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ブックマン  作者: ふくあき
跡継ぎ編
5/101

秘蔵の忍

「――アイツ等片づけぐらいして帰れよぉっ、たく」


 円卓の上にはお茶と茶菓子がちりばめられている。部屋にいるのは、先ほど出て行った少女らの残がいに対しブツブツと文句を連ねる哀れな青年と、部屋の隅の方ですやすやと寝息をたてている少女の姿だけであった。


 本多は卓の片付けに手をつけ始めつつも、隅で寝ている徳川に布団をかけてあげるなど配慮を怠らなかった。


「アイツ等今度来たときは片づけまでキッチリやらせてやるぅ」


 愚痴を叩きつつも手は勝手に動くのは日ごろの家事の成果であろうか。拭き掃除を終え、眠っている徳川を寝室へと運ぼうと抱き抱えようとするが――


「下空きましたかー!? テレビ使いたいんですけどー!」


「ウルセェ! 徳川様が寝ておられるのがわからんのかこのボケェ!」


 上の方からドタドタと慌ただしい音を立てて降りてきたのは、見たところ小学生にも見えるほどの身長と、その年には似合わないほどに分厚いビン底眼鏡をかけた少女の姿であった。


「今降りてきたばっかりなんですからわかるはずないじゃないですか!」


「黙れ服部はっとりぃ! ゲーム禁止にすっぞぉ!?」


「や、やめてくださいよ! それと、服部じゃなくて松尾まつおだと何回言えば――」


「どうでもイイわそんなことぉ!」


 服部と呼ばれた少女はどうでもいいと言われたことにじだんだを踏みながらも本来の目的であるテレビのリモコンを探しだす。本多はその姿を見て半ばあきれつつも今度こそ徳川を運びだそうとするが――


「う……ぅん……」


「徳川様!? お目覚めになられましたか!」


「さっきからうるさかったですからね、そりゃ起きますよ」


居候ひきこもりの分際でガタガタ騒いでたテメェのせいだろぉ!?」


「ぐっ、痛いとこつきますね……」


 先ほどの二人のやり取りで目が覚めた徳川は、目をこすりつつも松尾の方を向く。


「ふぁーぁ…………ぁ、桃子とうこちゃんおはよぅ……」


「おはようございます千夜さん、今は夕方六時ですよ」


 挨拶片手間にテレビにゲーム機のケーブルを繋げて準備を始める。


「オイ! 上でパソコンいじってたぶん今日はもう終わりだ!」


「無理やり上に押し込んどいてそれは無いでしょう!? それと、パソコンとコンシューマー機は別腹です!」


 そう言いつつテレビの電源をつけてコントローラを握りしめる。本多はその姿を見てやれやれといった様子でため息をつきつつも、徳川の機嫌を取りにかかる。


「何か飲み物でもお持ちしましょうか?」


「うん……冷たいのが欲しい」


「承知しました。では、冷たいお茶をご用意しますので少々お待ちを……オイ服部ぃ! テメェもお茶でいいよなぁ!」


「氷でキンキンに冷えたオレンジジュースでお願いします!」


「分かったぁ、ぐつぐつに煮えたぎったブラックコーヒーなぁ」


「お茶でいいです! むしろお茶がいいです!」


 本多が飲み物をとりに部屋を出る際に、松尾は本多にばれない様にベぇー、と舌を出す。徳川は完全に目を覚ますと、松尾がしているゲームに対し興味を示す。


「何をしているの?」


「FPSをしています!」


「えふぴーえす?」


「ファーストパーソンシューティングですよ! なれるととても簡単に敵を倒せて楽しいですよ!」


「ふぅーん……」


「千夜さんもやってみてはどうです?」


「……うん、ちょっとだけやってみる――」




「――お茶をお持ちしました、ってどうなってんだコレはぁ!?」


「千夜さん! そこ右から攻めてください!」


「右ってこっち?」


「そっちは敵のアンブッシュがー……もう遅かったですね」


「なんかやられちゃった」


 少女たちはテレビに釘づけであった。テレビでは戦場でめまぐるしく動く二人の兵士の姿が映っている。


「……ハァ……ハイハイ、もう終わりですぅ」


 本多がテレビの電源ボタンを押すと、不満が二人の方から飛び出してくる。


「むぅー」


「もう! いいところだったんですよ!」


「いいところもクソもありませんー。ゲームは一日一時間ですぅー」


 ブーイングを無視して本多は片づけを始める。そして円卓に三人分のお茶を並べる。


「――コレを後で調べとけぇ」


 湯呑みを傾けながらクリップで留めてある書類を手渡す。松尾は嫌そうな顔をしつつも書類に目を通しはじめる。


 書類の中身は沖田家、真田家、織田家の三つの家系についての資料であった。


「……うーん……また面倒なところばかりですね」


「面倒かどうかはどうでもイイんだよぉ。要はこの三つの家に仕えている忍と護衛についての情報を集めてこいよぉ」


「……期限はいつまでですか?」


 しぶしぶ受け取る松尾に対して本多は無理難題を押し付ける。


「明日までなぁ」


「無理ですよ絶対! こんな三つも調べるなんて――」


「オイ服部ぃ」


 本多が仕方ないといった表情で松尾の肩に手を置く。松尾はその行動に対し少々警戒の念を強める。


「な、なんですか……」


「オマエの腕は折り紙つきだとオレは思っているぅ……遂行できたなら何でも好きなゲームソフトを一つ買ってやるよぉ」


「な、なんですと……」


 喰い付きがいい所で本多は口を歪ませさらに調子のいい言葉を並べる。


「本来なら依頼十個で一つだが今回急ぎなんでなぁ、オマエならできると期待しての報酬だぁ」


「やります! やらせてください!」


「ヨゥシ」


 本多は目を輝かせる松尾に対し口元をさらに歪ませる。


「……期待しているからなぁ、鬼半蔵の末裔よぉ」



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