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三幕~バイオプラント~

 冥地功周の反乱は鎮圧した。

 冥地家地下アジト周囲の森に二人のユナイトファングの制服を着た少年と赤い髪の仮面をする少女が歩いている。現在、雪牙はクリムゾンウォーターを名乗る少女と戦争によって生じたリングナイツの残骸のある周囲を探索している。

 雪牙は外異特務隊の隊長として冥地家の動向を警戒していた。冥地功周の死によって冥地家全体は沈静化し、軍事以外の活動を中心にするようになった。そしてユナイトファング特殊部隊が邪悪なオーラの渦が巻き起こり入れない冥地功周のアジトであったバイオプラントである地下大空洞へ向かった。しかしあったはずのバイオプラントの場所は移動していた。非常時に海中へ移動できるシステムがあったのである。

「わざわざ地上に出て戦闘をしたのは、バイオプラントに損害が出るからじゃなくバイオプラントを移動させる為だったのか……」

 白い顔を曇らせる雪牙は赤い髪の仮面少女を見る。

「……クリムゾン。そっちの状況は?」

「何も無いわよ。やっぱ証拠なんて残さないでしょ。奴等だってロアーシの大半が消失してから地道にジパングで活動して来た。いつの時代でも情報は命だからね」

「そうだな」

 冥地功周の残すインペラトル側の情報を何か掴もうとしていた。決定的な証拠が無い限りユナイトは暗躍するインペラトルに対して公式に何かを宣言するつもりは無かった。冥地家との全面戦争の事後処理にのみ追われるユナイトには直接的な証拠を突きつける必要性があった。

 探索を続ける二人はアジトの一室にいた。放置される机や棚の隅々まで見るが、必要な証拠は何も出て来ない。出て来るのは年代物の雑貨類ばかりである。机の下から出てきた雪牙は、

「やはり見つからないな……パチスロでとったタバコだらけだ。一度帰還するか……? どうした?」

「上に何かいるわ。――伏せて!」

 言われるままに雪牙は伏せた。

 すると、天井が震動し突き破られた。室内に砂煙が舞い机の下に隠れる二人は敵の奇襲だと悟る。クリムゾンはリングチェンジしようとするが、動きが止まる。破壊された天井から見えた白い機体に、二人は戦慄する。

『潮田……海荷……』

 その機体は純白の白だが潮田のトサ・セブンソードではなかった。外観がトサよりも鋭利な表情をしており、餓えた野獣のような両眼はソルトブレイクの最終戦において現れた単機で要塞すら攻略出来るチョウシュウであった――。

 地上の光がその純白の悪魔をきらびやかに照らし、這い出るように地下へ侵入して来ようとする。

 地上からの攻撃でコンクリートの破片の応酬で隠れている机の上部分が破損し、地下に逃げ場は無くなりつつある。二人はリングに意識を集中させリングチェンジしようとする。同時に床の一部が崩れ去り雪牙が感情の一部を失うかのような声と共に落ちた。

「あっ……」

 すでにクリムゾンの炎姫は発現を始め、身体の自由はほとんど無くなり伸ばす手も届かない。

「雪牙ーーーっ!」

 クリムゾンの悲鳴も虚しく、雪牙は奈落の闇の中に落ちた。





 雪牙は立ち尽くしていた――。

 頭上からは震動すら聞こえず、床全体に映るモニターに炎姫とチョウシュウの激戦が見えた。しかし、今の雪牙にはそんな事などはどうでもいい。目の前の水槽に浮かぶ裸の人間の群れに目を奪われ愕然としていた。白い肢体に決め細やかな肌。深淵の冷たさと血の沸騰するような熱さを兼ね備えた青い瞳。上質な絹のような金の髪。その全ての事柄に一致するものはただ一人の人間――。

「これは……ヤヨイ……」

 その深海のような青い水がたゆたう水槽の中にはロアーシ時代の相棒であるヤヨイの群れがいた。皆一様に外にいる雪牙を見据えている。まるで夢の中の話としか思えない現状であるが、全ては現実である。驚きと混乱の渦にはまる全身を嫌な煙が取り巻き、鼻腔に女の闇のような甘美な甘い匂いがする。振り返り様腰から銃を引き抜き、背後の人物に向かって構える。

「ヤヨイ……この施設と、俺を裏切った理由を教えてもらうぞ」

「当然よ。その為にアタシはここにいるんだから」

 さも当たり前のように現れたヤヨイの言葉に耳を傾ける。

 雪牙は完全にヤヨイのシナリオ通りに動く自分に歯ぎしりしつつも長い話に聞き入った。




 このヤヨイのクローンの群れは冥地功周がロアーシから回収したものだった。

 冥地はインペラトルの技術力に対抗する為に、バイオプラントを生み出していた。

 そして、目の前にいる本物のヤヨイこそがインペラトルのバイオプラントより生み出された生体兵器だったのである。それ故、ヤヨイはインペラトルのスパイとして元ユナイトファングの雪牙に近づき、ジパングに危機が迫っているとして雪牙と共に行動しジパングにまで来たのであった。冥地の作り出すバイオプラントの状況確認と施設抹消の為に――。

