冥地功周VSユナイト・キョウト6
紅い冷気を纏う霧と共に現れたのは闇夜の全てを呑み込むような黒いマントを翻す漆黒の清閑な顔つきをした黒主京星の生み出した夜天光。自分の仲間のリングで他人の生み出した機体を扱う桃色の少女に動揺を隠せない冥地は目の前の予期せぬ事態に瞠目した。
「……黒主の生み出した機体が他人に発現しただと? 有り得ん……秀吉のリングであるHリングはそんな力まであるのか……」
間違い無く夜天京を操る人物は四之宮玲子である。纏う冷気はゆっくりと消えて行き、紅い結晶に変化して行く。
「本当に黒主の夜天光のようだ……リングの可能性はまだ広がるのか」
雪牙のトサ・エアマスターはシエルリングの風の力で援護に回り、左手の氷結銃と右手の黒刀で地恒庵を刻むレーコの勢いを見た。連続して放たれる氷の弾丸が地恒庵に降り注ぐ。
「氷の弾丸。他人の機体を使えるのか? ありえん存在だ?」
「他人じゃないわよ。仲間なの!」
そのまま地恒庵は高速で移動し、回避する――が、
「ぬおおっ!?」
雪牙の生み出す突風が動きを塞ぎ、トサ・エアマスターのライフルの射撃が回避先のポイントに降り注いだ。機体が停止する地恒庵に、レーコは黒刀を構え迫え突っ込んだ。
「直線的すぎるぞ」
蠢く老人の周囲に緑の緑符が浮かび、ビームが放たれた。
「レーコ!」
その雪牙の叫びも虚しく、特攻に全てをかけていたレーコは回避行動が取れない。
「ブラックマンテル」
ブワッ……と背中のマントが全てのビームを防いだ。
驚く冥地にレーコは黒刀を振り抜いた――。
「うわあああっ!」
ザスッ! と地恒庵は装甲を貫かれ腹部に黒刀が刺さる。同時に緑符を爆発させて、突き刺さる黒刀を腹部にとどまるのを防いだ。
「コイツ、やるわね。でも、接近戦なら刀よりも拳よね――」
爆発の余波で黒刀を落とすが、レーコの特技は拳であった。カロリー流拳法の必殺技が発動する。
「桃色ファンタジー!」
ズガガガガッ! と無数の拳が地恒庵の装甲を破壊し、冥地の身体が露わになり倒れた。
「……このまま死ぬわけにはいかん。奥の手を使わせてもらうよ」
『――!』
それを見たレーコと雪牙は驚く。
息づく大空洞であるバイオプラントに吸収されるオーラを無理矢理自分の体内に還元した。吸収されるなら吸収する事も出来るだろうと冥地は今までこうして寿命を引き伸ばしていたが、オーラそのものは回復するがそのドーピングも限界を迎えたのか血を吐く。
「……ぐううっ!」
痛む心臓を抑え、冷静さを取り戻した冥地は迫る数々の攻撃をかきけし肉薄する。
自分の拳すら返りみない数度の拳と蹴りを加え夜天光の動きを止める。
そして冥地は言う。
「会桑、お前は人間では無い。リングシステムを生み出した徳川家康のようにリングの力で人間を越えようとした愚か者だ」
「そんな事で動揺すると思うなよ? 戦いに勝ってから戯れ言は吐け」
「わかっているだろう? 僕に毒針が効かないのも今の君とほぼ同じだからさ。リングを心臓に使おうが何をしようが、人間は自分の努力で人生を切り開いていくしかないのだ」
その思いを具現化したように緑符がトサ・エアマスターの周囲に展開する。
すぐさまライフルを打ち出すが通常弾では緑符を一撃破壊する事は出来ない。
その隙にレーコが黒刀を拾おうとする手は緑符のビームによって防がれる。
そしてマグマの津波がレーコを襲った。
ブラックマンテルで灼熱を防ぐのを見た冥地は、蒼いトサ・エアマスターを見据えた。
「これで時間は稼げる。まずは会桑雪牙を消す」
円環の呪符のように緑符は絶えず廻り粒子を収束させながら目の前の獲物を葬る瞬間を今かと待つ。
万事休す――。
奇跡の逆転劇に思われた出来事も儚く消え、絶叫する雪牙は心臓のリングに自分の欲望の全てを注ぎ込む。その欲望は何故かマグマに耐えたレーコの思考にも流れ込んだ。驚く二人の感情はリンクする。
『……』
今までの過去の鬱憤全てを吐き出すような条規を逸した感情が流れ込みレーコのHリングが発光し、雪牙はうずくまるレーコをに引力か何かで引き寄せられ、敵がいる目の前が開け蒼い天の楼閣を見た。ブブブ……と雪牙の身体から蒼天楼が具現化し出す。
「蒼い……天……蒼い……天……!?」
同時に雪牙の口が塞がれた。
三百六十度からの死角絶無の途方も無い緑の閃光がトサ・エアマスターと夜天光を包み込み、黒い装甲が弾け飛ぶと共に大爆発を起こす。
大きく息を吐く冥地はカブトを跳ね上げ、額の汗を拭う。
「これで若い危険分子は始末した。後はユナイトセントラルを叩き潰し、インペラトルに対抗する勢力を……」
燃え盛る爆炎に対し哀れむような瞳をした冥地は、心臓の痛みからか寒気を異様に感じた。
リングナイツを解除し体力を回復させつつ、現存の冥地家の戦力とキョウト支部の進行具合を確かめようとする。死兵である冥地家の戦力はこの三時間あまりの戦いで大半が死に絶えている。同様にユナイトの戦力も地震による攻撃と戦闘により前線部隊は壊滅し、キョウト支部防衛の三十機しか残されていない。ここに更なる戦力が投入されればニホン大陸西地区のキョウト支部は崩壊するであろう。
