インペラシップ始動
龍一族の姉妹はリングナイツになったまま対峙している――。
紅水泉はこの姉である武杉ケンゲンに紅水泉であると悟られない為に名を変えていた。
紅水家に養子に出されたまでは知られていたので、このケンゲンの暗躍に気づいてからは名を変えて調査を続けるしかなかったのであった。それを知るケンゲンはかつての妹がジパングでリングナイツになり、ここまで来た事だけは褒めた。
「クリムゾンウォーターを名乗っていたのは、そういう事か龍の血筋に嫌われた妹よ」
「そうよ。紅水を名乗って活動してたらアンタに気づかれるからね。お姉ちゃん」
「お前相手ではナイツは解除するか。生身でも勝てるだろう」
赤い装甲が消えていき裸になるケンゲンに侍従の女がすかざず赤マントを羽織らせる。
「どうした妹よ? 余を倒しに来たのだろう」
赤いサンタクロースのようなフードコートを身に纏う幼女は全身から軽い電撃を発しながら歩いて来る。電撃により地面の岩が砕け、コートの隙間からは時折の素肌が見えていた。尻から生える鋭い尻尾はまるでドラゴンのように鱗で覆われていた。
これがこの幼女が龍王の血を宿す者だという事が伺える。
「もう尻尾まで生えてるなんてね。いずれ前の尻尾も生えるんじゃない? アタシの命よ……吼えろ!」
だが、クリムゾンは自身の炎のオーラを命を賭けて全開にして構える。
龍一族の血筋の力を得なかったこの妹の有り得ないパワーにケンゲンは驚き、妹の成長に興奮した。
「さぁて、燃え尽きてもらうわよこのクリムゾンウォーター最大最強の一撃でね」
クリムゾンは炎射阿修羅鬼神砲を展開させる。
「それが最大最強か。いいだろうよ。かかって来い!」
三メートルほどの長さの砲身が生み出され、空中に制止するクリムゾンにオーラが満ちる。
インペラトルの兵の全員は炎の悪鬼を見据え、ケンゲンは両手を突き出す――瞬間。
「燃え尽きろーーーーーーーーーーーっ!」
ズブアアアアアッ! と炎の極太のエネルギー砲が放たれた。
紅に染まる空間は炎に包まれる。
基地内部がマグマに呑まれたかのような衝撃と激しい熱波に包まれる。
自身の命を削ってまで撃ったクリムゾンは大汗を流し、床に崩れ落ちる。
ケンゲンの玉座も何もかもが消滅し、焼けた煙が流れる匂いの中に生物が焼けた生臭い匂いが流れていた。そのエネルギーはケンゲン以外の仲間を消し炭にし、空間には何も残っていなかった。
レーコと、武杉ケンゲン以外は――。
「……今の衝撃でようやくこの身体も目覚めてくれたよ。感謝するよクリムゾンウォーター」
今の一撃をものともせず笑うケンゲンの身体が急成長し、大人のサイズになっていた。
妹であるクリムゾンのように豊満な胸にくびれたウエスト。流れる赤い髪が美しい肢体を隠す。
これが真の武杉ケンゲンの姿だった。そして――。
「地震?」
とレーコが言うと、その揺れは地震では無かった。
それを見るクリムゾンは更に絶句する。
自分が今、破壊した空間が再生し始めているのであった。
「生体兵器もこのインペラシップに馴染んできたようだ。天晴れ、天晴れ」
そのケンゲンの言葉に、すかさずクリムゾンが反応する。
「まさかこの要塞そのものが――」
そう、この要塞そのものが生体兵器インペラシップだった。
生体兵器を取り込んだインペラシップには自己修復機能があり、メカニックもいらず人間のオーラさえあれば動く空飛ぶ魔物。ズゴゴゴゴ……とインペラシップはゆっくりと極寒のロアーシの大空に浮上した。悠然と、インペラシップはロアーシ大陸を離れ南のジパングへと進行する。唖然と周囲を見据えるレーコとクリムゾンは、この状況に対処出来ない。
『……』
ポッ、ポッ、ポッ。
インペラシップ上部のガラスに水滴が少し、雨が降り出してきた。
ロアーシ大陸から出た事により、外の世界の気候が干渉し始めたのだろう。
「諦めろ妹よ。お前では余には勝てん」
「アタシが諦めるのを諦めなさいよ!」
折れる心を立て直し、クリムゾンは立ち上がる。
すでに立ち上がれない妹に敬意を評し、ケンゲンはリングチェンジした。
「余のリングチェンジで仕留める。この信玄リングとドラゴンパワーを舐めるなよ」
「アタシも龍一族よ!」
ズババッ! と紅い悪鬼と赤いドラゴンが対峙する。
すでにどの武器も効かない事はわかっている為、もう一度寿命を消費して最大最強の一撃を放つ。
「ラスト一発! 決めてやるわよ!」
「同じ技とは芸が無いな」
瞬時に炎射阿修羅鬼神砲は切り裂かれ、ドラゴンソードはクリムゾンウォーターを真っ二つに斬った。その身体は正面のガラスを突き破り外へ流れて行く。そして燃えゆく妹の死体を見つめ、ケンゲンは赤髪をかきあげて怜悧に笑った。
「諸君、では行くとしよう。新なる世界へ!」
ケンゲンは外から吹きすさぶ雨に顔を濡らし、叫んだ。
ザアアッ――。
雨は次第に激しくなり、一人残るレーコは最悪のこの状況を思う。
ゴロロ、ゴロロッ!
雷も鳴り始め、雨は激しさを増した。
ただ、三日月だけが嘲笑うかのようにレーコの真上で輝いていた。
※
その巨大な要塞が機動戦艦としてジパングへ向けて進撃する姿を蒼い髪の少年が見据えていた。
すでに今の状態ではケンゲンに勝てない事を悟る雪牙はこれからの事を考えつつ静かに闘志を燃やしている。灰色の雲を切り裂き、インペラシップはジパングへ向けて進行していく。
「インペラシップか……ジパングで決着をつけてやるぜケンゲン」
グッと握り締める拳の力を消すように、背後から若い女の声がした。
「勝てるの? シエルリングを使いこなせない貴方で?」
「ヤヨイ……」
振り返ると、ボロボロの姿で長い金髪を吹雪に舞い上げるかつての相棒であるヤヨイがいた。




