クリムゾンウォーターの襲撃
クリムゾンウォーターを名乗る謎の炎のリングナイツによる強襲がジパング全土においてたびたびあった。
まだ紅水泉の炎姫という確定は無い為に相手の名乗る名前で別人物としていた。
その女の紅い機体は雪牙の蒼いトサを誘い込むように深い森の中へ入って行く。
フェイスオープンせず、顔は鉄の悪鬼の顔で隠れていた。
炎姫と同じ外見の敵に雪牙は叫ぶ。
「インペラトルの生き残りかと思いきや、キョウトにある冥地グループによる暗躍……貴様っ! 冥地の意思で動いているのか!」
「違うわよ。アタシはアタシの意思でしか動かない……今までも、これからもよ」
バババッ! と放たれた炎射弾が地面に着弾し、雪牙のトサは止まる。
クリムゾンウォーターも地面に立ち止まり、二人は互いを見据えた。
ジパング特有の冷たい風が流れて行き、二人は話す。
「ここまで来たなら教えろ。お前の目的は何だクリムゾンウォーター」
「アタシの目的はジパングは南の島国のニホンと同じでしかないという事よ」
「……どういう事だ?」
「このジパングには北の新大陸にある組織・インペラトルに脅威がある。ジパング民はここが未だユナイトファングの中央政権で絶対安全区だと思っているけど、それは違うわよ」
この陸の孤島のジパングが、南の新大陸である丸型のニホンと地続きになっていないという事は当たり前の事である。しかし、それを支配しているという感覚をどうにかしないと、それ以上の何かから潰されるという事らしい。
そして、クリムゾンウォーターは冥地功周の私兵ではないと改めて言った。どう考えても紅水泉である少女に雪牙は話を聞いた。
「冥地には冥地の道がある。アタシは自由に空を飛びたいだけだから」
今の自分の自由な騎士として飛び立つ背中を後押しした老人の事を思いつつクリムゾンは言った。
「お前は……本当にユナイトに迫る危機に警鐘を鳴らす為に動いているようだな。インペラトルの事を知ってるだけでも相当な情報があるようだ」
クリムゾンである泉はジパングが離れた島から統率が出来るユナイト・セントラルに警鐘を鳴らす為に本部を襲撃していた。すでにインペラトルの水面下の攻撃は始まっており、このままでいればジパングも南の新大陸ニホンも北のロアーシのインペラトルによって奪われる。現在開発中の生体兵器によって――。
そして雪牙は、ロアーシ大陸で見た事のあるセントラルに報告していない事実を告げる。
「もう一つ、聞いておこう。冥地功周はロアーシ大陸でリングナイツの訓練と土地の制圧をしていた。ユナイトにはバレない環境でな。それは何故だ?」
「……おそらくは全てに決着をつける為よ」
「決着? まさかインペラトルは冥地功周の私設組織じゃないだろうな?」
「それはロアーシの極寒の地で見たアンタの目で判断しなさいな」
そのクリムゾンの言葉でロアーシでの日々を回想した。
ロアーシ大陸は雪が降り続く極寒の地である。
雪牙は大陸の三分の二が消失したというロアーシ大陸の謎をその地に住む相棒のヤヨイと調べているとその大元の原因はジパングにあると確信し、ユナイトへの警告とインペラトルの危険性を感じ帰還した。
そしてジパングにたどり着く前に海で迎撃され、ヤヨイ・メナールからシエルリングを貰う。そのままヤヨイとははぐれたままで生死不明である。
その生死不明のヤヨイについてクリムゾンは言った。
「……アンタがジパングに戻って来る時にインペラトルの連中がボートに攻撃したのは私が仕組んだ事よ。どうしてもあの金髪の女を始末する必要があったからね」
「どういう事だ! お前がヤヨイを殺す理由は――」
「奴がインペラトルだからよ」
感情が乱れる雪牙にただクリムゾンは言い放つ。
