第923堀:どうしたらいいでしょう?
どうしたらいいでしょう?
Side:タイキ
俺はなぜか、グスド王国領のオーレリア港町にある領主館の廊下を歩くはめに陥っている。
「で、今更ですけどなんのために俺を呼んだんですか?」
そう、その理由をはっきりとさせなければいけない。
「今更だな」
「いや、急だったじゃないですか。いきなり来れるかってだけで」
そんな要請をされると、ランクスの立場では要請を断るわけにいかない。
ユキさんの仕事に付き合うと非公式ではあるが、国への支援金が増えるからね。
……世の中金なんだよ。だから、ルースも宰相もユキさん、というかウィードの援護には惜しみなく協力する。
ま、俺自身も特に問題が無ければ、ウィードやユキさんに協力するのは吝かではない。
だけど、今回ばかりは連れてこられた意味がさっぱり分からない。
「……すでに滅亡した国の元お姫様なんかと、俺がわざわざ面会する意味って何かあります?」
「ランクスの王として面会してはダメだな。俺が今回タイキ君を呼んだのは、今後の展開を相談するためだな。ホントはタイゾウさんも呼びたかったが、あの人は今忙しいみたいだから、後で話をするしかない」
「今後の展開っていうと?」
「セラリアが介入を決めたが、あくまで防衛が可能なのはオーレリア港だけだ。それ以上はどう見ても戦線の補給が追いつかん。というか、そもそも万の軍勢相手に戦争できるだけの人員がいない」
「いや、ただ倒すだけならいくらでもできるでしょう?」
俺はユキさんの意図をなんとなく理解はしつつも、わざとそう聞いてみる。
「そりゃ倒すだけならな。文字通り焼け野原にならできるが、そんなこと実際にはできないってのもわかってるんだろう?」
「そりゃそうですね。そんなことしたら、大陸間交流同盟国がどう思うかわかりませんし、そもそも魔力枯渇現象の確認もできませんからね」
「そういうこと。この大陸は新たな魔力枯渇現象に対する検証地でもある。ま、そんなことのおまけでウィードの戦力がばれるのも避けたいしな」
そう、ウィードは戦に勝てはするけど、欲しいものが何も手に入らないという惨憺たる結果になってしまう。
どう考えても得た土地を維持して管理する能力がないから、敵をせん滅するだけになるんだよな。
「……恐怖政治でもしてみます?」
「そんなすぐに足元の揺らぐ統治は勘弁だな。まぁ、まともな統治の方も同じだ。ウィードの管理だけで精一杯なんだ。これ以上飛び地の管理とか、とてもじゃないができない。人が圧倒的に足りない。で、この場合はどうすれば解決になるのか、相談に乗ってほしいってわけだよ」
「話は分かりますけど……」
少し考えてみるけど、やっぱり名案なんて浮かばない。
あるとすれば……。
「やっぱり、今から会うグスド王国のお姫様に任せるのが一番じゃないですか?」
「お約束だよな。亡国のお姫様が力を尽くして国を取り戻す。そりゃ美談だ。美談ではあるが、その場合の主力はどう考えても俺たちだ。でも、俺たちにはオーレリア港より先の敵領土を刈り取るほどの人員はいない。まあ、元グスド王国の家臣や、ズラブル大帝国の将兵を迎え入れることになるんだろうが……」
「それに、それだって手間ですよね。まあ、グスド王国のお姫様が全部処理できればいいんですけど……」
そりゃ、無茶だよなーと思う。
ユキさんとかでもひーひー言っているのに、亡国のお姫様にそんな能力があるわけない。
というか、そもそもそんな能力があるのなら、こんな状態になっていないだろうしな。
で、そんなことはユキさんも端から分かっているようで、渋い顔をしながら……。
「……とりあえず、話を聞いて、一度持ち帰ってタイゾウさんや他のみんなに相談だ。この港町を守るだけならできるから、とりあえず時間は稼げる」
「ですね」
そんなことを話していたら、とある一室の前でスティーブが立ち止まって、ドアを開ける。
「相談は終わったようで何よりっす。で、すでにこの部屋にここの要人は集まっているっすから、詳しい話を聞いてくださいっす」
部屋の中に入ると、そこは会議室と思われる大部屋だった。
そして、その部屋の片隅には、人が固まって座っているのが見える。
……なんでそんな隅の方にと思って見てみたら、皆両手、両足を縛られているようで、さらに、その集団のほぼ真ん中には、お姫様と思しき人物がいた。
周りの連中は皆いかつい顔ばかりだから、多分兵士なんだろうな。
それでも少しでも最後の抵抗をということで姫を守っていると……。
「うっかり暴れられるとケガする可能性もあるっすから、とりあえず縛らせてもらっているっす」
「ここに勤めている一般の使用人とかは?」
「そっちはそこまで戦力もなく、敵対意思も乏しかったのでとりあえず別の一室に拘束もしないでまとめているっす。トイレとかは普通に許しているから問題ないっすよ」
「そうか。まあ、足元掬われないようにな」
「わかってるっすよ。映画みたいに最強のコックとかいるかもしれないっすからね」
いや、最強のコックがいたらスティーブたちでも抑えられないでしょう。
というか、その映画見てるんかい!
