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老人の謀略

 外異特務隊はキョウトに来るまでの事件をセントラル支部にメールで報告した。

 すると、翌日に現状の事態があまり良くないと判断したユナイト総司令の冥地琴乃はセントラルから極秘に通常の旅客機に紛れキョウトにやってきた。自分の祖父の暴走が垣間見える事件をソルトブレイクのような大事になる前に片をつけようとしたのである。

 その琴乃は副支部長の藤原にセントラルの全権を任せ、猫神と共に繁華街のビジネスホテルの一室に潜伏していた。その部屋に呼び出された雪牙とレーコは琴乃の話を聞く。

「今はセントラルよりもニホンのキョウトですよ。幹部の方は保守的ですから自国を守る分には問題ないでしょう。もうソルトブレイクのような騒乱は起こしてはなりませんからね」

 優しさの中に強さを秘めた琴乃の背後から、全身を猫で覆われる白い髪の少女が現れた。

「ナハハッ! この私が来た以上、この事件のサポートは任せなさーい。早くこのキョウトにあるパチ屋にジャンジャンバリバリ行きたいわ。黄門ちゃまはキョウトにもあるのかに?」

 相変わらずの猫神に雪牙は顔をしかめ、レーコは笑う。

 そして琴乃は現在判明しているデータを猫神に話させる。

「このニホン大陸……おそらくキョウトのどこかに隠し施設があり、そこから冥地功周が仕掛けて来る可能性があるわね」

「……そうか。それをまず調べる必要があるな。それとヤヨイの件は調べられそうか?」

「当然よ。セントラルからキョウト支部のパソコンにハッキングしてこの数日の更新の全てを調べたらあったわよ。鳴沢無読なるさわむよみっていう軍人のデータにヤヨイという女のデータがね」

 猫神はその鳴沢という軍人について話した。

 ノットエアーリーディングと呼ばれるナルという問題のある軍人がいる事と、ナルがヤヨイを海から上がった時に発見し拘束した事を知った。表情を硬くする琴乃は最後に言った。

「そして、シーハー・ダマコクリン少佐から新しい情報が一時間前にもたらされました」

 シーハーの調査でロアーシ大陸のインペラトルの害が確実に起き出している事を掴んだ。そこにキョウト支部長・冥地功周が繋がる可能性がある事も――。

『……』

 しかし不確定な情報からセントラルが大きく動く事は無く、本部の意思統一と戦力の増強、そして表向きはキョウト支部にも元の倍のトサとリングナイツ送り込むよう手配した。

 常に外異よりも反乱、反逆などの内乱を恐れるセントラルはまず自身の戦力を増強し、セントラルに次ぐ勢力を持つキョウト支部とは三倍近い勢力差が存在しなければセントラルの幹部は安心する事は無い。リングナイツの産地であり高度経済成長期を迎える好景気に世界最強のリングナイツ部隊を持つセントラルとしては情けない話である。

 その張り詰めた空気を引き裂くように、一つの緩い音が鳴る。

 ぐうううううっ……と、レーコはお腹の音が鳴ってしまう。

「お腹空いちゃった……立って話すのもつらいし、座って何か食べながら話しましょ?」

 気を張り詰めていた全員は息を吐き、琴乃はルームサービスを頼む。

 メニューを決めるのは琴乃とレーコに任せ、雪牙と猫神は飲み物を準備した。

 四人はソファーに座りルームサービスのピザを食べながら小休止した。

 そして雪牙は話す。

「……セントラルの対策は治安維持ではなく完全な戦争の為の戦力増強だな。セントラルも自覚が出たのかただの臆病から来るものか」

「前者……であって欲しいけど、後者でしょうね。妹の樹音にもまずセントラルの人間を使うには保守から入らなければならないと伝えてますから。でもセントラルが後退だけではなく前進もしてるもの事実です」

 ジパングはリングの原産国として経済大国のような力を持ったが、現状リングナイツの最高位にあるのは土の加護を受ける地恒庵の冥地功周であった。

 その水面下で何やら戦力をため込み怪しい動きを見せるキョウトの冥地家がユナイト・セントラルの幹部の目の上のたんこぶであり、冥地家を警戒するあまりジパング以外の領土を軽視する事となっていた。リングシステムやユナイトの軍事組織の機械産業が流れ込み経済的に潤ってはいるが、その存在は紙一重で成り立っていた。いわば砂上の楼閣である。

