ナルとの戦い
雪牙の蒼天楼はその蒼い阿修羅のような姿をインペラトル基地工場ブロックの一角にさらしていた。
夜の闇に浮かぶ青い瞳がうごめく数体の赤いリングナイツ・サツマをギロリと捉えた。
「……地上に脱出成功したが、もう敵が来てるな。とりあえず、このまま一気に行くしか無いか。この弾みが無くなったらこの喧嘩には負ける」
敵を確認した雪牙は戦闘体勢に入る。
一気に蒼天楼のパワーを全快にしサツマの群れへ突っ込んだ。
無双する蒼天楼の咆哮と共に夜の闇を蒼く染め上げて行った。
「はあああっ!」
蒼天楼の肩にある蒼炎輪が正面から来るサツマを刻み、爆発する。後続の二機は左右に展開し、ライフルを連射した。
「流石はケンゲンの精鋭部隊。動きが早い――」
口を大きく開けながら雪牙は叫び、蒼天楼は左にホバーで大きく流れ敵のライフルを回避するが、数発の弾が蒼い装甲で弾ける。
敵の動きの早さに苛立ちを見せながらも、雪牙は右腕の雅神剣でサツマを切り裂いた。ジジッと火花を散らし、サツマは爆発する。立ち上る黒煙を見つつ、雪牙は吹き出る汗が白い蒸気になる感覚でロアーシ時代の戦闘を思い出して行く。重力の変動にすら何も感じないように闇夜に舞う蒼天楼に槍を持つサツマの少女は驚愕する。
「なっ? バクテン!?」
突如、雪牙はバクテンをし、サツマの背後に躍り出た。不意を突かれたサツマのパイロットは槍を背後に繰り出すが遠くに弾き飛ばされ、
「ケンゲンが生体兵器を何に使うか知らんが、奴の野望は俺が食い止める。奴の居場所を教えろ」
「そんな事は自分で調べなさい――」
「そうか」
その少女の刃を回避し、スパァ! と背中を両断した。冷たい怒りを瞳に宿しながら、一気に加速をつけその場所を離脱する。背後でドゴンッ! という爆発があり、一瞬だけ蒼天楼の全身を明かりが照らす。大きく息を吐く雪牙はケンゲンとヤヨイの居場所を探しながら無言のまま蒼天楼を走らせる。
(敵は俺の地下からの脱出を待ち構えるようなタイミングで現れた。それが倒されたのに工場ブロックにライトアップすらされない……もしかしたら俺はケンゲンの描くシナリオの中を……!」
「雪牙―――っ!」
突如、甲高い奇声と共に一機の紫色のサツマが颯爽と現れた。立ちふさがるように刀を構え、蒼天楼の前に立つ。サツマのパイロットの少女は、首元の銀色の鈴を鳴らし、紫色の髪のショートボブの毛先をいじりながら、微笑んだ。舌打ちをした雪牙は、ある人物を思い浮かべた。
「まさかナル(NAR)!?」
「NARではないわよ! ノットエアーリーディングだ!」
「ナル……鳴沢無読相変わらず空気読めないようだ……このタイミングでお前が迎撃に出てくるなんてな。ヤヨイはいないのか」
「当然よ雪牙。アタシは軍に入ってからずっとこんな刺激的な日々を求めて来たのよ。こんな楽しい事をヤヨイには任せられないわ……ムフフ」
「生体兵器はどうした? それでケンゲンはこのロアーシをどうするつもりだ?」
「知らないわよ。そんな事に興味は無いの……アタシはただ戦えればそれでいいのよーっ!」
ブフォ! と背中のスラスターを吹かし、首の鈴を鳴らすナルはサツマで特攻する。応じるように蒼天楼は雅神剣を繰り出す。そのナルの剣は強い意思が込められており、生半可な攻撃では折れそうに無かった。一刻も早くケンゲンの首を取りこのエリアから脱出したい雪牙は、ナルに対して怒りを覚える。
「戦いたいだけなら後でいくらでも戦ってやる! ケンゲンを倒し生体兵器を消滅させる邪魔をするな!」
「生と死がカオスってなきゃ、興奮しないでしょーが!」
言葉ではどうしようもない相手に、ユナイトで調べたこのナルのデータを話し出す。
「鳴沢無読。通称ナル。誰とも相容れず、ただ戦闘のみを愛し、友軍すら抹殺する軍人失格の女。キョウト支部では牢獄から脱走し男子用トイレに隠れて生息した挙句、小便器にうんこした女……異常でしかない」
「シーハー・ダマコクリンが女子寮の便所にぶりぶりして詰まらせたから、仕方なく男子便所入ったら個室まで我慢出来なくてしただけよ! 原因はあのオネエよ!」
「もう奴は死んだぞ。さっきからお前の周りにハエが飛んでるのは何故だ?」
「ハエじゃない、ナエよ! アタシの守り神よ!」
「ハエが神ならお前は人間ではないな」
雪牙はサツマの剣を右の雅神剣で受け、左の雅神剣で即座に両腕を無慈悲に斬った。その衝撃を受け頭を打つナルは意識が飛ぶ。これでこの戦闘マニアは戦う事が出来ない。倒れた衝撃でチリンと首元の鈴が鳴り、微かな光を見た。
それは、相手を喰らい自分が生きる姿。
死から這い上がる食人鬼のような闇の存在。
そしてナルは周囲のナエに起こされる――。
「……空気を読めないのがナルだーーっ!」
「――っ!」
ガゴォン! と突如起き上がったナルの頭突きをくらい、不意を突かれた雪牙はよろめく。その一瞬でナルは地面に刺さる死んだリングナイツの槍を左腕の関節に刺し、その先端を蒼天楼の胸部に向けた。体勢を崩す雪牙は完全に回避出来ない事を悟る。
(こいつ、どこまで戦いたいんだ――)
どんな姿になろうとも戦うナルに驚愕しつつ雪牙は、その槍の先端を見据えた。
同時に、蒼い殺意が心の奥でパチリと、燃えた。
(殺す――)
次の瞬間、二機の機体は抱き合うように、鋼鉄の機体を寄せ合っていた。
蒼天楼の剣がサツマの胸元に刺さり、サツマの槍は蒼天楼の顔の横にあった。
「ムフフ。いいわぁ……この心臓から溢れる血がアタシの愛よ……」
「……そうか。なら逝け」
逃げ出すように雪牙はナルの胸元から離れた。
「空気は読めないわよ……ナルだか――」
そして、ナルのサツマは爆発し、ハエの群れのような火の粉が舞い上がった。
その明かりを背に、蒼天楼は遠くから自分にプレッシャーを与える武杉ケンゲンを目指し一気にインペラトルの敷地内を走る。