「驚いているようね……無理も無いわ。生体兵器が人間の姿をしてるとは思わないものね」

「……冥地の生み出した生体兵器とは違うタイプのようだな」

「この身体は人間体としては成功だけど、冥地の生み出した生体兵器は再生能力が異常に優秀なのよ。そこがロアーシの王・武杉ケンゲンの目に止まったの」

 ヤヨイ自身が言う真実に雪牙は立ち尽くしていた。

 水槽に浮かぶ魂無き器の群れにヤヨイがこの中の成功体でしか無い事に絶句した。青い水の中を水族館の動物のように浮遊し続けるヤヨイのクローンの群れに立ち尽くす雪牙に懐かしい声が聞こえた。

「良い塩分の香りだ。潮を吹きそうだな、雪牙」

「……! 潮田教官?」

「私は潮田海荷のコピーであり、潮田海荷を超える存在のピーコよ」

 背後から現れた短い金髪、ピッと背筋を伸ばしガムを噛むその女は間違い無く潮田海一の失敗作とされたピザ屋のピーコである。未だかつて無い状況に雪牙の頭は更に混乱した。冷え冷えとした空気が漂い、水槽の中の光のみが人間を照らす空間で雪牙は考える事を止めた。

「ピーコ……もう姿を見せていいの?」

「もう姿を隠してもしょうがないでしょ。すでに状況は大きく動き出しているんだから」

「あれが、そういう顔に見える?」

「貴女がこのような設備を見せるからでしょ? 人のせいにしないでね」

 雑談をするピーコとヤヨイの声もまるで異星人のように聞こえる。

 いや、不死身の力を持つ以上異星人は自分も同じか……という気持ちが雪牙の気分を更に沈める。

 インペラトルは、このヤヨイの生体兵器としての細胞を利用し生きた機動戦艦を生み出そうとしているらしい。それが極寒のロアーシ大陸にいるインペラトルの王・武杉ケンゲンの意思らしい。雪牙は呟く。

「人間のする事じゃない……」

 ヤヨイは無表情で言う。

「貴方だって人間を超えた存在じゃない。不死身の力を宿す存在。家康の加護を受けたリングを心臓に宿す狂気の存在」

「俺は……俺だ。会桑雪牙だ」

「貴方も私と同じようなモノよ」

「――! こんなもの!」

 自分が望む以前にこの世界に転生した時から心臓に特殊なリングがあった事に憤慨し、水槽のヤヨイに銃を向けるが引き金に手をかけたまま動けない。

「今撃たなければ、もしかすると明日に目覚めて貴様の脅威になるかもしれないわ。撃て。撃たなければいつか貴方が撃たれるでしょう」

 ポンッと肩を叩き、ピーコは室内を出た。同時に、乾いた銃声が数発室内に響く。割れた水槽のガラスが銃弾のヒビから一気に広がって行き、全てのガラスが割れ中の水が二人の足首まで浸す。器のヤヨイの群れは、様々な方向に向かって寝そべったまま動く事は無い。微笑む本体のヤヨイは大きく息を吐き、

「撃てたか。次は私を撃つのかしら?」

「アンタは私が撃つわよ――」

「!」

 突如表れたクリムゾンは感情のままに銃をヤヨイに向け撃った。弾丸が肩に当たりヤヨイは応戦射撃をしつつ物影に隠れる。その間、ヤヨイクローンの群れは水槽の水の保護が無くなった為か肉体が溶け始める。それを見て本物のヤヨイの身体もいつかこうなるのか? という絶望が広がり目の前が真っ暗になる。クリムゾンが何度も叫んでいるが今の雪牙には届かない。立ち尽くす雪牙をクリムゾンはひっぱたき、正気に戻させる。

「こんなものに惑わされるな。あの女は敵でしょ!」

「オレは……血も青く人間じゃ……」

 数発の弾丸が二人の頭上で弾け、クリムゾンは更に応戦する。クリムゾンはめんどくせーと思いつつも雪牙を助ける。

「アンタの目的は何? アンタの内にある蒼い炎。今燃やさないでいつ燃やす?」

「――!」

 クリムゾンの魂の声が全身に響き渡り、雪牙に自信が戻る。

 すでにヤヨイの姿は無く二人は地下から脱出した。

 もう全ての証拠が消されている為、クリムゾンは炎姫で地下の施設を破壊しようとしていた。炎姫が放った炎射弾が地下基地を破壊し尽くし火柱が上がる。ヤヨイ達を追いかけるクリムゾンと分かれた雪牙は炎の光を背に浴びながら車のある方向へ向かって歩く。そして、雪牙は待機させていた車に乗り込もうと扉を開けた。瞬間、雪牙の全細胞が萎縮した。

「のり塩食いたい。買って来てくれ」

「おっ、お前は――」

 そのコックピット内に髷を結った白髪の老人、死んだはずの冥地功周がだらしなく鎮座していた。


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