冥地功周VSユナイト・キョウト4
雪牙はマグマ熱が足元から地鳴りのように伝わってくるのを否応無く感じながら離れて行動する二班に携帯を無線モードにし指示を出す。
「八木小隊、小浜小隊はそのまま進行。冥地の奸計により手に入れた内部の見取り図は全て間違っている。この通信もミストジャマーの影響でいつまでもつかもわからん。目に止まる標的は全て消し、目標にたどり着き次第全てを消去しろ」
『了解』
スパイに探らせていた冥地家の地下アジトだったが、その地下道の見取り図は冥地の老獪さにより全てが間違っていた。最深部と思われた場所から更に奥がありその場所にユナイトの目標とするバイオプラントの生体兵器がある。
内部突入班の三班は各々の状況判断でひたすらに進んで行く。
明らかに研究所らしきその区画には研究者らしき人物もおり抵抗してくる。
通路の門でマシンガンの一斉射撃を浴び、弾丸が頬にかすりつつも曲がり角にダイブする。雪牙の後ろにいる隊員が手榴弾を投げ、敵を殲滅する。黒い硝煙の中を会桑小隊は行く。瞬間、頭上から肌を突き刺す熱気を帯びた痛みが絶え間無く襲って来る。
「っ! 炎……? 各員走れ――」
頭上から滝のように浴びせて来る火炎放射器が唸りを上げユナイトの隊員服は黒焦げになり、ヘルメットも融けマシンガンも変形して使い物にならなくなる中、炎から逃れようとする三人の瞳に無数の銃口が見えた。白衣を着た研究員が銃を発砲し、逃れられない死が雪牙の瞳孔を開かせる。汗と煤にまみれる顔に血がかかり全身に冷たい焦りが流れる。
「大丈夫か、会桑。佐原?」
「……相澤少尉」
まるで何事もなかったかのように仁王立ちになる相澤は言う。マシンガンの弾丸を全身に浴びた相澤は血にまみれ死に絶える寸前である。
「血路を開くわよ会桑!」
鬼気迫る表情の佐原は手榴弾を投げ一気に突進する。すでに壊れている信管は爆発を促進する事無くカランッという音と共に転がる手榴弾を無視し、怯んでいた二人の研究員を始末する。残る二人の銃口が佐原の方に向くが、その手首は捻られ倒された。雪牙と佐原は死体から使えそうな銃火器を奪い取り、溶けたヘルメットを捨てる。
「戦闘の訓練はされていないが銃火器の使用には慣れている……冥地が育てたか。相澤少尉、君の死は無駄にしない。ユナイトファング!」
二人は相澤の死体に対して敬礼し、通路の奥へ駆けた。その途中、途中で小規模の戦闘がありついに弾薬の全てが尽きる。その最中、雪牙は周囲の景色に違和感を覚える。同時に無線に連絡が入った。
「BチームよりAチームへ。こちら全員生存のままバイオプラント前に到達。ポイント57の左のルートが正解の模様。途中の研究員は抵抗して来た為に全て射殺した。先行していたCチームは通信不可の為全滅とみなし、これよりBチームはバイオプラント周囲に爆弾を仕掛け、放置したトサの自爆装置も連動させて大爆発を起こし、冥地功周をこの場所に生き埋めにする」
「了解、Bチームの検討を祈る」
雪牙と佐原は57と書かれる壁の左通路までたどり着き、駆け抜けた。
その最中、ドクン……ドクン……と赤く息づく心臓内部のようなバイオプラントの時は停止したように止まっていた。大空洞であるバイオプラントの奥には祭壇があり、その祭壇の上には硬化された生体兵器が蒼白いクリスタルの中に閉じ込められているが、その中身は赤い幼虫の固まりというだけで詳しくは見えない。そして、このバイオプラントそのものが胎動する事に異様な不快感を感じる。
地恒庵の前には金の印籠を突き出す金色のリングナイツ・金神閃がいるのである。
いきなりジパングにいるはずの猫神がこの場に現れた事に冥地は驚いていない。
この金色の少女もまた異世界から転生した者という偏見からそう見ていた。
両者は何やら話をしている。
無論、空気は殺伐としていた。
