冥地功周VSユナイト・キョウト5
そして雪牙はバイオプラントが近くに迫り、その熱気が轟々と伝わる通路を行く。
「何だこの暑さ……そして揺れ。まるで火山の真下にいるみたいだ。いや、いるのか。各員、引き続き罠に注意しろ」
『了解』
大汗を流しながら人二人しか通れない通路をAチームとBチームの合同チームは進む。すでに室内らしき室内も全く無く、無機質な白い壁以外に視界に入るものは無い。
変化があったのは異様な気温の変化と床を揺るがす振動である。
紺色の隊員服の六人は、ついに最深部のバイオプラントまで辿り着いた。
その赤い心臓の内部のような生命が息づく光景を見た全員は絶句する。
お椀型の空洞の中心に祭壇があり、その真ん中にクリスタルに封印される生体兵器が存在し、その周囲を灼熱のマグマの渦がクリスタルを守護するように旋回している。額に張り付いた青い髪をかきあげ携帯を双眼鏡の代わりにし、ズームして覗き込む。
「あれが生体兵器が封印されるクリスタルか。という事はここはとうとうラスボスステージか……」
一瞬、遠くの岩壁の穴の入口に猫神の姿が見えた。
それは間違いなく猫神だという確信がある。
こんな場所で白衣を着て猫を肩に乗せうろうろする人間が他にいないからである。
「こんな所までご苦労な奴だ。科学者の知的好奇心とは恐ろしいな」
そして、巨大な子宮を思わせるバイオプラントの祭壇を見据えた。
確実に旋回するマグマを縫えば生体兵器が封印されるクリスタルに接触出来る可能性はある。
それは何かしらの方法でマグマを止めるか、強力なリングナイツ一機を犠牲にしてマグマを塞ぎ止めるしかない。
前者の方法は解らず、後者は誰かが犠牲になるしかない。
この状況を打破するには――。
(俺が……不死身の俺がやるしかあるまい)
口元を綻ばせると、荒れたマグマの波が目の前の隊員二人にかかる。
灼熱の地獄熱に驚く二人はもがいて暴れた勢いで足を滑らせ崖から落下し、マグマに呑まれた。呆然としながら残る四人はこの空間を見渡す。
(……チッ、何をやっている。……あれはシーハー少佐?)
バイオプラントの祭壇の奥にて何かの発光が見える。
マグマの蠢きでよく見えないが、確かに発光や爆発があった。
よく見ると、トサ・イッコーブリリアントと地恒庵が一騎打ちをしていた。
その実力はソルトブレイクを起こした大罪人・潮田海荷に近いだけあり、制空権すら支配されていないのは禿げ鷹の異名を持つオネエの一言に尽きる。同じピンクのパーソナルカラーを持つレーコのサツマは見当たらない。
「……! 任務通り、冥地功周の対応は後だ。シーハー少佐に加勢するよりはあのクリスタルを奪い、生体兵器を破壊する」
歯痒い思いで雪牙は部下にそう指示した。
その間、トサ・イッコーブリリアントは土の大鎌に直撃し沈黙する。
圧倒的なマグマの勢いに巻き込まれまいと本能的に後退る全員の目に、一人の人間が映り枯れた声が間近にいるような感覚で聞こえた。
「ここはフジ山の真下だ。知っての通りこの場所で生体兵器は生成されている」
目と鼻の先にいる若草色の着物を着た白髪の老人は間違いなく冥地功周。
隊員の銃口が全て冥地に向き雪牙も向けた。
「冥地、よくそこに辿り着いた。貴様本当に人間か?」
「それの言葉はそっくりそのままお前さんに返すよ……グフッ……」
苦し気な冥地は口元から吐血する。
事実このバイオプラント周囲はマグマ以上に内部の生命力の弱い人間のオーラを吸収している為に冥地はエネルギーの大半を使い果たしている。じろり……と心臓を抑えながら充血した目で雪牙を見つめ、もう一度地恒庵を召喚する。
「会桑以外の生体エネルギーを頂くか」
地恒庵の残り三枚になる緑符が展開し雪牙以外の人間が吸い込まれるように大の字になり緑符に張り付く。隊員の断末魔の絶叫と共に緑符は人間の生体エネルギーを吸出し、地恒庵に還元する。干からびて朽ち果てる仲間達の姿を見て恐怖よりも、この老人が生体兵器を封印したままにして使わない事に疑問を覚えた。その老人は言う。
「……さて、貴様の力を見せてもらおう。ここでワシを超えられないなら家康の息子である貴様はただの失敗作だ。その心臓のリングも無駄に終わる」
「――!」
ガッ! と冥地はいつの間にか右手に紺色のユナイトの隊員服を着た桃色のサイドポニーの少女を持ち上げ目の前のマグマに向かって投げた。
目を見開く雪牙は声にならぬ声でレーコ! と叫ぶが生気の無いレーコの反応は無い。
雪牙はリングチェンジし飛んだ――。
無心で飛んだ。
しかし、どう考えても相手に届く距離ではなく雪牙はただ届くはずの無い手を伸ばす――。
「雪……牙君?」
ふと、マグマに呑まれる寸前のレーコは目を覚ます。
同時に、目の前の世界はブラックアウトした。
今までの人生は戦いの日々だったが充実していた。
太っていた自分をトロいとか臭いとか言わずにいつもユナイト訓練生時代から支えてくれたかつての黒主部隊リーダー・黒主京星には感謝していた。恋愛感情もあったが、飄々としながらも内面では今の自分に強烈な違和感を感じていた黒主はいつかユナイトファングを抜けてどこか遠くに行くと思っていたからその思いは封じた。
(……そんな頃に雪牙君が来た)
常に最前線に立ち、死亡者も多く嫌がられた黒主部隊に不死身といわれる男が来た。
その少年の髪は青く、ムッツリスケベで冷静な顔をしながら他人の治療につけこんでおっぱいを触るという少年だったが、そんな雪牙も好きだった。しかし、尊敬する上官である潮田海荷の裏切りからこの二人は大きく変わり、成長し大義を持った。
(それから私とあの二人には大きな差が生まれ始めた……)
自分は最強と呼ばれた黒主部隊の一人にふさわしくない……という疑問さえ浮かぶ思考に、一つの言葉が流れる。
〈レーコ、太ったら動け。動いたら太れ。これを繰り返せば、お前は最強の武道家リングナイツになれるぜ。俺が保障する〉
その黒主部隊リーダーの男の言葉で、レーコの生きる希望が再燃した。
(……私は誰にも負けない。最強になってやる――)
そして首のネックレスとして繋いでいた黒主の形見である秀吉のHリングを見て、桃色サイドポニーの少女は叫んだ。
「――来い! 夜天光!」
心の感情をそのまま吐露するように叫び、地恒庵を必ず倒すという不退転の覚悟で構えた。すると、首にネックレスとしてあるHリングがシュワアアアッ! と発光し、黒い渦が発生した。
何故かその渦に呑まれそうになる雪牙はスラスターを全快で吹かし、耐えた。
そのままレーコはマグマに呑まれた。
空中で静止する雪牙の顔は硬直している。
「……それは、その機体は!」
「……」
瞳を閉じるレーコは微笑み、黒衣のリングナイツが姿を現す。
闇夜を切り裂くマントでマグマから身を守り、岩肌に降り立つ。
信念のある両眼が輝き、黒主京星が生み出した黒い野獣の機体・夜天京が目覚めた。




