちで新たな問題が出てくるのは目に見えているわ。
つまり、今回のズラブル大帝国との戦いには主力として大陸間交流同盟から軍を借りるというのは厳しいとみるべきね。
制空権を確保できない限りは、地上を進むだけの軍なんてただの的だもの。
タイゾウの言う通り、要請すれば昨今の平和な状況に喝を入れるべく喜んで軍を派遣してくれるでしょうけど、それがあっという間に全滅したとあっては、ウィードの信頼低下にもつながる。
そもそも、その借りた軍全てを養う物資の供給も問題だ。
予算がないのよ。
と、考えていると、タイキが口を開く。
「あ、でも今回、数万の敵軍をダンジョン支配下地域で倒したから多少なりとDP入ったんじゃないですか?」
「残念ながらダンジョン内部じゃないからな。回収率は随分落ちているな。そして、今考えてる銃火器や軍隊の必要物資分に追いつくかっていうと完全にノーだ。さっきの戦闘だけでエリスがひっくり返っていたからなぁ」
エリスは今回の戦闘で使った物資の一覧表を見て顔が青ざめていたものね。
まあ、私ももし会計部署だったら同じようになっていた確信があるけど。
「物資の供給にも限度があるとなると、やはり少数精鋭でズラブル大帝国への殴り込みぐらいしか解はありませんな。敵の頭を刈り飛ばす。これがウィードが実質的に取れる唯一の策でしょう」
タイゾウはそう言いながら、ペンで少数精鋭での敵首脳陣の殺害と書き加える。
そうしながらも、タイゾウは難しい顔をしている。
「ただし、この作戦が有効なのは、前提条件として、ウィードの個別戦力がズラブル大帝国のそれを圧倒していることです。わずかにでも拮抗するようなことがあれば、逆に数で押しつぶされます。今まではそういうことはなかったのですが、今回は航空戦力を保有している国家が相手です。むやみな突撃では兵をいたずらに失う事になりかねません」
「それは分かっているわ。そのためにもきちんと情報収集をするということでしょう?」
「そうですな。まあ、幸い、ズラブル大帝国の将官や兵士、そしてワイバーンなど、情報源となるモノは沢山あります。先の戦闘の情報をとりあえずざっくりと拝見しましたが、今のところは敵となるモノはいないでしょう」
タイゾウは基本的には安全だといっているのだが、その視線の鋭さは変わっていない。
「しかし、どんな豪傑も英雄も、ふとした瞬間にぱったりと倒されてしまうものです。くれぐれも油断だけはしないようにお願いいたします。まあ、ユキ君なら、そういうトラブルは当然想定しているだろうが」
「まあ、流石にいつでも自分たちが優位に立てるなどとは思っていませんよ。で、話を情報収集の方に移しましょうか。油断せずに敵首脳陣の首を刈り取るにしろ、交渉するにしろ、きちんとした敵の情報が必要不可欠。ということで、まずは、オーレリアに攻めてきたズラブル大帝国軍の情報です」
ユキはそう言うと、スティーブが持ってきた資料を私たちに配る。
そこでまず目についたのは……。
「軍の平均レベルは20前後。って意外と高いんですかね?」
タイキが言うように敵軍の平均レベル。
「そこは分からんが……ふむ。最高で153となると、これはかなりの強さですな。セラリア女王はいかがですか、この内容は?」
「まぁ、私の祖国と同じぐらいね。兵士の平均レベルは23前後、ロシュールのレベル最高は近衛隊長であるアレス・レスターの120ちょっとよ。資料を見る限りはロガリ大陸のレベルと変わらないといっていいでしょう。でも、それでも不思議な点があるわ」
確かに、レベル153というのはロシュールでもいないほどの高レベル者。
とはいっても、なにより私が気になった点は……。
「あなたが気が付かないわけないと思うけど、この程度のレベルでワイバーンを多数使役できるわけがないのよ。ワイバーンはたとえ一桁レベルでも、レベル40台の冒険者PTでようやく討伐できるというほどの魔物よ。なのに……」
