第897堀:山頂にあるもの
山頂にあるもの
Side:リエル
『ほう、矮小なる人如きが、この聖域に足を踏み入れるとはいい度胸だ』
そんなことを言いながら現れたのは、ちょっと小柄な黒いドラゴンだ。
うーん、特に強いとも思えない。
鑑定では300レベル前後で、ウィードの飛竜隊ワイバーンたちの半分ぐらいしかない。
なんとアマンダの所の新米ワイちゃんよりも下。
なのに、なんでこんなに威圧的なのかさっぱりわからない。
あ、鑑定がないからこっちの力量がわからないのかな?
いや、意外と実力を隠しているのかも。
僕たちだって、隠蔽してステータスを弱く見せているし。
……でも、どうもちっとも強そうに見えないんだよなー。
と、そんなことを考えている間にも、モーブさんは話を進める。
「待ってくれ。誤解だ。無断で踏み込んだことは謝るが、こうして、これを持ってきた」
そう言って、ミヤビ女王から預かった宝玉?を見せる。
あれは証として竜人の里に持ってこいって言われたものらしいから、通してくれるはずなんだけど……。
『なんだそれは? そんなものを見せたところでこの地に足を踏み入れたこと、許されるものではない! たかが、大きい宝石ごときでその不敬許されるなどと思ったか!』
そう言って黒いドラゴンは口に魔力を集めて炎があふれ出し、ブレスの準備を始め……。
「ちょっ!? 話が違うじゃねーか!?」
『人の身でここまでたどり着いたことは褒めてやろう。そして、我が炎を浴びて燃え尽きること、光栄に思え!!』
ゴォッ!!
モーブさんに向け思い切り吹き付けられた。
その炎の範囲は広く、僕たちの方まで届いたんだけど……。
「……うーん。微妙」
「それほど強くないね。あはは……」
「……まだ子供のドラゴンだと思う」
この程度の炎じゃ、僕たちの魔力障壁を抜くことはできない。
熱さも全く感じないレベルで防げてるし。
唯一、僕たちに有効だったのは、炎のせいで視界がないことぐらいかな?
目くらましには使えるってところ。
のんびりとその攻撃を評価しているうちに、ようやく炎の勢いが収まる。
『ふははは! 所詮人は脆弱だ! 跡形もなく、もえつ……き、え?』
黒いドラゴンが驚きの声を上げる。
その視線の先には炎の直撃を喰らったモーブさんがいる。
「あー、驚いた。攻撃を喰らっちまったらアウトな戦いばかりだったからな。ホント死んだと思ったぞ」
モーブさんはそう言いながら、スラリと剣を抜き放つ。
そうそう。ユキさんとの訓練じゃ銃器が当たり前だからね。
だから、当たり判定時点で死亡ってことになって、超シビアなんだ。
普段からそんな訓練をやってきて、本番ではここまでしょぼい炎が来るなんて思わないよね。
『な、なぜだ! なぜ、私の炎を喰らってなお生きている!』
で、そのドラゴンは私たちが無事なのを見てすごく動揺している。
だけど、そんな質問に答えてあげるほど、僕たちはもちろん、モーブさんも優しくはない。
ザンッ!! ドサッ!
そんな音がしたと思ったら、ドラゴンの翼が地面に落ていた。
『な、なっ!? イギャァァァァ!!』
ワンテンポ遅れて自分の翼が切り落とされた痛みに思わず叫び声をあげるドラゴン。
だが、そんな風に叫んでる暇があれば、さっさと逃げればよかったのに。
チャキ。
「待てと言ったのにお前は攻撃してきたんだ。当然、逆にやられる覚悟もできてるんだよな? 翼の次は首でいいよな?」
そう言いながら、モーブさんは既にドラゴンの眼前に剣を突きつけてる。
そう、ドラゴンの翼を切り落としたのはモーブさんだ。
『ま、まてっ!?』
「バカかお前は」
静止を乞うドラゴンの声なぞ無視して、モーブさんは剣を振り下ろす。
当然のことだ。敵には容赦しない。
そうしないと自分の身は守れない。
それが、生きるということ。
バキッ!!
