第924堀:航空戦
航空戦
Side:ジョン
ゴォォォォ……。
バーナーなのか、それとも外との空気の擦過音なのかはわからないが轟音が響く。
辺りは一面、白い雲海に包まれていて、他には何も見えない。
不思議な世界だ。
雲のさらにその上にこんな世界が広がっているなんてな。
月と星空、そして雲しかない世界。
しかし、そんな不思議な体験もこれまでのようで……。
『こちらCIC、ビショップより、各機、機体コンディションを知らせてください』
「こちらオメガ隊。1から8、全機オールグリーン」
俺は直ちに無線でCICに応答する。
『戦闘機に僅かでも不調を確認したら即座に戻ってください。間違っても無理はしないように。こちらでも機体コンディションは確認していますので、隠そうとしても無駄ですよ』
そう、俺たちは今戦闘機に乗っている。
その理由は……。
『では、改めて作戦全体の説明をします。目標はオーレリア港に肉薄している8万5千のテロリスト集団の排除です』
オーレリア港に迫るズラブル大帝国の軍をとりあえず撃退するためだ。
とはいえ、たった8機の編成で8万5千もの軍勢の全てを片づけるなどというとんでもない無茶をしろという話ではない。
『我々、オメガ隊の作戦目標は、敵航空戦力、対空兵器及び対空攻撃手段を持つ兵員の排除です』
敵航空戦力としての空を飛ぶ目標はもちろん、航空戦力に対する脅威全てってことだ。
この説明からも分かると思うが、敵はなんと航空戦力を保有している。
なぜ、そんなことが分かったのかというと……。
『ユキ様のダンジョンを利用した広域索敵により、敵軍の構成は既に判明しています。作戦開始前も説明したとおり、敵にはワイバーンを中心とする航空戦力が存在しています。今までの敵とは段違いの危険度です。オメガ隊はこれを確実に撃墜あるいは無力化してください』
そう、ユキ大将のダンジョン化能力のおかげだ。
魔物を大量に駆り出すなんかより、よっぽど役に立つ。
『電子レーダーによる敵味方の識別をするIFF機能は使えませんので、コール画面のMAPを利用して作戦を遂行してください。なお、MAPの見過ぎによる墜落とかのバカなことが無いようにお願いいたします』
「了解。というか、ビショップ。さっきから俺たちなんかより機体の心配していないか?」
『当然です。その一機がいくらすると思ってるんですか。墜落なんかしたら、たとえ死んでいてもアンデッド化して、原因の調査と始末書だけはきっちりと書かせますからね』
「よし、全機、無事に生きて帰るぞ。死んだあとまで書類仕事の山とか嫌だろう」
『『『おう!』』』
その地獄送りより恐ろしい宣言に、気合の入った返事が各機から返ってくる。
誰だって死んだ後まで延々と書類仕事とかしたくはないよな。
『もうすぐ作戦区域です。これより後続が敵要人をとらえる為に動きます。後続部隊の安全はオメガ隊の働きにかかっています。迅速な作戦の遂行を』
「どんどん難易度があがってないか!?」
いや、ここで初めて聴かされるわけじゃなく、当然作戦内容は知っているんだけど、次から次へとポンポン言われるととにかくせかされている気がする。
『最初から皆わかってたことですよね。それに、時間は限られています。オメガ隊は作戦区域に到達次第、速やかに作戦を開始してください。後続部隊の到着まで残り10分』
「あーもう、ビショップ覚えてろよ!」
『作戦中の私語は慎んでください。コールMAPに警戒中のワイバーンを5機を確認。最優先で落としてください』
「了解! 全機予定通り、対空戦と対地戦で部隊を分ける。行くぞ!」
『『『了解』』』
その返事と同時に急速降下を開始、雲を抜けて敵軍の直上に出る。
『8万って言っても、そんな数がいるようには見えないですね。隊長』
「別にその8万が広域に展開しているわけじゃないからな。あくまで集団戦闘のために隊伍を組んでいるから展開範囲は精々大きい競技場ってぐらいだ。それに俺たちはお空の上だからな。近づけば印象もまた変わるだろう」
遥かに高い空の上から眺める軍勢は8万といえどただの一塊の点にしか見えない。
『雲が晴れて良かったですね。暗がりだとさっぱりでしたよ』
「いつ暗闇に戻るか分からん。その時は計器を信頼しろよ。自分の感覚に頼るな。墜落するからな」
『『『了解』』』
とはいえ、かなりの速度で飛んでいる俺たちはすぐに8万の軍に接近し……。
「オメガ1、エンゲージ。目標をロックオン。FOX2、FOX2」
『オメガ2、エンゲージ。FOX2、FOX2』
接近してくるワイバーンに向かって赤外線誘導のミサイルを発射する。
敵ワイバーンはこちらのジェット音には気が付いたようではあったものの……。
ズドォォン、ズドォォン!