双方の決死の死闘の中、キョウト支部司令室の琴乃はキョウト支部防衛に戦力を当てて冥地家への進攻を止める事にした。前線部隊の拡充よりも支部防衛の方が先決なのは元より戦う覚悟が無い良い証拠である。新たな部隊進攻が無いと確信する冥地は孫娘がキョウト支部防衛に戦力を当て、冥地家が疲弊するのを待とうというのがありありと脳裏に浮かんだ。妥当な作戦だと思うように微笑を浮かべ、
(まだリングナイツを解除出来ん……いや、するわけにはいかん。奴が現れてからが本番だ。……? この悪寒は……)
いつの間にか紅い霧が周囲を包み込み、冥地の足下を凍らせている。
額から流れる冷や汗が胸元に流れ落ち、若草色の着物を濡らす。
目の充血に顔を歪ませる冥地はユナイトの二人を始末した場所を恐る恐る見据える。
「……あれは!」
スウウウッ……と紅い霧が晴れると、黒を基調とした中に蒼と桃色が混ざるきらびやかな威風堂々さと、強欲な征服王のような強さを兼ね備えた天上天下唯我独尊のごときリングナイツが現れた。身体の左からは蒼い炎が上がり、右からは紅い冷気が出る。
全身の各所にオーラを増幅させるパワーアンプがあり、蒼・黒・桃色の炎が絶えず身体から燃え上がっている。一人の人間であるはずなのに三人いるような存在感をかもちだしているのを冥地は感じ取った。
(……)
自分の意識の中で倒れる雪牙は、金髪の目つきの鋭い野獣のような少年を見上げた。
その少年の顔は一年ぶりで、相変わらずギラギラとした目つきをしている。
黒主京星の残留思念がこの新たなる力に目覚めさせたのは言うまでも無い。
そして、そこにレーコが桃色のサイドポニーを揺らして現れ、黒主にケツを触られた。
「久しぶりねリーダー。今、戦ってて機体借りてるわよ」
「何、人の機体使って負けようとしてんだレーコ? さぁて真打ちの出番だ。二人とも気合入れろよ」
スッとレーコと黒主に割って入る雪牙は言う。
「死人が邪魔するなよ。ここは俺がやる」
戦おうとする黒主に雪牙は言い、二人を自分の意識の奥に引っ込めた。
微笑む二人は、雪牙の意識の中で戦いの行方を見守る。
ゆっくりと意識を取り戻す雪牙は目を開く。
「……」
黒主京星の残留思念の導きにより、Hリングの融合技で夜天光と蒼天楼が融合し、新たなる機体が生まれた。
炎と氷を纏うリングナイツ蒼天桃夜は周囲に有り余るオーラを吐き出した。
「うおおおおおおおおっ――」
蒼天桃夜の乱撃により、冥地はなす術も無く装甲は弾け飛び、掴まれた両腕が白い粒子と共に消滅した。
「腕が消えた? こやつ、どんな力をー」
冥力は荒れ狂うに焦った。
蒼天桃夜は両肩のパワーアンプから周囲のミストジャマーを吸収し、一気に自分の能力に還元している。炎と氷の相反するオーラが湧き上がるは正に究極のリングナイツとも言える存在でもあった。
(どこまでのエネルギーがあるんじゃ……これが仲間の絆という奴か)
シュウゥゥ……と周囲の空間に満ちるミストジャマーがの全身のパワーへと変わる。
「冥力、お前は寿命ではなくこの俺達が倒す――!」
一気に間合いを詰めた雪牙は地恒庵のカブトを吹き飛ばし、冥地の生身に攻撃した。炎と氷の拳を浴びる老人は、その人生の全てを熱と冷気により否定される。
「――消えろっ!」
プラントの壁に激突し、血を吐く冥地は瞳を閉じたまま動かない。
「まだ、生きてるのか」
限界を超える攻撃に耐えた冥地は言う。
「ニャクイな」
それでも、ダメージは凄まじく両腕の無い状態ではまともな反撃は出来ない。壁の岩肌に食い込みながら老人は言った。
「……この戦いはインペラトルに対抗する戦士を生む為の戦い。この戦争に生き残った者がインペラトルと戦える戦士になるのじゃ」
「そんなものを何故お前がする? お前の生み出した犠牲で全てのリングナイツの底上げでもするつもりか? それでは新たな火種が生まれる」
「結論から言えば、リングを消す為の戦いじゃからな。それでいい同士討ちも結構ではないか。リングはこのままでもいつかは消えるが、まずは戦士を生み出す方が先決」
すでに寿命ではなく、身体のダメージで瀕死の老人の断末魔を聞いているようで不快さを増す雪牙は、
「本当にユナイトファングの部隊を鍛える為にこの戦争を?」
「そうじゃ、この特異なリングという力を正しく使える者を生み出す為の戦い。この戦争の死者と生者が新たなる時代を生み出すのじゃ」
すると、地恒庵の装甲が復活し消滅したはずの冥地の両腕が再生し出していた。会話の中で少しづつ確実に地恒庵は回復していく。
鳴動を続け、息づくバイオプラント内部はこの冥地の切り札だと改めて雪牙は思い覚悟を決める。
「このバイオプラントは生体兵器の一つだったな。今後の為に調査するのが一番だったが、消すしかないな」
「――ぬおおっ!」
シュオオオオオオッ――と冥地の地恒庵は一気に回復し復活した。
「きりが無いな……たいしたじいさんだよお前は」
それを目にした雪牙の蒼天桃夜は全身のオーラを更に高めて一気に屠るしかないと感じるような決意の顔になる。




