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ダイオクとの決戦6

 セントラル支部は数多の攻撃を受け半壊に近い状態にある。

 前線の部隊もほぼ倒れ、全軍が支部の警護をするような布陣になっている。

 しかし、冥地家の増援もありダイオクの戦力も大方倒されておりこの正念場を越えれば勝利は目の前である。すでにダイオクの戦力は猫神のサポートを受ける事も出来ず、指揮系統を失った為に右往左往している機体も存在する故に勝利は近いだろう。

 その時、メインモニターに映る自軍のシグナルが急速に消えていくのが確認できた。

 ガムを噛む一人のオペレーターが叫ぶ。

「ダイオクの勢力は確実に落ちていますが、何故かこちらの部隊の損害率が急上昇しています――」

 司令席の冥地琴乃はその動きで全てを察した。

「! あの超絶技巧。間違いなく潮田海荷」

 メインモニターや複数のサブモニターに映る敵のアイヅの機動性、攻撃能力が急上昇したのは明らかに意図的であり、その全ての動きで夢は誰が操縦しているのかが容易に想像出来た。ダイオクの全軍は今、潮田海荷がリングナイツの全てであった――。

 モニターに見入る玲奈は震える声で言う。

「潮田は複数存在している事が会桑隊長から報告されている……まさか、本当に敵軍の全てが潮田海荷ならこの戦いは負けるわ……」

「そうだ。支部長山崎の参謀水野、出来損ないのピーコ。我々は複数存在する。そして私もまた潮田海荷なのだよ」

『――!?』

 瞬間、司令室の全員は戦慄する。

「ここまで来た以上茶番はおしまい。冥地家やユナイトファングなど無駄に過ぎんのだ」

 突如オペレーターの一人が潮田海荷の顔に変貌し銃を司令席にいる玲奈に向ける。

 銃声が発し、その場は騒然とした。

「補給で支部に戻ってきてみたらこんな状況になってるとはね。ダイオクの兵士は無数の潮田に変貌したみたいね」

「樹音!」

 頭を撃ち抜かれ死亡するオペレーター潮田を始末したのは琴乃の妹である樹音だった。その樹音は撃たれた左腕を止血しながら言う。

「玲奈、ここも安全じゃないみたいよ。支部を放棄して撤退する必要もある」

「撤退するにはまだ早いわ。今は何故あのオペレーターが潮田さんに変貌したかが重要。皆さん、潮田さんから今まで何かをもらったり、特別な事はされませんでしたか?」

 その琴乃の問いかけに残る六人のオペレーターの女達は口の中のガムを噛むのも忘れ、考えた――刹那。全員の口の中にあるガムが異様な熱を帯びているような感触がした。

「潮田副支部長から送られた物――」

 オペレーターの全員は自分達が精神安定剤として噛んでいるオレンジのマルカワガムを思い出した。間違いなくこのガムが人間の精神を潮田海荷に変貌させる原因だろう。焦るオペレーター達は噛んでいるガムを吐き出す。止血が済んだ季遠は混乱する司令室に吐き気がした。

「やってくれた……これが潮田の罠。つまりは……」

「つまりは、この私達もいずれはああなるわけですね。あのガムを噛まされて」

 突如銃声がし、騒いでいたオペレーターの一人が床に崩れ落ち頭から血を流して絶命していた。床に広がる鮮血と共に周囲から一気に悲鳴が上がる。

 混乱したオペレーターは潮田にはまだなっていないが、精神が崩壊し周囲を皆殺しにしようと銃を別の人物にも向ける。そのオペレーターをすぐさま殺した季遠は立て続けに二人殺した。騒然とする司令室には絶望と混乱の渦となり、外と内の敵におののくばかりである。瞬間、琴乃の声が響く。

「鎮まりなさいっ! 見ての通り我々はガムのウイルスにより潮田さんの傀儡となった。これは我々の軍の全てに言える事でしょう……あえて私は命令しない。このまま傀儡となり永遠に操られるか、それとも自らが潔く自決するか……。自分の意思で決めなさい」

『……』

 その喉の奥から搾り取るような重い言葉に司令室の全員は戦慄した。

 後にも先にも待っているのは地獄のみである。

 もうすぐで勝つはずだった戦いの中、思わぬ敵の行動に全ての事態が戦争に参加する全員に終演を告げている。動揺が広がり、誰もが頭の中が混乱し息をするのもやっとの状況の中、一人のオペレーターが口を開いた。

「あ……あの。今自決しなくても誰かがオリジナルの潮田を倒す事が出来るなら、このウイルスは消えるのでは?」

「潮田海荷というのは個々に存在している以上、その可能性は万に一つも無いでしょう。すでに会桑、紅水などの前線部隊との連絡が途絶えた以上、あの潮田に勝てる人間は存在しない。全ての可能性は断たれている。リングというよくわからない便利な物を我が物顔で使いこなし、自分達で制御出来ない物を操ろうとした我々への罰のようですわね」

 息を呑むオペレーターは言葉を失い、全身の力が抜け床に崩れ落ちた。

 もうどうにもならぬような絶望感のみが全員の心に植え込まれ、弱く鼓動する互いの心臓の音が聞こえそうである。

 支部を攻撃するダイオクの潮田と戦う冥地功周めいちこうしゅうもボロボロの地恒庵ではもう戦えるすべも無い。潮田相手ではトサを駆る少女達では勝てるはずもなかった。

「こうなってはもう手立てがないのぅ……ワシの夢も潰えるか」

 数々の厄難苦難を乗り越えてきた老人である冥地功周ですらこの状況にどうにも出来ず心が折れる中、夢は希望を失わない瞳で言う。

「ユナイトファング全軍に通達します。可能性を捨てたら、全ては終わりです。自分を信じ、仲間を信じて己の大義を貫き通して下さい。それがユナイトファングです」

 その台詞と共に、ワッカイに残るダイオクの兵士がリングナイツの力を合成させ一万人収容のアリーナ一つを軽く消滅させる悪魔の力を放つビッグリングキャノンを放った――。





 ユナイトファング対潮田海荷の戦いは潮田海荷の勝利に終わった。

 放たれたキャノンの一撃の全てを吸収した潮田は一つの存在として集約され、ビッグリングキャノンのエネルギーを持った巨大な存在に変貌していた。

 光に包まれる全裸の髪の長い美しい女。

 これこそジパングの子宮であるマザー。

 マザーソルトだった。

 一体、この五光の光を放つ巨人がどれほどの強さになっているかは想像もつかないだろう。

『……』

 セントラルにいる全てのユナイトの心が折れる――。

 諦めが支配し、虚ろな緑の瞳で琴乃は呟く。

「私が投降して潮田さんと話ます。総員攻撃を中止し、私を……冥地琴乃を信じてください」




 その頃、雪牙と黒主は半壊する機体を猫神の金神閃の最後の力で修復されセントラルに急いでいた。

 猫神は嫌な感覚が脳を支配する事に異様な不快感を示し、吐き気がした。

「……もうマルカワガムの薬の効果で現れた潮田の群れがセントラル内部を破壊してるはず。それにセントラルで異様なリングオーラを感じるわ……急いだ方がいいわよ」

「上等だぜコノヤロー。んな事はこの黒主京星様が全部解決してやるぜ。行くぞ雪牙」

「あぁ、とっとと片をつける。潮田は既に自我を失った獣。恐れるに値しない」

 そして、飛び立つ二人は潮田海荷がセントラルを破壊しようと目の前に立つ姿を目にする場所まで到着した。その巨人はふと、背後を振り返り白く発光して周囲を光で満たした。



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