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Nリングを持つ炎の少女

 炎の海が雪牙せつがの青い髪を撫でる。

 燃え盛るアサヒカワの街はたった一人のダイオクの少女によって崩壊させられていた。

 髪は赤く身に纏うリングシステムのアーマーも炎の王のように炎を上げている。

 頭にはニワトリのようなトサカがあり、全体的に赤い悪鬼のようなフォルムであった。

 それを見るユナイトファングのリングナイツ・新生黒主部隊は茫然と暴れる赤い髪の少女を見据えていた。息を呑む雪牙せつがは呟く。

「何だ? 何故あんな炎がアーマーから出てるんだ? リングにはあんな自然的な力は……」

 虎柄のアーマーがこの炎の海にやけに似合う黒主は答える。

「どんなに考えても現場の敵は炎を使うってのしか俺達にはわからねー。臨機応変に考えて動けよ会桑かいそう

「……了解!」

 わかってる! と言わんばかりの口調で雪牙は答える。

 そして、エアブレードを起動させ一気に接近した三人はリングにオーラを込めて紺と虎柄と桃色のトサのロボットアーマーに力を行き渡らせる。リングナイツの出現に気付いた赤い髪の少女はやっとまともな敵が現れたわね……といったように笑い、炎の鬼のような赤いロボットアーマーの炎を吐き出す兵装と自分を説明した。

「やっと会えたわねリングナイツ。私は紅水泉こうすいいずみ。このリングナイツは炎姫えんきよ!」

「炎姫? それは専用機……どういうイカサマしてるんだ?」

 まるでこの世の覇王のように宣言する泉に混乱する雪牙に対し黒主は言う。

「落ち着け雪牙。よぉ、姉ちゃん、その炎の機体は何だ? 家康のあいリングならこのジパングにゃ、トサしかねーはずだが?」

「いつまでも同じリングシステムであると思うの? 今あるものはいつかは廃れるのよ。それがその家康のIリングであるトサって事!」

 泉は一気に炎を火炎放射器のように両手から放ち、三人はエアブレードを使い散開した。

 そして、背後にいる二人に黒主は作戦を指示する。

「新手のダイオクのリングナイツか。あの炎姫は俺がやる。二人は新手の二人を倒せ」

「リーダー、もう雪牙君いないよ?」

 桃色のトサを装備するレーコは少し太ってしまった為に胸がキツイと感じながら答える。

「は? ……野郎! あー、じゃあ俺達で一気に新手を仕留めてからあの赤髪女をしばくぞ!」

「アイアイさー!」

 アサヒカワに渦巻く炎は雪牙と黒主達を引き離すように大きな壁となった。

 エアブレードをたくみに使いつつ専用機のリングナイツを使う泉と距離を取りつつライフルで牽制射撃を行う。しかし、その弾は簡単に放たれる炎により消失する。

「圧倒的火力だなあの女。リングそのもののスペックが違うとしか思えない――うっ!」

 泉が新たに生み出した炎の雨が降り注ぐ。それをシールドを頭上にかざしつつ、廃墟を駆け抜け避けて行く。立ち上がる火柱に瓦礫は黒コゲになり、このままだとこの廃墟の中で着任早々死ぬ事になるであろう。雪牙は落ちている鉄パイプを拾いおもむろに投げた。

「焼け石に水よ」

 それは眼前でつかまれ、儚くも簡単に燃やし尽くされてしまう。勝負を決めようと思う泉の瞳に大きなシールドが映った。雪牙の青いトサのシールドが肥大化しているのである。

「ハイパーモード!」

 ブフォア! と紺の装甲の隙間から蒼い閃光が発している雪牙はトサをハイパー化させた。

 ハイパー化はソードとシールドが巨大化し、スピードやパワーも二倍のパワーまで上がる技である。

 それを見て興奮する泉は、

「コーケコッコーッ! 装備をハイパー化したのね。その程度で私に勝てるとでも思ってるの!」

 一時的に人間の身体が隠れるほど巨大化したハイパーシールドに対して、泉は自身最大の鉾で最強の盾を貫こうとする。炎の粒子が泉の左腕に収束を始め、一気に燃え上がり飛んだ。