「あっ、そういえばおかしいですよね。この程度のレベルだとそもそもワイバーンを捕まえるとかできないですよね? でも、もしかしたらそいつらはジョンたちの航空攻撃で消し飛んだとか?」
「まあ、その可能性はまぁなくもないだろうが、元々こういった魔物や狂暴な野生動物は調教師などがいて飼いならしているという可能性もあると思うが? 地球でも動物を戦力として戦場に持ち込むことは歴史上珍しくない」
「え? そうなの?」
私としては大発見をしたつもりだったのだけど、それ以上にタイゾウのその話に驚いてしまう。
「セラリア女王。こちらの世界でも、魔物を捕まえて見世物にするというのはあると思うが? レベル差があっても」
「ああ、確かにそういうのはあるわね」
いわれてみればその通りだ。
アスリンほどではないにしても、魔物を捕まえて使役するテイマーという職もあるのだから、そうやってワイバーンを使役していてもおかしくはないってことね。
「はぁ、すごい発見をしたつもりだったのに」
私が思わずそんな風にがっかりしていると……。
「ああ、それは間違いなくセラリアの直感が当たっているぞ」
「どういうこと? タイゾウが言うように、アスリンみたいなテイマーがいて繁殖、調教に成功したって可能の方がまだ高いと思うわよ? なのになぜ断言するの?」
「それは、今スティーブが持ってきた資料の2ページ目をご覧ください」
「「「2ページ目?」」」
そう言われて、タイゾウたちとほぼ同時に資料をめくると、そこからは敵から鹵獲した物資の一覧で、数ページはありそうな……って!?
「「「マジック・ギア!?」」」
そう、その一覧の先頭には蛍光マーカーが引かれ、そこには確かにマジック・ギアと書かれていた。
「タイゾウさんの言うように、ワイバーンの繁殖に成功したっていう可能性も確かにあるだろうが、捕まえた指揮官が持っていたからな。関連性は明らかにこっちの方が高いと思う」
「いや、どう見てもワイバーンとかを使役出来ていた原因だとおもいますよ。これ」
「同じくだな。私の意見を支持してくれてありがたいが、私も間違いなくこれが原因だと思う」
「というか、なんで今この時点になって言うのよ!」
「いや、グスド王国と会議中にわかったことだからな。敵軍8万の放棄した全ての物資を回収した上で、それらを細かく調べてようやく出てきたんだ。それに、流石にあの場で、敵が強力だったのは、シーサイフォから流出した物が原因なんてことグスド王国の連中の前で言えるか?」
「「「……」」」
とてもじゃないが、そんなこと言えるわけない。
同席していたシーサイフォにだって言えないし、その上、カグラたちの祖国ハイデンやエノラが務めているハイレ教の立場が非常に悪くなる。
「はっ!? メノウとレイク将軍はいないわよね!?」
私はとっさに振り返り確認するが、そこにはシーサイフォの二人の姿は確認できない。
「お二人は、グスド王国との会談が終了した時点でこの事態を伝えにシーサイフォ王都に戻られています」
と、キルエが教えてくれてほっとした。
で、問題は……。
「……ああ結婚早々、なんでこんなことに」
「国際問題なんて生易しいもんじゃないわよ。下手するとハイレ教、もう終わりかも……」
真っ青になりながらそう呟いているカグラとエノラ。
「しっかし、本当に神ってやつは祟るな」
ユキの言葉には心から同意するわ。
どこまでも邪魔してくるわね!
アクエノキ!
「直ちにアクエノキを引きずり出してきなさい! どれだけ生産したのか吐かせるのよ!」
どこまでも奴らは祟ってくるのだ!
何をしてでもやってくる!
くる、きっとくる!
まあ、そこはいいとして、ポケモン始まったね! ひゃっはー!
必勝ダンジョンのゲームもフルボイスでコラボイベント始まったし、いやー忙しいね!




