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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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第906堀:竜のおもてなし

竜のおもてなし



Side:キルエ



リエル様たちが無事にご帰還され、その上竜人族の皆さま方がご来訪されると連絡をいただきまして、私たちは只今……。


「主様たちはもうすぐ到着いたします。おもてなしの準備を急いでください」

「「「はい」」」


そう言って、バタバタと準備を進める皆に整然と指揮しているのは、この宿の女将である霧華もとい霧菜女将です。

そう、ここはいつもの要人監視のための宿です。


「霧菜様、お部屋の準備は終わりました。次は何をいたしましょうか?」

「キルエ様、ご助力ありがとうございます。ですが、私はあなたの部下、様付けはいりません。霧菜とお呼び捨てください」

「いえ、ここの主は女将である霧菜様。そして私はお手伝いにきた一介のメイドにすぎません。同じ主をいただく身ではありますが、場所ごとでの上下ははっきりさせたほうがよいでしょう」


迅速に整然と動くためには必ず命令系統の一本化は絶対必要。


「……わかりました。しかし、キルエ様は主様の奥様でもあります。無理はなされないようにお願いいたします」

「それを言うのであれば、霧菜様も旦那様の家族も同然。やはり無理はしないように、迅速に整然と行いましょう」

「了解いたしました。では、キルエ様と私で竜人族の皆さまと主様を出迎えたいので、一緒に来てください」

「かしこまりました」


霧華の判断の下、私は共にお客様を出迎えるために、宿の入り口へと向かいます。


「これまでの映像は確認いただいていますか?」

「はい。どうやら、表向きはガルツとウィードで竜人族を預かるものの、協力者として縁のあるミヤビ女王、ハイエルフの国に協力してもらうという形にするつもりのようですね」

「そのようですね。これで、ハイエルフの国も同時に認知度を上げられると主様は考えているようです」

「……一石二鳥のように見えますが、ハイエルフの国に嫉妬が集まりかねませんね。それに小国であるハイエルフの国にドラゴンの問題を委ねることでガルツなどの大国とウィードの評判が落ちる可能性もありますが、そこは特に心配はいらないでしょう。今までの功績で十分補えます」


