さらば冥地功周
八枚の緑符がプランピーを緑の結界で囲み包んでいる。
冥地功周の寿命の全てを使う舟中八朔の封印結界が外界との空間を遮断し、内部にいる冥地とプランピーには何人たりとも介入する事ができない。血反吐を吐く冥地は地恒庵も解除されもう五分も命は持たないだろう。しかし、霞む目で冥地は再生活動も停止し、ただの怪異でしかないプランピーのそばに寄る。一枚の緑符が弾け、結界に綻びが出た。
(ヤヨイに不意打ちを受けたせいか……早くせねば)
どこにそんな力があるのかわからないが地恒庵を再度リングチェンジした。その姿に雪牙もクリムゾンもこの老人の大義に声を失うだけである。しかし、クリムゾンのみは感情を露にして叫ぶ。
「自分がプラントに呑み込まれる事でプラントの暴走を止めるの!? なら今破壊した方が早いわ!」
「それは無理だ。奴の意思が詰まるプラントを破壊すれば爆発によって拡散した思念が市民に乗移り新たなるピーコを生む」
「……アンタがピーコ以上の化け物になる可能性は無いわけ?」
クリムゾンである泉は自分でも有り得ない質問をしたのはわかっている。冥地の覚悟を知っている以上、冥地はプラントに呑み込まれずプラントの機能を停止させるだろう。戦いの中でしか生きたいと思えない自分に女の喜びは戦いにはないと言って戦争から遠ざけようとするユナイトの大人達とは違い、冥地功周だけは泉の戦闘意欲を支持しリングを与え炎姫を召喚し冥地の思いに答えた。泉は自分の大義を認めてくれた冥地に忠誠を尽くし死ねと言われれば死ぬつもりである。泉には自分を最期まで連れて行こうとしない冥地の覚悟が許せない。
「このぉ……」
頭上にありったけの力を込めた大火球を生成し一つの長身の大砲を生み出した。炎姫最強の長距離大砲である寿命を削り威力を上げる炎射鬼人砲を構え、引き金に震える指をかける。緑符が一枚弾け飛び、封印の力が更に弱まりプランピーの再生活動が始まる。
「撃ちたければ撃て! 僕の信念を越えなければ、僕を殺す事など不可能!」
「! ……あああっ!」
クリムゾンは躊躇するが冥地を撃った。マグマの極みのような極大の火線が走り、舟中八朔を突き破り地恒庵に直撃し機体を爆発させる。その衝撃はプランピーさえも消滅させた。そして緑の粒子が空間に散り雪牙は困惑する。
(……何だこの感覚は? 冥地の感情?)
その冥地の意思が空間の全ての者に伝わる。
舟中八朔の二次的な効果である空間意思疎通が発動し、互いの本質が感じられる空間に変貌していた。すでに肉体を持たずに霊体のような存在になる冥地に涙するクリムゾンは、流れ来る感情の全てを否定するように炎射弾をめちゃくちゃに放ち周囲を破壊する。雪牙はトサ・エアマスターを地面に着地させたまま動こうともしない。そしてまだ暴れようとする炎姫に対し、
「これ以上は暴れられたら俺達が脱出できなくて困る。そんなに死にたいなら冥地と共に眠れ」
「邪魔をするなーっ!」
ザザザザッ! と炎姫はナイフが全身に刺さり岩壁に張り付けにされた。攻撃の瞬間すら見えなかったクリムゾンは自分の目を疑う。力を使いすぎ遠近感がつかめていない事に今更気が付いた。
「炎射鬼人砲の反動で脳が揺れたからか……あー気分悪っ」
「そこで冥地の意思を理解しろ。奴のこの世界に対する思いを無駄にするなよ」
舟中八朔の空間では他者との境界が曖昧になり冥地の意思が流れ込んで来る。
その場の全員はプランピーと一体化する冥地功周の覚悟を知った。一人の男のリングにより歪められた人生は今までの成功の全てを失うものであり、この戦いの全てはリングの発生する元凶の一つであるプラントを自分の命を持って封印する事であった。リングは冥地家に初めこそ多大な利益をもたらしたが、リングナイツ・トサの開発で軍事産業に手を出した事により家業を継ぐ子供達は欲望にまみれ暴発し、多数の友人を死なせる羽目になり、その結果孫娘までユナイトに人質に取られセントラルの飾り達磨にされた。故に冥地はリングの力を活用しつつ、全てのリングの根絶に動き出した。そして、そのリングのパワーでこの世の全てを支配する力を得たロアーシの王に立ち向かう精鋭を自らの命と引き換えに生み出そうとしていた。
「ロアーシ大陸の王・武杉ケンゲンに勝つにはリングのパワーだけではどうにもならん。今どうにかせねば世界はあの阿呆に潰される」
独り言を呟くように語る冥地に駆け寄る炎姫にトサ・エアマスターは身体を張って止めに入る。炎姫の全身に炎を迸らせるクリムゾンは叫ぶ。装甲が溶け出す機体に焦りを感じつつ、冥地の最後の語りを聞いた。
「……ニホンに渡り、ジパングの伝統工芸を広め冥地家は更に巨大な富を得た。竜馬のやりたかった事は成し遂げた。僕は幼少の義を果たしたんだ。そして、老年の義を果たして終わろうと思う」
霊体の冥地の瞳が真っ直ぐクリムゾンである泉を見据える。
「リングが無くなれば途方も無い努力が必要だ。それでも戦いだけがお前の大義ならば、新しい敵を探し続けいつまでも戦い続けるがいい。生きろよ……」
その霊体はスウッ……と消えて行き、冥地は完全にプラントと一体化していく。もう舟中八朔の封印が最終段階にあり戻れないがそれでも前に出ようとするクリムゾンは瞳から激情を流し叫ぶ。
「……生きなきゃいけないのはアンタだ冥地のオヤジーーーッ!」
「ここからがジパングの新たな始まりになる。さらば世界」
そして、冥地功周の大義は貫かれバイオプラントは封印され粒子と共に消失した。
これにより冥地家の反乱の全てが終結し、セントラルの総司令である冥地琴乃は冥地家の軍事産業の全てをユナイトに移行する作業を終えた時に冥地の終わりを知った。琴乃は涙する事もなく目の前の業務に励む。インペラトルを倒さない限りジパングに、世界に平穏は戻らないからである。
「さよならおじいちゃん。私はユナイトファングとしての大義を貫きます」
そして、インペラトルとの決着をつける為に大々的に作戦を開始する事を決意した。




