第910堀:町の様子
町の様子
Side:ユキ
「……とりあえず、何とか開催には間に合ったな」
「……はい。がんばりました」
「……なんで式を挙げる前に、既にこんなに疲れているんでしょうね」
「……仕事なんて嫌い」
「……気持ちはよく分かりますが、言っても無駄な話ですわね」
そんなことを言いあいながらも、全員机に突っ伏してしまっている。
我が参謀部署は、全員、疲労困憊になりながらも、すべてをやり遂げた。
ついに大陸間交流会議の準備が完了したのだ。
「あとは会議の開催を待つばかりだ。とはいえ、すでにショッピングモールも動き出していて、屋台も出ているから、その見回りがあるけどな」
「「「……」」」
書類上の仕事は全て片付けたけど、現場での仕事までもが終わったわけではない。
というかむしろ、これからが本番だ。
会議と結婚式もあるけどな。
「まあ、見回りといっても様子見だ。トラブル関係は全て警察と軍の処理だからそこまで大変な仕事ってものじゃない。むしろ、みんなで祭りの雰囲気を楽しもう。所謂デートってやつだな」
「はい! 私行きます!」
「私も、もちろん行きますわ。護衛ですからね」
「……ん。お祭りを見て回るのも為政者としての義務」
何とかみんなモチベーションが回復したようだ。
こんなところでいくら突っ伏していても仕事は進まんからな。
せめて、そういう風に言ってやる気を出してもらおう。
まあ、まったくの嘘というわけでもないんだが……。
ワイワイ、ガヤガヤ……。
「おー、自分たちで計画したとはいえ……」
「物凄い人ですねー」
「ここまで人が集まるとは思ってませんでしたね」
「正直多すぎませんか? 歩くのすら困難に感じるのですが?」
「……ん。屋台に人が殺到している結果。全部が全部当たりってわけでもないのに」
クリーナの屋台への辛口コメントはスルーするとして、混雑の原因はクリーナの言う通り屋台にできた行列によるものだな。
屋台で買い物をしたいお客さんが列を作った結果、歩行スペースにまで伸びて通行の邪魔をしている感じだ。
「流石、世界のお店が集まっているというべきか……。と、感心しているだけじゃだめだな」
こういう混雑は放っておくと混乱のもとだ。
しかるべき部署に連絡をして、対処してもらうことが大事だ。
「もしもし、トーリ、聞こえるか?」
『はい。聞こえますよ。ユキさん何かありましたか?』
「今、屋台、露天の店舗を見て回っているんだが、何か所か人の列ができていて通行の妨げになって、混雑の原因になりかけている。通行整理の人員を……」
『ああ、その件はもう人を向かわせていますから大丈夫ですよ。もうすぐお昼ですからね。人が増えてきているんです。でも、混みだす時間が早くなっていますね。モニター室の方をちょっと指導してきます』
「そうか、それならいいんだ。頑張ってくれ」
『はい。ユキさんも見回りはいいですけど、無理はしないでくださいね。みんなもだよ』
「わかってるよ、トーリ」
「ええ。ユキのことは任せてください」
そう言ってコールが切れる。
どうやら、すでにこの状況を把握して対処しているようだ。
まあ、できればこんな状況になる前に対処をしないといけないのだが、その対応も考えているみたいだし、俺がいちいち口を出すことじゃないな。
「しかし、いい匂いが漂ってきますわね」
