再度の侵攻
猫神の秘密基地で補給と回復を済ませた雪牙達はその拠点を放棄し、再度武杉ケンゲンの元へ向かっていた。猫神とレーコは敵の注意を引き付ける為に、基地の西側から攻め込んでいる。
そして、東側から単独で攻める雪牙は猫神から自然力を操りやすくなるシエルリングをサポートするリングを渡されていた。それにより、炎と風以外の力も使えるようになっている。これでヤヨイの言うケンゲンに勝つ状態にあるというのがクリアされていた。シエルリングの力の全てを解放すれば敵は無いと確信する雪牙はこの再攻撃でこの戦いに終止符を打つつもりでいる。
「……サポートリングはまだ不安定な力。ケンゲン戦までは簡単に使えん。――ぐっ! 遠距離射撃か?」
インペラトルのリングナイツ。長距離射撃を主にするヒゼンサガのアームストロング砲が基地に向けて進行する雪牙に向けて放たれていた。ズゴンッ! ズゴンッ! と雪牙の周囲数メートルの地面に直撃し、白銀を舞い上げ白い視界を更に白くする。
「くそっ! この視界ゼロの中から正確に俺の位置を把握してやがるな! 熱源レーダーでも搭載してるのか? いや、このミストジャマーの嵐じゃレーダーの類いは使えないはず……ぐおっ!」
白銀の群れの中に一瞬、赤い光が発したのを感じ雪牙は左手に倒れ込んだ。数秒前までいた場所が爆発し穴が空く。即座に雪牙は攻めなければこのまま終わりだと直感し、猛スピードで敵機のいるであろう方向に向かって進む。
ハイパーモードの状態で新たに装備したシールドを前面に突き出し、視界ゼロの吹雪の中を自分の直感のみを頼りに突っ込んだ。すると、ヒゼンサガのアームストロングカノンがハイパーシールドに直撃し、大爆発した。
その狙撃手は敵を倒したと思い、アームストロングカノンに搭載されるスコープから目を離した。そして、その狙撃手の更に遠くの位置に長い金髪を吹雪に揺らすヤヨイがスコープ越しに冷たい目で見つめていた。
「目標駆逐。最後は特攻なんて呆気ないものだったわ。それにしても、随分派手に爆発したわね……」
ヤヨイは吹雪でも消せない爆発の黒煙を見上げた。
ヒゼンサガのアームストロングカノンにはハイパースコープというロングレンジを見渡せる特殊なスコープが搭載されていた。その分、他の性能が他のリングナイツよりも劣っている。それを、この吹雪の中突如現れる素肌に赤いマントを羽織る魔王のような幼女が呟いた。
「射撃と視界確保だけに特化してるから、機動力もパワーも無いのさ。故に弱い」
「ケンゲン。来てたの」
その赤いマントを羽織る幼女はインペラトルの総帥・武杉ケンゲンだった。そのケンゲンはこの寒さの中でも顔色一つ変えず、スッと白くか細い手を出し言う。
「ヤヨイ、そのおもちゃを余によこせ」
「何故?」
「窮鼠猫を噛む。という奴だ」
「?」
瞬間、二人に無数の火線が飛び交う
高速で動く蒼い機体は一気に攻め立てる。
「倒す相手が揃ってて都合がいいな! うおおおおおおおっ!」
ヤヨイの反応が遅れるが、それに対応するようにケンゲンが素手で雪牙と激突した。
距離を取り空中に逃れるヤヨイは背後に紫のリングナイツを見た。
「ナル? 今は邪魔よ」
場の空気など読めないナルは空中で長距離砲を構え、生身のケンゲンとぶつかる雪牙を見据えていた。
「ムフフ。会いたかったわよ雪牙。まずはあんたを倒して、それからこの国の王を倒すわぁ」
「ナル! この基地を攻撃するつも――」
そのヤヨイの言葉は最後まで言われる事は無く、ダーク・グリードの生み出したキャノン砲がインペラトル基地に穴を空ける。その攻撃の余波に巻き込まれたケンゲンは煙を払いながら言う。
「……ヤヨイ。あの空気を読めん女はもう必要無いであろう。生体兵器を手に入れるまでの功績だけは認めてやろう」
一足飛びでケンゲンはダークグリードを始末した。
声も出せないナルは遠くの彼方へ吹き飛ばされた。
「余は玉座へ戻る。今度の客人は前回の時より強い力を感じるから戦闘再開が楽しみだよ」
「そう。わかったわ」」
「それと基地内部に展開しているイガを戻せ。警戒兵は置かなくていい。発進前にあまり無駄な犠牲も時間も取れんからな」
