ダイオクとの決戦10
「ハハハッ! 最後はあっけなかったなぁ雪牙!」
マザーソルトの笑い声が周囲の空間に刻まれるように響き、その本人の右手に違和感を感じた。
「……?」
そして、マザーソルトの手から漏れる蒼い光から言葉が発する。
「……過去の英雄、豪傑を乗り越えて行くのが今を生きてる俺の……俺達の仕事だ。この世界の家康とて巨大な敵がいたからこそ成長し、策謀家となった。あの男は生きたのは心を燃やしたから」
グググッ……と握りつぶす手の平はゆっくりと開いていく。
この体格差を超えるか? と唖然とするマザーソルトは言う。
「感情は抑えるものだ。でなければ元いた異世界のような戦国の血で血を洗う世は終わらない!」
「感情は吐き出すものだ! だからリングナイツはこれだけの力を出せる。お前だってその感情の全てを吐き出してこのジパングの神になろうとしてる……お前だって、血で血を洗う行為を今までずっとしてきたはずだ。その全てを認めろーーーーっ!」
「――母にそんな戯言を――くっ!?」
シュパー! と雪牙はマザーソルトの手から飛び出した。そして、相手の額に刺さる雅神黒刀を片手で掴みレーコと猫神、そしてセントラルの全員が一緒に叫んだ。
『――行っけーーーーーーーーーーーーーーっ!』
ズブアアアアアアアアアアアッ――と光の巨人を真っ二つに切り裂いた。
脳天から股間までを斬り下げられる光の巨人は時が止まる。
地面に立つ雪牙は地面に刺さる剣を抜きそびえる巨人を見上げた。
「……潮を吹くわあああああああーーーーーーーーーーーーーっ!」
しかし、マザーソルトはこの世に生まれてきた赤子のような叫びと共に再生していく。
完全に再生してしまったジパングの子宮である女は言った。
「コアを壊さなければ私は倒れないんだよ」
「――!?」
隙をつかれ、雪牙はオーラソードを浴びた。
レーコと猫神は瞳孔が開き、口元を抑えるがそのオーラソードは停止していた。
軽々と雪牙は雅神黒刀で受け止めている。
「秀吉のリングは家康と信長のいいとこ取りだ。自分専用のリングナイツの具現化……そして、ハイパー化も兼ね備えている豊臣秀吉という攻の信長と守の家康の狭間の王である男の特徴を生かしたリング。無から天下人にのし上がった男のリングだ!」
ズザアアアアッ! と雅神黒刀を振りぬいてオーラソードを切り裂く。
「残念だったな。このリングのハイパー化は三倍だ!」
思考が固まり視野が狭くなるマザーソルトは雪牙の超スピードについていくのが精一杯である。一匹の光の妖精を捕まえようと光の巨人は両手を必須に動かしていた。
「外には出られない……外の世界は無いんだからな」
「外に世界はある! ユナイトが世界に通じると思ったら大間違いだ!」
「世界はこのジパング一つ! だから海の外から何も現れないし、出る事もない!」
「その考えがこのジパングの可能性を狭めてる!」
「ならばこの母を屍にしてみせろ! 貴様は潮を吹く事が出来るのかな雪牙あああっ!」
数多の攻撃を浴びせるが、コアに攻撃が当たらない限りダメージの全ては再生する。
(チッ! コアはどこだ――?)
光の巨人にまとわりつく雪牙は青い瞳に意識を集中し、コアを見据える。
繰り出される手を回避し、マザーソルトの柔らかい胸に激突すると、一つの感覚が雪牙の脳を駆け巡った。
(この感覚は……?)
