プランピー
雪牙、ヤヨイ、クリムゾンの三人は休戦協定を結び、急いでバイオプラントを目指した。
三人は互いの信念を信じ、目標に向かって進む。
バイオプラントに降りる洞窟の縦穴前に辿り着き雪牙は飛び出しそうなクリムゾンを静止する。
「到着だ。この下に化け物二人がいるぜ」
「プラントの力を得るピーコに冥地のオヤジもいるのね。先を急ぐわよ」
「待ちなさい」
先行しようとするクリムゾンをヤヨイは腕を持ち止める。
その行動に雪牙の青い瞳がヤヨイを見据える。
「リングが完全に世の中を支配すれば、あのプラントと融合するピーコのように個人の純粋な力のみで一国家を支配し、いずれはあの触手が世界に進出する……その世界を許せるの?」
「何の話だ? ピーコは助けられる可能性がある。急ぐぞ――」
雪牙は無言のまま機体をバイオプラント大空洞に降下させて行く。
それにクリムゾンの炎姫も続く。
「……ロアーシの王は、不死身でも勝てないわよ」
苦々しく笑うヤヨイは金髪をかきあげた。
※
バイオプラント――。
プラントの力で自身の身体を変化させるピーコの身体はプラントと融合し新たなる生命体になっていた。ズズズッ……と緑のエネルギーが体内に還元されて行き腕や足が歪になる。やがて全身が丸い球体のようになり、緑色の生体兵器が誕生した。身体中から触手が展開し、うねうねと獲物を探すように動いている。
冥地の地恒庵は何かの印を組んでいて一切の攻撃を加えていなかった。両者はただ自身のエネルギーを高めるだけに思考をしている。その最中、空戦リングナイツであるトサ・エアマスターを操る雪牙はクリムゾンと共に現れた。
「……ピーコの奴。とんでもない事になってやがるな。潮田海荷に溺れたか……」
「それよりヤヨイが消えたわよ」
「……ヤヨイの奴。まぁ今は目の前のピーコを開放するだけだ。そして、ここの住人は戦闘をしてないようだ」
「冥地のオヤジが手を出していなのは何かあるわね。聞こえてるでしょ冥地のオヤジーーーッ!」
瞬間、冥地の瞳が輝く。
「あれはもう、破壊するしかない。始めるぞ二人共」
すると、雪牙から見える中央の位置にピーコの顔が現れ、にんまりと薄気味悪い顔を浮かべた。
「プラントのエネルギーを一気に肉体に還元するとこうなるのね……これだけの力があれば不死身だろうが、敵では無さそうだわぁ! ハッハーッ!」
身体中を取り巻く触手がプラント地下洞窟の外壁を抉る。その威力は通常のトサなど容易く一撃で破壊出来るレベルである。その場の全員はリングにより産み出されし怪異を見据える。一人の人間がああも人を逸脱した姿に成りうる現実を目の当たりにし、冥地功周が問い続けているリングの危険性が嫌がおうにも認識せざるを得ない。
「リングの行き着く先があぁならば、リングは排除しなければならない代物だ……だが……」
その後の言葉が雪牙の口から出てこない。ユナイトの軍人として世界がリングの力で回っている以上、軽率にリングが不必要とは言えないのである。
「プラントの力を得たピーコ。プランピーとでも仮称するか。ここは合同作戦だ。僕について来い」
「勝手に指図するな!」
ズバババッ! と地恒庵はプランピーの触手の一部を切り裂く。ゴオゴゴゴッ! とプランピーは動き、ダメージが再生していく。
「今は過去に囚われている場合ではない。協力せねば消えるのは人類だぞ」
息を呑む雪牙は後退する。ピーコはバイオプラントから離れ、自己再生と自己修復能力を持つ一個の生命体として動き出している。その力は他者のエネルギーを吸収しての自立が基本であり、激しい動きをしなくてもエネルギーを使うらしく、空腹が満たされない野獣のようにその場の機体を人間ごと自分に取り込もうとしている。
