第862堀:次なる大地は後回し
次なる大地は後回し
Side:ユキ
「……最初に出会ったあの魔物たち以降、襲撃は無いということか」
「はい。まあ、今のところは、と付きますが」
「あとは、長期継続的な確認というわけか……」
「そうなりますね」
俺の報告に思案顔となるエメラルド女王。
そう、俺はいま、シーサイフォの王城に来て、これまでの経緯と現状を説明している。
まあ、簡単にいえば、シーサイフォが頭を抱えていた海の魔物問題をひとまずは解決したという話だ。
とはいえ、まだ完全解決したとは言い切れないし、その過程で襲撃してきた魔物の実態にしても若干拍子抜けとも言えなくはない結果だ。
なにせ最初に交戦したシーラちゃんの同類たちだけで、どうやら戦闘が終わってしまったということだからな。
気合いを入れていたドレッサたちも、何も起こらぬ変わり映えの無い日々に不満のようだ。
しかし、何もない方がいいんだ。
あとは、ドレッサ主導でシーちゃんやシーラちゃんと協力して沈没船のサルベージをして、遺品、物資の回収が主な任務になる。
問題は、ブルーホールに作ったダンジョンがハイレンの結界を超えてしまったことによる、外洋からの海の魔物の流入だな。
それがどれだけ人に襲い掛かり被害を出すかってことだ。
ま、そこはこれからわかることなので、ひとまず……。
「その間に、シーラちゃんたちに手伝ってもらって、沈没船から遺品などを回収できればと思っています」
「ユキ殿の配慮に感謝する。しかし、これでひとまずは解決したわけか」
遺品などを回収すると伝えて、シーサイフォ側に好印象を与えておく。
別に報告で嘘は言っていないので問題なし。
あの魔物発生の原因までは問われていないしな。海の魔物をどうにかしたからOK。
「まあ、確実とは言えませんが」
「ふむ。レイク将軍、アクアマリン宰相。この話どう思う? そしてこれからどうするべきだと思う?」
エメラルド女王は同席している、2人の重臣に意見を求める。
「そうですな。とりあえずは、一度グスド王国に連絡船を出してみてはいかがでしょうか? 無論護衛はつけてですが」
「レイク将軍の言う通りですね。本当に問題は無くなったのか、まずはやってみないことにはわかりません。それに魔物出現以降連絡が取れていないグスド王国の情報を得る必要もあるかと。幸い、魔物が出現していた海域は、ドレッサ司令が率いる海洋調査隊がいますから、少なくともそこまでの安全は確保されていると言って良いでしょう。まあ、こちらとしては、グスド王国まで来てほしいのですが……」
そういって、アクアマリン宰相はこちらを見るが……。
「それはやめた方が良いでしょう。あの空母の存在は却って他国を刺激しかねません」
俺はそう言って協力を渋ることにする。
容易に想像できるし、実際経験済みだしな。
当のシーサイフォだって警戒してきた。
それに、これ以上手広くやるほど人員がいないというのが最大の理由だ。
大陸間交流同盟にシーサイフォも加わるから、その手続きもいるし、銃もどきの開発者の面会もある。
確かに、マジック・ギアの拡散がどれほどか、確認するためにも一度グスド王国へ向かう必要はあるにはあるが、今すぐというわけでもないからな。
「確かに、ユキ殿の言うようにいきなりあの空母を同行してグスド王国へ向かえばいらぬトラブルの元か」
「とはいえ、我が国がウィードと同盟したということを伝えるためにも、必要ではないですか? ウィードを聞いたことも無いどこぞの小国などと思い込んでしまわれても、それはそれでトラブルの元です」
「確かに、ウィードに対して横柄な態度をとられるのは困りますね。ですが、事前通告なしというのはあまりに問題が大きいので、一度我々だけで向かい、ウィードのことを伝えてからというのでいかがでしょうか?」
「ふむ。確かにな。将軍と宰相の言う通りだな。いかがだろうかユキ殿?」
なんか、勝手に俺たちもグスド王国へ向かうような話になっているな。
まあ、渡りに船みたいなところもあるが、今はだめだな。
