第893堀:いざ竜山へ
いざ竜山へ
Side:コメット
「こちら司令部。トーリ、聞こえるかい?」
『はい。聞こえます。感度良好』
「うん。こっちもはっきり聞こえるよ。ほかのみんなも聞こえるかい?」
『『『聞こえます』』』
よし、今のところコールでの魔力通信は問題なしか。
「使い魔、ドローン共に正常に稼働している。こちらの森の境界を越えても問題ないよ」
『了解。じゃ、みんな行くよ。ここからは、竜山の麓だ』
そう、私は今トーリたちの支援として竜山攻略を手伝っている。
当初は、手伝う気なんてさらさらなかったんだけどね。
いや、今でも基本的にはその気持ちは変わってない。
大荷物を抱えてフィールドワークとか……やりたいけど、今の私はゾンビだからね。ダンジョンの効果範囲外にはうかつに出られない。
はぁ、こういうときばかりは、このゾンビの体であることがつくづく面倒に思うよね。
うん、ヒフィーに相談してみるかな?
と、それはまた今度でいいとして、今はトーリたちのフォローをちゃんとしないと、ユキたちに怒られるからね。
「さて、偵察隊の各員は先行して偵察を開始。使い魔たちは高高度には上がらず森の木々の合間を縫うように飛んで、ドローンの方は高高度からの撮影を」
「「「了解」」」
私がそう指示をだすと、監視員ゴブリンたちがさっそく行動を開始する。
すると、目の前の巨大モニターに、その監視員たちの映像が映し出される。
そして、別動隊も行動を開始したのだが……。
『はぁ~、じゃぁスティーブ隊行ってくるっす』
なんか妙にテンションが下がりまくったスティーブからの声が届いた。
まあ、それも仕方がない。なにせ……。
「ま、腰ミノ一つでってとこに色々言いたいことはあるだろうけど、これも調査のためだ。寒かったり、虫刺されとかもあるだろうが、頑張ってくれ」
そう、ユキの発案で野生のゴブリンを偽装したうえで、トーリたちとは別行動で竜山の調査をすることになっている。
トーリたち本隊への妨害やトラブルの際のフォロー役というわけだ。
ダンジョン周りに施した偽装工作はおまけの仕事。
本命はこの援護だ。とはいえ、流石にトーリたちと一緒に出撃させるのはあまりに酷だからと思って、別々に出撃させたんだけどね。
……僕にできるのはせいぜいこれぐらいだ。
だって、とても僕には裸に腰ミノで行動とか、どう考えても無理だからね。
ほら、僕って美女じゃん? ケダモノに襲われるに決まっている。
と、そこはいいとして、今はスティーブの見送りだ。
『了解。ま、この腰ミノ。ナールジアさん謹製で寒暖の調整に、魔力での防壁まであるから、そこいらの下手な鎧よりも高性能で、虫刺されなんかも完全ガードなんすけどね……。なんで腰ミノなんかにこんなに思いっきり力入れるんすかね。あの人』
「……あの人はそう言うところ、とことんこだわるからね。正直、武器づくりに関してはあの人は私なんかに比べ圧倒的に上だから」
ナールジアさんは私でもちょっと……かな、ついていけないからね。
今はロボットアニメを参考に新たな兵器を開発しているし、エンチャントの可能性を追求した挙句、こん棒がなぜか、ベツ剣以上の火力を持っていたりもする。
もうホントわけわかんないね。いつかそこら辺の小枝に伝説の剣って銘を刻む時が来るんじゃないかって、ユキが真面目な顔で言ってたのを笑えなかったよ。
『さて、文句を言ってても仕方がないっすね。改めてスティーブ隊出撃するっす』
「了解。定時連絡は忘れないように」
『了解。そっちも情報管理よろしくっす』
「ああ、背中は任せてくれ」
私がそう返す前にスティーブたちは既に森へと駆け出していき、あっという間に見えなくなる。
さ、私も仕事するかね。
そう思い、自分の仕事場を改めて見廻すけど、この巨大モニターをたった一人で監視とかは流石に無理だね。
私は主に、中央に大きく映る、トーリたちとスティーブたちの様子を見るのが仕事だ。
他の監視と分析は部下たちに任せる。
さて、先行したトーリたちの様子はっと……。
『森を越えた先には……。また森かぁ』
『だな。とはいえ、何かの境のようにくっきりと草原があるのは気になるな』
