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ブックマン  作者: ふくあき
御三家編

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21/101

都合よく人を頼るって気が引けますよね

 ――鬼。

 

 それはいにしえより人々から畏れられ、そして決して太刀打ちできぬとされてきた化物。


 ――武神化。


 それは古くから武を求め続けた武士が生み出した一つの答え。極限の先に見つけ出した、狂気すら覚えさせる答え。


 とある武臣は強さを求めていた。自らを常に戦いへと投じる中、武神はある答えにたどりついた。そしてその答えに、高みに登らんと常識を逸脱した修行を行い、自らを発狂寸前までへと追い込んだ。


 その結果出来上がった物が、武神化と呼ばれる体質変化だった。


 ある特殊な訓練を受ける事で『武骨』と呼ばれる特別な骨を体内に生成。通常時は普通の骨と見分けがつくものではないが、ある一定条件下においてはその性質を露わにする。


 おおよそ普通の人間が極限に鍛えたとしても、武骨はその努力を鼻で笑うかのように圧倒的な筋力、治癒力、柔軟性、攻撃性を与えてくれる。


 しかしそれと引き換えに、自らの寿命を縮めてしまうほどの付加を同時にも与えてしまうことも。


 そして本多家は代々、武骨について研究と鍛錬を積み重ねてきた。当主を継ぐ者は代々その肉体に武骨を宿らせ、その力を自らの意志を貫くために用いてきた。


 本多勝希もまた、例に漏れる事無くその肉体に武骨を生成することに成功した。


 そんな彼が、何故本多家最高傑作と言われているのか。


 それは彼の肉体にある骨の中で、武骨の占める割合の高さである。


 本来武骨というものは修行の中で自らの普通の骨を変質化させるのであるが、その割合には個人差があった。


 本多家現当主である本多ほんだ忠影ただかげのその肉体における武骨の割合は四割ほどである。が、これでも当時として最高傑作、最強の武臣と言われるほどの賞賛を受けていた。


 しかしそれも、本多勝希がこの世に生を受けてからそれも一変した。


 齢十一にして、彼の武骨が肉体を占める割合は優に九割を超えていた。そしてこれは彼が人間離れしている事も同時に示していた。


 そして齢十二にして初の戦場への投入。地方の中規模な戦闘であった。


 ――その戦果。


 敵方八百九十二、その全ての命を奪い自らは無傷という記録を残した。

 この結果に対して本多勝希は一言。「ゴミを処分して何が悪い」とのことであった。




 ――伊能が目を覚ました時には既に、居間の方で大騒ぎとなっていた。


 まだ体が半分寝ているが、伊能は居間で起きているざわめきを聞き逃すわけにはいかなかった。


「一体何が起きたんですか……っ!?」


 ふすまを開けた先には、何者かに襲撃を受けたのか未来がボロボロになった状態で手当てを受けていた。


「いつつ……」


「未来氏、一応応急は済ませてある……勝希氏はどうした?」


「……あー、勝坊なら敵方を追っていったよ。朝方までには戻ってこられると思う。雅家様は今どこに?」


「兄者なら今忠影氏と連絡を取っている。まさか未来氏と勝希氏の二人ががりでも捕らえられぬとは――」


「ちょ、ちょっと待った!」


 未来が忠影という言葉を聞いた瞬間に顔を青ざめ慌てふためきだす。


「伯父様呼ぶ必要は無いって! 勝坊が追ってるからその必要は無いって!」


「しかし未来氏も怪我をしておられるうえ、念には念をというものが――」


「とにかく、あたしと勝坊で大丈夫だから!」


 必死で説得する未来だが、その右腕が明らかに不自然な方向へと曲げられている。その異様な様を見て、伊能は眠気がはじけ飛ぶと同時に吐き気を催した。


「! うぅっ……おぇっ……」


「……伊能氏であったか……どうやらまたもや襲撃を受けたようである。とりあえず二階にいる千夜氏の元へと行って起こしてもらえるか?」


 遠巻きに未来の腕が折れているというショックから遠ざけるように、房和は伊能に頼みごとをする。伊能はそれに応じ、その場を離れて徳川の元へと向かって行く。


「徳川さん!」


「うぅん……なぁに?」


 数分前の伊能と同様に、寝ぼけ眼でとぼけた返事が返ってくる。伊能はそれを聞いてひとまず徳川に被害はないことが分かって安堵の声を漏らす。


「実はさっき襲撃を受けたみたいで――」


「知ってるよ……お父さんから聞いた……けど本多くんがいるからだいじょうぶ……おやすみ……」

 よほど本多の事を信頼しているらしく、そのまま再び眠りへとついてしまう。


「ああもう……未来さんも怪我してるっていうのに……」


 伊能はとりあえず報告だけはしておいたが、これからどうしようかと考えているところだった。


「どうしよう……本多くんはどこかいっちゃったし、未来さんは怪我をしているし……」


 伊能が頭を抱えて現状を打破する策を練ったが、出てくるのはあまりいい方法とは思えないものが出てくる。


「……なんかこれだと利用しているようで申し訳なくなっちゃうんだよなぁ……『いつでもかけてください、待ってますから』って言われたとはいえ……」


 伊能の脳裏に浮かんだのは一人の少女の微笑む姿。しかしあまり得策とは思えない。


「……仕方ない、何か言われたら言う通りにしよう」


 そう言って本多はポケットから携帯端末を取り出す。


 ――携帯の画面上には、宮本祈の文字が浮かび上がっていた。




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