「……ん、これはソースのいい香り。粉ものあるいは、焼きそば。そろそろお昼時だから、耐え難い。だからみんなも集まっている」
そう言って、クリーナの指さす先には、長蛇の列ができてる焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、箸巻き、焼き鳥、というお祭り定番の屋台がある。
「みんなよく並ぶよな……」
「そりゃ美味しいですもん。みんな並んででも食べますよ」
「まあ、食べるまでに時間が掛かりますから、大変ではありますが」
「時間がかかってでも食べたいという事でしょう。ウィードの知名度が上がって何よりですわ」
「ん。ウィードの食は世界を席巻する!」
「そうなれば、今後レストラン街だけじゃなく、こういうB級グルメを集めたところを作らないといけなくなるな。クリーナ、その時は運営してみるか?」
「ん、やる。その時はウィードを食の大国としても有名にして見せる」
「その前に、大陸間交流会議と結婚式などがありますわよ」
「……うぅ、未来は遠い」
サマンサの言葉にクリーナのテンションは一気に下がる。
「ま、書類仕事は終わったんだ。あとは、本番を待つばかりっと、あの屋台は」
そんなことを話しながら人混みを進んでゆくと、とある店舗に目が留まる。
「いらっしゃいませー! ウィードでも好評のガルツ名物田舎料理だよー!」
元気な声で客寄せをしている女の子の姿には、見覚えがある。
あれは確か……。
「あ、シェリーちゃん」
「いらっしゃいませーって、リーア姉さん! あ、お兄さんも、みなさんも!」
そう、ミリーの妹であるシェリーだ。
よくよく見れば、屋台の方にはミリーの母親のミーンさんもいる。
「お母さん、みんなが来てくれたよ」
「みんな? トーリさんたちの見回りならさっき……って、あら、みなさん」
シェリーがかけた声に顔を上げたミーンさんもこちらを認識したようで、ずいぶん驚いた顔をしている。
「どうも、ミーンお義母さん。ご無沙汰しています。シェリーちゃんも久しぶり」
「ご無沙汰って程じゃないでしょう。ちょくちょく会いに来てくれてるじゃない」
「そうだよね。10日に一度はお兄さん顔出しているし、リーア姉さんたちだってよく来てくれるよ」
「「「ねー」」」
どうやら、俺はともかく、リーアを筆頭に嫁さんたちはちょくちょく通っているらしい。
シェリーとは仲がいいらしく、声を合わせてきゃっきゃっしている。
「ミーンさんたちもこちらに屋台を出しているんですね」
「ええ。世界に私とお父さんの料理を広めるチャンスだからね。申し込んだら通ったわ」
「なるほど。で、肝心のゲーデンお義父さんはどちらに?」
「ん? ああ、旦那は店よ。向こうだって閉めるわけにもいかないから、こっちは私とシェリーで切り盛りしてるの。まぁ、お店の方は従業員も増えているから問題ないわ」
そういえばそうだったな。
ゲーデンさんたちのお店も、ウィードでは古くからある店の一つで、さらに懐かしい味ってことで固定客も多いし、ずいぶん収益も増えたから店員を増員して店舗も大きくしたんだった。
「どうですか、売れ行きは?」
「そうね。隣に比べちゃうと閑古鳥が鳴いているわね」
「あはは……」
焼きそばとたこ焼きに挟まれているからな。
もうちょっと配置に気を遣うべきだったか?