「ミサイルの命中を確認。敵機撃墜」
『こちらビショップ。敵マーカー2個の反応が消えたのをこちらでも確認しました。空に上がっている敵は、残3……』
『オメガ分隊より、敵機3機撃墜』
俺とは違う方向に下りていたオメガ分隊が残りを撃墜したみたいだな。
『敵機全機撃墜を確認しました。制空権を確保。作戦を第二段階に移行。現状を維持しつつ、敵の対空戦力を削ってください。対地目標をマーカーに表示します』
ビショップより告げられる第二目標。
コールMAPに表示される目標。
『特にワイバーンが待機しているTAGは最優先でお願いします』
「了解。各機、残り4分で可能な限り削るぞ。後続に文句を言われたくないからな」
『『『了解』』』
「敵の対空攻撃に気を付けろよ。敵飛翔魔術師隊も……上がってきたな」
厄介だな。
敵軍には航空戦力として飛翔魔術を使う部隊も運用しているようだってのは聞いていたが、本当だとはな。
幸いなのはその数がそれほど多くはないところか。
『各機、飛翔魔術部隊が上がってきました。的が小さいので攻撃は誘導魔術弾で対応お願いします』
「まともに相手するな。戦闘機の速度で振り切れ。我々の任務はワイバーンを仕留めるのが最優先だ。オメガ5、6のみ空戦遊撃に出ろ。敵に合わせて失速したり、人にぶつかって墜落するなんて無様な真似はするなよ」
『『『了解』』』
ドンドン……。
そんな爆発音が聞こえてくる。
部下の攻撃か、それとも敵の攻撃かわからんが、まずはワイバーンの駐留地点への攻撃だ。
「空対地ミサイル発射!」
『弾着を確認。命中です』
一発幾らなのかはとても怖くて聞けんな。
ともかく、目標はまだまだいるので、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
「アイテムボックスより給弾を開始。給弾成功。再度発射」
『発射を確認。弾着を確認、またも命中!』
と、そんな感じで反復攻撃で対地攻撃を繰り返し……。
『攻撃目標の反応は全て消失、敵ワイバーン隊の全滅を確認、流石マーベ〇ック恐ろしい命中精度ですね』
「ビショップ。まだ戦闘は終了してない。上がってきた飛翔魔術部隊は?」
『オメガ5、6が迎撃中。およそ300を撃墜。残りは1200』
ちっ、思ったより残っているな。
「空中対人用誘導魔術弾の動作不良か?」
『いえ、問題なく稼働していますが、数度のアタックをした後、敵が散開したようです』
なるほど。敵さんもバカじゃないってことか。
的が散らばっているなら、まとめて片付けるのは不可能だな。
しかし、やけに数が多いな。残り1200か。
「敵の飛行速度は?」
『およそ50キロ。戦闘機の相手ではありません。後続の到着まであと2分。なるべく敵を削ってください』
「了解。各機、オメガ5、6の支援を。後続の安全を確保するぞ」
『『『了解』』』
「うあぁぁぁあ!?」
「ひぃぃぃ!?」
人の悲鳴ってコックピット越しでも聞こえるもんなんだな。
いや、表情を見てそう聞こえたように思っているのか……。
それはともかく……。
『残り800。思ったよりも落ちませんね』
「敵は小隊単位で散開して動いているからな。誘導弾の有効範囲じゃ、ちまちまやるしかない」
敵は既に一か所に固まる不利を悟り散開しているので、撃墜数が8機トータルでもそこまで上がっていなかった。
『気化爆弾が使えれば……』
「そんな攻撃をすれば敵要人も含めて全て吹き飛ばすことになるからな」『A-10を主軸とした制圧部隊、作戦区域に到達を確認』
「こちらもレーダーにA-10部隊を確認、IFFは正常に作動」