リングチェンジしていないにも関わらず恐ろしいオーラを発するケンゲンにヤヨイは身震いした。猛吹雪の中、赤いマントをひるがえし歩く幼女はあり余る自分の力を抑えきれず赤い蒸気を身体から発し続け歩く道筋の雪は完全に溶けていた。ナルの攻撃でケンゲンを見失っていた雪牙はその背中を追い、基地内部へ進入する。
「野郎、俺を無視しやがって! 生身で俺に勝てると思うなよ!」
進入する雪牙をヤヨイは金髪をかきあげながら見送った。
※
基地内部に進行した雪牙は薄暗い内部を駆ける。
通路には人がおらず、生命の鼓動のような感覚が全身の感覚を刺激していた。
「……いやな鼓動だな。まるでこの基地が呼吸をしているような――っ!?」
瞬間、雪牙の首に一本のクナイが突きつけられていた。赤い忍のリングナイツの持つそのクナイは問答無用で首筋に食い込む。
「リングチェンジ!」
敵の動きよりも一瞬早くリングチェンジして、そのチェンジの波動で相手を吹き飛ばす。アーマーの下で出血を感じる雪牙は首筋を抑える。
「隠密って奴か? 気配が感じられない」
すでに敵のリングナイツ・イガは薄闇に溶け込むように姿を消していた
装甲がミストコーティングされているらしく隠密機動が出来る機体らしい。
そして、イガの群れはその両目を雪牙の蒼い装甲に目をつけ動き出す。
雪牙はイガの隠密機動に次第に翻弄される。
「このっ!」
背後に現れる敵の刃を受けると、シュリケンが肩に刺さる。
「そんな程度でやられるか」
大きなダメージは無い為に一気に攻めた。すると、足に何か違和感を感じる。
「マキビシだと!?」
マキビシが地面に仕掛けられていてそこに誘導された雪牙の機体の足元から爆発が起きる。バッ! と爆炎から現れる雪牙は様子見していたイガの胸元を斬りつけた。
「無駄が無い動きだ――が!」
風で生み出した見えざる二の太刀が胸元を斬りつけられたイガを襲った
まず一機を倒した雪牙は残る数機に向けて言う。
「出会い頭に首を取れなかったのが敗因だ」
という言葉と共に、雪牙の背後にイガが現れた。
「まず首を取ろうとする動きが先読みされる原因だな」
一瞬にして背後の敵を倒し、目の前から迫る第二陣も倒す。残る敵は一機になった。
「さて、どうする? まだやるのか?」
「……」
敵のイガは返答は無く、赤いオーラの放出をもって答えた。そのオーラと共にイガの身体が肥大化する。
「パワード・イガと言った所か。無駄な事を」
「ケンゲン様からの命令無視までしてるんだから無駄には出来ないわよ」
突如話し出す若い女の声に雪牙は答えた。
「? ケンゲンの命令を無視するか。やるじゃないか」
「ジパングまで旅立つこの日に邪魔をされるわけにはいかないわ! 消えろ!」
圧倒的なパワーを得たパワード・イガが雪牙に襲いかかる。
ズババッ! と両者の武器が激突しパワー勝負になる。
「中々のパワーだ。だがさっきの方が恐ろしかったぞ」
「減らず口を!」
雪牙はパワーで押され後退する。
圧倒的パワーと防御の力を持つ敵に雪牙の脳裏ではこう思った。
(……都合がいい。こいつにシエルリング全属性の一撃を試してみるか)
スッ……と猫神からもらったシエルリングをサポートするリングを見た。
そしてパワードイガの侍従頭・フユミは叫ぶ。
「ケンゲン様の元へは向かわせん!」
「……流水八花!」
流れる水のような雪牙の一撃八斬は、パワード・イガの装甲を八つ裂きにした。
しかし、厚い装甲の一部が砕けただけであった。
瞳が蒼く輝く雪牙は叫ぶ。
「シエルリング開放! シエルフェニックス!」
そしてシエルリングのサポートリングのパワーを開放し、火・水・土・雷・風・木・金の自然七属性全ての力を叩き込んだ。
虹色の粒子が散り、この戦いが終焉した。
「忍なら忍らしい戦いをしろ。出来ない時点でお前の負けは確定してる」
「負けていいのよ。もう時間は稼いだから……」
「そうか。ならば地獄に早く行け」
そして信長より激烈で、秀吉より華美で、家康より狡猾である会桑雪牙はケンゲンの間へ向かう。




