桃色と赤
武杉ケンゲンの間。
真下の天井をブチ破り現れたレーコに対しケンゲンの侍女達は戦闘態勢に入る。
すると、ケンゲンは玉座から立ち上がり、侍女達を制止させた。いや、制止せざるを得なかった。
今までどんな客人が来ようとも、この武杉ケンゲンが自ら立ち上がる事など皆無だったからである。
そのまま串団子をくわえたまま数歩歩き、満身創痍のレーコと対峙した。
「すでにリングナイツとしての力が残っていないにも関わらずここまで来たか。拳に頼る武闘派はこれだから困る」
笑いながらケンゲンは言う。
「余も拳は得意とする方だ。素手というのは武器を使うよりも他人を知れるからのぅ」
「それは楽しみね」
瞬間、ケンゲンの全身にオーラが展開する。ケンゲンの身体が赤い光に包まれていく。
シュウゥゥゥ……赤い光が周囲に散り、戦闘モードのケンゲンが現れた。
「リングチェンジしないの?」
「言ったろう? 素手は他人を知れる良い手段だと」
そして拳を構える。
ケンゲンのプッと飛ばした団子の串が地面に落ちた瞬間――ガッ! と二人の拳は激しく激突した。
互いの鋭い拳がケンゲンの間全体に響き渡る。
「でやっ!」
「はああっ!」
スパッ! とレーコの腹の衣服部分が横一文字に拳圧で切れ、ケンゲンの頬にレーコの右拳がくいこむ。
『……』
両者は額の汗を拭い、拳を構える。ツツーとケンゲンの右頬から血が流れる。その血を拭い、
「余に血を流させるとは思わなかったぞ……。主、中々やるのぅ」
「貴女こそ、なかなか直撃を受けてくれないから困るわ」
二人はフッと笑い、再度の攻撃に出た。
息をつく暇も無い、目にも止まらぬ互いの拳が交差する。
競りあいに勝ったレーコの拳が、スウッとケンゲンの腹をとらえる。
紙一重の所で後ろに飛んでかわしたが、ケンゲンは足が滑って転びそうになった。
その隙をつき、レーコの桃色ファンタジーの乱打が鬼のような速さで眼前に迫る。
「桃色ファンタジー!」
ズバババッ! とケンゲンの赤いマントはボロボロになる。
技を繰り出したレーコは静止していた。
その背後には新しいマントを肩から羽織るケンゲンがいるのである。
「……殺さないの?」
「久々の強敵だ。余はまだ遊び足りんのだ」
「遊びじゃないでしょっ!」
背中に拳を浴びながらも、真後ろのケンゲンに猛烈な裏拳をかます。
二人は口から血を流しながら戦いを楽しみ出していた。
『はあああああああああっ!』
歯を食いしばりながら、お互いに向かって突進する。
レーコの高速の蹴りを、ケンゲンは脱いだ赤マントでからめとり封じる。
その隙をつき、右手の拳がレーコの額をとらえた。
が、ガスッ! とレーコの頭突きによって防がれた。
「天晴れじゃレーコ! ぜひ余のものにしたいぞ!」
「!?」
ゾワッ……! と異常な殺気と性欲のようなプレッシャーに圧されバッ! と後ろに後退し、レーコはケンゲンと距離をとった。
「貴女……ぶっちゃけ二割ほどの力で戦ってるでしょう?」
「そうだ。余は最近戦ってないからなまっておる。殺るなら今だぞ」
不敵な笑みを浮かべ、ケンゲンは赤マントを正す。
やや腰を低くし、レーコは右腕一本に力を集中し構えた。
最後の一撃に出るなと思うケンゲンはその出方を見据える。
『……』
周囲に静寂が流れ――レーコはカッ! と目を見開き、
「桃色ストライカー!」
シュパー! と全身全霊の直線的な突きを繰り出した。
「!」
すかさずケンゲンは左手の平でそれを防いだが、
「がはっ……」
突如、左脇腹に激痛が走った。
見ると、レーコの右足が自分の脇腹をとらえている。
「ほう……そんなフェイクを入れたか。ますます余のものにしたくなったぞ」
「これでも倒れないの? いやー、しんどいわ」
「なら寝るがいい」
一瞬、全身の力が抜けた隙をつかれ、レーコは五割に増すケンゲンの拳を受けて倒れた。
まだ意識のあるレーコにケンゲンは言う。
「天晴れじゃ、主にはこの信玄のリングの力を見せてやろう」
赤い光が発光し、レーコの意識は闇に落ちた――瞬間。
ズガガガガンッ! という爆音と共に蒼いリングナイツが出現する。
振り返るケンゲンはリングの力を停止させ玉座に座った。
砂煙が上がる空間を一人の少年が歩いて来る。
両者は視線が合い、互いを認識した。
『……』
王の玉座に座るケンゲンは赤いマントを揺らし、言う。
「その自然の七属性を司るシエルリングの力、見せてもらおうか。会桑雪牙」
スッと赤いマントの中から、文庫本サイズの白い本を取り出した。
「全ての力を使えるわけではないさ。過ぎた力を持つと、それをコントロールするには肉体的にも精神的にもキツイものがある。お前の強さは弱さと同じだろう」
「……主は面白い事を言うな。余をこの座から立たせてみよ」
そして、雪牙とケンゲンの戦いが始まる。




