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ブックマン  作者: ふくあき
御三家編

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学校が一番平和

「――はぁ、久々の学校だなぁ」


 大きな屋敷を後ろに大きく背伸びをする。そんなに久しぶりとは言えないものの、今の伊能にとって学校がいかに平和だったかを知るいい機会となった。表面上制服を着た健康男子に見えるが、脱げば包帯ぐるぐる巻きのミイラ状態である。


 伊能はゆっくりと体を動かし自分の体調を様子見しながら学校へと歩き出そうとしていた。


「――やほ」


「いだだだ!?」


「わわ、ごめん」


 そして朝、隣で驚いている少女と登校するのは伊能にとって初めてであった。


「……徳川さん、この時間帯に登校しているの?」


「ううん。今日は本多くんが検査に行っているから――」


「検査? そう言えば朝家で本多くんを見なかったなぁ」


 徳川はそこでハッとしたかのように口を両手で覆い、普段寝ぼけ眼である目を見開いてこちらを向く。


 どうやら検査というのは言ってはいけなかったことらしく、徳川の涙目を前にしては伊能もその場に合わせるように上手くフォローするしかなかった。


「よ、よく聞こえなかったからよく分かんなかったなー」


「うん、分かんなかったわかんなかった」


 これで本当に良かったのだろうか。しかし目の前の少女が上機嫌になっていることからこれで良かったのだろう。その足取りで他愛のない話をしながらも、学校まで二人は足並みをそろえていた。


 校門で生徒を立って待ち構えていたのはあの悪名高き日本史の先生。朝っぱらから清々しい汗をかきつつも、生徒一人一人に元気な声を掛けている。


「おう、伊能に徳川か、おはよう! 伊能は久しぶりだな」


「おはようございます先生」


「おはー」


「徳川よ、いつもより登校が遅いようだが、今日も元気があるようでよろしい!」


「いえぃ」


 伊能の前で謎の会話が行われているのは、はたして良い事なのであろうか。第一先生相手に「おはー」とか「いえぃ」で会話ができる徳川の会話スキルが、伊能にとってはツッコミどころが満載であった。


 靴箱で靴を変え、教室へと向かう。いつも自分がだらけて座っている机が愛おしく感じる。伊能は半ばなだれ込むように机へと向かうが、その途中机の角でろっ骨を打ちその場にうずくまる。


「あ!! っつぁぁ……」


「だ、大丈夫?」


 徳川が心配そうに声を掛けるが正直予想外の激痛に対し言葉を出すことができない。


「きゅ、救急車ー!」


 徳川が電話を掛けようとするが、それを伊能は手を前に出すことで制する。


「だ、大丈夫っ……だから」


 脇を押さえつつも席に座る。激痛は徐々におさまるとともに、自分のとった行動のバカさ加減を知らされる。


「ふざけて座らなきゃよかった……」


 伊能はわき腹を押さえながらも席に着いていた。


 おおよそ一週間ぶりの学校。本来ならその半分の日にちでここに来ているはずだが、なにせ切り傷を更に増やされたのであればその治りも遅くなるはずでもある。


「ケガなおった?」


 徳川の気遣いも嬉しいが、学校に登校できるようになるのに一週間かかり、そこから完治までまだかかるというのだ。


「治ってないよ。杉田先生でもあの傷はそうそう治せない様で」


 家の方もまだ襲撃の跡が生々しく残っており、その後始末を真田家現当主となった真田幸乃が責任を持って行ってくれていた。


 それまでの間、誰の家で伊能を世話するかでまたひと悶着あったのではあるが、最終的には伊能の隣にいる徳川千夜が、じゃんけんに勝利することでその役目を担うことになったのである。


 その際、残った三人の悔やむ姿の方が伊能にとっては記憶に強く残っているのであるが。


「ちょっとでも辛かったら言ってね? 一緒に帰るから」


「でもそれだと本多くんに怒られない?」


 伊能が家にいる間、本多の目は常に光っていた。少しでもおかしな行動をすれば斬り殺されないほどにピリピリとした雰囲気を醸し出している。


 ある時では徳川がまだ風呂に入っているのに気付かず、脱衣場で伊能が上着を脱ごうとした瞬間、首元に蜻蛉切りが向けられていたことなどがあった。


「だいじょうぶ。本多くん怖くないから」


 徳川にとっては怖くなくても、部外者である自分に対しての本多の容赦なさを、徳川は知る訳が無い。


「あはは、そうだといいけど……」


「ホームルーム始めるから席に着けー」


 そして日本史の先生であり、伊能の担任でもある暑苦しい教師が教室内へと入ってくる。


「今日は一段と暑くなるが、先生のクラスはそれに負けないように、頑張っていこうではないか!」


 もうこの挨拶の時点で何人かダウンしそうである。伊能は話半分に聞きながらも、再び始まる学生生活を満喫することになった。


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