冥地功周VSユナイト・キョウト1
キョウト支部の南にある森の中の地下で振動が起こる。
ユナイト・キョウト支部演習場の地下にある冥地家地下施設格納庫。
整然と緑にカラーリングされたトサが並ぶ前に各々のリングナイツが固い顔つきで視線の先の白髪の羽織袴姿の老獪なる老人を見据えている。
まだこのニホン大陸のリングナイツはジパングと違い、リングに慣れていない兵も多くアイヅなどのトサの発展系を使いこなせない為に、ほぼトサをカスタムした程度の兵しかおらず航空戦力も無い。時間の流れが異様に長く感じられ、各員の緊張が重々しい格納庫を染め上げている。それもそのはずである。ここにいる連中はこれから戦争をしようというのだから――。
格納庫の外は白い霧が展開していき、通信がまともにできないミストジャマーが散布されていく。時刻は零時五分前になり、閉じていた両目を見開き、長い歴史を生きてきた重みを感じさせるシワが動き冥地は口を開く。
「これよりユナイト・キョウトへの総攻撃を開始する。これは世界の未来が開ける時代を産み出す為の戦いだ。天下一の英雄である諸君等の活躍を期待する」
冥地の演説に、冥地家のトサ部隊一同は大声で叫び冥地に同意する。トサ総勢百の機体にリングナイツ達は一斉にリングチェンジし、足のエアブレードを起動させる。一様に武骨な頭の両眼が赤く煌めき、地上へのメインゲートが開いて行くのを待つ。冥地が召喚させた地恒庵の粒子の光が緑のトサの装甲に反射する。時刻は午前零時になり、格納庫内に日付が変更されたという鐘が鳴る。闇夜を屠るようにトサの群れがミストジャマーが散る霧の森の中を行く。
「さて、リング消滅戦争の幕開けだ」
言い、冥地は深緑の機体の腰にある注連縄に両手を当て一気に満月の夜空に舞った。
そして、大きな穴が穿たれる森の中心部に向けて高速で突っ込んだ。
爆発と共に土が飛び散り、地恒庵は土の中を進行していく。
その頃、キョウト支部では総司令である冥地琴乃からの開戦の決意表明がなされていた。
「……ユナイトファング・セントラル総司令冥地琴乃です。我々セントラルは過去数回に渡る冥地家の反乱を完全に潰す為に戦います……異分子は……種の芽まで摘まなければまた新たな火種が生まれます。私、冥地琴乃はここに宣言します……必ず冥地家の反乱分子をここで排除して下さい……総員、出撃! ユナイトファング!」
『ユナイトファング!』
キョウト支部の少女達は敬礼し正義の宣誓をした。
その自身の胃を抉るような行き絶え絶えの総司令の演説で開戦の狼煙は上げられた。
自らの言葉で自分の家を潰す発言をしなくてはならないのはユナイト前総司令の山崎がセントラルの総司令に人質として任命した事の最大の効果でもあったが、ソルトブレイクを乗り越えて冥地家の取り潰しは済んだ。
(……)
祈るような心境で手を合わせる琴乃の横顔を樹音は見た。
姉妹であり互いに家に祭り上げられた関係ではあるがその気持ちを理解し合えるわけは無く、似た境遇だから慰め合うような関係でも無い。誰かの力を借りて前に進むのでは無く、自分の決めた意思でしっかりと前を向いて歩く。
ここが正念場だと覚悟する琴乃は足を震わせたままモニターに映る冥地家の戦力を見据える。その姿はいたたまれないが誰も声をかける者はいない。格納庫や隠し通路など様々な場所から紺色のトサが出撃して行く。
ズバババーン! と先方部隊の小競り合いが始まり、周囲の森に硝煙が満ち始める。
夜の闇に火線が飛び交い、森で寝ていた動物達は一目散に逃げて行く。
琴乃の胸の中の慟哭は重くなると同時に戦火は拡大していく。
※
「さて、ここからが本番。ユナトファングの是非を問おう」
地中深くの空洞に存在する冥地の深緑の機体・地恒庵の緑符が周囲の地面からエネルギーを吸収する。それは腰の注連縄に戻り吸収したエネルギーの全てが還元されて行く。更なる圧倒的威圧感を得た地恒庵は四股を踏む。吐血する冥地は口から流れる血を拭おうともせず、二つの拳で地面を叩いた。
「――地・雷・振!」
ズアアアアアッ! という大地震が発生し冥地の周囲を取り囲んでいたユナイトのトサは地盤沈下に巻き込まれ相次いで戦闘不能になる。その地震は遠く離れた東にあるインペラトルに侵略されるトウキョウ支部までをも余波を与えるが、トウキョウ自体には何の影響は無い。
キョウト支部の施設内では一部が停電し格納庫の整備されたトサが倒れ、人々も床にうちつけられるなどして重度の被害があった。司令室ではレッドランプの警報が鳴り、メインモニターに友軍の損害がLOSTと表示される。その中、司令席に座るユナイト総帥の冥地琴乃はウェーブがかった緑の髪を耳にかけ多少の狼狽を見せ、妹の樹音の方向を見る。しかし、樹音はメインモニターの方向を向いたままである。
「……落ち着いて下さい。今のはおそらく冥地功周の地恒庵による攻撃。戦闘区域は被害が甚大かもしれませんが、ここがそうでも無いという事はここまで攻撃は出来ないという事。各員、変わらずに監視と報告を行って下さい。こちらの戦力の状況と敵の地下プラントへの進攻ルートを確保されているか確認を」
瞬間、オペレーターは状況を調べた。
「……ユナイト側からの全ルート崩壊。警戒に当たっていたトサ部隊全滅。この場合、冥地家が独自に掘ったとされる隠しルートしか侵入経路がありません」
「そう……ですか。前線の各部隊に伝達。冥地功周迎撃より生体兵器があるプラント進入を第一とし、蛹のまま固められる生体兵器を確保せよ」
その琴乃の膝は震えている。既に自分の祖父によって植え付けられた恐怖は肥大化し、ユナイトの軍人達の心に届かない。たかだか一機のリングナイツの攻撃の余波が十キロ以上離れたキョウト支部までを揺るがす事が出来る以上、それ以上の事はしてくるだろうと思うようになっている。ユナイト側の戦力の損害報告が続く中、琴乃の胸中は空洞になりつつある。