マザーソルトのコアを見つける時に相手の胸のカップを一瞬で測るパイサーチでの経験が覚醒した。
敵の心臓であるコアの動きが雪牙の目には全て見えた。
「まさかパイサーチがこんな所で生きるとはな。やっぱ、おっぱい最高だぜ!」
「何をブツブツ言っている? ソルトフラッシュ・フルバーストでこのセントラルの全てを消し去ってやるわよ!」
「お前のおっぱいはDカップ。お前のおっぱいは俺にとって特別性……DEATHを呼び寄せる悪魔のDカップだ!」
「……!?」
光の巨人である潮田はこの少年が自分自身の大義を持ち、母である自分に歯向かう事などありえないと思っていた。このままではダイオクが世界を変革させる計画にも大きな支障が出ざるを得ない。自分が生み出した少年によって――。
「勝つのは母よ! はああああああああああああっ!」
全てのオーラを解き放つマザーソルトは今まで噛んでいたマルカワガムを飲み込み、奥の手を使う。途方も無い光が広がり、世界が朝日を迎える前に一つの光がジパング全体を照らした。全員はその光景を見据える。
『……』
白く透き通るクリスタルの輝きが美しい光の巨人――。
それは透明なオーラの結晶で出来た潮田海荷専用リングナイツ・チョウシュウだった。
そのクリスタルの巨人は全身を煌かせゆっくりと動く。
すでに潮田自身も自我をリングと同化し、潮田が思う神のような考えを持つ生命体に変化している
それを見上げ、後ずさる雪牙は両肩に人の温もりを感じる。
「? ……」
両肩を掴まれた雪牙はレーコと猫神を見た。
背後にはセントラルの大勢のユナイトファング仲間がいる。
そして、その群集の中に一人の黒髪の虎のような男の幻を見た。
その男は左手のリングと共に自分の魂になっている。
(やってやるぜリーダー。俺はあんたの力と俺の力……そしてこの場の全員の仲間の力を融合させてやる)
親指を立てた黒主は陽炎と共に姿を消す。
瞳を閉じて、雪牙は両手を天に掲げた。
それはまるでこのジパングを取り囲むような優しさであった。
「……さぁ、最後の時だ。これよりジパングは私の全てで満たされる。覚悟はいいか? 徳川家康とうみかの遺伝子の集大成である我が子、雪牙よ」
両手を上げ、静止する雪牙は降参したのか返答が無い。
この場の戦いを見つめているセントラルの人間達はこの最後の瞬間を魂に焼付けようと意識を集中した。全員の祈りは一人の青い髪の少年に注がれている。
しかし、当の雪牙は両手を上げたまま降参のポーズを崩さない。
その感服を表す姿を嬉しがるようにマザーソルトは言う。
「そう、それでいい。私の意のままに動けば生き残らせてあげてもいいわよ。話し相手がいてもいいからね」
瞬間、マザーチョウシュウの頭上にキリキリキリッ……という空気が悲鳴を上げるような音がする。頭上には真空の塊のような白い巨大な塊が渦巻いている。それは、黒主と雪牙の炎と氷の属性を融合させ生み出した夜天・蒼天楼の全てを消す究極消滅技・シャインシュバルツ――。
「子離れしろババァーーーーーッ!」
雪牙に叫び空に舞い上がるとシャインシュバルツを一気に叩き込んだ。
しかし、その消滅を弾き返すようにソルトフラッシュ・フルバーストが受け止める。
両者の凄まじいエネルギーの力比べのような状態になり、拮抗状態が続く。
ミシミシッ……と二機の腕にヒビが入り出し二人の腕にも激痛が走る。
雪牙は両手の骨が砕けた事を直感した。
(皆の思いを背負ってるんだ……負けるわけには……!)
このままでは押し返され自分達が消滅する――。
そんな考えが頭をよぎった瞬間、聞きなれた声が頭の中を走った。
「――貴様達の大義は何だ? 所詮、私は越えられないのか? 潮を吹かんかぁ!」
その潮田の声は明らかに大義を持ち、雪牙の母でもあり道標だった潮田海荷――。
『うああああああああああーーーーーーっ!」
その最後の声により雪牙は自由への飛行を見せ付けるようにシャインシャバルツを更に肥大化させマザーチョウシュウを呑み込んだ。そして、この場の全ての人間の願いと共にマザーチョウシュウは消失した。東の空から陽が上りだし、この長い戦いの全ては終わった。