『イダッ!?』
とはいっても、実際ドラゴンの首が落ちることは無いんだよね。
だって、剣の峰で首を叩かれただけから。
「ったく、少しは話を聞く気になれたか?」
『あ、はい』
「本来殺しているところだが、竜人の里に俺たちは用事がある。説明と案内をしてくれるというなら見逃してやる。どうだ? ああ、別に断ってくれていいぞ。その首、斬り落とすだけだからな」
『まてまて、説明するし、案内もする!』
よし、これで案内役をゲットだね。
普通なら殺すところなんだけど、今回はお仕事が絡んでいるからね。
あ、ユキさんを攻撃しようとしてたなら、速攻首ちょんぱ決定だけど。
モーブさんだからアレで済んでいる。
「よし、案内しろ。飛んで逃げようなどとするなよ。追いかけてぶった切るからな?」
『翼を斬られてそんなことが出来るものか。くそ、バランスが……ちょとまて』
黒いドラゴンはそう言ったかと思うと、いきなり光って、みるみる小さくなり、輪郭がドラゴンから人の形になってゆき……。
「くそ、本当に翼が……。なぜ、こんなことに……」
そんな後悔の言葉を吐いてる、黒髪の少年が立っていた。
「なんだ、やっぱりガキか」
うん。カヤの言う通り、子供のドラゴンだったね。
だから、全然威圧感が無かったわけだ。
もう少し、年齢を重ね、経験でもあれば少しは威圧感も出たんだろうけど、そういうのさえなさそうだよね。
「ガキじゃない! 私は誇り高き竜人の一族だ!」
「ふむ。本当に竜人族というのは存在していたのだな」
「ええ、初めて見ました。噂には聞いていましたが、現物は初めてですね」
ドラゴン少年が粋がって叫んでるけどそんなの無視して、みんなで観察する。
ライヤさん、カースさんの言うように、初めてみるからね。
竜人族ってただの噂じゃなかったんだね。
「リザードマンと似ていると聞いたこともあったが、ほぼベースは人だな」
「ですわね。翼は……切り落とされていますが、尻尾と頭両側の角以外は普通の人に見えます」
確かに、尻尾と角がある以外は普通の人みたいに見える。
というか、リザードマンたちよりもよっぽど人みたい。
……触ると、どんな感じがするんだろう?
「ねえ、君」
「なんだ。猫娘」
「僕はリエルっていうんだよ。君の名前は何ていうの? それとちょっと角触ってみていいかな?」
「はぁ? バカかお前。なんでお前みたいなのに俺の角を触らせないといけないんだよ」
お? こいつ生意気。
「よーし、決めた。君に立場ってのを教えてあげよう。僕の要望を無視する権限なんてないことを」
「なんで、お前が威張っているんだ? 私を倒したのはそこの男で、お前ではないんだぞ? お前ごときが私に勝てると……」
「思ってるに決まってるじゃん。ユキさんの教えでね、上下関係を勘違いしているやつには一発に叩き込むのがいいんだって」
そう、これはお仕置きという名の愛の鞭。
礼儀が出来ていない子をしつけるお姉さんのお役目ってやつだね。
「はぁ、ちゃんと手加減しなよ」
「……いじめ過ぎないように」
「大丈夫、だいじょーぶ」
「はぁ、勘違いしているそこの猫娘に現実というものを教えてやるか。あの男ならともかく、お前ごときが竜である私に勝てるわけがないというのに」
ということで、僕とドラゴン君の勝負が始まり……。
「僕の名前はリエルっていうんだ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします。私の名前は、ドラールです。角は好きなだけ触ってください。あ、くれぐれもへし折らないでくださいね」
「そんなことしないよ」
躾の時間は大体5分ぐらいで終わって、僕は無事に角を触ることに成功していた。
僕のちゃんとした指導のたまものだね。
こういう子は警察官でもよくいるんだよ。
治安維持の職務についたからって、自分が偉くなったんだって勘違いする人がね。
そう言う子はこうしてガツンとやると素直にいうこと聞くようになるんだよね。