「……ナハハッ! 全ての部隊をブラインドにしてここまで来たわよ。是非、この目でバイオプラントの生体兵器って奴を見学したくてねぇ」
「自分の知的好奇心しか信用せぬ小娘の台詞など聞くに耐えん。貴様は見学ではなく、生体兵器がモルモットとして欲しいのだろう?」
「まぁ、そうね。このバイオプラントは明らかに生きているけど、これもリングの力を応用した産物なのかしら?」
「そうだ。これがロアーシで実験していたリングを掛け合わせたオーラで新しい力を生み出そうとした結果の産物のバイオプラント。千の命を代価に得た生体兵器を生み出す施設だ」
「……リングとリングのオーラの掛け合わせは失敗すればその周囲はポッカリとクレーターになり消える。同じ原理のビッグリングキャノンは熟練リングナイツ十人のオーラで安定させたけど、元々リングの掛け合わせばバクチでしかないわよ。それを千人もの犠牲を使ってするとはね」
「大事の前の小事。ロアーシの市民の命で得たこのバイオプラントは無駄にはせんよ。生体兵器は時間と共に目覚めるだろう」
その冥地のマッドサエインティストのような顔に猫神は科学者として興奮する。
「ナハッ! そうよ、そうよ。早く生体兵器を開放してよ」
「フン、そうか。こちらも時間が無い。金神閃……貴様は僕が屠る!」
瞬時に緑と金の機体が激突し、周囲に異様な風が舞い上がった。
大空洞の空中では数多の互いのビームの応酬が繰り広げられる。
両者の大義がぶつかり合う様はどちらかが消えるしかありえない様相である。
重い蹴りをくらう金神閃は後方に弾き飛ばされ、白髪の少女の口元が動く。
「くっ……! やるわね冥地。それじゃ、寿命が持たないわよ。いずれそのNリングも回収させてもらうわ。Nリングは便利だからね」
「リングは世界に必要無い」
「今更リング無しでジパングやニホンが回るとでも」
「貴様が生体兵器をもったら、ユナイトは人体実験も厭わない軍事組織に様変わりするだろう。それはさせん」
「ナハハッ! それは見てのお楽しみよ」
金神閃の全砲門開放の閃光が空間全てに散る。
ズババババッ! と神殿周囲に砂煙が上がる。
しかし、バイオプラントは全てのビームを吸収し破壊される事は無い。
「バイオプラントを破壊するつもりで攻撃するとはな。おかげでこのプラントそのものが簡単には破壊できないとわかった。やはり全てを舟中八朔において内部から封印した後、外部から壊すしかないようだ」
ビームが放たれる緑符を前面に展開し金神閃のビームを防いだので、地恒庵は全身にダメージを負っている。
金神閃はユナイトの部隊が通るであろう塞がれた通行道を破壊し、リングナイツを解除し岩壁の入口に降り立つ。猫神はじっ……と白衣の姿で祭壇の前にいる地恒庵を見据えている。
「ナハハッ! そろそろこっちの切り札が来るわね。そちらのしたい事はわかったわ。じゃあね」
「待て! 小娘っ!」
何かに急かされるように猫神は崩壊する通行道を駆け戻る。
「くっ……このバイオプラントの観察だけで現れるとはな。まぁ、いい。邪魔者が居ない以上、僕は僕のすべき事をする……?」
その刹那、大空洞の上部がズゴウンッ! と崩落し、シーハー・ダマコクリンのトサ・イッコーブリイアントが天使のように舞い降りてくる。落ちてくる岩を地恒庵の腕で防ぎつつ上を見上げた。
(禿げ鷹か……この大空洞にまで穴を明ける爆発は間違いなくトサを放置しての自爆。機体を捨ててまで 早急にここまで来るという判断力は流石だな。ここに穴を空けるだけの爆発はトサ十機程度では済まん。ユナイトの戦力はもうないだろう。貴様には冥地家の死兵と同じ戦士としての死に場所を与えてやろう)
冥地は嗤い、シワの深い目をギラリと光らせ祭壇を守護するマグマシステムを起動させた。
同時に、空中滑走翼が躍動するサツマを駆る桃色エンジェルが背後から拳を振り抜いていた――。




