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二幕~冥地功周の逆襲~

「キョウト支部冥地功周への鎮圧行動に出ます。まずは冥地功周との会合から始めます。行ってもらいます。不死身の貴公子、会桑雪牙。桃色エンジェル・四之宮玲子」

 総司令の冥地琴乃めいちことのからそう伝達され、セントラルの人間達から不死身の貴公子と桃色エンジェルというあだ名をつけられた二人はキョウト支部近くの森の中の冥地家の目の前まで来ていた。二人は案内役の女に冥地専用の茶の間まで通され、開けられる障子の中に入る。

「……何をぼーっとしておる。早く座れのりと塩」

 奥で上半身裸のまま横になる冥地は横にいた女をどかし言う。

 着物の乱れを直しながらそそくさと女は茶室を出て行った。

 誰がのりと塩だ。そしてどっちがのりと塩だ? という疑念を持ちつつ座布団が置かれる場所に二人は座り挨拶をする。

「ユナイトファング・セントラル支部大尉会桑雪牙」

「ユナイトファング・セントラル支部大尉四之宮玲子」

 ピクと冥地のシワのよるこめかみが動きポテチをパリッと食べる。

 そして着流しの襟を正し、正座した。

 この瞬間、二人はだらしなく寝転んでいた老人が先程までの人物と本当に同一人物なのかさえ疑わしくなる。底の知れぬ老獪さに気がつかぬまま空間そのものに呑まれて行く。

「冥地財閥、冥地家首領・冥地功周。本日はユナイトとは犬猿の仲である私の邸宅に参っていただき、感謝する」

 頭を下げる冥地に対し二人も頭を下げる。

 そして冥地はのり塩のポテチの袋をおもむろに投げ捨て言う。

「時間が惜しいので本題に入ろう。君達は私につく気は無いか?」

『!?』

「いい顔をする。ニャクイな」

 嗤う冥地は二人を試すように続ける。

「君達はこれから先、我々だけでは無くユナイトファング。そして、この世界にも影響を及ぼす可能性がある。故にワシにつかんか? 世界の大義の為にな」

『……』

 全くもって言っている事の意味がわからない為に二人は思考が混乱し、ありのままの素顔を去らし続ける。冥地の言葉に今更ながら呑まれている事に気がつき雪牙は言った。

「冥地殿。我々は軍人だ。軍属が個人の意思で私的な組織に関わり合う事は軍法で決められている。先程からの言葉の意味の意図がわからぬな」

「この世はこのままだリングという魔物に人間の心も身体も食い尽くされ死に絶えるという事を言いたい。では次の質問だ。君達の軍人としての大義は何だ?」

『……』

 二人は絶句した。

 この老人の企みが読めない。

 答えれば答えるほど老人の手の中で踊らされているようで二人はこの会合を中断して帰ろうとさえ思った。しかし、ユナイトからの公式な声明を直接宣言し回答を得るまでは帰る事は出来ない。返答無き場合は自らの命と引き換えに冥地を始末する必要がある。それがユナイトの大義である。明らかに肌で感じ取れるほどの殺気をかもちだすレーコが動く前に冬牙は言う。

「ユナイトの大義は平和と秩序正しき世界の構築。それに反する者はいかなる者とて武力によって絶対的に弾圧させてもらう。それはトサを製造し、リングシステムと融合させジパングに利益をもたらした貴方とて例外では無い冥地殿」

「僕が聞いているのは君達の大義。ユナイトの大義など利権に歪んだ権力者が掲げるありきたりな薄い言葉にもならん言葉。そんなハリボテではない、君達自身の意見は聞けんのか? 所詮はリングに酔う殺人者か」

「――貴様っ!」

 火山のように沸いた激情と共に雪牙は立ち上がる。

 まるで潮田海荷が目の前にいるような不快感が全身を駆け巡り隠し持つ銃を取り出しそうになる――。

「会桑君、冥地殿との会合中です。ユナイトの代表である貴方がその調子ではこの会合から戦争になりますよ?」

 異様に冷静な声で冥地を見据えるレーコは言う。その拳は正座をする太ももを握り潰すかのように震えている。自分の爆発しそうな感情を抑えるレーコのこんな姿を見ては自分の気持ちなど消沈する以外には無い。大きく息を吐き、雪牙は正座した。

「質問の意図を考えず、軍人である前の自分の事を話そう。その中で冥地殿の納得する大義があるかもしれない」

 茶をすする冥地はレーコの冷静さを意外に思いつつ雪牙の話に耳を傾けた。

 そして、レーコも自分の過去を話し時間は過ぎる。

「……一人はエージェントからユナイトへ。一人はユナイトのエリートコースを辿るか。リングが現れてから、家康の死の間際にユナイトファングという軍事組織が発足しジパングの憲法も変わり時代は一変した。その最初の被害者は君達か」

『いえ、被害者とは人類そのものです』

 同時に言う二人に面白味を感じ、

「この戦いの明確な終わりはリングが消える事だ。リングこそが諸悪の根源。リングとは真の戦闘者に力を与え、戦いの中でその者を始末する魔法の宝石。君達も例外ではない。この世にあるリングは僕が消す」

