赤い龍の血を引く女の進撃
「北の海の方角から、高出力のエネルギー反応! 高出力のビーム砲と思われます!」
悲鳴のようなワッカナイ支部の管制室のオペレーターの声が響く。
出撃を開始するユナイトファングの陣形にも影響が出た。
「臆するなぁ! この川島東湖がそんなもの何度でも斬り裂いてくれるわぁ!」
両鬢のちじれがいつも以上に増し、短い黒髪が殺気立つ。
基地中央に浮かぶ斬牙狼は虎鉄を空間に隙間が出来ないほど素振りした。すると、黒い粒子が散り、虎鉄が粒子を帯びて刀身が黒く変化する。と、同時にワッカナイ支部に迫るビッグリングキャノンの緑の光が見えた。
「……」
鬼人のような形相になった川島は、黒い虎鉄を大きく振りかぶる。次第に斬牙狼の機体全体が黒いエネルギーに包まれ、そのエネルギーは黒い狼のような模様になった。川島の目の前にブオオオオオッ! と迫る極大のエネルギーに、全てのオペレーターが叫んだ。
『危険です少佐ぁ!』
「私を誰だが忘れたか! ユナイトファングの黒い狼! 軍神・川島東湖だーーっ!」
充血させる目をさらにカッ! と開き、斬牙狼を包むエネルギーは全て虎鉄に注がれた。そしてブオオオッ! と 目標の光に突っ込み――。
「奥義・重力牙狼斬!」
ドス黒い重力を纏った一撃がビッグリングキャノンに接触し、ワッカナイ支部の前方で黒と緑の閃光が弾けた。目を開けていられないほどの光が周囲に散り、ワッカナイ支部全体に激震が走る。と、同時にオペレーターの声が響いた。
「? ジパング上空に敵影多数! インペラトルの機体が増えて行きます!」
それに興奮する疲労困憊の川島は、
「敵は強い。しかし陣形を立て直さず進め! ここで陣形を変えたら混乱が生じる!」
「!? こ、この支部に向かって一直線に向かって来る機体があり! せ、前方に布陣しているサツマの空戦部隊三十が消滅! うわああっ! く、来るなぁー……? 武杉ケンゲンらしき機体がジパングの上空に向かって飛んでいきます! ば……化け物……」
圧倒的なケンゲンのクリムゾンファントムの強さに思わずオペレーターは失禁する。それは基地本部での戦闘が初めての全てのオペレーター全てに起こる現象だった。
「精鋭部隊の三十機を一瞬で……流石は恐怖の龍王か。しかし、私がいる限り臆するなぁ!」
機体から煙が発する川島は大きく息を吐きながら叫んだ。
ユナイトファングは総司令・冥地琴乃の命によりジパングにある支部全軍をワッカナイに集結させる。
続々と基地周辺に現れた赤いインペラトルの部隊にユナイト側は混乱し、若い兵は陣形を乱し無様に屠られる。形勢はケンゲンが現れたインペラトルに流れて行った。夕日は沈み始め、夜の闇が空を支配しつつあった。
ビッグリングキャノンの緑と斬牙狼の黒の光を上空で浴びるケンゲンは、勢いを無くしたように無言のまま浮遊していた。戦況はワッカナイ支部の陣地まで被害を出し始め、消耗戦となっている。すでにインペラシップのビッグリングキャノンはワッカイ基地の充電が完了したバリアシステムで防げる状況になっていた。この為、接近戦で両軍は戦わざるを得ない状況になっている。
「天晴れ! 天晴れ! ユナイトファングの技術も中々ではないか」
混沌とする戦場にケンゲンは大きく頷く。
そして、ドラゴンソードを大上段に構え、龍のオーラを注ぎ込む。
それを見るユナイト全軍は恐怖し、インペラトルの兵は微笑む。
「絶望し、平伏せ。散華し、余を称えよ――ドラゴンサンクチュアリーーー!!!」
ズゴオオオオオオオオ! という赤い閃光がジパングを切り裂いた。
黒い筋がジパングの大地に現れ、ワッカナイからオビヒロまでを突き抜ける絶望の一撃だった。
『……』
人の力では無いケンゲンの一撃にユナイトファング全軍は空いた口が塞がらず、ロアーシ大陸を恐怖で支配していた王の悪魔の所業に絶望という思いを植え付けられた。
それにより戦いの流れが変わり出し、前線で戦っていたユナイトのリングナイツはインペラトルのエース達に決定打を与える事が出来ないまま疲労を重ね、戦場に散っていった。
ユナイトの劣勢状態が続く戦場の一角の空で、ケンゲンは川島と対峙していた。
夕日が落ち暗くなる空に、周囲で命の火花が散るさまも目に入らないケンゲンは言った。
「天晴れじゃ。そなたか、開戦の狼煙を消したのは。余が良い感じで飛び出そうとした所をよくも邪魔してくれたのぅ。骨のある奴に出会えて光栄じゃ」
「フン、そのドラゴンパワーをこの川島東湖が砕いてやろう」
クックックッと笑ったままケンゲンは龍の血を燃やし出す。
冷や汗を流す川島は全身を振るわせたまま黙る。