炎射波状烈羽えんしゃはじょうれっぱ!」

 えぬと刻まれるリングのエネルギーを全開にした左手から、マグマが吹き出るような勢いの特大の炎射線えんしゃせんが雪牙に注がれる。ザアアアンッ! と技の影響で溶けて歪んだ地面に着地し、蒸発して消えたハイパーシールドを見た。

「――力に溺れたな火炎女」

「!? 何であんたが後ろに?」

 瞬間、背後に現れた雪牙はソードを一閃した。

 炎射波状烈羽の直撃したハイパーシールドは蒸発して消えたが、その背後にはすでに雪牙は存在していなかった。

「くっ!」

 隙をつかれた泉は背後を斬られて倒れる。すかさずソードをその背中に突きたてようとする――と、の目に見た事の無いリングが映る。

「このリングはN? リングはIしかないはず……家康のIしか……」

「織田信長のNよ。そんな事にも気が付かなかったの? ユナイトファングの保守的で陰気な組織体系の象徴のような男ね」

 その少女、紅水泉の左手の中指には織田信長のNが描かれたリングがあった。

 ユナイトファングの全員は徳川家康のIが描かれるリングをしている為、ようやくリングの基本的スペックの違いに納得した。

 家康のリングであるIリングは攻防が種としたソード、シールド、ライフルのオートドックスな装備であり、ユナイト本部で製造した起動兵器・トサをリング内に収容した状態から自身のオーラで解放して使う。切り札は使用者のオーラを使えば武器をハイパー化させる事が出来る。

 信長のリングであるNリングは使用者の信念が具現化した機体が生まれる為に各々が異なっており、火炎などの副属性が使える個を重視した装備である。しかし、ハイパー化は機械的な要因の為に使用は出来ない。

 この二人の戦いは、まるでこのジパングで起きている紛争を体現したかのような二つのリングだった。

 周囲の燃え上がる炎に自分の激情を奮い立たせるように互いは剣で激突する。

「この鬼硬刃きこうじんでバラしてやるわ! 保守家の青のり頭!」

 ジャキ! と右腕の甲から突き出す鬼硬刃で雪牙のトサのカブトを吹き飛ばした。

「家康はただの保守家じゃない!」

 カウンターで雪牙のハイパー化したソードが泉の炎姫の胸元を切り裂く。

 まるで傷を受ける事が性的快感を催すような二人は笑い、また激しい剣の応酬が繰り広げられる。

「それが信長のリングだとしても、俺は負けないぞ。俺は……負けるわけには――」

「アンタは負けるのよ。この信長の天下覇道のNリングにね!」

「過去の亡霊の話はやめろー!」

 まるで家康にとりつかれたかのように雪牙自身もわけがわからずNリングに負けたくない気持ちが溢れ出て戦う。剣と剣のお互いの意地の争いは次第に攻撃に重きを置くNリングの炎姫に軍配が上がり出す。

「チッ!」

「もらった!」

 左手にオーラを込める炎姫のこの技は先ほど、ハイパー化したシールドを蒸発させた炎射波状烈羽である。ソードを落とした雪牙は炎射波状烈羽を防ぐ手立ては無かった。

 炎の死神の左手が青いトサの全てを消滅させようと迫る――。

「うおおおおおおおおっ!」

 絶望の叫びが炎にかき消され雪牙は瞳を閉じた。

 瞬間、一陣の風が周囲の熱風を切り裂いた。

「おっと……雪牙君は貴女にはあげないわよ。私の新しい友達なんだから」

 瞬間、レーコが現れ泉の技の発動前に攻撃を防いでいた。

「コーケコッコーッ! 何なのよプニ子ちゃーーん!」

「……殺す」

 普段は穏やかなレーコだが、太っている事を直接的に言われた為に心のダークサイドに染まった。ガガガガガガガッ! と無機質な瞳になるレーコの拳の乱打・桃色ファンタジーが炸裂する。胸元の装甲を砕かれる泉は気を失いそうになりながら背後に吹き飛ばされるが地面に鬼硬刃を突きたて止まる。