 そして、猫神のハッキングした情報から冥地功周が生体兵器を開発している説を知る。

 それは雪牙がロアーシでヤヨイと共に追っていた事件であった。

 この事実を確認する為に、冥地功周に対しユナイトとして話をする事になる。

 琴乃はユナイト総司令として冥地功周との会合へ向かう事を提案した。





 現在、雪牙達が巨悪と感じている冥地功周は自分の私室で茶を飲みくつろいでいた。

 広い畳の和室の中には冥地の前に一人の紫色の髪の少女が座っている。

 その少女は空気が読めないのか座布団を腹に抱え、砕いたせんべいを湯飲みに入れ見下していた。

 顔をしかめる冥地は脱走したヤヨイを再度捕らえたナルから得た情報を整理していた。

 今度はリングのオーラを使えない結界が張られる独房にヤヨイは閉じ込められている。

「……ヤヨイというあの小娘はそこまで知ってるエージェントだったのか。ロアーシ大陸で勝手をしてた件もあるから生かして人質にしようとも思ったんじゃが、ここで死んでもらわんとならんようだな」

 冥地功周は極秘にロアーシの無人の地域でリングを使った生体兵器を開発する実験をしていた。

 それはロアーシとの共同開発だった。

 凍て付いたロアーシの大地では人が生きる作物もあまり取れない為に、冥地に土地を利用させる事で物資を得ていた。

 ロアーシはリングに興味を持ち、独自に開発をして生体兵器を作り出そうとしていた。

 だが、冥地功周はロアーシを出し抜いて生体兵器をキョウトへ胎児のまま封印して持ち帰る。それが冥地のアジトの地下プラント内にいた。ヤヨイはそれを狙って来たのであった。

 そして、和室の外で繋いでいる囚人服のヤヨイをナルは引きずって冥地の前に差し出した。身体は痛んでいるが、まるでそれが応えていないヤヨイは言う。

「ロアーシは国なのよ。国なんだから一つの物的支援を得て新しい発見をすれば一気に再生するわよ。いつまでもロアーシを管理出来ると思った冥地の判断ミスね。インペラトルは軍としてロアーシを管理してるんだからユナイトが管理出来るはずがないわ」

「君はここに何の目的で来た? 会桑とインペラトルと戦いながらロアーシで一緒に行動してたのは何故だ?」

「雪牙は特殊な力がある。その力を利用する為よ」

 金髪の細い髪を揺らすヤヨイに冥地はこれ以上は拷問をしても話さないなと直感した。

 ここ数日でかなりの拷問をナルにさせたが、ヤヨイは悲鳴の一つも上げなかったからである。まるで自分の代わりはいると言わんばかりにナルの責め苦に耐え続けたが全ては無駄だった。

「蛹で硬化させてある生体兵器をトウキョウに持って帰る為に来た使者か。インペラトルとはどこまでの勢力なんじゃ……」

 冥地のインペラトルというまだ実態の掴めない組織の想像にヤヨイは答えた。

「ジパングから全ての大陸が地続きだと思ったユナイトファングの甘さが出たわね。こんな一年足らずでニホン全体を見渡せるはずがないでしょうよ。すでにトウキョウはロアーシが管轄しているわ……ぐっ!」

 ナルに一撃を入れられヤヨイは倒れた。

「また脱走させるわけにはいかないわよ。なるたけ気絶させておいた方がいいのよこの金髪不感症女は」

 そしてヤヨイはそのまま失禁してしまう。

『……』

 二人は畳に広がる、その光輝く黄水を見た。

 ムフフフ……と冥地の憤怒の顔とは対照的にナルは狂喜した。

 そして、冥地功周がアジトにするキョウト支部が演習場にしている広大な森の地下アジトの存在を確認する必要が出来た。このセントラルの直接目の届かないキョウト支部で冥地功周の企みを阻止する必要がある。阻止できなければ、待つのはキョウト支部との戦争になるであろう。この一年の平和な日々は仮初のものだった事は明白の事実であった事をジパングだけではなくニホンの人間達も教わる事になる。

 外異特務隊の会合次第で、開戦への火蓋は切って落とされるだろう。





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