夜になる風が上空の二機を撫で、意を決した川島はケンゲンに攻撃を仕掛けた。パワーが上がるケンゲンの動きは今までに無く凄みを増していた。しかし、川島はその攻撃の全てを互角に切り返す。多少の焦りを感じる川島は虎鉄を振りかぶり、全身全霊の大技・重力牙狼斬を繰り出した。
「奥義! 重力牙狼斬!」
「ドラゴンブレイク!」
瞬間、ケンゲンも重力牙狼斬に似た一撃を繰り出した。ブオオオッ! と夜空に染まりつつある空に互いのオーラが散る。相手の強さ以上に、同じ技を繰り出した事に焦りを覚える川島は更に攻撃を仕掛けようとするが――ケンゲンはもう川島を見ていない。その瞳は虹色に染まっていた。
「虹が――流れた」
そう、インペラシップの方角を見据え呆然と呟くケンゲンの言葉と共に、ジパングの大地を攻撃していたインペラシップが沈む。
流れ星のような虹色の閃光が機動戦艦を機能をマヒさせるぐらい停止させていた。
ほう……関心するケンゲンは虹の力に興味がわく。
「まさか会桑があそこまでパワーアップして戻るとはな。天晴れじゃ」
「隙有り! ケンゲン!」
瞬時に川島は隙だらけで浮遊するケンゲンに肉薄する。
その一撃を人差し指で受け止め、興味なさげに川島を倒す。
半分意識を失ったまま川島は地面に落下していく。
ジパングの土地を破壊していたインペラシップは機動性を失い不時着する。
瞬間、高出力のエネルギーがケンゲンを襲った。
「くっ! ヤヨイか?」
黒いリングナイツであるサッチョウドKBは十字架のような武器からエネルギーを放つ。
すぐさまケンゲンは反撃をするが、その推進補助も兼ねる背中のKBはヤヨイのスピードを飛躍的に加速させる。それを見るケンゲンは自身の身体に張り付く無数のハエを見た。
「余のオーラを喰っているのかこのハエは?」
「ムフフ。それはハエじゃなくてナエよ」
ヒャッハー! とナルは紫のショートボブを揺らし現れる。
ふっ……と鼻を鳴らしケンゲンは相変わらず空気の読めない奴だと思いながら気合を入れてナエを始末する。
そして、その機動戦艦を沈めた虹を纏う少年。
蒼い髪のリングナイツがケンゲンの元へ現れた。
「武杉ケンゲン。もうこの地は壊させない。ユナイトファングがお前の野望を打ち砕く!」
嗤うケンゲンは部下にジパング攻撃を支持し、雪牙との決戦へ望んだ。
※
蒼と赤の閃光が激突している。
雪牙、ヤヨイ、ナルの三人は猫神とジパングへ高速で戻っていた。
この三人を金神閃の全砲門開放のフルバーストモードでロアーシから押し続けた猫神はエネルギーを使い果たして地面から上空を見上げている。
猫神に助けられた川島はインペラトルのイガの群れと戦い、セントラルからの増援と共にジパングを守る作戦に出た。ジパングの全軍を投入するユナイトファングは数の上で圧倒的優位に立つが、敵のリングナイツ・イガは明らかに異常な力を秘めた兵士達だった。それを察するワッカナイ司令室の琴乃は言う。
「全軍を投入している以上、我々に分はあります。立て直したばかりのニホン大陸に増援は求められません。自分の国は自分で守るのみです。全軍死力を尽くしなさい!」
いつもとは違う命令口調の総司令に刺激される兵士達はやってやる! と気合を入れて奮闘する。
地表から上空の戦いを眺めている猫神はこの状況を冷静に観察して一つの答えを出していた。
「ナハハッ! どうやら敵の雑兵の強さの秘密はケンゲンのドラゴンパワーにあるようよ。その女のパワーが伝染して雑兵が強くなっている。このままだとユナイトは数の優位を保てず壊滅だわ」
その言葉を聞いた上空の雪牙達は戦慄した。
インペラトルの兵士はこのケンゲンのパワーが伝染する為にケンゲン本人を倒さなければならない。
それを看破した猫神を見るケンゲンは赤い瞳で燃やし尽くすように見据え、
「そこの猫女。余計な知識を広めるなよ」
ズババッ! と赤いオーラの弾丸が放たれ猫神はやられる。
それに怒る雪牙はケンゲンに雅神剣を突き刺す。
眉間から血を流すケンゲンは雪牙を見据えたまま微笑んだ。
「信玄のリングは余の龍一族の加護がある限り無敵じゃ」
「俺は不死身だ」
カッ! という火花を散らしながら二機は思いをぶつける。
それを援護するようにヤヨイのサッチョウドKBとナルのダークグリードは隙を見つけては援護射撃を繰り返す。互いの剣をぶつけあう雪牙は勢いのまま叫ぶ。
「巨大な力を求めなくても……どんな人にも人はそれぞれ長所がある。それを伸ばせば十分だ。それが世界の安定への道。力と恐怖でこのジパングがひれ伏すと思うなよ!」
「思うさ。余の力に恐怖せぬ者は存在しないからのぅ。初めに余を拒絶しているのは貴様等じゃろう!」
「ならば新たな力でお前を葬る」
「シエルリングの虹の力。インペラシップを一撃で沈める力……この武杉ケンゲンに見せるがいい!」
両者は更にパワーを上げて激突する。