金髪美少女のヤヨイはインペラトルに所属し、リングが生まれたジパングへの調査員だった。ロアーシの人間であるヤヨイは雪牙を利用していたらしい。
今までの一年近く、ずっと一緒にロアーシでのインペラトルによる軍政政治を変えようと努力していたヤヨイがインペラトルであるなんて信じられない。
蒼い炎を身体に宿す雪牙は動く――。
「ハイパーモード!」
シュパアアアアアッ! と蒼い炎が上がるトサは機体性能が二倍まで上がる。
蒼と紅の炎が激突し、地面に穴が空いて行く。
互いのアサルトアンカーが弾け、刃と刃に火花が散った。
互角に戦ってはいるが、まだクリムゾンは本気ではない。
一年前と同じトサの機体性能では自身の成長と共に進化するNリングの炎姫に対し、完全に圧倒する事が出来ない。しかし、雪牙は類まれなる戦闘センスと稀代の激情とも言える蒼い炎を撒き散らし、クリムゾンに肉薄する。
「クリムゾン! お前だけは……燃やす!」
「ハッ! できもしない事を言うんじゃないわよ! Hリングはどうしたの? もうアレと一緒で使えなくなったのかしら?」
「何がアレと一緒だ。切り札は温存するものだぜ」
雪牙は使おうと思えば心臓のIリングを使えるが使わない。
心臓のIリングの使用は寿命の短縮という代価がある為に使わないでいる。
二機は激突を数度行い、距離を取った。
「アンタは悪意をジパングに連れて来た。問題が起こる前にあの女はアタシが始末するわ」
スウウッ……とクリムゾンは空中に舞い上がり空を飛ぶ。
「何だと? お前はヤヨイについて何か知ってるのか!? いい加減、フェイスオープンして素顔を見せろ泉!」
「私はクリムゾンウォーター。紅水泉である証拠は無い」
「……そうか。俺は泉と言っただけで紅水とまでは言ってないがな。ヤヨイの正体とお前の正体を暴く必要があるな」
「あの女はおそらくニホン大陸に逃げた。次こそ消す」
「ニホンだと……? 待てクリムゾン!」
圧倒的な飛行スピードに追い付けない雪牙は赤い悪鬼の姿を見送った。
そして、頭の中でヤヨイの姿が現れシャボン玉のように弾けた
※
クリムゾンウォーターの襲撃を一応は退けた雪牙はレーコと共にセントラルの支部長室にて冥地琴乃により任務を言い渡された。それは南にあるニホンのキョウト支部の冥地功周の力を借りてインペラトルのスパイなどを調べ上げ、その対策を練る為の任務だった。その中には無論、雪牙の相棒であったヤヨイの調査及び抹殺も含まれている。そして冥地琴乃は言う。
「ユナイトファング総司令として外異特務隊に命令します。ニホンのキョウト支部に行き、冥地功周の力を借りてインペラトルの牙をユナイトファングの牙で駆逐します。ユナイトファング!」
『ユナイトファング!』
二人はその後、猫神から整備された空戦使用の機体をリングの中に収容し軍用車でハコダテに向かう。助手席から流れていく景色を雪牙は見つめた。
(……状況がかなり動いているな。本当にヤヨイがインペラトルならば、予想以上にジパングの現状は不味いのかもしれん)
チロルチョコを一つ口に入れ、雪牙は正面を向いた。
車のハンドルを握るレーコはHリングをチェーンに通しネックレスにしている事に気付き、言う。
「それはリーダーのHリング……肌身離さず持ってるつもりか?」
「このリングがあれば、私も自分自身の機体を生み出せるかもしてないでしょ?」
「そうだな。あの男の加護があればこの戦いも無事でいられるかもしれん」
二人はソルトブレイクの英雄の一人・うつけ者と呼ばれた黒主京星の事を思い、新しい戦いに向けて心を引き締める。
そして、ジパングのハコダテにある空港からキョウト支部へレーコと向かった。