そんなツッコミをしている場合じゃないな。
今の問題は、グスド王国残党のことだ。
どうやら、王女様たちは新たに入ってきた正体不明の俺たちに警戒してこちらに注目している。
まあ、縛られて身動きが取れない中で、正体不明の新しい人が入ってきたら誰だって注目するよな。
「えーと、こんばんは。というのは、あれだな。えーと、どこまで話は進んでいるんだ?」
「いや、なーんにも。単に制圧して、とりあえずここに閉じ込めただけっすよ。そんな余裕ないっすよ」
「まあ、それもそうか」
ユキさんはそういうとおもむろに居住まいを正して……。
「初めまして、グスド王国の方々。私はシーサイフォ王国より使節団の救援を依頼されたユキと申します。そして、こちらの方が……」
「初めまして、私はシーサイフォ王国の女王陛下より海軍の司令官に任ぜられているレイクと申します」
レイク将軍がそう名乗ると、グスド王国の人たちは皆驚いた顔をしている。
その中の1人の男が思わず身を乗り出して口を開く。
「レ、レイク将軍と言われましたか!? このオーレリア港にシーサイフォから初めて訪れた将軍の!」
「はい。間違いなく私ですな」
「で、では、改めてお願い申し上げます。どうか、パルフィル姫をシーサイフォへ連れて行ってください!」
男はそう言って深々と頭を下げる。
「理由を聞いても?」
「申し訳ありません。どうか、何も聞かずにつれて行って下さい。この通りです。財貨も港にあるだけ全て持って行っていただいて構いません。ですから……」
うわちゃー。完全に厄介ごとっていうのはこっちの人も理解しているなこりゃ。
「……私たちが、あえてこの領主館を占拠した時点である程度察しているかと思いますが、そちらが我が国の使節団を拘束していることは既に把握しております」
「それは違うのです! 私どもはただお願いをしているだけでして……」
お願いねぇ。このまま一緒に心中するか連れて行けって、そりゃお願いっていうか、究極の二択じゃねえか。
というか、命握られて否定するのはほぼ無理だ。
人は自分の命が惜しくて当然だからな。
そう思っていたんだけど……。
「話の途中すまないが、一ついいか」
「何でしょうユキ様」
「……えーと、どうぞ」
ユキさんが話に入ってきて……。
「俺なら、無理やり押し付けられた厄介者なんぞ航海の途中でポイ捨てするが、そのあたりはどう考えているんだ?」
「「「……」」」
全員が沈黙。
いや、確かにそういう選択肢もあるな。
というか十分にあり得る。
無理やりいうこと聞かせられた使節団が、あえて自分の首を絞めてまでおとなしくお姫様をシーサイフォに連れて帰るか?って話だもんな。
たしかに俺なら捨てるね。そして知らんぷりが一番だ。
流石ユキさん。この状況で皆から頭を下げられて迄預けられた王女様だろうがポイ捨てするって判断ができるってのがものすごい。
そんな感じで俺が内心賞賛していると……。
「……もう、いいのです。皆もここまでよくやってくれました。ですが、他国の使者に対してかくの如き非礼なふるまいをしている様では、ズラブル大帝国となんら変わりはありません」
凛とした態度で、パルフィルと呼ばれたお姫様は静かに、だがはっきりとした声でそう言う。
その容姿は茶色の長い腰まで届く緩くウェーブのかかったサラサラな髪に、白い肌、黄色い瞳。
……あれ? なんかこれまで出会った中ではかなり普通の容姿のような気がする。
ほら、この世界、青とかピンクとか不思議な髪色多いじゃん。
と、そこはいいとして、年齢はそうだな、ヴィリアと同じぐらいだけど、どう見ても腕が立ちそうな雰囲気は微塵も無し。
俺が知っているいわゆる「お姫様」というものの定義にちゃんと当てはまっていると言っていいだろう。
ユキさんの所ってなぜかとてもお姫様には見えない例外ばかりだし。
「姫様。ですが……」