「お話はありがたい限りですが、まずは、シーサイフォでの仕事を終わらせて、大陸間交流の手続きを済ませたあとということになりますね」
「うむ。そちらも大事じゃな。それに、ユキ殿に魔術銃の開発者との面会の約束もある。まずはそちらを終わらせてからじゃな。だが、グスド王国と連絡を取る必要があることに変わりはない。その準備は整えておけ。必要な物資に関しては、大陸間交流同盟から仕入れることにする。行動に移れ」
「「はっ」」
そんな感じで、シーサイフォの今後の方針は決まった。
海の魔物がいなくなって航路が安全と確認されたなら、交易相手のところに安全になりましたよーと連絡を入れるのは当然の判断だ。
お互いに大事な商売相手だしな。
何しろ、シーサイフォ王国にとっては銃もどき、魔術銃を運用するために必要な魔石の輸入元だ。
まあ、これからは大陸間交流同盟に入るから、グスド王国との付き合いにも変化はあるだろうが、あえて縁を切る理由もないと、女王たちは判断したんだろう。
ということで、シーサイフォ王国は今後の細かい予定を決めるということで、会議に入ったので、俺たちはウィードの方に戻ってきたのだが……。
「結局のところ、マジック・ギアの関連はまだ片が付いてないってことね」
「ま、一度生産されてしまったものだからな。全部回収するっていうのは難しいだろう。だが、おかげで次の土地に行く理由もできたわけだ」
俺がそう言うと、嫁さんたちが目を細めて……。
「まさか、こうなることを狙っていたわけ?」
「大義名分というわけですか」
「いやー、お兄さんも人が悪いですねー」
と、皆感心したような、あきれたような顔で言ってくる。
「狙ってないからな。結果としてこうなっただけだ。そんなこと言い出したら、俺がアクエノキの悪事に加担していたことになるぞ。時系列的に無理だ。あそこには召喚されていったんだからな」
「それもそうね。マジック・ギアはあなたが召喚される前から生産されていたんだし、自然の流れってわけね」
「そうだ。まあ、海の国家と関わったら、もしかして海の向こう側の国と繋がれるかもってことは考えていたけどな。それがちょっと早くなっただけだ」
俺としては早く繋がりができてしまったせいで面倒なだけなんだけどな。
「なるほど。お兄さんの中ではある意味予定通りだったってわけですか」
「ですが、シーサイフォの方もまだ安定していないのに、次の土地へ向かうつもりですか?」
「いや、エリス、それはない。ということで、しばらくはシーサイフォでの活動だ。大陸間交流同盟参加の手続きもあるし、銃もどきの開発者との面会とかもあるからな」
「あ、そういえば、そんな話もありましたね。……おそらく、ユキさんと同じ地球に関係がある人物」
「「「……」」」
ミリーがそう言うと、周りの空気が一気に冷え込む。
そう、シーサイフォを警戒した一番の理由は、近代兵器の代名詞とされる銃器の開発が独自に進んでいたからだ。
それにシャベルなどの道具もあることから、その可能性が高いと踏んでいたんだ。
「ねえ、ユキ。そういえば、霧華の方で、まだその開発者のことは調べがついていないの?」
「いや、そっちは後回しになっている。マジック・ギアが出てきたから、そちらが最優先処理だな。まあ、開発者についてはシーサイフォから色々情報も貰っているし、特に心配はしていない」
「情報というのは?」
「この開発者はエメラルド女王の友人らしい。銃もどき、シーサイフォでは魔術銃と呼ばれる兵器以外にも、色々貢献できる物を開発してるみたいで、国にとっても重要人物だそうだ」
「それは当然ね。地球の聞きかじりの知識だけでも、こっちの世界にとってはとてつもない価値を持つのは私たちがよくわかっているわ」
セラリアがそう言うと、他の嫁さんたちも頷く。
「そのため、機密保持の関係でこの王都にいないらしい。他の土地で匿って研究しているんだと」
「……それ幽閉って言わないかしら?」
「さあな。とりあえず、本人と会わせるって言ってるんだ。その時に鑑定も使って真意を確かめるさ。それでシーサイフォへの対応も考えればいい。というか、今の所、シーサイフォの保有する技術がそこまで危険度が高くなかったって言うのが、本腰を入れて調べてなかった理由だな」