と、そんなことを考えながらさわさわと角を触る。
「ふーん。なんか立派な角だね」
それは立派な角で、さわり心地はなんというか、大理石のようにピカピカに磨き上げられた石って感じ。
「それはそうです。これが竜人族の象徴ですから。この角が太く大きければ大きいほど魔力が高いという証拠でもありますから」
「ほー、角にはそういう意味があったのか。ところで、さっきのリエルとの勝負は楽しそうだったな。私ともやらないか? ドラール」
「いえ、結構です。だから、いじめないでください」
ローエルの提案を速攻で断るドラール。
そうそう、だれかれ構わず喧嘩を売らない。売られても買わない。大事なのは対話。
これこそが、平和的に解決する最初の大事な方法なんだから。
「お姉さま、おびえていますから。やめてください。話が進みませんわ。で、ドラールさんでしたか? あなたは竜人の里からきたということで間違いないでしょうか?」
「はい。その通りです。私は、本日、竜山の警備としてここら一帯を警戒していました」
「警備ってことは、何かの脅威があるってことか?」
「はい。竜山中腹には強力な魔物が多く、時に山頂に来ることがありますから、まだ戦う力のない子供たちに被害が及ばないように守るのが、私のような警備の役目になっているのです」
なるほど、ドラールたちは魔物から里を守るために警備していたわけか。
「しかし、なぜわざわざ山頂に魔物が来るのでしょうか? 麓に広がる森へ行った方がよさそうな気がしますが?」
そうだ。確かに変だよね。
ザーギスの言う通り、麓の森で暮らす方が平和だよ。
そう思っていると、ドラールは……。
「それは、説明するよりも見てもらった方がいいですね。こちらにどうぞ」
そう言って、山頂へと案内してくれるので、僕たちもそれについていく。
そして、火口が見えて……。
あれ? さらに緑が濃くなっている?
「これって……草原?」
山頂に到着して、まず目に入ったのは、青々とした草原だった。
「うん。……草原だね」
「……というか草原の先に森もある、川も……」
そう、そこには一面の緑の世界が広がっていて、草原のさらに奥には森が広がっていて、川もある。
あれ? 僕たちごつごつした剥きだしの岩山を抜けてきたんだよね?
なんで、こんなところに草原があるんだろう?
高いところじゃ植物は育たないんじゃなかったっけ? あ、違うか育ちにくいんだっけ?
あまりに意外な光景で混乱していると、ドラールはためらいなくその草原へと足を踏み入れ、くるっとこちらに振り返って……。
「ようこそお客人方。ここが竜人の里。最後の楽園といわれる地だ」
そう胸を張って紹介をしてくれた。
「お客人って、そういう認識なんだ」
「……私をこのように生かしておいてくれているからな。敵意がないのは分かる。そして、長老より、私を倒せるものがこの地に訪れたならば案内してくれと頼まれている。まさか、貴方がたのような人が現れるとは思ってなかったが」
「お、素直でよろしい。さ、僕たちを案内してね」
「……リエル殿の強さは理解しているが、長老たちにはそのような強さでは通じない。ちゃんと礼儀はわきまえてはしい」
「いきなり襲い掛かってきた君が言うセリフじゃないよね?」
「くっ。こっちだ、ついてきてください」
僕のツッコミに悔しそうにしながらも、そのまま案内を始めるドラール君。
「あれだよね? ユキさんとか、タイキさんが言っている、くっころってやつだよね?」
「「「違う違う」」」
と、なぜかみんなに総ツッコミを受けるのでした。
え? 違うの?
ドラゴンとの死闘を経て、たどり着いた先は対話による和解。
そう、言葉とはとても大事なのだ。
魔法少女が使うOHANASHIってやつだね。
愛と勇気と友情には欠かせないモノさ!!
くっ、ころ。もね!!
あ、そして明日は15日だから12巻の表紙公開だよ!!
そして、新発表もあるよ!
お楽しみに!!