「もういいのです。ズラブル大帝国との戦いにシーサイフォ王国を巻き込むことなどできません。こうして何度も断られています。ですが、それも当然の話です。私は、ここで最後までグスド王家の一人としてズラブル大帝国に立ち向かいます。もとより皆もそのつもりだったはずです。偶然シーサイフォからの船が来たために、わずかな希望を抱きましたが、でもそれは元々儚き夢幻、そもそも無理だったのです。そして、もし海の向こうに行ってしまえば、私たちはこの土地に一体いつになったら戻って来れるか……」
「「「……」」」
俺がお姫様の値踏みをしているうちに随分話は進んだ様だ。
いつの間にか、お姫様が周囲の人々を説得する状況になっているな。
ま、だけど当然の話だ。所詮逃げたところで再び戻ってこられる可能性は極めて低い。
「シーサイフォの皆さま、大変ご迷惑をおかけいたし誠に申し訳ありませんでした。もう、私たちの事は全て忘れて船に乗り国へ戻ってください。しでかしてしまった事へのせめてものお詫びとして、領主館にある宝物は持っていってください。……もう、私たちにはそれぐらいしかできることはありませんが」
そう言ってパルフィルお姫様はどう見ても無理をしてるとしか思えない笑顔を見せる。
「しかし、縛られていると締まらないな」
「「「ぶっ」」」
相変わらず、遠慮なくシリアスな場面をぶっ壊す一言。
そして恐ろしいことにあまりに的確すぎて否定すらできない。
そう言ったお姫様の姿は、後ろ手に両手首を縛らた上に、両足首を一緒に縛られていて、かろうじて直立はしているものの、その立ち姿はすごく辛そうだ。
一点だけの支持で安定して立つっていうのは意外と難しいんだよな。
「さ、先ほどから、あ、あなたは! あわわわ!?」
ユキさんの茶々にシリアスシーンをぶち壊されたお姫様は流石に怒ったようだが、かろうじて立っていたのがバランスを崩してあわあわしてしまい、周りの人々に支えられて何とかバランスを取り戻した。
「皆さんありがとうございます。では、改めて。で、貴方は一体なんなのですか。私とレイク将軍の話に割り込むとは、非礼ですよ」
「話に割り込んだのは悪いと思っているが、ちっとも話が進まないからな。で、外にいる軍は敵で間違いないか?」
ユキさんは姫様の問いかけには答えず、肩をすくめてそういったかと思うと……。
「外にいるのは確かに敵です。ですが、そのまえに貴方は何者……」
「そんなのはどうでもいい。これから外のズラブル大帝国軍を排除するから、攻撃しちゃいけないところをとりあえず教えろ。アレをどうにかしないことには落ち着いて話もできないみたいだしな」
「は?」
まーたとんでもないことを言ってと思ってたら、不意に……。
キィィィン……。
と、上からそんな大音響が轟いてきた。
「ちょっ!? ユキさん、まさか!?」
「そ、既に艦載機は出撃している。夜ならなんとかばれないだろうってな」
「何をわけのわからないことを!」
「そうだろうな。ということでしばらく、お姫様との会話の前にお仕事だ。既にダンジョンを展開しているからな。敵味方の識別ははっきりしている」
ああ、なるほど。
ゲートを出した時点でこの一帯はダンジョン化されたわけだから、人員までは出せなくとも、既に情報解析はできているわけか。
「こっちの準備は整った。外に展開しているのは、この国の単なる暴徒ではなく、ズラブル大帝国と名乗るテロリスト集団。グスド王国のお姫様が支援を求めているので、回答、嫁さん頼む」
『ええ。任せなさい。グスド王国のパルフィル王女の要請は受け取ったわ。全機攻撃開始』
あ、終わった。
ズラブル大帝国終わった。
助けられる力はある、しかし世界的な評価がどうなるかわからない。
さらに、ウィードにとってあからさまな敵対国が出きて、それと戦う国を支援しなければいけなくなる。
この面倒を背負うか、それとも無視するか。
この状況下で、あなたならどんな選択肢を選びますか?
さてさて、タイキ君に、タイゾウさんはこの選択をどう思うのでしょうか?




