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ブックマン  作者: ふくあき
御三家編

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13/101

頭領

 スコープに一人の男が映る。ビル内にいるのは、スーツ越しにも太った体系が見えるその男であり、その表情は下品なもので悪役にぴったりの顔であった。


 男には目的があるらしく、ある方向へと歩き出す。十字の照準は男の頭を一切離れる事無く追従していく。そしてしばらく歩いた後、別の男と出会い、何やら談笑らしきことを始める。おそらく何らかの取引が行われるのであろうが、その男を隠すかのごとく周りの護衛と思われる者たちがその射線上から男を隠す。


 しかし照準はぶれない。まるで見透かしているかのごとくその向こう側の標的へと標準を合わせていく。


「……ゼロイン」


 見えない相手との照準が合う。


 そして――


「……発射ファイア


 その声が聞こえると同時に護衛の者の肉体がはじけ飛ぶ。あたりは混乱に陥り周りの者は護衛対象の安否を確認する。


 しかしそれは一目見ればわかることであった。


 貫通した弾丸により男の上半身は消失し、辺りには男を構成していたはずの肉片が散らばって護衛のものとは分別がつかなくなっている。


「対象の死亡確認」


 冷酷に、感情もなく結果を報告する。あたりが暗い深夜、ビル同士が入り組んだ先の遠くの屋上から狙撃。スコープから目を離した後に、依頼主の方を向き任務の遂行を告げる。


「素晴らしい。さすが雑賀衆さいかしゅう頭領とうりょうといったところか」


 頭領と呼ばれた男は拍手と賛美の声を受けても眉ひとつ動かすことなく依頼主の方を向いたままである。


 依頼主は側近の男にやれやれといった形で手を振る。側近の方も失笑している様だ。


 男はその顔に何の感情も表しておらず、その服装も示し合せるかのように真っ黒なスーツをぴちっと着ている。腰元には二丁のピストルが待機しており、男自体はまるで動かない像のごとくその場に仁王立ちをしている。


「ククク………………ふん、無愛想な奴だな」


 依頼主の男はまるではきつけるかのごとく悪態をつくが、それでも何一つ気にすることなく頭領は大型のスナイパーライフルを回収する。


「……任務は遂行した。残りの五千万を払ってもらおうか」


 スナイパーライフルを片付け依頼主の方を再び向くが、応待しているのは数多の銃口であった。


「……いやー、だますようで悪いがこの事を知ってる者がいると困るのだよ。すまないがここで死んでもらおうか」


「……」


 その場に沈黙が流れる。追い詰められた男はしばらくあたりのようすを眼球のみ動かすことで確認する。


 拳銃を持っているのは十人。刀を所持しているのが三人。


 確認を終えると、頭領は目の前の敵を挑発するかのごとく少しだけ口角を上げる。

 

「……貴様っ!? 舐めるなぁ!」


 激昂した依頼主の額に突きつけられているのは、いつ抜いたのかもわからない拳銃。


「あっ!?」


 そして銃声が高らかに鳴る。

「がっ!? ……ぐふっ」


 依頼主の額には赤い穴が開く。その穴は後ろ前で貫通しており、一瞬の静寂の後、派手に血を噴き出してその場に崩れ落ちる。


「! やれっ! 奴を殺せぇ!」


 側近が命令するとともに引き金を引こうとするが――


「っぐぎぃ!?」


 弾丸はその人差し指を正確に打ち抜いている。側近は右手を押さえるも、無防備な頭部に弾丸が襲い掛かりそのまま絶命する。


 頭領はピストルをスイッチする。


 セミオートからオートへ。


 拳銃から自動拳銃へ。


 左右へ両腕を伸ばし、その銃口は敵を確実に相手に撃ちつけられるように突き出される。


「はっ!?」


 そして周りにばら撒くかのごとく水平に薙ぐ。

 

 その通過した後には連射された弾丸が敵対する者へと容赦なく喰らい付く。


「ぐわぁ!?」


「ひがぁ!!」


 悲鳴と銃声を重ね、十四人の醜いオーケストラが開演される。


「やめてくれ、やめっ!?」


「くそ! くそ! くそがああああぁぁぁぁ――!!」




 ――しばらくの演奏会の後、立っているのは頭領一人でのことであった。


「……屑が」


 そこでやっと、依頼主への本音の言葉をつづる。血に染まったコンクリートの上に立つなか、あたりには忍が集結しつつあった。


伊賀いが甲賀こうが同盟集結完了。依頼対象の死亡を確認……これはどうなさったのですか?」


「依頼金の残りを支払わないどころか、口封じにかかってきた。それを迎撃しただけだ」


「では、後始末は――」


「これも含めて頼む」


「御意」


 再び忍は散らばるが、おそらくリーダー格と思われる男が頭領の前に一人残る。


 右目は刀傷により潰されてはいるものの、それを補うように左目が射殺さんばかりの眼光を放っている。顔のほりは深く、無精ひげと服の上からでもわかる筋肉質な体も相まって見る者を身構えさせかねないが、若い頭領はその姿に怖気づくこともなく淡々と話を続ける。


「……どうした?」


「いえ、新しい依頼がきておりまして。何でも頭領である重市しげいち殿を指名しておられるようで――」


「見せて見ろ」


 忍は懐から紙を取り出し、重市へと手渡す。その紙を手に取った重市は一通り目を通し始める。


「ふん……面倒な仕事だな」


「しかし報酬は破格のものです」


「織田、豊臣、徳川の集会を狙っての暗殺か……依頼主は……………………ん!?」


 重市はそこで目が留まる。忍びの方もその様子に気づいたのか、重市に問う。


「……どうかなさいましたか……?」


「…………何でもない…………この依頼を受けるぞ」


 長考の末、男はこの依頼を受ける事を決断する。そして紙を折りたたんで忍へと返すと、夜のビルへと消えていった。


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