そんな声がイヤホンから聞こえてくる。
リエルとモーブの言うように、使い魔からの映像には、こちらの森が切れた先に少しの間木は一本も生えていない完全な草原が広がっていて、その先には竜山の麓の森が広がっている。
どうやら、境界となる草原までたどり着いたみたいだね。
『ここからは見えていませんが、ドローンによる事前の調査映像を見るに、この先に……』
ザーギスがそう言って歩き出して、ちょっと行ったところで再び止まる。
『川がありますね』
そう、魔物や動物のいないこちらの森と、竜山の麓の森を分けているのがこの川だ。
この川は竜山の山頂から流れて来ているようなんだけど、河川をさかのぼって竜山へいくのは不可能になっている。
理由は簡単、途中大きな滝があって、それを昇ることが不可能だからだ。
あ、いや、トーリたちなら不可能じゃないけど、調査も兼ねているから、そういうショートカットは無しということになっている。
『うん。お水は普通だね』
『あっ!? リエル。勝手に飲んじゃだめでしょう。お腹壊したらどうするの?』
『……拾い食いはしちゃだめ』
『いや、お水程度でそこまで言わなくても……』
と、さっそくリエルが勝手に水を飲んだみたいだね。
いや、勇気があるというか後先考えてないというか、そこがいいところなんだけどね。
『しかし、すごく綺麗な水ですね。何かあるかもしれませんし、サンプルを回収しておきましょう』
ザーギスはそう言って、川の水を回収する。
とはいえ、それだけじゃサンプルが足りないね。
「ザーギス。私の分もお願いするよ」
『了解です』
ザーギスはすぐにもう一本ペットボトルをアイテムボックスから取り出して、川の水をくみ取り、再びアイテムボックスへと収納する。
……背中に大量の荷物を背負ったまま。
「ねえ、ザーギス。今さらだけど、アイテムボックスがあるなら、その背中の荷物もアイテムボックスにいれたらどうなんだい? 町に行ったときは普通の旅人を装うために必要だっただけで今じゃその荷物を背負ったまま移動する必要はないんじゃないかい?」
というか今更だが、ザーギスだけじゃなく、ほかのみんなもだ。なぜか皆、いまだに荷物を背負っている。
『いえ、背負ってる必要ありますよ。というか、知らなかったことに驚きですね』
「どういうことだい?」
それってカモフラージュ以外の意味があったのかい? その重い荷物。
そんな感じで首をかしげていると、ザーギスが歩きながら説明を始める。
『これは魔術無効化地域でも探索、調査が継続できるように必要な機材は外に出しているんです』
「ああー。魔術無効化地域ってアイテムボックスも使えないんだっけ?」
『ええ。まぁ、ドラゴンがそんな技術を持っているとは思えませんが、万が一あった場合、食料もなく森の中で孤立することになりますからね。そんなことになれば、我々がいくら強くてもどうしようもありません』
「なるほどね。そういうところまでちゃんと考えているわけか」
『ユキは、基本的に最悪の状況を想定していますからね。魔術が使えない状況でも生き残れる方法、つまりこの荷物は私たちの命綱の一つということで、わざわざ持ち歩いているわけです』
「あぁ、だからこの調査に参加するのを嫌がっていたわけだ」
荷物を持ちたくないとか、私にはなぜそんなことをいうのかと不思議だったのだけど、確かに、これだとリアルで荷物を背負って行かざるをえないから嫌だろうね。
『ええ。理解してくださって何よりです。まあ、とはいえ、時にはこうして外を見て回るものいいものですよ。ちょっと昔まで同じようにやっていましたからね』
「へえ、ザーギスはてっきりずっと研究所に閉じこもりっきりかと思ってたんだけど」
『時と場合によりますね。ま、その辺りはコメット殿も同じだからわかるでしょう?』
「そりゃね。研究に足りないものは買う、買う予算がないなら、自分で取りに行くってのが私たちの在り方だしね」
足りない分は自分の足でどうにかする。
それが、研究者というもの。
私もよくやったよ。ヒフィーと一緒に冒険して、気が付けば子供たちが集まっていて……。