「このプニ女っ……こっちも本気で――」

「本気で雪牙がお前さんを倒すぜ?」

 背後に現れた虎柄のトサを装備する男の声が泉の耳に響くと同時に、蹴りを入れられもう一度レーコと雪牙の目の前に舞い戻る。

「おらーーーーーっ! 雪牙! 決めろ!」

 一気に炎姫をブッ飛ばした黒主にソードを拾う雪牙は最後の力でソードをハイパー化する。斬馬刀のように巨大化したソードを堂々たる大上段に構え――飛んだ。

「トサ・グランドソーーーーーーーーード!」

 ズブアアアアアアア! という爆発が起き、その周囲の炎は一気に消えた。

 Iリングが強制解除され、大汗をかきながら片膝をつく雪牙は黒主とレーコに支えられる。周囲に巻き起こる爆発で巻き上がる土煙が晴れて行き三人は泉の生存を確かめる。

『……』

 大きく陥没する地面の底には泉の死体も炎姫の残骸も見当たらなかった。

(あの女……自分の欲に忠実ないい女だ。俺ももっと強く……)

 更なる強さへの渇望を感じながら金髪の頭をかく黒主は呟く。

「……逃げられたな。まぁ、いいさ。アサヒカワも三分の一が焼けただけで人間への被害も少ない。もうここは再生させる為の建築が最重要課題になるから、ドラッグなんぞを売る売人も相手されんだろ」

「そうよ。次会ったら倒せばいいのよ。デザートは別腹っていうでしょ?」

「おい、レーコ。別腹別腹で猫神に怒られんのはオメーだぞ? またトサのサイズアップ頼んだらいい加減チョコ禁止令が出るな」

「ひえーー! それだけはやめてーー!」

 チロルチョコを取り出したレーコは渋々チョコをしまう。

 茫然とする雪牙の肩を叩く黒主は、

「とりあえずユナイトファングの数少ないリングナイツの男同士だ。よろしく頼むぜ」

 笑いながら無理矢理雪牙の手を握った。

 そして三人は住人達と共に消化活動を始める。

 すると、燃え盛る炎が鎮火した為かアサヒカワの住人の女達は男目当てで接近してくる。

 慣れた感じで無数の群がる女を相手する黒主は女に囲まれ固まる雪牙に説明をする。

「……このジパングは残念ながら男があまり生まれない世界になっちまってるからな。男はハーレム三昧の毎日よ。お前はあんま女慣れしてねーな雪牙?」

「人と深く関わらないエージェント上がりですからね」

 息を詰まらせ周りの少女達の柔らかい匂いを嗅ぎながら答えた。

 男の出生率が低いこの問題はジパングを巣食うマザーの嫉妬による呪い・メンズファントムとも呼ばれる現象だった。このおかげでこの世界の男は無駄に女にモテて何不自由の無い生活を送る事が出来る。アサヒカワの女達に囲まれる黒主は最後の忠告をする。

「まー、男だと思ってもオカマになってる奴もまれにいるから気をつけろよ。いいケツ共だぜ」

 それでもいいのと言わんばかりに女達は盛り上がる。

 いつの間にかレーコは女達に渡されたみかんを食べていた。

 雪牙も身体をまさぐられながら様々な食べ物を口に入れられ食べる。

「うひょょっー! おら、楽しめよ雪牙? こいつらのケツは最高だぜ!」

(俺はおっぱいフェチなんだよ)

 思う雪牙はレーコの巨乳を髪をかき上げるフリをして一瞬チラ見し、無言のまま去る。

 去り行く青い髪の新入りの背中を見送る黒主とレーコは住人から渡される果物やチョコなどを食べて見送る。そして、黒主は何気なく呟く。

「あいつ、インポかもな」



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