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欲望への目覚め

「ウッサイわね。一体誰ニャ!」

 と口調が乱れる猫神はパソコンのモニターに映し出されるサッポロ近郊のナコタの森を見た。

 大半のカメラはミストジャマーの濃霧で死んでいるようなものだが、たまにユナイトの定期巡回がある場所では多少の異変は大きな異変として知らされる。

 正確な映像は撮れないが、赤い悪鬼のような顔の機体が獰猛な肢体を濃霧に溶け込ませながらゆっくりと前に進む。眉を潜める猫神は黒主部隊の流行りであるオリジナルのカラーになるトサを受け取る為に隣に現れた雪牙など目に入らず、

(……このリングナイツは火の加護を受けた炎姫えんき。三ヶ月前にダイオク首領の冥地功周めいちこうしゅうの土の加護を受ける地恒庵じこうあんと共に現れた炎姫ね。冥地の奪還に来たか……それとも我々への……)

「迎撃に出る!」

 言うなり、紺から蒼に塗装が変わっただけのトサをIリングに収容し一気に格納庫を出て通路を駆けた。その雪牙に見向きもしない猫神は、パソコンのモニターに顔を張りつけ鼻息と吐息で画面を曇らせながら食い入るように濃霧の中の炎姫を見つめた。その青い瞳は、怒りの炎を灯していた。




 オビヒロの郊外。

 激しい戦闘をした後のように地面は抉れ、雪が泥と混じり合い雪原の純白の美しさはどこ吹く風である。その人気の無い荒廃する大地の上に金髪の目付きの鋭い少年が仰向けで倒れている。額には油汗を浮かべ鼓動が激しい身体からは中空に白い吐息をもらしている。

「何もかも壊したくてしょうがねぇ……この高ぶりは何だ? 自分自身を止められねぇぞ……あのNリングの泉の力。Iリングじゃ出せねーあの力が俺も欲しい……」

 体力と精神力の限界を迎えた黒主は言う。

 この周囲の土地の破壊は黒主がやった事だった。

 紅水泉の炎姫と出会って以降、ミストジャマーが深いナコタの森やこのユナイトの演習場にたびたび来ては破壊活動を繰り返している。

 更なる力への欲望による感情の高ぶりが自身の衝動を抑えられなくし、自身を保つ為と暴走しそうな感情を吐き出す為にここに来ていた。新たな力への欲望はこのジパングという世界が狭いとすら感じるようになっている。ふと、感覚が鋭利になっている黒主は起き上がる。

「……ここに来れば会えると思ってたぜ」

 視界に雪煙が上げ進行してくる機影を見つける。

 ダイオクである五機の銀色のトサの群れが猛然とライフルを射出し虎柄のトサに迫る。

 ライフルとソードを見事に使い分けかすり傷すら負わず四機を始末する。

 残る一機は戸惑いを見せるかのように動きが止まるが、それはライフルで足を撃ちぬかれて動けないだけだった。ザシュ! と真っ二つにされ最後のトサも爆発する。

 今の黒主は並みのリングナイツでは相手にならない。

 急速な成長が多感な感情に棘を刺すように全身を動かさせている。

 その黄色い瞳は磁場障害のある霧の奥の微かな揺らめきを感じる――瞬間。

 ズボボボッ! と三本の火柱が黒主のいた周囲に弾ける。

 森の奥を注視すると装甲が厚く両肩にヒートバズーカを備えたトサとは違う銀色のリングナイツ三機が襲撃して来た。

「この間の赤髪ネーチャンじゃねぇ……あの厚い装甲に火力は雪牙の試しているトサ・ヘビィアームズ? だが外見がトサじゃねぇな。考えてる暇は無ぇーようだ」

 まるでトサとは違う圧倒的火力に恐れと興奮を感じつつ戦う。

 機体を木々の間を走らせ数度の直撃を浴びつつ接近戦に持ち込もうとする。

 通常のライフルでは相手の火力や装甲の前ではまるで役に立たず、いかに白兵で斬り伏せるかが勝因になる。

「ドラドラドラーーーッ!」

 驚異的な集中力で火線を回避し続ける黒主は敵リングナイツ三機の腕、胴、背中を切る。ブ厚い装甲は多少の損傷を見せるがまるで決定打にならない。足に直撃を受け、足首の一部が消し飛ぶ。瞬間、敵機は一様に両肩のバズーカ計六門を動きの止まる金色のトサに向ける。圧倒的火力の前になすすべも無くトサカが目立つ虎柄の機体は半壊する。

(こいつはいい敵だ……楽しめそうだぜ。壊して、壊して、壊し尽くしてやる。この俺はこの世界をいつか飛び出してやるさ――)

 自身の心の闇を解放するかのように装備をハイパー化した。

 強化されたシールドはヒートバズーカを一時的に無効化するが、ハイパー化は著しく体力を消耗する諸刃の剣でもある。

「ハイパー化のうちに一気に蹴散らす! ――ぐおおおっ!?」

 ハイパーシールドは敵の一斉射撃により破壊され、ヒートバズーカの直撃を浴びて左腕の装甲を失う。

 勢いのまま阿修羅の如く立ち回り、背中を攻撃されるのを無視してハイパーソードで一機を仕留め、その機体を投げ飛ばしもう一機を同時に爆発させる。

 バババッ! と火線が黒主のトサの腹部に直撃する。

「野郎! ――!」

 瞬間、死神が背後から迫るような想像を絶する悪寒が黒主の中で弾け、瞳孔を開いたまま真上を向く。 その鉛色の上空には、謎の金色の神のようなリングナイツが存在した。

 金色のリングナイツは全身にある射出口にミストジャマーを吸い込み明らかに自身に還元している。

(またNリングの使い手? ミストを吸収する能力? もう信号弾を上げるしかねぇな。……! 故障? 嘘だろ……)

 この戦いの最中、背中の信号弾が入るバックパックが破壊されていた。

 新たなる脅威に意を決する黒主は言う。

「いいハンデだ。やってやろうじゃねーか。金色祭こんじきまつり野郎」

 言葉とは裏腹に、体力も精神力も限界に来ている。

 全身からビームを射出する謎のリングナイツの火線が周囲を包み込んだ。



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