「あれがここを出たら一気にニホン大陸は死に絶え、奴自身がニホンそのものになるな……いや、いずれはニホンだけでなく世界をも呑み込むだろう。あの強欲さは破滅しか呼ばない」
「そうだな。今は同盟を結ぼう。この世界のために」
そしてそれを見届けていたクリムゾンは言う。
「行くわよ!」
シュン! と高速で地恒庵とトサ・エアマスターが螺旋を描くような機動からヒット&アウェイを繰り返しプランピーの再生を上回るように攻撃を仕掛け続ける。それを倍化するようにクリムゾンの火炎が猛攻を加える。苦痛に顔を歪めるプランピーは、
「そんなおもちゃのような機体で調子に乗るなあっ! オルジナルの潮田海荷はアタシだぁーーーっ!」
数多の触手が三機の勢いを奪い、隙を突かれ外壁に叩きつけられる。その触手は迷い無く地恒庵のコックピットに迫り冥地ごと吸収してやろうというプランピーの意図がうかがえる。雪牙はめり込んだ岩盤からすぐに脱出できない為にライフルで触手を狙うが全てを破壊する事ができない。
「くそっ! シエルリングよ! 潮田海荷の偽者を始末する為、この俺に力を貸せーーーっ!」
シュパッ! とハイパーモードになり、雪牙の指のシエルリングが覚醒する。
嵐のような風が巻き上がり、プランピーは動きが止まる。
そして、雪牙は見えざる風の刃・風神剣を手にし叫ぶ。
「風神・阿修羅炎華!」
圧縮された嵐の大砲に蒼い炎が纏われ、プランピーに直撃する。
「何だその力はーー!?」
叫ぶプランピーを無視し冥地は雪牙のシエルリングを見つめた。
「あれがシエルリング……自然の七属性のうち、二つも使えるのか。しかもそれは人間のままでも多少なら使える。魔術師としか思えんな」
「攻撃は凄いけど、触手は再生するのよ!」
スパパッ! と雪牙の攻撃をあまり浴びていない触手が動いた。
不味い――という感情が空間を包み、そのコックピットが貫かれ目を見開く冥地は叫ぶ。
「泉ーーーっ!」
「……絶炎零度陣」
五月蝿えと言わんばかりのクリムゾンの表情と共にパリパリパリッ……とプランピーの身体は凍りつく。雪牙と冥地をブラインドとし、相手をマイナスまで冷やした炎である氷柱に仕立て上げる絶炎零度陣を仕掛ける瞬間を狙っていた。しかし、まだ動きがある為に内部までの凍結は認められない。その様をただ見つめるプランピーは炎姫の動きに見入る――瞬間。ズアアアアッ! という真紅の炎を纏うクリムゾンの一撃でプランピーが沈んだ。それに乗じてトサ・エアマスターが全弾の絨毯爆撃を行い、とどめで地恒庵の地震攻撃である地雷震を直接叩き込んだ。
ズゴゴゴゴッ! とバイオプラント地下洞が潰れるのか? という激震が走りプランピーは身体の半分以上を消滅させ沈黙する。地恒庵は八枚の緑符を円環の輪のように展開しその一枚、一枚から地恒庵以上のエネルギーが湧き出て魔方陣のような模様を形成している。
「舟中八朔を発動させ、封印する。奴を僕に近づけさせるな」
『――わかった』
全くの無防備になる地恒庵を守るように二機は残る力で再生を始めるプランピーに攻撃を続ける。舟中八朔とはどういうものなのかもわからずに行動を続けるのは、すでにプランピーの異常な執念からくる再生スピードに対抗する手段は地恒庵の舟中八朔にしかないと実感したからであった。
「私は潮田海荷を超えるんだよ……お前達のエネルギーも全て吸収してやるわあああああっ!」