霧華ほどではありませんが、私も私で諜報活動を行っていますからね。

これぐらいは判断できます。


「流石はキルエ様。私もおおむねその通りだと判断いたします」

「おおむねというと何か違う点が?」

「キルエ様も予想していると思いますが、今あげたようなデメリットさえ利用するのが主様です。当然それも考慮済みかと」

「確かに、旦那様がこの程度の事を予想してないわけはありませんね。失敗を失敗とせず、ですね」

「はい」


失敗というのは、ある視点で見ただけのことで、違う面から見れば成功であり、次のための貴重な経験でもあります。

言われてみればその通りで、ごく当たり前のことです。

ですが、そのような考えを受け入れ実行するのはとても難しいのですが、それができるのが私の旦那様というわけです。


「と、そろそろお客人が到着なさいます。他の皆さんも準備を」

「「「はい」」」


私たちの後ろには、この旅館で働く従業員兼諜報員が10名ほど控えており、すぐに佇まいを整えます。

私も身なりを再度見直して、問題なしと確認したタイミングで。


「ご到着いたしました」


という玄関の外で待っていた者から声と共に、車の停止音が聞こえます。


『ほう、こちらが宿ですか』

『うむ。和洋折衷で色々部屋を選べるが、ガウルなら和風の部屋をお勧めするぞ』

『ぜひそちらにさせてただきたいですな。トウヤ様からは和風の良さは散々聞かされましたから』


と、そんな声が玄関の向こうから聞こえてきます。

1人はミヤビ女王。

そしてもう1人の渋めの声の男性はおそらく竜人の里の長、ガウル様でしょう。

ミヤビ女王は情報通りガウル様たちの相手を上手にしてくれているようです。

すぐに、玄関前に人影が見え。


ガラガラ……。


と、従業員の手によって扉が開かれます。

自動ドアの状態にしていることもありますが、今回の様に要人が来る際は手動で開けるようにしています。

そして、扉の向こうには、主様たちの姿があり……。


「どうも、お客さんを連れてきました」

「ユキ様ご案内ありがとうございます。そして、竜人族の皆さま、遠路はるばるようこそいらっしゃいませ」

「「「いらっしゃいませ」」」


霧華、いえ女将霧菜がそう言うと、従業員が揃えて声を出して頭を下げます。

勿論私も同じように頭を下げてお客様のお出迎えをいたします。


「これはこれは、ご丁寧に。本日よりお世話になります。ガウルと申します。ほら、皆も挨拶を」

「「「よろしくお願いいたします」」」


ガウル様に促され、後ろに控えている者たちも頭を下げます。

ふむ。どうやら、礼儀はちゃんとしているようです。


「って、キルエも一緒か」

「はい。旦那様の大切なお客様です。女将だけでなく私も共にご対応させていただきます」

「ああ、頼むよ。ありがとう」

「では、さっそく部屋のご案内と言いたいのですが、先ほどミヤビ女王がお話しているように、部屋の種類が複数ございまして、どういったお部屋がご希望でしょうか?」

「それでしたら、ぜひ和風の所をお願いいたします。勇者様から色々聞いておりましたもので、一度は体験してみたいと思っておりまして」

「なるほど、ではこちらに。いいお部屋があります」


そう言って、霧華が案内を始める。

手荷物関係は現在バスから降ろしている最中で、部屋の方へ従業員が運び込む手はずとなっています。


「ほぉ、外の建築も見事でしたが、中の建築も素晴らしいですな。木を使った見事な建築だ。しかも通常とは違う趣が感じられますな」

「それはそうじゃろう。これが和風というモノじゃ。これがトウヤが懐かしんでいたものじゃよ」

「ふむ。そうなのですな……」


そんなことを言いながら、辺りを興味深く見まわしながらガウル様たちは私たちについてきます。

どうやら、和風建築には随分興味があるようですね。

今後はその方面でお話をしてみるのがいいのかもしれません。


「霧菜さん。和風方面で進めてみるといいかもしれませんね」

「はい。そのようですね。宿内の対応はお任せください。キルエ様は主様のお付き添いを」

「かしこまりました」


女将霧菜として顔合わせをしましたので、直接対応出来るのはこの宿のことのみですからね。

そこで私が旦那様の傍につくことで、表からガウル様たち竜人族の情報集めをして。

そして、主様の影である霧華は、裏側から情報収集をするということです。

なので、私は霧華の横から旦那様の傍へと移動します。


「旦那様。いかがでしたか?」


いかがでしたかというのは、もちろん竜人族の皆様のことです。


「特に問題はなさそうだな。食べ物の好き嫌いはまだ聞いていないが、ミヤビ女王が上手く対応してくれているからな。あまり心配はしていないかな」

「なるほど。それは何よりです。しかし、食べ物の件、直接聞いていないままでは心配なので、私や女将の霧菜の方からそれとなく尋ねさせてもらいます」

「ああ、それは頼む。間違っても確認せずにいきなり納豆とかワサビはやめてくれよ」

「流石にそれは心得ております。これでもこの宿の女将ですから」

「同じく私も旦那様と共に、多くの国を巡っていますので」

「ああ、信頼しているけど、念のためだ。絶対はないから過信はしないでくれ。食事一つでドラゴンが暴れだしたとかはあまりに悲しいからな。なあ、ガウル殿」


どうやら旦那様はわざとガウル殿に聞こえるような声で話していたようです。


「はは、まさか食事一つで暴れるようなことはありませんよ。なあ、お前たち?」

「「「はい」」」


やはり、部下の統制は取れているようですね。


「しかし、個人個人で口に合わないというモノは当然ありますから、付き添いの皆様も、もしそういうものがあればできれば事前に遠慮なく申し出て頂ければと思いますし、無理して食べて頂く必要はありませんので」

「お気遣いありがとうございます。確かに無理に食べてもおいしくありませんからな。皆、そういうものがあれば素直に言うように」

「「「はい、ありがとうございます」」」


旦那様はそう言って、付き添いの人のフォローもします。

確かに個人個人で口に合わないものはあります。

ガウル殿がいいと言っていてもダメな人もいるでしょう。

そんなことをも通じて、ある程度付き添いの方とも接点を持てるようにしておくのですね。

と、こもごものことを話しているうちに、部屋に到着して……。


「こちらがガウル様たちのお部屋となります。ユキ様から、皆様同室がいいと伺っておりましたので、こちらをご用意させていただきました」

「ありがとうございます。私はともかく、ほかの者たちはそもそも人の町に来るのすら初めてでしてな。一緒にいて逐次教えられればと思っていたのですよ。しかし、このウィードは私にもさっぱりわからないことだらけですな。いや本当に世界はがらりと変わったものです」


素直にそう言うガウル様には好感が持てますね。

分かっていないことをわかると言い張られてしまうと、教えるのも一苦労ですから。

たまにですが、そういう方もいるのです。


「心配するな。妾が一から教えてやるからのう」

「ミヤビ女王が? いいのですか?」

「うむ。妾はお主らへの対応を頼まれたからのう。先ほども言ったが、お主らが粗相をすれば妾の体面にもかかわるからな。遠慮するな。というか、わからなかったら素直に聞け。よいな?」

「「「はい!」」」


やはりミヤビ女王が率先してガウル様のお相手をしてくれるようです。

付き添いの方々も素直に頷いています。

ただ、多少怯えているように見えるのはなぜでしょうか?

そんなことを考えている間に、ミヤビ様と旦那様による部屋の説明は終わり、共に玄関へと戻ってきます。


「旦那様。ミヤビ様お疲れ様です。ガウル様はいかがでしたか?」

「問題はないな。畳にもなれていたし、ボタンを押して電気をつけるのも大丈夫だ」

「うむ。まあ、付き添いの者たちは多少おっかなびっくりではあったがいずれ慣れるじゃろう」

「いや、どう見てもミヤビ女王を怖がっている感じだけどな」

「違うぞ。妾がドラゴンを殴り殺したなどという、荒唐無稽な噂がまことしやかに広がっておるだけじゃ。まったく」


……なるほど。付き添いの方々が怖れていたのはそう言うことでしたか。

しかし、流石はミヤビ女王。勇者様の伴侶であるためにはそれだけ力が必要なのですね。


「こほん。ともあれ、ガウルたちの案内と会議は明日からじゃな。あとは晩御飯の面倒は妾が見るから、ユキ殿たちは仕事に戻るとよい」

「任せていいのですか?」

「うむ。というか、ガウルはともかく、付き添いの連中はまだまだ緊張があるからのう。せめて食事時くらいはユキ殿たちは離れておいた方がよかろう。なにせこんな町は初めてじゃからな」

「なるほど」


確かに、今までずっとあのような村で暮らしていたのですから、環境がまるで違い、大変なところも多々あるのでしょう。


「じゃ、ここは霧菜とミヤビ女王に任せるけど、何かあればすぐに連絡してくれ」

「はい。何かあればすぐに連絡させていただきます」

「おう。妾に任せておくがいい。で、食事のコースじゃが……」


ということで、ガウル様の事はミヤビ女王に任せてその日は仕事に戻るのでした。

何事もなければいいのですが。



竜人族は和風が好みのようでした。

そして、ミヤビに任せてキルエは他の仕事へ。

意外と竜人族の皆さんは手がかからないのかも?



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