でも、人気の店舗に挟まれているってことは、それはそれでそれだけ目に留まるしな……。
と、そんなことを考えていると。
「ミーン殿。今日もきたぞー」
「どうも、本日もお世話になります」
「ちーっす」
そんな挨拶をしながら、ミヤビ女王とガウル殿たちに加え、付き添い兼監視のスティーブたちがこちらにやってきていた。
「あら、ミヤビさん、ガウルさん、そしてスティーブさんもいらっしゃいませ。今日も来てくれたんですね」
「うむ。ミーン殿の料理は懐かしいからのう」
「ええ。私も旅をしていたころを思い出します。いいお店だ」
「ということで、今日もお願いするっす」
そう言ってスティーブはミーンさんにお金を渡して適当に見繕ってもらっている。
「で、ユキ殿たちもおるようじゃな。お昼か?」
「それもありますけど、ついでに見回りと息抜きですね。ようやく書類仕事が終わったので」
「それは良かったのう。いやまぁ、これから本番か?」
「ま、仕事が一段落ついたことはいいことですね。で、ミヤビ殿やガウルたちはミーンさんのお店が気にいったようですけど、いつから?」
「それは、こちらのシェリーお嬢さんがおススメしてくれましてな」
「あ、あはは……。ス、スティーブが連れていたから、ちょっと誘ったんだ。でも、まさか、女王様と竜人さんとは思わなくて……」
そう言って、すごく申し訳なさそうにするシェリーちゃん。
「別に謝ることじゃないよ。何か失礼なことをしたならあれだけど」
「し、してないよ!」
「これ、シェリーを脅すでない。何も問題はない。妾たちはいい食事処を見つけられたし、その上シェリーのおすすめで町を楽しく巡れたからのう」
「ええ。彼女のお陰で、色々な穴場を知ることが出来ました。なにより実験堂での食事はすばらしかったですね。ああ、もちろんミーンさんの料理も懐かしい味でいいですね。ですので、失礼などということはまったくありませんでしたな」
ま、問題ないのはわかってるけどな。
何かあったならスティーブが対処するし、すぐ連絡が来るからな。
スティーブに視線を向けると無言でうなずいてるから、特に問題はなかったと確認できた。
「なら、大丈夫だな。シェリーちゃん、色々ありがとう。ガウル殿たちはこの街は初めてでね。助けてくれてありがとう」
「いや、お店に招待しただけなんだけどなー。というか、ミヤビさんは以前からちょくちょく顔出してくれてたし」
「うむ。ミーン殿とゲーデン殿の店はもう行きつけじゃ。その関係で、町を歩いていたらシェリーに誘われたわけじゃ」
「なんだ。前からミヤビ女王とは知り合いだったのか」
「うん。ミヤビさんとは前から仲良くしてたよ。だからガウルさんたちがいたけど声を掛けたんだ」
なるほどな。
シェリーちゃんが全くの怖いもの知らずというわけではなかったんだな。
元々から知り合いだったと。ミヤビ女王はウィードにちょくちょく来ては楽しんで行ってる時に店に顔を出していて知り合ったのか。
女王が一人でって普通なら注意するところだが、義理の親父たちだって性懲りもなく来るからな。
俺たちはもうすっかりあきらめている。
と、そんなことを話している間に、ミーンさんが木皿に料理を盛って。
「はいはい。話はご飯を食べながらでどう? シェリー、配って」
「はーい」
そう言ってシェリーちゃんがお盆を器用に持って、俺たちに配ってくれる。
「はい。今日は、私たちの故郷の田舎料理です」
渡されたお盆の中には、ゴロゴロとぶつ切りにしたお肉と野菜が入っている豪華なスープと、こんがり焼いた骨付きのお肉が載っている
「私たちの町にはすごく優秀な冒険者が多かったから、お祝いの時なんかは魔物のお肉を大量に使ったものを食べるんですよ」
ああ、そうか。
ミーンさんがいた町っていうと、モーブたちの町か。
それなら納得だな。
それにしても、いい匂いだ。
「じゃ、さっそくいただこうか。席は空いてるか?」
「えーと、あっちが空いてますね」
リーアに言われて、その方向を見ると、確かに俺たち大人数が座れそうな場所がある。
意外と、食事をとるスペースは空いているようだ。
まあ、休憩用に、混雑が捌けるように大きめにとったからな。
「それじゃ、ミーンさんお店頑張ってください」
「ええ。ありがとう。足りなかったら言ってね。まだあるから」
「うむ。その時は頼むぞ」
「はい。その時は頼みます」
ということで、俺たちはみんなで賑やかに昼食を始めるのだった。
もうウィードの町はお祭りの賑わいが始まっているようです。
まあ、オリンピック期間といいましょうか。
夏祭りが1週間つづくというか、大型テーマーパーク開業みたいなかんじだと思ってください。