めまぐるしい触手の群れが雪牙とクリムゾンを吹き飛ばし、二機はなす術も無い。
「よし……二人とも退避しろ――冥地流奥義・舟中八――? ……ぐっ! 誰だ?」
『サッチョウド!?』
来托の自身の命と引き換えに相手の全てを封印する技舟中八朔の発動を防いだのはサッチョウドのヤヨイであった。この瞬間を待ち待ちわびていたようなヤヨイは、
「ピーコの復讐心なんてわかった上で泳がせてたのよ。他人に取り入るのと探索能力だけはピーコは高かったからね。これでバイオプラントの核をロアーシに持ち帰れるわ」
それに冥地は答えた。
「やはりそれが目的か。この人間の意志を得たプラントは人間の扱える代物になる。ピーコの犠牲で核を取り出し、それをロアーシで軍事利用する。しかしそれはさせんぞ」
「この全身にある砲門を内臓するエネルギーを使い開放すれば今の消耗した貴方達なんて簡単に消え去るわ」
「ほう、この二人も消すか?」
「未来が必要ならば生き残るでしょう。では」
言葉と同時にサッチョウドの全身の砲門からビームとミサイルの群れが全方位に向けて放たれた。舟中八朔の構えを取る地恒庵は動けない。同様にヤヨイ相手で気が抜けた雪牙も反応が遅れる。閃光が空間を包みプラント地下洞は砂煙で視界が死ぬ。
痛みからもがくようなプランピーの咆哮と共に、赤い炎が空間を駆け抜ける。その熱い熱は砂煙をかき消す。一瞬の静寂が全ての人間に赤い悪鬼のようなリングナイツを認識させた。
「二人共、気を抜くんじゃ無いわよ。まだ戦いは続いてんだかんね」
かなりのダメージを受けるクリムゾンが全ての攻撃に対応し、ヤヨイは歯軋りする。
そして右手を掲げるクリムゾンは、
「クソ女。この腕は何だかわからない?」
「? それは――」
「焼き芋」
ブオオオッ! とサッチョウドのカブトは黒こげになる。
一斉射撃をした事により金神閃も相当なエネルギーを消耗した事になる。
これ以上の消耗はプランピーの核を取り出す出来なくなる。舟中八朔の構えを始める地恒庵を見てヤヨイは一旦退く事を考えた。
(舟中八朔を使っても消滅させるわけじゃないならチャンスはあるはず。次はコサックテキーラに在中するインペラトルの総力戦でプランピーの核を奪うから覚悟してなさい……)
ヤヨイの目からヂュワッ! とまばゆい光を発し、ヤヨイはその場から逃げる。
「させないわよ」
雪牙や冥地が目をやられる中、それを女の勘で察していたクリムゾンは逃亡するヤヨイを感じて動き剣を背中に突き刺そうとする。
「――槍?」
しかし、何者かの槍によって防がれる。
「ムフフ。空気読まずに助けに来たわよヤヨイ」
そこにはユナイトを裏切ったトサ・グリードの鳴沢無読ことナルが現れた。
紫の旋風を巻き起こし、周囲をかく乱する。
「ちゃっちゃと化物の核を奪いなさいなヤヨイさん」
「この状態でも一部なら奪えるわね」
同じ生体兵器として細胞を同化させたヤヨイは核の一部を体内に吸収させた。
勝手な事をし、逃げ出す敵の二人にクリムゾンは叫ぶ。
「ちょ、待てコラ!」
「やめろクリムゾン! 今倒すべき敵はプランピーだぞ!」
そのままヤヨイはナルと共に退避した。
忘れられた存在のように再生を続けるプランピーは完全に自我を無くし化物になった。
「グオオオオオオオオオッ!」
咆哮が空間の岩盤にヒビを入れ、全員は耳を塞ぐ。
しかし冥地は騒音すら聞こえないように空中で静止していた。
「潮田にもなれないお前が何かになれるわけがない。人は自分にしかなれないんだからな」
そして、冥地功周の舟中八朔が発動した――。