『とはいえ、敵ワイバーンや飛翔魔術師の識別はできませんから、味方認識用ですね』
「そこは、おいおい技術班に頑張ってもらうしかないな。で、俺たちは引き続き飛翔魔術師の迎撃でいいか?」
『はい。引き続き飛翔魔術師を攻撃してください。その間に制圧部隊が敵要人を抑えます』
「了解。引き続き削るぞ」
しかし、強襲して僅か数分で1500も空に上がってくる部隊がいるってのが驚きだな。
物凄い練度だ。
まあ、飛行機みたいに離発着のシークエンスはいらないから、その分は早いんだろうが、それでもこの世界の軍の動きとしも格段に凄いな。
大将に報告が必要だろう。
というか、この可能性を考えたから夜襲になったんだろうな。
『オメガ1、各パイロットの精神状態はどうでしょうか?』
「ん? ああ、生身の人を攻撃、撃墜していることでか?」
『はい。ユキ様も心配しておりました。対等ではなく、一方的な蹂躙になるので、精神的負担があるかもと』
「……今のところ、各パイロットからそういう文句は出ていない。むしろ戻ってから要確認だな」
『そうですか。オメガ1はどうでしょうか?』
「戦争って割り切っているからな。落とさないとこっちが落とされるんだよ。っと、目標撃墜」
そんなことを話しながら、飛翔魔術師を撃墜していく。
いや、撃墜というか、基本的に近接信管をまねて、広範囲に爆風と礫を飛ばすから、直撃した奴はバラバラ死体なんだよな。
五体満足のまま落下している奴はほとんどいないだろう。
ま、いずれにせよこんな高度から落ちれば助かることはないだろうが。
「それよりも、俺たちは航空戦力を排除しただけだ。敵要人の確保に向かった制圧部隊は大丈夫なのか? 敵の練度は思ってたよりかなり高いぞ? レベルだけじゃ測れないこともある」
『そればかりは何とも言えません。しかし、空挺降下部隊は精鋭です。パラシュート無しで突入しますし、対地支援も、A-10の露払いのあと、AH-64Dア○ッチ・ロングボウが継続支援を行いますので、数の差は覆せるかと』
……ああ、制圧部隊が降りる前に敵はハチの巣になるわけか。
いや、空挺作戦では当たり前か、敵をある程度掃討して安全を確保したのち、兵士を突入させる。
まあ、普通だと敵がかなり残っている中で行うので、危険度はかなり高いんだが……。
『4機のA-10全てが爆撃を開始。アイテムボックスによる弾薬補充が上手くいっているようで12発以上の投下を確認しています。敵司令部を包囲する形での絨毯爆撃に成功。制圧部隊降下します』
どうやら、敵は野ざらしな上に、きちんと隊伍を組んでくれていたおかげで、撃ち放題のフルコースか。
後は、白兵戦の問題だが……。
『観測班より報告。敵軍撤退を開始。というか、MAPで確認する限り、四散していますから、完全に潰走ですね』
どうやら、勝敗は決したようだな。
あとは、敵の要人を確保できればだが……。
『制圧部隊より報告。敵司令部の制圧に成功。スラきちさんがやりました!作戦は成功です!』
よし、銃弾すら効かないスラきちを相手に敵は手も足も出なかったか。
『オメガ隊は制圧部隊の撤退を支援してください』
さあ、帰るまでが遠足だ。
気合入れますか。
俺はそう気を引き締め直して、操縦桿をしっかりと握るのであった。
第一戦目は科学とマジカルの融合で勝利。
ゲームみたいに無限弾薬が可能だったからね。
アイテムボックスからの弾薬補給により、ミサイルも爆撃も機体一機でも飛んでればずっと打てる。
まあ、それでも砲門は限られているから、一度に打てる数は限られるけどね。
あ、ジョンはベイルアウトはしませんでした。
オメガ11の名が泣くぜ!