「消えるのは貴方だ冥地殿。今までの発言から察するに、この会合の意味は我々に宣戦布告を宣言しているとしか思えない」

「君達を我々の同士として迎えられないのなら死んでもらうしかあるまい。先程から震えが止まらぬ輩も長く持つまい。君もいずれ我欲の炎に呑み込まれる」

 哀れむような両眼で冥地はレーコを見る。

 冷や汗を流し悪鬼にとりつかれたかのような顔をしながら、死を纏う形相で睨み返す。

 冥地はレーコの鎮火しない激情を看破していた。

 一瞬の激情なら雪牙に圧倒的に劣るが、長く続く炎という意味ではレーコは雪牙に勝る。

 指先を畳にめり込ませながら、戦争になる瞬間を迎え自分の感情を暴発させたいが、死ぬ気で我慢した。そして雪牙の青い瞳が暗く輝く。

(……この老人は始末するしかないな。戦争が起こってもここでコイツを始末すれば敵の戦意は喪失する……)

 自分の事を言いつつも自分を無視された事で雪牙の怒りは爆発した。

 腕時計に仕込んだ毒針を射出しようと髪をかきあげる素振りで右手を動かし、素早く左手を動かす。毒針は射出され、冥地の首に刺さる。唖然とした顔でレーコはそれを見るが、そのまま冥地を絞殺しようと野獣のように前のめりになる。

「このまま消えてくれ。のりはまだ大丈夫だろうが、塩は危険過ぎる」

『!?』

 のりと塩の区別がついた瞬間、目の前の冥地の姿が消えた。

 いや、正確には視界全体がブラックアウトした。

 二人は開いた畳から底知れぬ冥地家の地下に落ちた。

 首の毒針を抜き、のり塩のポテトチップスを食する冥地は、パリッという歯切れのいい音と共に呟く。

「悲しみがリングを産み出すならば、僕は諸悪の根源となろう。そしてリング無き、人が努力の先に光を求める世界へ」

 中の気配に異変を感じ、冥地を監視していたユナイトの少女達は銃を持ち内部に踏み込む。

 すると、冥地はリングチェンジし一瞬で少女達を始末した。





「発信機の反応が消えたわ。至急琴乃ちゃんに連絡よ!」

 冥地家の監視カメラの警戒網にギリギリ引っかからないキョウト支部と冥地家の中間にある森の中で、冥地家の会合に出向く二人を監視していたセントラルの豪腕軍人・シーハー・ダマコクリン少佐は愛猫のカルカンピザを食べていた手を止め軍用車を急発進させる。窓の外を見ると、支部の空を一機のリングナイツが飛ぶ。冥地功周の地恒庵じこうあんであった。

「……冥地功周。自分の部隊と合流するつもりね。おそらく演習場の地下にアジトがある」

 その地恒庵はユナイトが演習場にしている広大な森の中へ下降して行く。

 その直後、茂みの奥から雨のような弾丸の嵐がその軍用車に降り注ぐ。

 その音にオネエならではの奇声を上げ、金髪の坊主頭が窓ガラスに何度も激突し、その形相に隣に座る部下は驚きながらセントラルに通報する。

 シーハーは奇声を上げながらも、リングナイツの中でも精鋭の二人がいれば冥地家の内部から破壊する事が出来、冥地自身も引き付ける駒となり外周からはキョウト支部の戦力で駆逐する。そんな策略を頭の中で巡らせ、

「この戦争で戦果を上げ、ユナイト内でオネエの部隊を創設させる願いが叶う戦果を上げてやるわ! アナタもそうでしょう!?」

「は、はひー!」

 そんな事を思ってもいないが血眼になるオネエ上司には逆らえず部下は返事をする。

 すでにキョウト支部の臨時支部長になる冥地琴乃は第一種戦闘態勢警報を出し、叔父とその組織である冥地家の動向を見定めつつ戦争の準備を進める。琴乃は一年前とは違い、今度こそ自分の家を潰さなければいけない決断をしなければいけない事から目を背けようとしている。

(このままだと私の家が潰れる……潰さないとならない。一体何を考えているのおじいちゃん?)

 その緑の髪を抱えながら悶える琴乃を見下すように背後の妹である樹音は見つめた。

 樹音はニホン大陸東のトキョウ支部よりこの事件を聞き駆けつけていた。

 その瞳は黒く、少年のように短く切られた黒髪は自身の攻撃性を主張するかのようである。

「総司令。我々セントラルは冥地家の暴走を止め秩序を正さねばなりません。ソルトブレイクの英雄二人を失って黙ってはいませんよね?」

「当然処分は下します……。ですがまだ戦争になると決まったわけでは……」

「会合を破棄した以上、必ず戦争は起きます。ユナイトがこの地域を制圧するいい機会じゃないですか」

「貴女には冥地家の誇りが無いの!? ――っ!」

 ドン! と机を叩き本心を口にしてしまう。

 前方のオペレーター達は一瞬睨むような視線で夢を見つめるがすぐに各々の業務に戻る。琴乃は妹の樹音がもうトウキョウ支部長としてユナイトの一員として完全に染まっている事に不快感を感じざるを得ない。冥地の孫である姉妹はお互いの思いに温度差を感じながら目の前に迫る戦争に挑まなければならなかった。

 静まり返る司令室はただオペレーターのキーボードを叩く声が響き、琴乃は軍事行動に出る冥地家の動向を待つ。各部隊の少女達はトサにリングチェンジし初の大掛かりな実戦に気分を高める。支部長の行動は日々怪しまれていた部分もあった為に、各部隊に大きな混乱は無く時間は過ぎる。

 キョウト支部と冥地家の開戦は間近である――。



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