そう、霧華たちに調べさせた結果や、海上での模擬戦から、魔術と科学技術の融合が上手く行っておらず、魔術の方に偏っていることが分かったからだ。
今の所、この魔術のレベルでは俺たちを害すること不可能という判断が出たからこそ放置して、海の魔物の方を優先させてもらったわけだ。
つまり、わざわざ、シーサイフォ王都から人員を割いてまでその開発者を探し出すメリットがなかったってこと。
「ああ、そういえばそんな話は聞いてたわね。となると、それほど警戒することではないのかしら?」
「今のところはな。あとは直接会って判断だ。まあ、幽閉されているなら、救出してもいいし、別に自分の意思で籠もっているならそれはそれでいいしな。というか、この開発者に関してはシーサイフォとの関係の問題も絡むからな。慎重にってところだ」
案外知らないうちに、物凄いモノを開発している可能性もあるにはあるが、そうであったとして俺は脅威度は低いと思っている。
確かに、密かに物凄い武器を作っているかもしれないが、まだ生産体制すらできていないのは明らかだからな。
たった一つだけの超兵器なんてあっても運用要素はゼロだ。
「あとは、沈んだ輸送船にマジック・ギアを持ち込んだ人がいたのか、それとも偶然か、なぜあんなところでマジック・ギアが展開したのかを調べられればいいんだが。ま、これも霧華が輸送船の乗船名簿を調べているからおいおいはっきりするだろう」
「偶然っていうのに期待するのは虫がよすぎるわね」
「俺もそうは思う。結局シーサイフォとの繋がりがなくても、俺たちは大山脈の向こうに行くことになってたと思うぞ」
「そうね。マジック・ギアという魔物を呼び出せて使役できる道具があれば、便利なのは間違いないから。って、そういうモノをウィードや各国で勝手に作られないようにそろそろ法整備する必要があるわね」
「必要だな。これまでもテロに散々使われてきたからな。聖剣使いのメンバーとか、ノーブルとかにな」
今まで、散々そういう魔物召喚には迷惑を掛けられてきたからな。
制限をしないと面倒なことになるのは確かだ。
実は、それについて今まで何も考えていなかったわけでもない。
だがそういう法整備をすると……。
「でも、私たちウィードがそもそも自由に魔物を呼び出せることについて文句をいわれませんかね?」
「ラッツの言うように、きっと文句を言ってくる連中もいるでしょうね。ウィードはズルイと」
ラッツやエリスの言うように、魔物を呼び出して使役しているダンジョン国家のウィードが、他国の魔物召喚の制限を企んでいるとかいう話になりかねないのだ。
「二人の心配はもっともだが、そこは許認可制にすればいい。モンスターテイマーだって許可、認可制だしな。基本的にはそういうことにすればいい。国が知らないところで所有している奴らがいるから問題なんだ」
「「なるほど」」
「ま、これについての細かいところはセラリアたちに任せるとして、俺たちは、まず銃もどきの開発者との面会だ。いったいどんな人物が出てくるのか」
やれやれ、一つ問題を片づけてもすぐ次の問題が出てくるな。
本当に忙しい限りだ。
せめて、開発者がシーちゃんみたいに友好的であることを祈る。
あ、しまった。開発者との面会。
コメットとエージルがいた方がいいよな。
でも、海洋調査任せてたし……。あー、まあ一時だけだし手伝ってもらうか。
大きな海の魔物問題は一旦解決へ。
あとは、細かい情報収集と、開発者の面会が残っています。
ついでに大山脈の向こうというのも見えてきました。
トラブルの気配ですね。
だけど、流石にシーサイフォのことを終わらせてからになります。
今しばらくはお待ちを。
あ、あと、C96夏コミ 4日目(月)西ね03bに山猫スズメさんの所にご厄介になって参加予定だよー!!
詳しいことは、また後日話すね。
必勝ダンジョンの薄い本が出来ればいいんだけど、今真っ白だから、かなり厳しいとは思う。