と、そんな昔話はいいか。とりあえず、研究者というのは意外とタフなのさ。
ご飯も極限まで食べなくても平気だし、あれだね、修行中のシスターとか目じゃないぐらいタフなんだよ。
決して食費まで研究費に回したとかそういうことじゃないよ。
『その通りです。我々研究者が脆弱だと思っている方も多いですが、貧困な研究者はむしろ下手な兵士より強いですからね。だからこそ私もリリアーナ女王陛下のもとで四天王の一角を拝命しておりました』
「ああ、そういえば四天王だったね」
『ま、これに関しては、タイゾウさんが一番ものすごいですが』
「あの人の物資収集能力は完全におかしいから」
私もタイゾウさんとは付き合いはそれなりに長いけどさ、材料が手元になかったら直ぐに探しに行くからね。
まあ、私たちじゃタイゾウさんの欲しがってるものがそもそもわからないからね。だから結局、自分で探しに行くしかないんだけど……。
そういう時、たいてい盗賊団とかをぶちのめしてくるんだよね。
治安が良くなって、国家の技術力も向上するからとヒフィーは喜びつつも、タイゾウさんが自ら危険なことをしているってのが微妙だったみたい。
最近はユキの能力で必要なモノは全部手に入るから、そういう心配は減っているんだけどね。
と、そんな話をしているうちに、全員が川を渡って竜山の麓の森へと足を踏み入れる。
「全員、気を付けて。そこからはダンジョンの支援はない。MAPデータはドローンからの映像で随時更新して送る予定だけど、コールMAPほどの精度はないからね。自分で凡その位置は把握していてくれ。詳細な自分の位置を知りたい時はドローンを派遣するけど、時間がかかるから注意してくれ」
『りょーかい。まあ、山を目指してるんだから迷わないよ』
確かに、リエルの言う通りだね。
山を目指せばいいから、そうそう迷うことはないと思う。
すると、今度はカヤとトーリが質問をしてきた。
『……それはいいとして、魔物とかの姿は把握してないの?』
『そうですね。その辺りの脅威の情報は知っておきたいです。先行させている使い魔たちからは何か情報はないですか?』
「今のところは魔物の姿は見当たらないね。だけど、私の予想としては、この森の中には魔物がいない可能性が極めて高いね。さっきの町に続く森と同じように」
『なんでそう言い切れる?』
私がそう言い切ると、モーブが質問をしてくる。
「モーブたちの後ろには、さっき超えた川幅が10メートルぐらいの川があったけど、そこに動物、魔物が水を飲みに来てないし、形跡もないからね。ここまで言えばわかるかな?」
『ああ、なるほど。確かに見える限りこの川に生き物が通っている形跡はなかったな』
『となると、森の生き物は別の水場を使ってるか、森には生き物がいないということになるか』
「そういうこと。水って言うのは生き物が生きていく上で絶対に必要だからね。ま、アンデッドの巣窟というのは考えられるけど、それこそ、アンデッドなら日中は動きが基本的に鈍いし、強いアンデッドなら日中は出ないよ」
『確かにそうですね。では、早いうちに森を抜けた方がいいということでしょうか?』
「うーん。そこはザーギスと相談してからだね。珍しいものがあれば、森の中で一夜を明かすことになるかもしれない。まあ、どのみちドローンや使い魔で援護するのには変わりないよ」
ということで、これからの冒険行程はザーギスの判断によって変わってくることになったのだけど……。
『いえ、珍しいものがあっても、目印だけを付けて、先を急ぎましょう。今の本命は竜山に住むという竜人族との交渉です。資源調査は最悪別働隊として動いているスティーブに任せればいいのですから』
「了解。となると最短ルートで行こうか」
『おっけー。じゃ、竜山まで競走だ!』
『あっ、駄目だって、リエル!』
『……はぁ。リエル。そんなことしたらユキに嫌われる』
『うえっ!?』
こうして、騒々しい竜山への冒険が始まるのであった。
映像越しに映る雲のかかった山頂には、いったいどんな存在が待っているのやら。
こうして、モーブたちは竜山の奥深くヘと向かう。
その先に待つものは何でしょうね。
何か面白いものがあるといいのですが。




